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副作用症状のメカニズム
血液の色や血流量に着目
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 60歳、女性。胃食道逆流症と診断され、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を1カ月前から服用中。最近、家族に「顔色が悪い」と指摘され、心配になって相談するために来局した。

「顔色が悪い」のメカニズム

 「顔色が悪い」と一口に言っても、どす黒い、蒼白である、青白い、黄色いなど様々である。他の人から指摘されて、初めて気づくこともある。

 顔色は、皮膚の色であるが、(1)毛細血管内の血液の色調と、(2)毛細血管の拡張状態と血流量によって大きく影響を受ける(参考文献1)。他にも、局所的な反応として「皮膚色素への影響」もあるが、これは、別の機会に考えたい。

(1)毛細血管内の血液の色調

 健康な皮膚は赤みがかったピンク色で、その赤みは毛細血管を流れる血液の色調を反映している。血液の色調のベースは赤血球である。従って、貧血で赤血球が少ない場合には、赤みが少なくなる。

 赤血球は、骨髄で骨髄系幹細胞から前赤芽球に分化し、さらに分化が進んで最終的には核を失い(脱核)、核のない赤血球となる。赤血球に含まれる固形成分の97%を占めているのがヘモグロビンで、ヘム鉄錯体とポルフィリン錯体、グロビンという蛋白質からできている。ポルフィリンは環状になっていて、中央に鉄を配位すると歪んで吸光度が変わり、赤色に見える。中央の2価鉄に酸素とグロビンが結合している状態がオキシヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)で、鮮やかな赤色である。「酸化ヘモグロビン」と記載されることがあるが、ヘム鉄は酸化されておらず、その表現は正しくない。

 酸素が外れると、ポルフィリン環の歪みが変化して吸光度が変わり、暗赤色となる。これをデオキシヘモグロビン(還元ヘモグロビン)と呼ぶ。  

 ヘム鉄が酸化されると3価鉄となり、メトヘモグロビンとなり、酸素結合・運搬能力が失われる。赤血球中に含まれるメトヘモグロビン還元酵素によって3価鉄は2価に還元されて、再び酸素と結合できるようになる。

 オキシヘモグロビンは、末梢の組織まで酸素を運び、そこで酸素を離して、デオキシヘモグロビンとなる。つまり赤血球はこのヘモグロビンを運ぶための袋で、ヘモグロビンがたくさん入るように核を捨てた。また、酸素を効率よく取り込めるように球形から円盤状に変化する。円盤状だと変形しやすく、細い毛細血管を簡単に通過して末梢の組織にまで行き着くことができる。

 ヘモグロビンは血液中に13~16g/dL含まれている。動脈血中には、デオキシヘモグロビンは0.75g/dLしかないが、静脈血には3.75g/dLも含まれる。そのため、静脈血は黒ずんで見える(参考文献2)。

 毛細血管では、動脈血と静脈血が混ざり合う。毛細血管内のデオキシヘモグロビンの量は、動脈血と静脈血の平均値と等しいと考えると、約2.25g/dL存在すると推定される(参考文献2)。この状態での色が、正常な皮膚の色といえる。何らかの理由により、毛細血管の血液中のデオキシヘモグロビンの量が増えると、暗赤色が強くなり、顔色が悪くなる。

 デオキシヘモグロビンが5g/dL以上になると皮膚や粘膜が暗い紫色に見えるようになる。チアノーゼである。肺炎や肺癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などによる肺の障害で、肺胞でのガス交換が正常にできなくなるとデオキシヘモグロビンが増加し、チアノーゼが出現する。

 また体が冷え切ったときなどに、唇が紫色になることがあるが、これは寒冷によって毛細血管が収縮し、血流が停滞することによる。血流が停滞すると、血液が酸素を組織に放出してしまう。その結果、デオキシヘモグロビンが増加して、チアノーゼが起こる。

 先天性心疾患の中隔欠損などでは、大循環に静脈血が流入するため、デオキシヘモグロビンが多くなり、顔色が悪くなる。

 また、血漿成分に色を持つ物質が多くなると、その色が反映される。例えば黄疸である。ヘモグロビンやミオグロビンは、脾臓で処理され最終産物である間接ビリルビンとなる。間接ビリルビンは、肝細胞内に取り込まれ、グルクロン酸抱合され、直接ビリルビン(水溶性)となり、肝細胞内から胆汁中に放出され、毛細胆管から排泄される。

 肝臓に障害が起こり、胆汁が幹細胞内に滞る「うっ滞」という状態になると、胆汁が溢れ出して、血中に逆流する。ビリルビンも血中に逆流する。血中に、黄色い色調で水溶性の直接ビリルビンが増加すると、皮膚、結膜などが黄色くなる「黄疸」として現れる。

 ベータカロテンの多い野菜などを大量に摂取すると高カロチン血症を来し、皮膚が黄染することがある。ミカンの食べ過ぎによる柑皮症などがある。

(2)毛細血管の拡張状態と血流量

 毛細血管を流れる血液量が減ると、皮膚を通して見えている血液の量が減るため、蒼白に見える。例えば強い緊張状態では、顔面が蒼白になる。これは、交感神経の緊張によって末梢血管が収縮するためである。

 他に、低酸素や低血糖、大出血など体の緊急事態から、脳を守るために、末梢血管を収縮させ血液を心臓に集めて、脳への血流を増やそうとする。

 爪床を押して血流を止めてから、放して血流が戻るまでの時間が4秒以上かかると循環不全が考えられる。

 体温低下時や寒冷環境下において、皮膚血管は収縮し、血流量が減少する。前述の寒冷による末梢血管の収縮も皮膚血管の収縮・拡張による皮膚表面からの熱放散の制御が原因である。

 目の下が黒ずんで見える、いわゆる「くま」は、疲労や睡眠不足、ストレスの蓄積などの影響で、毛細血管の血流が悪くなり、血流量が減ることによって起こる。

 反対に、血管が拡張した場合は、顔が赤く見える「潮紅」が起こる。全身性エリテマトーデスなどでは「蝶形紅斑」が見られるが、これは頬の血管が拡張しているためである。また、熱中症や発熱があると、熱を冷ますために顔面の血管が拡張し、潮紅が起こる。

 アナフィラキシーショックでは、遊離したケミカルメディエーターにより末梢血管が拡張する。そのため、血流量が増え、顔面潮紅が起こる。

 緊張したときなどにも赤面するが、このメカニズムは実は明確にはなっていない。顔の皮膚や口腔の血管は、交感神経や感覚神経だけでなく、副交感神経による支配もあり、独自の血流変化が起こることが知られている(参考文献3)。緊張で顔が赤くなるのは、交感神経の過緊張による脳温上昇を抑えるために、副交感神経支配で顔面の血管を拡張させ、温度を下げるのではないかと考えられている。

 また、更年期障害ではのぼせやほてり、潮紅、発汗が起こる。エストロゲンの急激な減少によって、血中カルシウム濃度が上昇し、血管拡張作用のあるカルシトニン遺伝子関連ペプチドが末梢神経終末から過剰に分泌されて、末梢血管が拡張して潮紅や発汗が起こる。熱消失反応を起こすことが原因の一つと考えられている(参考文献4)。

 他に潮紅を来す疾患としては、甲状腺機能異常、褐色細胞腫、カルチノイド症候群などがある(参考文献4)。

副作用による顔色変化

 副作用で顔色が変化する場合も、前述の(1)毛細血管内の血液の色調、(2)毛細血管の拡張状態と血流量─に分けて考えられる。薬が、これらに変化を与えて生じるものだ。

(1)毛細血管内の血液の色調

 薬の副作用による顔色の変化は貧血や、肝障害で胆汁うっ滞性の黄疸が起こった場合が多い。

 ニトログリセリンや亜硝酸アミルは、ヘム鉄を直接酸化してメトヘモグロビンを増やす。メトヘモグロビンは、酸素結合能を持たず、チアノーゼを起こすことがある。

 貧血は、抗癌剤などの骨髄抑制によるものが多い。また鉄や銅、葉酸などの栄養素不足による貧血は、経腸栄養や中心静脈栄養のみで栄養補給を行う患者で起こりやすい。

 また、葉酸を代謝するフェニトイン(商品名アレビアチン他)やST合剤(バクタ配合錠)、メトトレキサート(リウマトレックス他)、ビタミンB12を代謝するレボドパ製剤、ヘム合成に必要なビタミンB6代謝を阻害するイソニアジド(イスコチン他)でも起こることがある(参考文献5)。

 リバビリン(レベトール他)は、赤血球内に移行し、赤血球内のATPを消費して、溶血性貧血を高頻度に起こすことが知られている(参考文献6)。溶血性貧血は、アレルギー性、免疫性の機序でも起こり得る。ベータラクタム系抗菌薬や、レボフロキサシン水和物(クラビット他)などのキノロン系抗菌薬、オメプラゾール(オメプラール他)などのPPI、リファンピシン(リファジン他)などで報告が多い。

 赤血球の造血を抑制する副作用である「赤芽球ろう」は、フェニトインやイソニアジドなどで頻度が高い(参考文献5)。

 貧血の随伴症状としては動悸、頻脈、息切れ、倦怠感、頭重感などがある。

 肝障害は、中毒性とアレルギー性によって起こる。全ての薬物で発生し得るが、脂溶性の薬物は肝臓で代謝を受けるため、頻度は高くなる。1997年から2006年に薬剤性肝炎と診断された症例を解析した報告では、抗菌薬が最も多く、次いで解熱鎮痛抗炎症薬、精神神経用薬が多かった(参考文献7)。

(2)毛細血管の拡張状態と血流量

 カルシウム拮抗薬やニトログリセリン、シルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ他)などのホスホジエステラーゼ5阻害薬は、血管拡張作用による血流量増加で顔面潮紅が起こりやすい。ニフェジピン(アダラート他)の顔面潮紅の頻度は、10~25%といわれている(参考文献8)。

 ニコチン酸は、血管拡張作用の強いプロスタサイクリンを増加させることによって、顔面潮紅を起こす(参考文献9)。カルシトニン製剤の投与で見られる皮膚血管症状(潮紅、熱感)は、血小板からのセロトニンの遊離が促進されることによるものではないかと推察されている(参考文献10)。

 また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の過剰摂取や急な中止などで起こるセロトニン症候群では、体温上昇と発汗があり、潮紅のような症状が見られる。

 そのほか、薬剤の投与によって即時型アレルギーが起こった場合、IgEを介して、マスト細胞や好塩基球が反応し、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出され、血管が拡張し、潮紅が起こる。造影剤過敏症や種々の薬物によるアナフィラキシーショックの症状の一つである。

 バンコマイシン塩酸塩の注射剤の投与速度が速いと、ヒスタミンの遊離による「レッドネック症候群」と呼ばれるアレルギー反応が起こり、顔面から首筋にかけて潮紅する。

 抗エストロゲン作用のあるタモキシフェン(ノルバデックス他)や選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、排卵誘発剤のクロミフェンクエン酸塩(クロミッド他)などでも潮紅が起こることがある。また、ステロイド外用薬を顔面に長期間使用すると、酒さ様皮膚炎が起こり、潮紅を来す。

図1 副作用で顔色の変化が起こるメカニズム

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* * *

 最初の症例を見てみよう。患者は、胃食道逆流症のため、1カ月前からオメプラゾールを服用していた。息切れや動悸もするとのことだった。貧血を疑った薬剤師が受診を勧めたところ、溶血性貧血と診断され、入院となった。

参考文献
1)宮本聡美ら EMERGENCY CARE 2010;23:492-500.
2)大館敬一ら Nursing College 2008;7:38-42.
3)刈田啓史郎 歯科医展望 1999;94:383-90.
4)高田真一 産科と婦人科 2008;75:661-5.
5)『重篤副作用疾患対策マニュアル 薬剤性貧血』(厚生労働省、2007年)
6)McHutchison JG, et al. Liver Int 2006;26:389.
7)堀池典生ら『薬物性肝障害の実態─全国調査─、薬物性肝障害の実態』(中外医学社、2008年)
8)Ioulios P,et al. Dermatol Online J 2003;9:6.
9)Izikson L,et al. J Am Acad Dermatol 2006;55:193.
10)F.P.Cantatore,et al. Ann.Ital.Med.Int 1988;3:175-9.

イラスト:長岡 真理子

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