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薬理のコトバ
グリタゾン系薬
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 糖尿病は大きく4分類されているが、その軸になるものは1型と2型。病態の基盤が大きく異なるため、治療戦略も違ってくる。1型はインスリンの絶対的不足によるものなので、治療はインスリンの投与。一方の2型は、まずは食事と運動の生活習慣の改善から始まり、十分な改善が得られない場合は、様々な糖尿病治療薬の中から病態に応じたものを単剤あるいは併用で投与する。

 糖尿病治療薬の一つ、グリタゾン系薬(チアゾリジン系薬とも呼ばれる)は、チアゾリジン誘導体の化合物として知られ、日本での承認薬はピオグリタゾン(商品名アクトス他)のみ。末梢の筋肉組織や脂肪組織、肝臓における「インスリン抵抗性」を改善する薬理作用を持つ。今回は、インスリン抵抗性が生じるメカニズムと、それを解消するグリタゾン系薬の鮮やかな作用機序について解説しよう。

肥満細胞が抵抗性を誘発

 通常、食事から得られたグルコースは、血糖となり全身に運ばれる。これにより血糖値が上がるが、そうすると今度は、インスリンが膵臓のランゲルハンス島β細胞より放出され、肝臓や筋肉組織で機能することで血糖値を下げる。肝臓では糖新生抑制、解糖系やグリコーゲン合成を促進することで糖自体を減らすように働き、骨格筋ではグルコース取り込み促進などにより、これも血液中の糖を減らす効果を発揮する。インスリンが全身を巡り血糖値をコントロールする姿は、全国を行脚して土地土地での問題を解決、平和を取り戻す水戸のご老公のようでもある。

 このインスリンによる統治が破綻すると糖尿病となるが、その治療薬は、インスリン製剤と今回のテーマであるグリタゾン系薬を除けば、直接あるいは間接的に自前のβ細胞からのインスリン放出を促すように働く。つまり、結局はインスリン自体が効果の主体であったり、一端を担っているわけだ。そのため、インスリンが十分に作用しないインスリン抵抗性がある患者では、上記の薬剤は期待通りの効果が得られにくいことになる。

 インスリン抵抗性は、食べ過ぎなどにより肥大化した脂肪細胞から放出される、レプチンと腫瘍壊死因子(TNF)αという2つの物質が中心となって生じる。レプチンは、飽食シグナルの伝達役としてエネルギー消費を増やしたりすることで、身体が肥満になることを防いでいる監視役だ。一方のTNFαも、通常は感染の防御など身体の秩序を守る役目を果たしている。

 しかし、これらが「インスリン受容体基質」を不活性化させるように働くと、インスリンシグナルが流れなくなり、インスリン応答がうまく機能しなくなる。あたかも、町の秩序を守るはずの代官が、悪人へと成り代わってしまったかのようだ。

 インスリン抵抗性は薬物治療には大きな痛手となるものだが、この状態を打開する薬剤がグリタゾン系薬。ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR;peroxisome proliferator-activated receptor)を活性化することで、インスリンへの抵抗性を改善し、再びインスリンにより血糖値をコントロールできるようにしてくれる。

PPARγの活性化で露払い

 PPARには現在までにα、β、γの3つのサブタイプが知られている。「ペルオキシソーム増殖剤応答性」という長々とした名称は、最初に発見されたPPARαが、ペルオキシソーム増殖剤であるフィブラート系薬により活性化されることから名付けられた。

 グリタゾン系薬のターゲットであるPPARγは、核内受容体の一つで、活性化されると解糖系、脂肪酸β酸化などの糖代謝、脂質代謝に関連する遺伝子群の発現を促す。さらに、脂肪細胞の分化を促進して、前駆細胞を小型脂肪細胞へ、また大型になった脂肪細胞を細胞死に追いやることで、脂肪細胞の肥大化を解消する役目を果たす。

 小型脂肪細胞の増加は、糖の取り込みや脂肪酸のβ酸化を促進するアディポネクチンの分泌量を増やす。一方で、大型脂肪細胞の減少によって、インスリン抵抗性を形成する悪役のTNFαと遊離脂肪酸の産生量が減り、肝臓や筋肉などでのインスリン抵抗性が解消に向かう。インスリン抵抗性のため血糖値のコントロールが利かなくなった状態でも、グリタゾン系薬が露払いをすることで、インスリンが効果を発揮、血糖値の正常化が期待できるということだ。

 この作用、かつての国民的番組で見られた有名なシーンを思い出す。悪がはびこり秩序が欠けていた町に現れた旅の老人。気にもかけずに悪の限りを尽くす悪人。そこに決め言葉一発、印籠がかざされると、ただの老人だと気にも留められなかったご老公が光を放ち、瞬く間にその場を収めてしまう。グリタゾン系薬は、いつものあの場面での助さん、格さん役だ。

 ただし、見逃せない副作用もある。ピオグリタゾンでは浮腫の発現が女性に多く、インスリン併用時には30%近くと高い。単独投与であっても、糖尿病の3大合併症(腎症、網膜症、神経障害)を持つケースで多い傾向が見られる。薬には明暗両面があることは百も承知とはいえ、かのご老公の取り巻きが悪さをする場面を見たくはない。副作用のモニタリングをしっかり行って、ご老公の統治をサポートしたいものだ。

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