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きらら薬局(長崎県大村市)
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

写真:諸石 信

 「あじさいネットで診療情報が閲覧できる患者では、服薬指導の内容や行いやすさが、これまでと全く異なる。確かな情報が得られることで、自信をもって服薬指導が行えるようになった」。こう話すのは、きらら薬局(長崎県大村市)代表の河村綾子氏だ。

 「長崎地域医療連携ネットワークシステム」(通称あじさいネット)とは、長崎県で整備が進む、地域医療連携ネットワークシステムのこと(写真1、詳細はこの記事の最後で紹介)。国立病院機構長崎医療センターや長崎大学病院など、長崎県の19の基幹病院の患者の診療情報を、患者のかかりつけの医師や薬剤師が閲覧できるようにしたものだ。システムに組み込まれた連携メール機能により病院の主治医とやり取りもできる(一部の地域では準備中)。

写真1 あじさいネットの画面

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長崎医療センターは、病名や医師の診察記録、検査情報などを薬局に公開している。画面から、この患者は9月14日に放射線科を受診したことが分かる。アイコンをクリックすると、詳細が閲覧できる。

 13年7月時点で、あじさいネットへの登録を同意した患者数は2万8499人。196施設があじさいネットの会員となって情報を閲覧しており、これには32の薬局も含まれる。

 その一つであるきらら薬局は、長崎医療センターの処方箋を30件/月ほど受けており、これまで16例についてあじさいネットを利用した。

 薬局が閲覧できる情報は基幹病院によって異なるが、長崎医療センターが薬局に開示しているのは、(1)病名や既往歴、アレルギーの有無(2)医師の記載(診察記録)、(3)処方内容、(4)血液検査や画像検査など各種検査情報、(5)手術記録、(6)入院サマリー(入院中の看護記録)─などだ。

 では、あじさいネットの情報や機能を使うと、服薬指導はどう変わるのか、実際の例を見てみよう。

診察状況や処方意図を確認

 ケース1は、パーキンソン症候群の70代男性患者。患者は、病状の変化や薬が増えていく理由が分からず不安を感じていた。そこで、薬剤師が、あじさいネットの「医師の記載」を見て診察状況や処方意図を確認。その結果、患者に丁寧に説明ができ、患者の不安を和らげられた。

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ケース1  70代男性。パーキンソン症候群。

処方意図を正確に知り服薬指導
 左手の震えがひどくなり長崎医療センターを受診した。患者は病状の変化や薬が増えていくことに強い不安を訴えたため、初来局から5カ月目に薬剤師があじさいネットへの参加を勧め、同意を得た。
 あじさいネットにより、患者はパーキンソン病が疑われて検査を受けたが原因が明確には特定されず、パーキンソン症候群として治療されていることが分かった。
 メネシット配合錠100(一般名レボドパ・カルビドパ水和物)が開始された際、薬剤師は、服用が昼食後になっていることを不思議に感じたが、あじさいネットの「医師の記載」により、これには服用前と服用後の体の動きの変化を調べる目的があることが分かった。また、同時に処方されたドンペリドンについては、医師は患者に、吐き気が全くなければ中止するよう説明していることも確認できた。
 その後、メネシットが増量されると、患者は症状が悪化したのかと不安を訴えた。薬剤師があじさいネットを確認すると、医師はメネシットの服用により患者の左手の動きが改善していると考えていることが分かった。また医師は、最適な投与量を調整するために同薬を徐々に増やしていることも読み取れた。患者にそれらを説明し納得が得られた。

 ケース2は、薬剤性の副作用が疑われ、病院を受診するよう勧めた患者が、その後どうなったのかをあじさいネットで把握できた例だ。

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ケース2  20代女性。膠原病(混合性結合組織病)。

受診を勧めた患者の診察状況を把握
 初来局から4カ月後に、担当医の話を薬局でうまく説明できているか不安であること、また検査データなどを薬局でも見てもらいたいとのことで、患者の提案を受けてあじさいネットの利用を開始した。
 患者は、プレドニン錠5mgやメトトレキサート(MTX)、イスコチン錠100mg(イソニアジド)などを服用し、ヒュミラ皮下注20mgシリンジ0.4mL(アダリムマブ)を自己注射していた。
 ある日、ヒュミラを自己注射後、38℃台の発熱が持続していると、本人から薬局に電話があった。時折吐き気もあるとのことだった。電話での問診により、症状の急激な変化はないことを確認したが、薬剤性の副作用による感染症の可能性も考慮して、早めに受診するよう勧めた。
 その後、患者からの連絡はなかったが、あじさいネットの情報により患者が翌日病院を受診したことが分かった。
 そして書き込まれた医師の記載などから、患者は、腰椎穿刺などの検査を受けて細菌感染の有無が検査されたが、特に問題は見つからず、発熱は心配していた薬剤性の副作用ではなかったことを、薬剤師が把握できた。

 このような使い方は、もともとは病診連携において、診療所の医師が、基幹病院に患者を紹介後、患者が受けた診療内容を確認することを想定していたが、医薬連携でも有用だった。

 そのほか、あじさいネットの「連携メール」機能も、薬剤師にとって有効なツールとなっている。連携メールを使うと、電話による疑義照会と比べて比較的気軽に医師とやり取りができる。

 例えば、河村氏は、40代の子宮体癌の末期患者を担当した際、連携メール機能を使って医師とやり取りをした。

 初めて麻薬が処方されたときに、河村氏は、処方された薬が麻薬であることを医師は患者に説明しているのか、また副作用や麻薬の管理についてはどの程度説明しているのか、患者から把握できなかった。

 そこで、連携メールで主治医に連絡。副作用の説明や麻薬の管理方法のほか、突発痛に対する頓服的な麻薬の使用についても、医師との共通認識の中で患者に説明できた。

 さらに、実際に使ってどうだったか、頓服的に使用した麻薬の量など、薬局で得た情報を医師に伝えることで、次の処方の参考にしてもらえた。

 また、このケースでは、女性は癌の転移があり予後の不良が予測された。こうした場合に、患者に直接ヒアリングせずに情報が得られる利点は大きい。不用意な質問をして患者を傷付けたり、体調がよくない中で質問をたくさんして、患者を疲れさせずに済むからだ。

 「正確な病状を知らなければ、患者への問いかけや説明の内容は全く違っていただろう」と河村氏は話す。

薬剤師からも働きかけを

 現在、薬剤師は処方箋と患者から得られる情報だけを頼りに業務を進めているが、このように診療情報を知ることで、薬剤師の仕事は大きく変わる。

 半面、薬剤師には、診療情報から患者の状態を読み取り、服薬指導に生かす能力が求められる。河村氏も、あじさいネットを利用する中で、様々な

疾患や薬の使われ方、検査値のことなどをもっと勉強すべきと痛感したという。

 あじさいネットに参加する病院の中には、情報漏洩が懸念されるなどの理由で病院の診療情報を院外の薬局に開示することに反対する意見もある。河村氏は、「運用方法を遵守し、期待に答える仕事をしなければならないと責任を感じている」と話す。

 もっとも、医療費の適正化、医療の効率化の観点から医療情報などを地域で共有する取り組みは、今後も各地に広がっていくだろう。そうした連携の輪の中に薬局が加わっていくためにも、先駆的な薬局は、情報を服薬指導などに有効利用する実績を示していく必要がある。同時に、このような取り組みが広がっていくよう、薬剤師から自治体や地域医師会などに働きかけていくことも必要だろう。(富田 文)

長崎地域医療連携ネットワークシステム
「あじさいネット」のしくみと運用の実際とは?

 長崎県で整備が進む、「長崎地域医療連携ネットワークシステム」(通称あじさいネット)。長崎県の19の基幹病院の患者の診療情報を、患者から同意を得たかかりつけの医師や薬剤師が閲覧できるものだ。

 患者の同意の下、病院や診療所の医師、薬局の薬剤師が患者の診療情報を共有し、各施設における検査や診断、治療内容、説明内容を把握し合うことで、説明の齟齬や検査の重複が減り、質の高い医療が提供できると考えられている。医療機関が情報を共有するネットワークに薬局が参加している例は、全国的にも珍しい。

ネットにつないだパソコンで閲覧

 あじさいネットのしくみや実際の運用方法は次の通り。情報提供病院の電子カルテシステムにアクセス用サーバーを設置し、薬局や診療所などのパソコンから、インターネット経由で情報を閲覧できるようにした。情報は特殊技術で暗号化されているため、インターネット経由であっても、高いセキュリティーレベルが確保される。

 薬局や診療所があじさいネットに参加するためには、まず、同ネットを運営しているNPO法人長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会に入会し、インターネットにつないだ薬局のパソコンに専用機器(VPNルーターなど)を接続する必要がある。

 あじさいネットを使うためには、正しい使い方を学ぶ講習会を受講することが必須条件となっている。講習会を受講すると個人にIDとパスワードが与えられ、実際に運用できるようになる。

 さらに、あじさいネットの会員である診療所医師や薬局薬剤師が、患者の基幹病院での診療情報を閲覧するには、患者ごとに同意書を得る必要がある。

 まず患者に薬局向けの説明書を読んでもらい、薬局が情報を閲覧する目的などを説明した後、同意書に記入してもらう。その際に、患者には撤回する権利があり、やめたいと思えばすぐにやめられることを説明し、撤回届にも必要事項を記載してもらい患者に渡す。

 こうして得た同意書を、患者が通う基幹病院(情報提供病院)の地域連携室にファクスすると、15分ほどで、薬局のパソコン画面で患者の診療情報を閲覧できるようになる。

 2回目以降は、薬剤師があじさいネットにログインすると、同意書を得た患者の一覧が表示され、患者氏名を選択すると、患者の診療情報が閲覧できる。情報漏れを防ぐため、患者情報を閲覧している間は、他のサイトには接続できず、患者情報の印刷もできない仕組みになっている。薬局側が3カ月以上内容を読まなかった患者については、この一覧から氏名が自動的に削除される。

 コストは、情報提供病院や情報閲覧施設が負担し、患者負担はない。

 情報閲覧施設の負担は、初年度に、入会金5万円と初期費用3万円が掛かるほか、ウイルス対策費用が年3000円、月会費が4000円(レセプトをオンライン請求する場合は5000円)。これらは、暗号化の機器の設置や設定、システムの運用保守やセキュリティー管理のために利用される。

図 あじさいネットの利用イメージ

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(NPO法人長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会の資料などを基に編集部で作成)

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