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一般用医薬品のネット販売を「成長戦略」にすることへの違和感
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.189

 5月31日、厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」が終結した。3カ月半、計11回に及ぶ議論は紛糾することもしばしば。最後は結論を出すどころか方向性も示されず、「両論併記」という何とも中途半端な形で幕が引かれたことは、多くの人が知るところだろう。

 検討会で結論が出なかったにもかかわらず、6月5日に安倍晋三総理大臣は、「全ての一般用医薬品(OTC薬)のネット販売を解禁する」と高らかに宣言した。「ネットでの取引がこれだけ定着した現代で、対面でもネットでも、とにかく消費者の安全性と利便性を高める、というアプローチが筋」だという。ご存じ、成長戦略第3弾スピーチである。

 OTC薬ネット販売解禁を成長戦略の目玉にするのではないかという話は、実は以前からあったようだ。どのような経緯を経て「成長戦略」に盛り込まれたのかは知る由もないが、そこに非常に大きな違和感を覚えるのは、決して筆者だけではないはずだ。

 そもそも、成長戦略としてのOTC薬ネット販売解禁が既定路線だったのであれば、検討会はいったい何のためだったのかということになる。もちろん、今後のルール策定の際に、検討会で議論されたことが生かされる場面も多々あろう。しかしながら、推進派と反対派の単なる「ガス抜き」の場になっていたのであれば、極めて残念なことである。

 医薬品という生命関連製品が、成長戦略の一環として語られることへの違和感は、改めて言うまでもない。「アベノミクス」というキャッチフレーズがもてはやされて久しいが、成長戦略は紛れもない経済政策である。そして政治的判断によって、そこにOTC薬ネット販売解禁が盛り込まれた。両論併記という形しか示せなかった検討会ではあるが、そこでの議論をないがしろにしたことには、大きな怒りを感じる。

 OTC薬ネット販売解禁が、いったい日本の経済成長にどのように貢献するというのだろうか。ネット販売を可能にしたところで、需要が爆発的に増えるわけではないのは明白だ。そして医薬品というモノの性質を考えるに、大幅に需要を増やすべきものでないことは、自明の理である。「成長戦略」に位置付けることそのものがおかしいのだ。

 薬剤師法第1条を思い出してみてほしい。「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」と記されている。安倍総理が「規制改革こそ、成長の1丁目1番地」と言うのであれば、われわれ薬剤師にとって、医薬品の供給をつかさどることは「1丁目1番地」である。

 個人的な考えを述べるならば、OTC薬のネット販売に対して、現時点で積極的な推進はしなくとも、ある程度の容認はできるのではないかと考えている。そして、単に反対を言い続けるのではなく、建設的な議論も進めていくべきだろう。それは、医薬品の供給をつかさどる者の使命の一つだと思う。

 ただし、医薬品の販売が経済政策として促進されるようなことは、ネット販売であろうと対面販売であろうと絶対にあってはならないことだ。薬剤師は、国民の健康な生活を確保するために、医薬品の供給をつかさどっているのである。薬剤師はもとより為政者もネット企業の経営者も、医薬品にはベネフィットと同時にリスクもあるということを忘れてはならない。(十日十月)

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