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Interview 
医療法人アスムス理事長 太田秀樹氏
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

 在宅医療の普及には、多職種がネットワークを作って取り組むことが不可欠だ。医療法人アスムス(栃木県小山市)の太田秀樹氏は、医師の立場で長年、在宅医療を実践し、薬剤師からなる在宅医療の全国組織の設立などを後押ししてきた。その太田氏に、在宅医療における薬剤師の課題などを指摘してもらった。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

1953年生まれ。79年日本大学医学部卒業、自治医科大学大学院修了。自治医科大学整形外科医局長、専任講師を経て、92年おやま城北クリニック(栃木県小山市)を開設し在宅医療に取り組む。現在、在宅療養支援診療所、老人保健施設、グループホームなど擁する医療法人アスムス理事長。

─在宅医療に積極的な薬剤師もいますが、まだ少数派です。在宅医療の重要性に対する認識が、十分に浸透していないように思います。

太田 在宅医療が社会保障制度の最優先課題であることは明白です。その普及がなくては、日本の医療システムは崩壊するかもしれません。厚生労働省医政局は2012年3月に、次期保健医療計画策定に際し、在宅医療についての目標数値なども記載するよう、都道府県に通知しました。各都道府県は、在宅医療を行う薬局を何カ所作るのか、これから本計画の中で明確にしていかなければなりません。

 策定に際しては、都道府県の態度だけではなく、職能団体の果たす役割が大きく、どういう姿勢で取り組むかによって地域格差が歴然としてきています。地区の薬剤師会にキーマンがいるところは積極的ですが、キーマンがいないと進まないというのが現状です。

 一方、社会保障・税の一体改革の議論の中でも、「地域包括ケアシステム」が示されました。これは、医療、介護、福祉、保健、住居が連携して地域住民にサービスを提供しようという概念で、国は25年に向けてこれを実現していく方針を明確にしています。つまり在宅医療という流れは、もはや止められません。地域の薬局は、在宅に取り組んでいかなければ、将来的に立ち行かなくなるでしょう。

─医療機関では在宅医療の重要性が十分認識されていますか。

太田 それもまだこれからです。日本には有床、無床の診療所が合計約10万カ所あるのですが、このうち聴診器を持って診療している開業医がいるのは6万カ所ぐらいでしょう。この6万カ所の開業医が、気楽に出掛けられるぐらいの範囲で往診を行い、月に1枚の死亡診断書を書いたとすると、約70万人を地域で看取れます。25年には年間死亡数が160万人に達し、ベッド数が40万床足りないといわれますが、かかりつけ医が在宅医療を行えば、問題はあっさり解決するのです。ただ、現実には在宅医療に関わっている医師は、まだ1万人ぐらいでしょう。

─12年度には厚労省が「在宅医療連携拠点事業」のモデル事業をスタートさせ、医療法人アスムスも拠点に採択されました。

太田 国は、地域に“部品”、つまりサービスを提供する資源は既にあると思っているんです。実際、人口1万人、2万人の町村部では難しいかもしれませんが、人口10万人前後の地方都市になると、社会資源として在宅医療の“部品”はそろっていると思います。

 しかし、その部品を組み立てて、シンクロナイズさせて機能させることができていません。訪問服薬指導をする薬剤師も、医師も、ケアマネジャーもいるけれど、その人たちが有機的に結ばれていないのです。その点、今回のモデル事業に採択されたところでは、うまくネットワークが構築されて効率的に機能するようになったと思います。

─薬局での取り組みが進まない理由として、経済的メリットが十分でないことが挙げられると思います。

太田 今は薬を売っている方がもうかりますからね。ただ、それだけでは徐々に厳しくなる方向にあるのは確かでしょう。通院が困難な人が増えるわけですから、薬局の来局者も減っていく可能性があります。急に大きく変わることはないかもしれませんが、5年後、10年後には変わっていくと思います。

 経営効率が悪いことに取り組めるかどうかは経営トップの意識次第です。メディカルグリーン(栃木市)の大澤光司社長は2000年に介護保険制度が始まった時に私と出会って、在宅医療の話をすると「面白い」と積極的に取り組み始めました。その彼が、全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)を立ち上げて、会長を務めています。

 どうして彼が在宅医療のリーダーになれたのかというと、経営者だからです。薬局に勤務している薬剤師では、やりたいと思っても簡単にはやれないでしょう。経営トップがその気になるということは非常に重要です。

─医師の立場で、J-HOPの設立をサポートされたということですが、在宅医療の推進には薬剤師が関わることが重要だということでしょうか。

太田 地域医療というのは4輪駆動なんです。医師だけでなく、看護師、薬剤師、歯科医師の4つの職能が同じ方向を向かないといけない。さらに、介護保険になると利用者を中心に、ケアマネジャーがコーディネートすることになるので、ケアマネジャーと薬剤師が良好な関係性を持つことが望ましい。いずれにしても地域においては、チーム医療の意識を持つことが重要です。

─薬剤師が在宅医療のチームの一員であるということが、他の職種に十分認識されているでしょうか。

太田 訪問服薬指導という制度があるのですが、この制度のことを知っているケアマネジャーはまだ少ないと思います。だからケアマネジャーは、ヘルパーに依頼して薬局に薬を取りに行かせるわけです。周知が全く足りていません。

 薬剤師にも、チームプレーが苦手な人が多いですね。なぜかというと薬剤師は処方箋を出してくれる医師を見る傾向にあるからです。訪問看護師や歯科医師、ケアマネジャーと仲良くしろと言われても、きっかけがないのです。

 訪問看護師の仕事の内容を調査すると、約30%が薬関係の仕事です。薬剤の管理をしたり、残薬の整理をしたり。そういうのは看護師にもできますが、薬剤師がやった方が好ましい。そうすれば訪問看護師はより看護師らしい仕事ができますから。

 ところが、薬剤師が在宅の場に出てこないから看護師がやらざるを得ない。また、看護師にやってくれと頼まれても、医師の指示がなければ薬剤師は動けないという構造的な問題もあります。医師が訪問服薬指導指示書を書いてくれないと、一歩踏み出そうにも、どのように動けばいいか分からないというのが現状なのでしょう。

─看護師やケアマネジャーらによって在宅医療のネットワークができているところに、薬剤師が後から入り込むのは難しくないですか。

太田 在宅医療連携拠点事業の中では市民フォーラムなども活発に開催されています。在宅医療に参加するためにはそういう場に積極的に出席していくことです。そうすると、他職種からも顔が見えるようになって、連携が始まるわけです。待っているのではなく、出ていくことが大切だと思います。

 一方で、在宅に積極的な薬剤師がいて、その薬剤師に請われて地域の医師が往診するようになった例もあります。そのような元気な薬剤師に、どんどん出てきてもらいたいですね。

インタビューを終えて

 太田氏は、チーム医療の重要性を強調していましたが、確かに在宅医療は医師だけ、薬剤師だけで実現できるものでもありません。現在は経済的裏付けが十分ではないため在宅医療に積極的な薬局は少ないかもしれませんが、ひとたび地域に多職種連携のチームが確立されてしまうと、どうやってそこに加わっていくかが課題となりそうです。国が2025年に地域包括ケアシステムの実現を目指していることを視野に入れると、「顔の見える存在」となっておくのに早過ぎることはありません。(橋本)

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