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Interview
日本薬剤師会常務理事 安部好弘氏
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

日本薬剤師会は2013年4月、厚生労働省のチーム医療推進会議に薬剤師の業務範囲見直しの要望書を提出。6月26日にはチーム医療推進方策検討ワーキンググループで、要望を受けた議論が行われた。日薬常務理事でチーム医療推進会議の委員である安部好弘氏に要望の狙いなどを聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

1960年生まれ。83年昭和薬科大学卒業、水野薬局(東京都文京区)に入局。91年ケイロン薬局(東京都板橋区)を開局。96年東京都薬剤師会常務理事、2008年日本薬剤師会常務理事(現職)。厚生労働省チーム医療推進会議委員、社会保障審議会臨時委員などを務めている。

─4月16日付で、チーム医療推進会議(座長:自治医科大学学長の永井良三氏)に「チーム医療における薬剤師の業務範囲の見直しについて」とする要望書を提出しました。提出に至る経緯を教えてください。

安部 チーム医療推進会議では様々な医療関係職種がどうやってその専門性を発揮してチーム医療の質を上げていくかという議論をしています。これまで19回かけて看護師の業務について議論してきたのですが、その途中で、看護師の議論が一段落したら他の職種の議論をすると確認してもらいました。3月に看護師に関する報告書がまとまったので、日薬から薬剤師の業務範囲に関する意見を出しました。

─要望書ではまず、薬剤師が「在宅における薬物療法への適切な関与」をするために、必要な措置を行うよう求めています。

安部 日薬では在宅医療の推進を図るために、様々な委員会や勉強会、研修会を開催したり、在宅療養推進アクションプランとして地域の在宅の応需体制を整備したりしてきました。その結果、在宅医療は最初は非常にニッチな分野だったのですが、患者の自宅で薬剤管理の業務を行う薬局も少しずつ増えて、裾野が広がってきました。

 すると、そもそも調剤業務は、薬局内もしくは病院の調剤所で薬剤を管理することを前提にしてきたため、在宅で業務を行うには少し不都合な部分が出てきた。現場で工夫しながらやってはいるのですが、取り組む人が増えるにつれて「これではやりづらい」という声が強まってきたので、「在宅での薬物療法」に関する要望を出したのです。

─具体的には、「患家において、医師の処方箋に基づき、内服薬等の計数調剤を行う」「調剤した薬剤を患家にて交付する際、残薬状況や患者の状態等に応じて、処方医への疑義照会を行った上で、薬剤の計数変更を行う」「患者等からの求めがあった場合、処方医の同意を得た上で、調剤した薬剤の使用方法に関する実技指導を行う」の3つです。

安部 患家における調剤業務の範囲として、ここまではいいだろうということを3つに集約しました。薬剤師からの意見もあれば、在宅で医師にこれをやってほしいと言われたけれど、現行のルールではできないとして浮かび上がったものもあります。

 患家では色々な職種の人が集まり、専門性を生かして患者に医療や介護を提供しています。薬剤師の専門性はというと、やはりまずは医薬品の供給です。きちんとした医薬品を、その患者さんに合った調剤方法で提供する。適正に使用できるように患家で説明や指導をする。その際にただ口で言うだけではなく、実技を一緒にやってみせる。そういうことができるように要望しました。

 実際には現場で医師や看護師、患者らの理解に基づいてやっていることもあると思いますが、ルール上は明確でなかった。そういった部分を、厚労省の会議で議論して明確にしておこうということです。

─これらは在宅での薬物療法に関連した要望ですが、それ以外に「在宅患者に調剤を行う際の処方箋送信手段の合理化」として、電子メールによる処方箋の送信も認めるように要望しました。

安部 患家から医師が処方箋をファクシミリで送り、薬局で調剤をするのは構わないのですが、今やファクシミリのない家が多く、代わりに使われているのが携帯電話やスマートフォンなどです。それらを使って処方箋の写真を撮り、電子メールで送るのもファクシミリと同じだと思うのですが、現場で医師が送ろうとしたときに「それでは受け取れない」と拒む事態が各地で起きました。それならば明確化しておいた方がいいだろうということで要望しました。

─3つ目の要望は、「一般用医薬品(OTC薬)を含めた医薬品の適正使用に関する医師との連携」です。医師への連絡や紹介状の作成を含めたOTC薬に関する相談応需業務の位置付けを明確にするよう求めました。

安部 もともと薬剤師の役割として、地域住民から健康や薬の相談を受けることがありましたが、最近は調剤に特化した薬局が増えて、相談機能が低下しています。住民にも、処方箋がないと相談できないと思われるようになってきています。

 しかし、世界のどこでも薬局は、医薬品の調剤や販売だけでなく、セルフメディケーションのための相談に応じる存在です。薬剤師法第1条にもそういうことが書かれています。だからわれわれ自身、改めて薬剤師の情報提供の義務を認識し、地域住民に対して、処方箋がなくても、物を買わなくても来てください、ご相談に応じますということを、より明確にしたいのです。厚労省のワーキンググループでの議論の際にも聞かれましたが、患者を医療機関に紹介したら診療報酬に反映してほしいというようなことは一切考えていません。

─業務範囲の見直しというと、例えばフィジカルアセスメントを薬剤師の業務として認めるべきといった声もあります。今回はフィジカルアセスメントに付いては全く触れていませんね。

安部 フィジカルアセスメントについては今、患者の医薬品使用や副作用の発現などを確認するための目視や対話などの行為の延長にあるものだろうという議論をしています。もちろん業務として行うには正しい知識と技能が必要で、研修を行った上での行為となると思います。

 もう1つ大切なのは、患者はもちろん、チームの中の医師、看護師から、それを薬剤師がやるのは当たり前だと思ってもらえる環境をきちんとつくることです。今まで薬剤師の専門としてやってこなかったことですから、慎重かつ理解を得ながらやる必要があります。「何々大学に行って、こんな講義を聴いてきたから、私はフィジカルアセスメントができる薬剤師です」などと言っても通用しません。

─今後、チーム医療推進会議に追加で要望することはあるのでしょうか。

安部 今回提案したのは、十分に実績を持っていたり、実際の業務の中で課題として出てきたのもです。フィジカルアセスメントは、まだ実績が十分にあるわけではありません。

 業務分担の議論をする際に重要なのは、その見直しによって、チームを構成する専門家がより専門性を発揮できるかという点です。それが質の高さにもつながるし、効率も良くなるはずです。では薬剤師は何をするのかというと、他の職種よりも薬剤師が得意なことをやるべきです。6年制になって、薬剤師が得意な分野が増えていくと思いますが、他の職種から「これは薬剤師がやるのが一番いい」と思ってもらえるよう、実績を作ることがまずは大切です。

インタビューを終えて

 現場の薬局薬剤師と話をしていると、日本薬剤師会の日本医師会などに対する弱腰ぶりを指摘する声を聞きます。実際、薬剤師の業務範囲見直しでは、もう少し踏み込んだものを期待していただけに、少し物足りない印象を受けました。ただ、実績がないにもかかわらず主張だけしても、“エゴ”と捉えられるだけです。なるほど「この業務は薬剤師がやるのが適切だ」と周囲に認められるまで実績を重ねて要望するという正攻法で行くのが、この手の交渉ごとでは早道かもしれません。(橋本)

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