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薬理のコトバ
核内受容体
日経DI2013年8月号

2013/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 受容体の役割は、情報の「受付」と「通訳」。生理活性物質の持つ情報を、“鍵と鍵穴”の様式で選別して、自身の担当分のみを受け付ける。この選別が厳格に進むことで生体の複雑な情報伝達機構が成り立つ。そして、受け取った信号を別の言語に“通訳する”のがもう一つの役目だ。異なる情報伝達様式を持つ経路間をつないで、情報の受け渡しをサポートする。

 つまり受容体は、細胞機能を支える情報伝達系において、通訳もこなす辣腕な秘書のように働く。中でも、細胞内で来訪者を受け付け、細胞核内へと案内する「核内受容体」は、表(細胞表面)には決して出ることのない謎めいた存在。しかも、創薬ターゲットとしての重要性が声高にいわれており、薬剤師としてはこの秘書軍団の存在と役割を頭の隅に入れておきたいところだ。そこで今回は、頭のスペース作りの意味で、核内受容体についてまとめることにしよう。

「NCR48」がゲノムで特定

 核内受容体は、細胞内に入って来たホルモンなどのリガンドと結合し、リガンドとともに細胞核内に移行して、DNA転写を制御するという機能を持つ。遺伝子の転写因子の一種であり、代謝など、生体機能の主軸を担う物質の遺伝子発現に関与している蛋白質だ。

 2003年のヒトゲノム解読により、ヒトには48種類の核内受容体が存在することが明らかにされた。受容体は通常、個別のリガンドの作用点として探索・同定される。しかし、こと核内受容体に関しては、遺伝子配列から「これは核内受容体として働く蛋白質に違いない」と、48種類が先に特定された形になっている。現時点では、48種類のうち、リガンドが見つかっているのは23種類のみ。残りの25種類は“リガンド知れず”のオーファン受容体だ。ますます謎めいているではないか。

 そこで、全部で48種類というこの秘書軍団を、ずばり「NCR48」と呼んでしまおう。NCRは、核内受容体の英語表記であるNuclear Receptorにちなんだもの。一般にはNRと省略するが、ここは語呂よく「NCR」と呼びたいところだ。アイドルグループの「AKB48」は総選挙によりメンバーを世に問うているが、こちらは遺伝子配列を基に選んでいるので既に不動のメンバー。センターを競うこともない。この中の23種は担当が決まり既に活躍中、25種はその活躍ぶりがまだ私たちには見えていない、という状態だ。

 NCR48のリガンドとなる分子には、共通の性質が見て取れる。多くの生理活性物質の中でも、核内受容体に作用する分子は細胞膜を通過する必要があるため、「脂溶性で分子量が小さい」(分子量400前後が多い)という性質を持つのだ。この条件を満たすリガンドには、ステロイドや甲状腺ホルモン、ビタミンA(レチノイド)やビタミンD、コレステロール代謝物などが知られている。大抵は輸送蛋白質に結合して血中や体液中を流れ、標的細胞を見つけるとその中に単独で入り込む。そして細胞質で、NCR48による厳しい身元照会を受けるというわけだ。

 NCR48は、キレ者だけに来訪客の選別は実に厳しい。その立体構造を綿密に測り、自身に見合った分子しか相手にしない。例えばメンバーの一人、グルココルチコイド受容体は、細胞質では立体構造を支えるシャペロン蛋白質と結合している。有能秘書が椅子に座って、姿勢正しく美しい笑顔で来客を待っているかのようだ。訪れたリガンドがお眼鏡にかなうと、シャペロンの椅子から離れ、リガンドを核内へと丁重にお連れする。

 リガンドを核内にいる重役(グルココルチコイド受容体の場合、グルココルチコイド応答エレメントと呼ばれるDNA配列)に引き合わせた後も、核内受容体の活躍は続く。周囲の関連する蛋白質などを呼び寄せて、遺伝子の転写を調節するチームを作るのだ。このとき、細胞核内でリガンドと結合していない核内受容体は、リガンドと結合した核内受容体の活躍を遮るようにDNAの転写を抑制する。このあたりの動きは、辣腕とはいえ、ややもすると人間臭くも見えてしまう。

有望な創薬ターゲットに

 核内受容体は多様な生理機能、そして病態に関わっているため、創薬のターゲットとして薬学研究者の熱い視線を集めている。前回(2013年7月号)、ここでも取り上げたグリタゾン系薬(チアゾリジン系薬)のターゲット、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR;peroxisome proliferator-activated receptor)γも、NCR48の一員だ。PPARγは、2型糖尿病だけでなく、肥満や動脈硬化など現代人が直面しているメタボリックシンドローム全般に対する関わりが指摘されており、創薬ターゲットとしての有能ぶりに期待が集まっている。

 現時点でリガンドが不明であるオーファン受容体の中にも、有望株がいる。例えばNR4Aは、自己免疫疾患をはじめ、神経変性や腫瘍形成、炎症応答、ステロイド合成など、多くの病態や生体機能と関連していることが分かっている。内因性のリガンドが不明のままでも、NR4Aのお眼鏡にかなうリガンドを創成することで、種々の生体機能や病態を調節する医薬品の開発へとつなげることができるのだ。

 今年も暑い夏となったが、この分野がますます過熱することに期待したい。

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