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Report:漢方エキス製剤
漢方エキス製剤 基本のキ
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

 日本漢方生薬製剤協会が2011年に全国の保険医627人を対象に行った「漢方薬処方実態調査」によると、「現在、漢方薬を処方している」と答えたのは558人(89%)に上り、08年の前回調査に比べ5ポイント超増えた。診療科別に見ると、産婦人科、内科、外科、精神・神経科では、9割以上の医師が漢方薬を日常的に処方していた。

 同調査で、漢方薬を処方する理由として多かったのは、「西洋薬で効果がなかった症例において、漢方薬で効果が認められたから」(57%)、「西洋薬のみによる治療に限界を感じたから」(31%)といった、西洋薬による治療の補完を目的とするものだ。

エビデンス蓄積が後押し

 注目すべきは、漢方薬を処方する医師の約3分の1(34%)が、処方の理由として、「科学的根拠(エビデンス)が学会などで報告されたから」を選んだ点。エビデンスがある漢方処方の例として、術後イレウスに大建中湯、機能性ディスペプシア(FD)に六君子湯、認知症の周辺症状に抑肝散などが挙げられる。

 日本東洋医学会は、国内の漢方薬のランダム化比較試験(RCT)の論文を400本以上収集・評価し、「漢方治療エビデンスレポート」としてウェブサイト上で公開している。特にレポートが多いのは、消化器疾患、インフルエンザなどを含む呼吸器疾患、更年期障害を含む泌尿器・生殖器疾患、癌の術後管理や副作用対策─の領域だ。薬理作用の研究も盛んに行われている。

 漢方医学はもともと、特有の診断体系に沿って個々の患者の病態(証)を把握し、その上で患者に合った漢方薬を投与するもの。概念が難解であることに加え、有効性を患者背景ごとに一律に評価しにくいことなどから、従来、医師の間では敬遠する向きもあった。

 だが、保険診療で使える漢方エキス製剤が普及し、科学的に有効性を示すデータが蓄積されてきたことで、漢方医学を学んだことのない医師も、西洋医学での診断病名やエビデンスを目安に、漢方エキス製剤を処方するようになってきた。「今後、治療法が確立されていない領域で、漢方医学と西洋医学の融合が進んでいくだろう」と、癌患者ケアにおける漢方の活用を推進してきた芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長の今津嘉宏氏は話す。

 帝京大学医学部外科准教授の新見正則氏も、“漢方嫌い”だった過去を持ちながら、今では医師向けの講演や書籍などを通じて、漢方薬の活用を呼び掛ける一人。西洋薬では改善できない症状や患者の訴えに対し、保険診療下で漢方エキス製剤による治療を試みるというスタンスだ(図1)。

帝京大学の新見正則氏は、「漢方薬は食事の延長であり、西洋薬による治療を補完する」と話す。

図1 薬物治療における漢方エキス製剤の位置付け(新見氏による)

薬物治療を支えるのは日常生活の管理。漢方エキス製剤はその延長線上にあり、西洋薬では改善できない疾患に用いるという考え方だ。

 「漢方薬は養生の延長線上にあり、効き方はマイルド。最終的に患者が満足できるよう、医療者と患者が一緒になって色々な漢方エキス製剤を試し、有効な漢方を気長に探していく姿勢が大切だ」と新見氏は強調する。

 また、前述の調査で、「患者の要望があったから」(43%)という処方理由も目立った。漢方エキス製剤の中には一般用医薬品(OTC薬)として販売されている物も多く、患者にとって、身近な存在となっていることがうかがえる。

「はやりの処方」を押さえよ

 このように、漢方薬に対する医師や患者の関心が高まっている今、薬局薬剤師には、漢方エキス製剤の保険処方箋を受け付けた際の、対応のポイントを押さえておくことが求められる。「医師や患者の中には、『漢方には副作用がない』と誤解している人が少なからずいる」(新見氏)からだ。

 漢方エキス製剤の処方箋を受けたら、まずは西洋薬と同様、医師の処方意図を推測しよう。保険診療下で頻用される漢方エキス製剤については、添付文書の効能効果を確認するほか、疾患・症状別にトレンドとなっている処方を調べておきたい(表1)。

表1 頻用される漢方エキス製剤と主な対象疾患・症状(編集部まとめ)

頻用される漢方エキス製剤は、『漢方薬繁用処方実態調査』(横浜薬科大学漢方和漢薬調査研究センター編、2013年)を参考に選出した。

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患者の顔色や声量を確認

 漢方エキス製剤の効能効果では、疾患名や症状に加え、体格や体質などの患者背景について言及されていることがある。これらは漢方の「証」の一部を示したものであり、“病名処方”を行う医師は、見逃している可能性がある。「薬剤師として、漢方薬に実証と虚証という分類があることは知っておくといいだろう」と、漢方薬の服薬指導に詳しい福西会病院(福岡市早良区)薬剤部長の永田郁夫氏は話す。

「構成生薬に注目することが重要」と話す福西会病院の永田郁夫氏。

 簡単にいえば、実証は、疾患に対して抵抗力が残っている状態であるのに対し、虚証は体力も抵抗力も落ちている状態のこと。一般に、筋肉量が多くがっしりした体格の人は実証で、きゃしゃで顔色が悪く、声が弱々しい人は虚証であることが多い。

 患者の証と漢方薬の証が一致していないと、期待通りの効果が得られないばかりか、思わぬ副作用が起こる可能性もある。例えば麻黄湯は、著しく体力の衰えている患者や胃腸の虚弱な患者には、慎重投与となっており、実証向きの薬と考えられる。逆に牛車腎気丸は虚証向きで、体力の充実している患者には慎重投与となっている。

 「投薬時に患者の顔色を見たり、普段の様子を思い出して、患者と薬の証が合っていないと感じた場合は、疑義照会を行って医師に処方変更を促すようにしたい」と永田氏はアドバイスする。特に注意しなければならないのは、虚証の人に実証向きの漢方薬が処方された場合。病状が急速に悪化したり、下痢を起こしたりすることがあるからだ。

構成生薬に注目する

 次に、漢方エキス製剤の処方の妥当性や副作用リスクを評価しよう。その際、構成生薬にも注目することが重要だ。「漢方エキス製剤は複数の生薬からなる“配合剤”と捉えることもできる」と永田氏は話す。

 同氏は、特に注意すべき生薬として、甘草、麻黄、附子、大黄の4つを挙げる(表2)。これらの生薬を含む漢方エキス製剤は、患者の体質や併用薬によっては、副作用が出やすくなる。高齢者の場合は、生理機能の低下を考慮して、常用量の3分の2で処方されることもある。

表2 特に副作用に注意が必要な構成生薬(永田氏による、表3とも)

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 患者への聞き取りでは、食物アレルギーの有無を確認することも重要だ。食物アレルギーを引き起こす物質のうち、発症頻度や重篤度が高く、食品に使用した際の表示基準が定められている物質が25品目ある。それらに相当する生薬には、特に注意が必要だ(表3)。

表3 食物アレルギーを起こし得る物質の例と該当する生薬

漢方の多剤併用で効果減弱

 併用薬にも目を向けたい。甘草と利尿薬、麻黄とエフェドリン含有薬など、構成生薬によっては、西洋薬との併用によって副作用リスクが上昇する可能性がある。小柴胡湯のエキス製剤については、インターフェロン製剤との併用は禁忌となっている。

 なお、麻黄と附子はアルカロイドを主成分としており、胃内pHが上昇すると吸収されやすくなることが知られている。これらの生薬による副作用リスクが高い患者では、胃内pHを上昇させるH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの併用を確認したい。

 また、甘草や麻黄は多くの漢方エキス製剤に配合されているため、漢方製剤の重複投与によって、生薬としての摂取量が過剰になる恐れもある。薬局で、注意すべき生薬の摂取量を薬歴に記録しておくのも一つの手だ。

 さらに、「漢方エキス製剤を長期間服用している患者には、2~3カ月に1度は血液検査を行い、低カリウム血症や肝機能低下がないかどうか確認すべき。薬局でも、検査の実施状況を確認してほしい」と新見氏は話す。

 漢方エキス製剤の重複投与に関しては、生薬のバランスが乱れることによって、それぞれの漢方エキス製剤の効果が減弱してしまう可能性もある。永田氏は、漢方エキス製剤を2剤併用する場合は、メーンの1剤を常用量で用い、もう一方を減量して用いることを勧める。また、3剤を同時に投与することは避け、やむを得ず併用する場合は1剤を頓用にするか、服用時点を食事の前後に分けるよう、医師にアドバイスしているという。

 「OTC薬も含め、患者が服用している漢方エキス製剤を一元的にチェックするのは薬局薬剤師の重要な役割」と永田氏は強調する。

服用時点は柔軟に指導

 漢方エキス製剤の服薬指導では、西洋薬と同様、重篤な副作用のリスクを最小限に抑えつつ、良好な服薬コンプライアンスを保つことが鍵となる。

 漢方エキス製剤は食前または食間の空腹時に服用することが望ましいとされているが、これは、食事によって生薬のバランスが乱れることを避けるためだ。ただし、食前服用はコンプライアンスの低下を招きやすいことから、新見氏は、「食前に飲み忘れてしまった場合は、食後服用でもよい」と柔軟に指導しているという。

 また、大黄に含まれるセンノシド類や甘草に含まれるグリチルリチンは配糖体であり、腸内細菌による分解を受けて吸収されると考えられている。「有効性を高めるため、乳酸菌製剤や酪酸菌製剤が処方される場合がある」と永田氏は言う。

 漢方エキス製剤の効果が表れるまでの期間は、疾患の種類や患者の体質によってまちまちだが、新見氏は、「慢性疾患に対しては、まずは4週間服用してもらうようにしている。4週間たった時点で、少しでも良くなっていれば継続し、変化がなかったり悪化傾向が見られた場合は、中止や他の漢方製剤への変更を考慮する」と話す。

 同氏によれば、漢方エキス製剤の短期間の服用によって、重篤な副作用が急に表れることはまずないという。「気になることがあったら、いったん服用を中止し、早めに受診するよう指導してほしい」とアドバイスする。

 永田氏は、漢方エキス製剤による副作用の誘因として、前述した構成生薬の過剰投与や相互作用のほか、“証の見立て違い”を挙げる。「エビデンスのある病名処方であっても、思うような効果が得られない場合もある。薬剤師は患者の様子を見たり話を聞いたりして、医師が適切な漢方製剤を処方できるよう、サポートしてほしい」と永田氏は話している。

  漢方処方のトレンド1
認知症の周辺症状に抑肝散

 近年、医師の間で一般的になった処方の一つが、認知症の周辺症状(行動・心理症状、BPSD)の緩和に抑肝散を用いること。BPSDには、暴言・暴力、徘徊、怒りっぽい、抑うつ、不安、幻覚、睡眠障害など、多彩な症状がある。

 従来は抗精神病薬が用いられてきたが、錐体外路症状などの副作用のリスクやさじ加減の難しさが問題となっていた。「認知症患者の増加に伴い、かかりつけ医が認知症診療を行う機会が増えたため、安全性が高く安価な抑肝散が広く用いられるようになったのだろう」と、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授で医師の水上勝義氏は話す。

「認知症の周辺症状に対する抑肝散の有効性は複数の臨床研究で示されている」と話す筑波大学の水上勝義氏。

 抑肝散エキス製剤は通常、1日7.5gを2~3回に分けて服用するが、同氏は1回2.5gを1日2回で開始し、1~2週間投与して効果と副作用が見られなければ、1日3回に増やすという方針。「苦味が苦手な患者には、ジャムやココアに混ぜて服用するよう勧めるといい」と水上氏はアドバイスする。

 抑肝散には甘草が含まれるため、定期的な血液検査で血清カリウム値をチェックするとともに、血圧の急な上昇や下肢のむくみなどに注意する。消化器症状の副作用が見られる患者には、抑肝散加陳皮半夏を用いることもあるという(表4)。

表4 認知症の周辺症状に有効とされる漢方エキス製剤(水上氏による)

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  漢方処方のトレンド2
抗癌剤の副作用緩和に漢方

 今後、漢方エキス製剤の有用性が期待される領域の一つが癌治療。抗癌剤の様々な副作用の緩和に、漢方エキス製剤が試みられている。

 芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏氏が過去の研究報告を調べたところ、抗癌剤の種類と副作用に応じた、漢方エキス製剤の使い分けの傾向があった(表5)。実際、今津氏も、カペシタビンとオキサリプラチンの併用療法に伴う手足症候群に対し、牛車腎気丸と修治附子末の併用が有効だったケースを経験したという。「漢方医学の考え方は、患者を全体的に診ることが求められる癌の緩和ケアになじみやすい。西洋薬で打つ手がなくなった癌患者の受け皿として、漢方の活用が進んでほしい」と今津氏は話している。

「癌患者のケアにおいては、病院と薬局の連携が不可欠」と話す芝大門いまづクリニックの今津嘉宏氏。

表5 抗癌剤の副作用の緩和に用いられる漢方エキス製剤(今津氏による)

診断と治療2009;97:1626-32.を一部改変

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