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漢方のエッセンス
竜胆瀉肝湯
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 方剤名には様々な意味が込められている。例えば桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の名には、配合生薬が含まれている。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)には効能が明記してある。

 今回、解説する竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の名には、君薬の名と効能の両方が含まれている。本方の君薬が竜胆、効能が瀉肝というわけだ。瀉肝とは、精神情緒や生理機能の調整をつかさどる五臓の肝(かん)の失調により生じた病邪、特に熱邪を除去することを指す。ストレスや暴飲暴食により生じた熱証を改善するのが本方である。肝と表裏の関係にある六腑の胆(たん)の熱も瀉する働きがある。竜胆にも「胆」の字が含まれており、竜胆瀉肝湯の名は掛詞(かけことば)のようで美しい。

どんな人に効きますか

 竜胆瀉肝湯は、「肝胆実火上炎(かんたんじっかじょうえん)、肝胆湿熱下注(かんたんしつねつかちゅう)」証を改善する代表的な処方である。

 肝胆は前述の通り、それぞれ五臓六腑の一つである。胆の機能は主に、胆汁を貯蔵する胆嚢としての働きと、精神的に物事の決断をつかさどる働きの2つ。ストレスや暴飲暴食の繰り返しにより、肝胆の機能が失調して生じた熱邪が上炎し、肝経や胆経(用語解説1)を通じて人体の上部に達し、症候を生じさせるのが「肝胆実火上炎」証である。自律神経系の過興奮や過緊張と関係が深いと考えられている。

 この証の場合は、肝経や胆経が通る頭頂部、目、耳などに症状が表れることが多い。よく見られる症候は、頭痛、頭部の脹痛、目の充血、目やに、めまい、難聴、耳鳴り、鼻血、口の苦み、顔面紅潮、脇痛、いらいら、怒りっぽい、短気、せっかち、不眠などである。舌は赤く、黄色い舌苔(ぜったい)がついている。

 肝胆の失調により生じた熱邪が湿邪と結び付いて下降すると「肝胆湿熱下注」証になる。熱邪が人体を上昇しようとするのに対し、湿邪は重く、下に沈んでいこうとする。この証の場合も湿邪が熱邪を包み込み、人体の下部で症候を生じさせる。過度の飲酒や、刺激物、脂っこい物、味の濃い物の嗜好により、湿熱が生じる場合も多い。

 この証の場合も肝経が通る生殖器や泌尿器で症状が表れやすく、陰部の痛み、痒み、腫れ、熱感のほか、濃い色の尿、濁った尿、排尿痛、残尿感、頻尿、黄色い帯下(おりもの)、臭いが強い粘稠な帯下などが生じやすい。下腹部の炎症に近い。肝胆実火上炎証と同じように舌は赤く、黄色い舌苔が付きやすいが、舌苔が厚くべっとりとしていることが多い。

 臨床応用範囲は、片頭痛、急性結膜炎、外耳炎、鼻炎、副鼻腔炎、口内炎、黄疸、肝炎、急性胆嚢炎、急性腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎、外陰炎、膣炎、睾丸炎、急性前立腺炎、鼠径部リンパ節炎、痔、高血圧症、自律神経失調症、不眠症、性機能障害、頭部の湿疹、脂漏性湿疹、脱毛症、アトピー性皮膚炎、帯状疱疹、帯下などで、肝胆実火上炎、肝胆湿熱下注の症候を呈するものである。

 出典は17世紀(清代)の中国の医書『医方集解』である(用語解説2)。

どんな処方ですか

 配合生薬は、竜胆(りゅうたん)、黄ごん(おうごん)、山梔子(さんしし)、沢瀉(たくしゃ)、木通(もくつう)、車前子(しゃぜんし)、当帰、地黄、柴胡、甘草の十味である。

 君薬の竜胆は苦寒薬(くかんやく)(用語解説3)であり、肝経に入り、上半身では肝胆の実火を鎮め、下半身では肝胆の湿熱を排除する。この竜胆一味で竜胆瀉肝湯の役割を果たしそうであるが、さらに別の生薬を配合することにより竜胆の力を強め、欠点を補っていく。黄ごんと山梔子も苦寒薬であり、臣薬として熱を冷まして湿邪を除き(燥湿清熱:そうしつせいねつ)、君薬の薬効を強化する。

 佐薬の沢瀉、木通、車前子は利水作用により湿邪を除去して熱を排し、湿熱を取り除く。

 肝胆実火や苦寒薬は、陰液(用語解説4)を消耗しやすい。そこで地黄と当帰が陰液を補い、正気(せいき)(用語解説5)の損傷を防ぐ。柴胡は肝胆の気の流れをスムーズにし、諸薬の肝経での流れを促進する。さらに黄ごんとの組み合わせにより肝胆の熱を冷まし、気を上昇させる。これら地黄、当帰、柴胡も佐薬として働く。甘草は使薬として苦寒薬の刺激を弱めて益気和中(えっきわちゅう)(用語解説6)しつつ、諸薬の薬性を調和する。

 以上、竜胆瀉肝湯の効能を「清肝胆実火(せいかんたんじっか)、瀉下焦湿熱(しゃげしょうしつねつ)」という。攻撃的な生薬群の中に正気を補う生薬(地黄と当帰)が配合され(瀉中有補:しゃちゅうゆうほ)、実火上炎を下降させる苦寒薬群の中に昇陽薬(柴胡)が加味され、脾胃を守る生薬(甘草)が組み込まれている。これにより、病邪を除去すると同時に正気の損傷を防ぐ良方となっている。

 口渇が強ければ白虎加人参湯(びゃこかにんじんとう)を加える。便秘が見られるときは調胃承気湯(ちょういじょうきとう)などを合わせる。頭痛や目の充血が強ければ菊花茶(きくかちゃ)を併用する。

 なお、苦寒薬の強い作用が和らげられて全体のバランスはある程度落ち着いてはいるが、それでも苦寒性が強い処方なので、胃腸が弱い患者や、冷えが顕著な場合、陰虚証(用語解説7)などには使わない方がよい。虚証の症候が見られるなら別の証なので、釣藤散(ちょうとうさん)などを検討する。

こんな患者さんに…【1】

「膀胱炎です。残尿感があり、すぐトイレに行きたくなります」

 排尿時の灼熱感や、排尿後の痛みもある。鼠径部リンパ節が腫れている。舌に黄色い舌苔がべっとりと付着している。肝胆湿熱下注証とみて竜胆瀉肝湯を使用。3週間ほど飲み続けると全ての症状がなくなった。

こんな患者さんに…【2】

「夜ベッドに入っても、いらいらしてなかなか眠れません」

 寝ようと思っても、色々思い出したり考えたりしてしまい、そのうちいらいらしてくる。怒りっぽい。割れるような拍動性の頭痛もする。肝胆実火上炎証と考えて竜胆瀉肝湯を服用。3カ月ほどで寝付きが良くなり、眠りも深くなった。

用語解説

1)肝経も胆経も経絡の一つ。経絡は気血の通り道。臓腑に異常が生じれば、同じ経絡上で異常が生じやすい。
2)他に『蘭室秘蔵』『医宗金鑑』『薜氏十六種』などの古典にも掲載がある。また一貫堂の処方などもあり、『医方集解』のものと組成が異なるものも多い。
3)苦寒薬は、身体を冷やす働きがある苦い生薬。炎症や内熱を鎮め、解毒する作用があるが、脾胃を傷付け、冷えをもたらす可能性があるので、虚弱な患者や高齢者などには慎重に用いる。
4) 陰液とは、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精を指す。
5)正気とは、健康を維持するために必要とされる気・血・津液のことで、人体にとって必要な機能や物質を指す。病邪から身を守ってくれる。
6)和中とは中焦(ちゅうしょう)、つまり身体の中心部分である脾胃の機能を調えること。
7)陰虚証とは、陰液が不足している証。

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