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Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
マルチビタミンは癌の予防に効果があるか?
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 サプリメントを服用する人は多い。その主な目的は健康維持のための服用だと考えられるが、ビタミンCやEなどの抗酸化作用で癌を予防できるのではないかと期待する人もいるようだ。

 しかしビタミン類の癌に対する予防効果は、これまではっきりとは示されておらず、どちらかといえば効果がないとするデータが多数を占める。もっとも、癌を増やすデータもあまりなく、「害がないなら飲んでおけばいい」とする解釈が、医学的には多数派だろう。

 今回の論文は、1万5000人近くの男性医師を対象に行われた、マルチビタミン類の癌予防効果に関する大規模ランダム化比較試験の結果である。マルチビタミン類を服用した群で癌の発症が有意に少ないことが示されたというのが大枠の結果だが、ここで実際の数字の持つ意味を考えてみたい。

表1 マルチビタミン類群と対照群におけるイベントの発生率と相対危険

 一次アウトカムである全癌の発症率で見ると、プラセボ群では1000人年当たり18.3に対し、マルチビタミン類群で17.0という結果である。約8%の減少効果をどう捉えるべきかは、なかなか難しい。相対危険は0.92、95%信頼区間は0.86~0.998である。効果を最大に見積もれば14%減少、最小に見積もれば0.2%の減少にとどまる。

図1 癌(全種類)累積発生率の比較

 「癌の発症率が有意に減った」という言葉にはインパクトがある。しかし実際の差は極めて小さく、さらに総死亡や癌死亡で見ると有意な差がない。そう考えると、マルチビタミン類が癌を予防するか否かの現実的な判断はまだ下せない、というのが私の個人的な解釈である。

 毎日ビタミン剤を飲むのもいいが、私はその費用を1年分貯金して豪華な食事を妻に振る舞う方が、心身両面の健康に役立ちそうな気がする。


 2008年に発表されたACCORD研究の論文である。2型糖尿病患者のHbA1c値6.0%を目指して厳しく血糖をコントロールした群は、目標値7.0~7.9%と緩めにコントロールした群に比べて死亡率が22%増加した。一部の読者はこの結果を意外に感じるかもしれないが、実はこのような結果は初めてではない。

 2型糖尿病患者に対する厳しい血糖コントロールによって死亡が増加するという結果は、1970年に報告されたUGDP研究が有名だ。プラセボ群に比べてトルブタミド群で死亡率の増加が示され、インスリン群ですらプラセボ群より死亡が多い傾向であったことが示されている。また、98年に報告されたUKPDS33研究も有名だが、これは死亡率の減少を示さなかった。

表2 治療群と対照群におけるイベントの発生率と相対危険

 厳しい血糖コントロールが死亡率に及ぼす影響を調べた研究の大半は差が付かず、増加した結果が幾つかある一方で、減少を示した研究はまだない。ACCORD研究で死亡率が上昇した明確な理由は同定されていないが、患者にとっては重要な事実だ。だが患者にはその情報が十分に届いていないのが現状だと思われる。

参考文献
Diabetes.1970;19:Suppl:789-830.
Lancet.1998;352:837-53.

(本コラムは新連載です。隔月で掲載します。)

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