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副作用症状のメカニズム
「体がほてって暑いんです」
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
65歳女性。大うつ病と診断され、パロキセチン塩酸塩水和物(商品名パキシル他)とエチゾラム(デパス他)が投与されている。昨日、コントロールが悪いことから、パロキセチンが増量となったが、今日、患者の家族から、「体がほてって仕方がないと訴えている」と相談があった。

体温調節のメカニズム

 脳内で体温中枢として機能しているのは、視床下部の端に位置している視索前野である。視索前野には、皮膚で感知した環境温度の変化や、温度感受性ニューロンが感知した脳温の変化の情報など、体温の恒常性を保つための情報が集約、統合される。その情報に基づき、視床下部や延髄縫線核への下行性ニューロン活動の亢進や抑制を行い、交感神経や体性運動神経の活動レベルを変化させて、制御していると考えられている(参考文献1)。

 熱を産生する方法として食事がある。熱は脂質や糖質、蛋白質の分解によって産生される。甲状腺ホルモン、ノルアドレナリン(NA)、副腎皮質ホルモンは、この代謝を促進させる。

 寒いときに震えるのは筋肉を収縮させることで熱を産生し、体温を上げようとするためである。新生児や幼児が、十分な量の筋肉がなくても体温を維持できるのは、「褐色脂肪細胞」という熱産生を専門に行う細胞の役割が大きい。NAが褐色脂肪細胞のβ受容体に結合すると熱産生が起こる(参考文献2)。通常、ミトコンドリアでは酸化的リン酸化によってATPを産生して熱を産生するが、褐色脂肪細胞では「サーモジェニン」と呼ばれる蛋白質によって熱産生を行う。体温下降にはドパミンが、上昇にはセロトニンも関与している(参考文献3)。

 産生された熱が血液温を上昇させ、血液が全身を循環することで体温が保たれる。外気温が低いと皮膚表面の末梢血管を通る血液から熱が奪われ(放散熱)、体温が下がる。下熱のときには、皮膚血管を広げて外気に触れる血管の表面積を大きくして放散熱を多くする。また、皮膚から水分が蒸発するとき、気化熱が発生し熱を放散する(参考文献2)。発汗の制御は、コリン作動性の交感神経が行っている。

 熱を上げる必要性が生じると、視索前野からの下行性抑制が低下し、視床下部の熱産生系ニューロンや延髄縫線核の抑制が解除される。そのため、交感神経や体性運動神経の活動レベルが上昇し、発熱が始まる。まず、皮膚の血管が収縮し皮膚の表面温度が下がり、ギャップとして冷感を覚える。NAが分泌され、筋肉を震わせて(悪寒)、熱を産生する。必要な温度に到達するまで、熱産生は続き、冷やしても下熱しない。従って、この間は暖めた方がよい。発熱の原因が除かれると、皮膚血管が拡張し、血流量が増加し、患者は熱感を覚える。そして多量に発汗して平熱に戻る。冷却には、太い動脈が走っている腋窩や大腿を冷やすと効果的である。

 ウイルスや細菌などの病原微生物の構成成分やエンドトキシンは、外因性発熱物質となる(参考文献4)。外因性発熱物質は、マクロファージや肝臓のクッパー細胞などに貪食される。この際にマクロファージからサイトカイン(インターロイキン[IL]1、6、8、11、インターフェロン[IF]α、γ、腫瘍壊死因子[TNF]α、βなど)が放出される。これが内因性発熱物質である。内因性発熱物質は、血流に乗って血液脳関門が存在しない脳室周囲器官にまで到達し、脳内の血管内皮細胞にあるアラキドン酸を材料に、プロスタグランジン(PG)E2を合成する。

 PGE2は脳組織の中に拡散して、視索前野の表面にあるPG受容体に結合することで、発熱過程が起こる。これは、病原体の複製や繁殖を抑え、感染した細胞を破壊してウイルスの複製を抑制し、免疫系の活性化を促進するためと考えられている(参考文献4)。

 体温が1℃上昇すると、基礎代謝率は13%亢進し、エネルギー必要量と消費量が増加するため(参考文献5)、栄養や酸素を早く組織に運ぶ必要が生じて、心拍数と呼吸数が増加する。体温が1℃上昇すると心拍は1分当たり10拍増加するため、疲労する。そこで、体の防衛反応として、睡眠を誘発するサイトカインを同時に産生し、休息をとらせようとする。

 解熱時は、血管が拡張することで、血圧が低下する。解熱鎮痛薬の坐薬を使うと血圧も下がることがある。大量に発汗するので水分補給を心掛ける。

 過度の運動で放散以上に熱が産生されたり、外気温が高く放熱できないときにも、高体温になる。水分欠乏下や高温多湿の環境で起こりやすい。

 深部体温が40.5℃以上になると、多量に発汗して脳静脈を冷やして、冷やした血液を脳内に循環させて脳動脈を冷やし、生命を維持しようとする。しかし、この状態が続くと体温調節中枢が破綻し、発汗停止や意識喪失、脳浮腫が起こり、死亡することもある。いわゆる熱中症である。

副作用による発熱とは

 副作用による発熱は、前述の熱産生や解熱の仕組みに薬が影響することによって起こる。

(1)皮膚からの熱放散の抑制
・αアドレナリン作動性
 エピネフリンなどは、末梢血管のα受容体を刺激し、末梢血管を収縮させ、骨格筋の震えや褐色脂肪細胞の熱産生亢進を誘発する(参考文献4)。

 MAO阻害薬であるセレギリン(エフピー他)も血中濃度が上昇すると発熱が惹起される。また、甲状腺や副腎は交感神経の支配下にあるため、交感神経作動薬の投与によって甲状腺や副腎機能が亢進することでも体温は上昇する。

・抗コリン作用による発汗障害
 抗コリン作用を持つ薬の投与で、中枢または末梢のムスカリン受容体が阻害され、発汗が減少し、熱の放散が抑制され、筋活動性が亢進して高体温となる。抗コリン症状(口渇、散瞳、頻脈、排尿困難、便秘など)が随伴する。これらの薬を服用している場合は、熱中症になりやすいことにも注意が必要である。

(2)心機能抑制
・心拍出量低下
 抗不整脈薬、β受容体遮断薬、カルシウム拮抗薬の服用で、心拍出量が低下し、熱放散が障害される。

・脱水による循環血液量の減少
 利尿薬の乱用や過度の飲酒によって脱水が起こると循環血液量が減少し、熱放散が障害される。

(3)体温中枢の調節障害
・抗ドパミン作用
 抗ドパミン作用を持つ薬物の投与で、視床下部を含む脳内のドパミン作働性ニューロンの遮断や体温下降に作用するドパミンが減少し、セロトニンが増えることで体温中枢の調節機能障害が起こると推測されている(参考文献3)。ドパミン2受容体遮断作用を有する薬物や抗精神病薬、制吐薬、メトクロプラミド(プリンペラン他)などの消化管運動促進薬、抗ヒスタミン薬、さらに抗パーキンソン病薬の突然の中止でも起こる。

 脱水や低栄養によって、悪性症候群が惹起されることがある。高熱、筋硬直、神経症状(傾眠、昏睡など)、自律神経症状(頻脈、発汗、頻呼吸など)が随伴する。筋硬直が激しく、筋肉細胞の崩壊が起こるとミオグロビン尿症から急性腎不全を引き起こすこともある。

・セロトニン機能亢進
 Lドパ製剤や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、MAO阻害薬と三環系抗うつ薬の併用など、セロトニン作動性薬(参考文献3)の投与で脳内のセロトニン濃度が上昇すると、セロトニン症候群が起こることがある。高熱と精神症状(不安や焦燥など)、自律神経症状(血圧変動、頻脈、発汗、下痢など)、神経筋症状(振戦、筋硬直、アカシジアなど)の3つの症状が特徴的である。投与や増量、併用の後24時間以内に起こることが多い。

(4)熱産生の異常
 前述の抗ドパミン作用や、前立腺機能亢進作用を有する薬は、筋肉の痙攣や硬直などを起こし、熱を産生する。従って、本誌2013年3月号で解説した痙攣を起こす薬も発熱しやすい。

・βアドレナリン作動性
 骨格筋にあるβ受容体が刺激されると振戦が起こり熱発することがある。β刺激薬のリトドリン(ウラメリン他)や、気管支喘息治療薬の吸入薬でも、過量の場合は起こることがある。

・内因性発熱物質
 インターフェロン製剤、黄体ホルモンのプロゲステロン製剤は、内因性発熱物質でもある。また、モノクローナル抗体の投与により、いわゆるインフュージョンリアクションが起こることがある。これは、薬剤投与中または投与開始後24時間以内に表れる副作用症状の総称で、モノクローナル抗体がマクロファージなどと結合し、サイトカインを大量放出することによって、一過性の炎症やアレルギー反応が起こるためと考えられる(参考文献6)。リツキシマブ(リツキサン)などで報告が多い。

・酸化的リン酸化の脱共役
 サリチル酸は大量に投与されると、褐色脂肪細胞にあるサーモジェニンのような脱共役蛋白質と同様の働きをして熱を産生する。ハロセンやサクシニルコリンの投与では、骨格筋細胞内のカルシウム濃度が異常上昇し、結果的に脱供役と代謝亢進が起こり、高熱と代謝性アシドーシスが起こる。これは「悪性高熱」と呼ばれ高熱、筋硬直、頻脈、クレアチンキナーゼの上昇、高カリウム血症などが起こり、不整脈や肺水腫などにより死亡することもある。

・甲状腺ホルモン
 酸化的リン酸化を促進させるが、脱共役蛋白質を増やし、骨格筋や褐色脂肪細胞の熱産生を増やす。

(5)過敏症、免疫性
・薬剤熱
 投与開始で発現し、投与中止で軽快する。熱がある割には頻脈が起こらないことが特徴ともいわれている(参考文献7)。発疹や関節痛などのアレルギー症状を呈する場合もある。過敏反応によるものと考えられているが、詳細は不明。どんな薬物でも起こり得る。

・薬剤誘発ループス(DILE)
 ヒドララジン塩酸塩(アプレゾリン他)などで起こり得る。服薬開始の1カ月以上たってから発症し、発熱、関節痛、倦怠感などエリテマトーデスと同様の症状が続く。

図1 副作用で発熱が起こるメカニズム

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* * *

 最初の症例を見てみよう。患者は、SSRIであるパロキセチンと、エチゾラムを服用しており、昨日、SSRIが増量されたところであった。患者の様子を聞くと、身体のほてりがあり熱は37.9℃。他に手の振戦、発汗、頻脈があるとのことだった。薬剤師は、セロトニン機能亢進を疑い、すぐに受診させた。

参考文献
1)中村和弘 日本臨床 2012;70:922-6.
2)河田照雄『肥満と脂肪エネルギー代謝』(建帛社、 2008)
3)赤星透ら 臨床病理レビュー 2009;143:116-21.
4)松尾理監訳『症状の基礎からわかる病態生理 第2版』(メディカルサイエンスインターナショナル、2011年)
5)Eyer F,et al. Critical Care 2007;11:236-44.
6)吉田こず恵ら 癌と化学療法 2011;38:1753-7.
7)大野博司 臨床研修プラクティス 2009;6:24-6.
8)Tisdale JE 『Drug-Induced Diseases 2nd(American Society of Health-System Pharmacist、2010年)
9)西川光重ら 綜合臨床 2007;58:1557-61.

イラスト:長岡 真理子

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