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薬剤師のための「在宅アセスメント」入門
栄養
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

執筆:飛沢 洋(シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社[仙台市泉区])
監修:早川 達(北海道薬科大学)
在宅患者と低栄養

 栄養とは、食物を摂取して消化・吸収することにより、エネルギーを得る行為を指す。良好な栄養状態を保つことは、生命活動の維持に不可欠である。しかし、高齢者は食物摂取量の不足や摂取バランスの不良、罹患している疾患の影響などにより、栄養状態が悪くなりやすい。

 栄養状態が悪化すると、体力や予備力が低下して、病原菌やウイルスへの抵抗力が弱まる「易感染状態」になりやすい。また、栄養の不足・偏りから浮腫が生じたり、一度できた傷や褥瘡の治癒が妨げられる。褥瘡がある場合には特に、栄養状態に注意する必要がある。

 このほか、活動性の低下や認知機能障害も、低栄養によって誘発されることがある。表1に、低栄養状態によって引き起こされる種々の障害を挙げる。栄養状態を改善することで対処が可能であるにもかかわらず、老化や原疾患と混同されることで見過ごされる恐れがあることに鑑みると、栄養状態の把握は、適切な治療・ケアを行うために欠かせないことが分かる。

表1 低栄養状態によって引き起こされる障害

(小野沢滋『在宅栄養管理─経口から胃瘻・経静脈栄養まで─』[南山堂、2010]を一部改変)

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初期アセスメントのポイント

 栄養の初期アセスメントに用いるアセスメントシートを、表3に示す。初期アセスメントでは、まず、褥瘡の有無を確認するとよい。なぜなら、低栄養状態では褥瘡の回復が遅延する恐れがあるためである。褥瘡がある場合は、全身栄養状態の解決に向けた包括的なケアを行う。同時に、褥瘡そのものの管理も実施する。

表3 栄養に関する初期アセスメントシート

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 次に、肥満・痩せと、最近の体重の増減を確認する。在宅患者では、医師からの情報提供書などに身長と体重が記載されていることがある。正確な身長と体重が分かる場合は、下式に従って体格指数(BMI)を算出し、肥満・痩せを判断する。

体格指数(BMI)の算出式
 体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}

 米国の非営利公益団体インターライ(InterRAI)が開発した高齢者ケア用アセスメント表によると、BMIが21以下の場合は痩せ過ぎ、31以上の場合は太り過ぎと判定される。患者の正確な身長と体重が分からない場合は、自分で観察した推測でもかまわない。患者の体格を目視し、「肥満・痩せの有無」を記録しておくことが肝要である。

 最近の体重の増減は、情報提供書などに記載された情報に加え、本人や介護者から聴取することも有効である。過去3カ月で5%以上、あるいは過去6カ月で10%以上の体重増減がある場合は栄養状態に問題がある。

 また、「過去3日間において、食事や水分の摂取量が目立って減少していないか」を確認。食べ残し(目安は食事全体の25%以上)についてもチェックしておく。こうした、食事量の減少や食欲の低下の背景には、嚥下機能の低下、口内炎・口腔乾燥などの口腔異常や、胃痛・胃もたれなどの消化管異常がしばしば見られる。

 「食事量が増加しているにもかかわらず体重減少がある」場合は、エネルギー消費の大きい癌や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、各種の慢性炎症といった消耗性疾患への罹患についても評価が必要となる。下痢や悪心・嘔吐などに起因する低栄養にも注意を払っておきたい。

 高齢者が低栄養状態に陥る危険因子には、表2に示すように多様なものがある。嗅覚・味覚の変化や消化管運動の低下など加齢に伴う生理的変化によるもの、うつ病や認知症といった精神的な要因によるもののほか、消耗性疾患も低栄養の原因になる。さらに、社会的要因としては、老々介護や経済的貧困などにより、適切な食生活を送ることができないといった例も見受けられる。

表2 高齢者の低栄養の原因

(小野沢滋『在宅栄養管理─経口から胃瘻・経静脈栄養まで─』[南山堂、2010]を一部改変)

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薬剤師による支援のポイント

 消化管運動や口腔乾燥、味覚などに影響する薬剤で引き起こされる「医原性低栄養」は、薬剤師の介入により予防や改善が可能である。在宅医療においては特に、薬剤師がこうした医原性低栄養のリスクを評価し、その改善に向けて積極的に関わることが期待されている。

 食欲不振を引き起こす薬剤として注意が必要なものの一つが向精神薬であり、「高頻度で食欲不振の副作用を生じる」との添付文書上の記載が多い。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の塩酸セルトラリン(商品名ジェイゾロフト)では1%以上、抗精神病薬のアリピプラゾール(エビリファイ)では5%以上、クエチアピンフマル酸塩(セロクエル他)では1~5%未満に、食欲不振が生じるとの記載がある。その一方で、クエチアピンやクロザピン(クロザリル)など第2世代の非定型抗精神病薬の中には、食欲亢進や体重増加を来すものもある。これらの薬剤を服用している場合には、摂食状況について確認を行うことが望ましい。

 抗コリン作用を持つ薬剤は、消化管運動を低下させることで、食欲不振を招いて栄養障害の直接の原因になり得る。薬剤性の食欲不振が疑われる場合は、薬剤の中止・変更を検討する。しかし、薬剤の必要性が高く中止や変更が困難な場合は、必要に応じてエンシュア・リキッドなどの栄養剤の利用を検討する。食欲不振があると水分摂取量も不足しがちであり、脱水へ陥る例もあるため、脱水の初期症状がないかについても確認を行う。

 消炎鎮痛薬や鉄剤などによる食欲不振は、副作用として生じる胃腸障害や腹部膨満感に起因している。これらの薬剤の服用者に食欲不振が見られた際は、同時に胃腸障害の有無についてもアセスメントを行う。服用の必要性が食欲不振の副作用を上回る場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍への適応を持つミソプロストール(サイトテック)やランソプラゾール(タケプロン)の処方追加や、坐薬・外用薬への剤形変更ができるかも検討する。

 高カリウム血症改善薬であるポリスチレンスルホン酸カルシウムのゼリー剤(アーガメイトゼリー)なども、食欲不振を招き得る。油分が多く、腹部膨満感が出やすいためである。また、同薬では、便秘症状による腹部膨満にも注意が必要となる。吸着作用による硬結便が原因となるので、ラクツロース(ラクツロース「コーワ」、モニラック他)やD-ソルビトールなどの浸透圧下剤の追加を医師に提案する。

 このほか、テオフィリン製剤など中枢興奮性を持つ薬剤も、食欲不振を誘発しやすい。抗てんかん薬やテオフィリン製剤を服用している患者に食欲不振が見られる場合、中毒症状に起因している恐れがあるため、他に中毒症状に該当する症状が出ていないか、薬物血中濃度の異常はないかを確認し、服用の中止や減量を検討する。

 食欲不振や消化管障害が薬剤性に生じていることが疑われる場合は、医師やケアマネジャーなどに積極的に情報を伝えることが肝要である。その上で、薬の減量・中止や胃粘膜保護薬・制酸薬の処方追加、胃腸障害を緩和する服用方法の周知、食事内容の見直しなどを提案する。薬剤性食欲不振に対する原因薬別のケアプランを表4にまとめたので、参考にしていただきたい。

表4 食欲不振を引き起こす主な薬剤とケアプラン

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セルフチェックテストの回答 A1…(2)、A2…(5)(8)、A3…(9)

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