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DIクイズ5(A)
DIクイズ5:(A)尿失禁に葛根湯が処方された理由
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

出題と解答 堀淵 浩二
(クオール株式会社[東京都港区]西日本薬局事業本部)

A1

葛根湯に含まれるエフェドリンやペオニフロリンにより、尿道括約筋の収縮を増強させ、膀胱の排尿筋を弛緩させることで、尿失禁の症状を改善する。

 出産後に尿漏れを自覚する人は多く、産後8週間の時点で38%、出産直後から2年後までの集団では23.5%との報告がある1)

 尿失禁には、腹圧性や、切迫性、溢流性などがあるが、Nさんは、咳やくしゃみをした時に尿が漏れてしまうようになったと話していることから、腹圧性の尿失禁であると考えられる。

 腹圧性尿失禁は、骨盤内の臓器を支える骨盤底筋群が緩むことで、膀胱頸部が下がって圧迫され、尿道がうまく閉められなくなった状態を指す。くしゃみや咳をする、笑う、走る、重い物を持ち上げるなどの動作で、強い腹圧が急にかかった時に、瞬間的に尿漏れを起こす。出産により骨盤底筋群が緩んだり傷ついたりすることが、腹圧性尿失禁の発症につながることが多い。

 腹圧性尿失禁の治療には、骨盤底筋体操などの下部尿路リハビリテーションや薬物治療、外科的治療、尿失禁治療器具による治療などがある。厚生労働省の研究班が作成した『EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン』によると、一般には下部尿路リハビリテーションを行い、症状が重い場合には外科的治療が適応となる。Nさんが受ける薬物治療は、補助的な治療に位置付けられている。

 薬物治療には、β2刺激薬のクレンブテロール塩酸塩(商品名スピロペント他)や、交感神経刺激薬のエフェドリン塩酸塩(適応外)などが使われる。今回Nさんに処方された葛根湯も、適応外処方ではあるが産婦人科などで腹圧性尿失禁の治療に使われる薬の一つである。

 葛根湯は、(1)麻黄に含まれるエフェドリンが、交感神経刺激作用により尿道括約筋の収縮を増強させ、膀胱の排尿筋を弛緩させる、(2)芍薬に含まれるペオニフロリンの抗コリン作用により、膀胱の排尿筋を弛緩させる─という2つの作用により尿漏れを起こしにくくする2)

 葛根湯はメーカーによっては乳腺炎にも適応があり、授乳中の患者にも処方しやすいという利点もある。Nさんの主治医は、Nさんが授乳中である可能性も考慮して、葛根湯を選んだと考えられる。

 また、葛根湯には冷えを和らげる効果があり、それによっても尿失禁の症状を軽くすることが期待できる。体が冷えて膀胱の血流が悪くなると、再吸収される水分量が減って、尿量が増え、尿意をもよおしやすくなるからである。

 服薬指導の際には、Nさんに、葛根湯はかぜに対してではなく、Nさんが相談した尿漏れ(腹圧性尿失禁)に対して処方されていることを説明するとともに、自宅で育児や家事の合間などに、骨盤底筋体操を行うよう勧めることも重要である。

 なお、骨盤底筋体操は、肛門や尿道、膣の周囲にある括約筋群を、意識して繰り返し収縮させて鍛える訓練法である。骨盤底筋群の筋力を強化して尿道の閉鎖性を高めるとともに、腹圧がかかった時に反射的に尿道括約筋を収縮できるようにする。

こんな服薬指導を

イラスト:山田 歩

 葛根湯はかぜへの処方が有名ですが、出産後の尿漏れにも効果があるんです。先生の処方は間違っていないと思いますよ。

 出産後に尿漏れを起こすようになる人は実はとっても多いんです。大半は腹圧性尿失禁といって、くしゃみをする、笑う、走る、重い物を持ち上げるなどして、おなかに力が入ったときに瞬間的にぱっと尿漏れを起こします。出産によって骨盤底筋という筋肉が緩むことで、尿道がうまく閉められなくなることが原因です。

 先生からお話があったかもしれませんが、骨盤底筋を鍛える体操を行うと、治療の効果が高まります。ご自宅で育児や家事の合間に、尿道や肛門、膣の周りの筋肉を締めたり緩めたりする運動を、1日80~100回を目安に行ってください。骨盤底筋体操と葛根湯の服用を続ければ、徐々に尿漏れは起こさなくなると思いますよ。

参考文献
1)厚生労働省研究班「EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン」(2004)
2)産婦人科治療 2006;92(増刊):637-40.

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