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医師が処方を決めるまで
ディスペプシア
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

講師
中澤 敦
(東京都済生会中央病院[東京都港区]消化器内科)

講師から一言
 ディスペプシアの患者は、様々なストレスを抱えていることが多い。初診時は症状の話題が中心になるが、2回目以降の外来では、症状の背景にあるストレス、生活習慣などに話が広がって、つい診察時間が長引いてしまうことが少なくない。患者を見ていると、もともとは仕事や人間関係によるストレスから発症して、さらに胃もたれや食欲不振が続くことがまたストレスになり、症状が悪化するという“悪循環”に陥っていることが多いようだ。私はこれまでの経験から、漫然とPPIを投与するのではなく、漢方薬や不安を取り除くような薬剤を組み合わせることが、症状改善につながっていくと実感している。

 ディスペプシアは、胃もたれなどの不快感、早期満腹感(飽満感)、膨満感、胸やけ、胃の痛みといった様々な上腹部症状を特徴とする病態の総称である。これらの原因は、図1のように、(1)胃の機能異常、(2)胃の炎症、(3)食道の機能異常─と大きく3つに分けられるが、併存しているケースもあり、きめ細やかな診断と薬剤選択が求められる。

図1 ディスペプシアの3つの原因

 ディスペプシアの多くは、内視鏡検査や胃粘膜の生検で、びらんや発赤といった異常所見(器質性変化)が認められる。器質性変化を伴うディスペプシアとしては、Helicobacter pylori(ピロリ菌)の感染に起因する胃炎や胃潰瘍がよく知られている。また、胃酸が逆流して、胸やけや不快感を示す胃食道逆流症(GERD)のうち、粘膜傷害が認められる逆流性食道炎もその1つである。

注目される機能性ディスペプシアとは
 一方、器質性変化が全くないにもかかわらず、種々の上腹部症状を呈するディスペプシアも、臨床の場ではしばしば見られる。この一群のディスペプシアは、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)と呼ばれ、最近注目されている。国際的な診断基準(Rome III)では、(1)食後のもたれ感、(2)早期飽満感、(3)心窩部痛、(4)心窩部灼熱感─の4症状のうち、少なくとも6カ月前から1つ、かつ最近3カ月以内に2つ以上認められる場合をFDと定義している(表1、表2)。

 本稿では、典型的なディスペプシアの症例を3つ提示し、処方の背景にある意図を解説することで、ディスペプシアという疾患概念への理解を深めていただきたいと思っている。FDや後に述べる非びらん性胃食道逆流症(NERD)、すなわち器質性変化を伴わないディスペプシアは、漢方薬の得意とする領域であり、私も処方することが多いので、その使い方も併せて紹介する。

表1 RomeIII基準によるFDの定義

(Gastroenterol 2006;130:1377-90.を一部改変)

表2 RomeIII基準によるFD症状の定義

(Gastroenterol 2006;130:1377-90.を一部改変)

ピロリ菌感染胃炎もPPI+抗菌薬の3剤併用
 最初の症例は、3カ月ほど前から食後と空腹時に胃もたれを感じるようになったという65歳の男性である。

 近所の内科診療所で処方されたプロトンポンプ阻害薬(PPI)のラベプラゾールナトリウム(商品名パリエット他)を服用しているが、改善しないため、当院を受診した。

 診察にて慢性胃炎を疑い、上部消化管内視鏡検査を施行したところ、胃前庭部から胃体部にかけて萎縮性変化を認めたため、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎を疑った。血清抗ピロリ抗体を測定すると陽性で、ピロリ感染胃炎と診断した。ラベプラゾールとアモキシシリン水和物(サワシリン、パセトシン他)、クラリスロマイシン(クラリシッド、クラリス他)の併用で除菌療法(1次除菌)を開始した。

 本例のようなピロリ感染胃炎への除菌療法は、2013年4月から保険適用となっており、私の外来でも胃炎で除菌療法を受ける患者が増えている。

 表3にピロリ菌除菌が保険適用となる疾患を挙げた。ピロリ感染胃炎では、内視鏡検査で確定診断することと、抗体検査などでピロリ菌が陽性かどうかを確認することが、保険適用の条件となっている。

表3 ピロリ除菌療法が保険適用となる疾患

 この患者は、既にPPIのラベプラゾールを服用していたため、同薬をベースとする除菌療法としたが、代わりにエソメプラゾールマグネシウム水和物(ネキシウム)やランソプラゾール(タケプロン他)、オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン他)をベースとすることもある。

 特にラベプラゾールは、ランソプラゾールやオメプラゾールよりも肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2C19により代謝されにくく、効果の個人差が出にくい。また、エソメプラゾールはCYP2C19の代謝への寄与分が少ない上、肝臓での初回通過効果を受けにくく、未変化体のAUCが高いという特徴がある。

 1次除菌では、これらのPPIと抗菌薬は7日間飲み続け、1カ月後に除菌ができているか判定する。これで除菌が不成功だった場合は、2次除菌を行う。2次除菌は、1次除菌のクラリスロマイシンをメトロニダゾール(フラジール)に替えた3剤併用とする。

 なお、このような3剤併用療法では、抗菌薬による下痢やPPIによる味覚異常といった副作用を訴える患者が少なくない。時に出血性腸炎を来すこともある。除菌成功のためには服薬コンプライアンスの維持が不可欠のため、薬剤交付時にはこうした副作用が起こり得ることをあらかじめ伝えておき、きちんと飲み続けるように指導してほしい。

食欲不振の高齢者にH2ブロッカーと健胃薬
 次の患者は、半年ほど前から続く胃もたれと食欲不振のため、当院を受診した75歳男性である。最近では胃が痛むこともあるという。上部消化管内視鏡検査では、特に器質的な異常は認められなかった。そこで、FDと考え、酸分泌抑制作用のあるH2ブロッカーのガスター(一般名ファモチジン)と、胃腸機能調整薬のガスモチン(モサプリドクエン酸塩)を投与した。

 私は、上腹部症状として患者が胃もたれや悪心を強く訴えていればモサプリドのような胃腸機能調整薬を処方することが多く、痛みが中心ならファモチジンなどの酸分泌抑制薬を投与している。本症例は両方の症状が見られたため、併用した。

 ちなみに、モサプリドの代わりに、漢方薬の六君子湯や半夏瀉心湯を投与することもある。舌がむくんで歯でかんだような痕が残っている場合(歯痕舌)は、気虚と考えて六君子湯を、歯痕舌がはっきりしない場合は半夏瀉心湯を選択している。以下に具体的な処方例を示す。

 漢方薬は、GERDの患者にもよく用いる。表4に、私がディスペプシアの患者に対して処方することの多い漢方薬と、薬剤選択の目安としている症状を挙げた。

表4 ディスペプシアに使うことの多い漢方薬

 また、13年6月に発売されたアコチアミド塩酸塩水和物(商品名アコファイド)は、FDに対して適応を持つ唯一の薬剤である。同薬はFDにおける食後膨満感、上腹部膨満感、早期満腹感に適応があり、心窩部の疼痛や灼熱感に対する有効性は確認されていない。私には処方経験がないが、今後は選択肢の1つとなるだろう。

 なお、本例では食欲不振の原因が早期飽満感だったため胃腸機能調整薬を用いたが、問診で味覚障害に由来する食欲不振が疑われる場合は、亜鉛の投与による改善が期待できるので、亜鉛を含有する胃潰瘍治療薬であるポラプレジンク(プロマック)を追加で投与することもある。

難治のGERDにはPPIに漢方を追加
 最後に、食道や胃の機能異常に起因するディスペプシアであるGERDの症例を紹介する。GERDの典型的な症状は胸やけであるが、口の中に酸っぱい水が上がって来るような感じ(呑酸)、食道のつかえ感、胸痛、喉の違和感、しわがれ声、咳、喘息様症状、睡眠障害、中耳炎など多彩な症状が報告されている(表5)。

表5 GERDの患者に見られる主な症状

 GERDが疑われたら内視鏡検査をして粘膜の傷害が見られれば逆流性食道炎と診断するが、異常所見が見つからないケースも少なくない。こうした患者は、「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」と診断する。

 GERDで胃の内容物が逆流する原因としては、(1)下部食道括約筋(LES)の機能不全によるLES圧の低下、(2)胃酸分泌過多、(3)食道の蠕動運動の不全─などがある。薬物治療の主な目的は、胃酸分泌を抑制することである。

 この患者は30歳の女性で、1カ月ほど前から起床時に、胸やけと口の中がすっぱい感じがするため来院した。

 上部消化管内視鏡検査では、食道粘膜に異常は認めず、NERDと診断して、PPIのネキシウムを投与した。

 GERDに対するPPI投与は添付文書で8週間、NERDに対しては4週間までとされている。これは、この期間で治癒することが多いためである。しかし、GERDやNERDは再発も多いので、このような難治性の場合には長期維持療法が認められている。

 本例は、1カ月後の再診時に「だいぶよくなった」と話したため、さらに1カ月の継続服用を勧め、初診から2カ月後に治療を終了とした。ところが、初診から4カ月後に再び胸やけが起こり、来院した。

 再発による受診時に詳しく聞くと「仕事のストレスがあって、喉の辺りが苦しい」という。私は、ストレスがあって再発を繰り返すGERDに対して、PPIと漢方薬を併用することが多い。「気分がふさいで喉が詰まるような感じ」なら半夏厚朴湯、心窩部痛があれば柴胡桂枝湯を選ぶ(表4)。不安感が強い場合には、エチゾラム(デパス他)やスルピリド(アビリット、ドグマチール、ミラドール他)を追加することもある。

 NERDは、本例のような若年女性が多い印象がある。一方、高齢の女性で胸椎圧迫骨折後に亀背となり、物理的にGERDを来している患者も多く見られる。

 また、注意が必要なのが、表6に挙げたLES圧の低下を起こしやすい薬剤によるGERDである。例えばアムロジピンベシル酸塩(アムロジン、ノルバスク他)のようなカルシウム拮抗薬を服用していると、平滑筋収縮の抑制作用により下部食道括約筋が弛緩し、GERDになりやすい。この場合、カルシウム拮抗薬を平滑筋収縮抑制作用を持たないアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)に変えるといった対応を行い、PPIを投与している。薬剤師の皆さんも、こうした薬剤性のGERDが疑われる患者に遭遇したら、処方医に積極的に情報提供してほしい。

表6 LES圧を低下させる薬剤の例

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