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早川教授の薬歴添削教室
腎移植後の患者管理と療養指導のポイント
日経DI2013年7月号

2013/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年7月号 No.187

 今回は、マスカット薬局本店に来局した27歳の男性、小林和幸さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。小林さんは病院で腎移植を受け、退院後に初めて来局しました。

 腎移植を受けた患者には、退院後も3~4カ月は、拒絶反応や肺炎などの合併症の危険があります。その後、安定期に入ると、社会復帰の準備が始まり、自己管理の比重が高まります。移植腎の機能を維持させるには、確実な服薬も含めた自己管理がカギとなります。このような患者に対して、どのような視点でケアを行っていくかに着目して、オーディットの内容を読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴を担当したのが薬剤師A~E、症例検討会での発言者が薬剤師Fです。(収録は2013年1月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
マスカット薬局本店(岡山市北区)

 マスカット薬局本店は、岡山県内に12店舗を展開する株式会社マスカット薬局が、2001年3月に開局した。応需している処方箋は月に2800枚程度で、近隣にある総合病院からの処方箋が多い。この病院は、循環器疾患や移植医療に特色があり、地域がん診療連携拠点病院にもなっているため、様々な疾患を持った患者が来局する。

 同薬局には、20代2人、30代3人、50代1人、60代1人の薬剤師が勤務している。

薬歴は電子薬歴で、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、患者の訴えの内容や状況が具体的に分かるようなS欄になるよう心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 表書きから見ていきましょう。ここに書かれている内容は、初回アンケートの結果を転記したのですね。

A はい、そうです。

早川 アレルギーや副作用の経験はありません。他科受診、併用薬もありません。特記すべきことは特にないということでよろしいと思います。
 続いて、初回の6月13日の薬歴を見ましょう。10種類の薬が出ています。処方鑑査の観点から、この処方のポイントを挙げてみてください。

10種類の薬を処方鑑査する

B 腎移植後の患者さんの処方箋は、このように書かれていることが多いです。まず、ネオーラル(一般名シクロスポリン)の用法を確認します。この患者さんは1日2回(朝夕食後)ですが、そうでない患者さんもいます。

早川 入院中はどのような用法だったか、患者に確認することもできますね。

C カルシウム拮抗薬が、アムロジピンとアテレック(シルニジピン)の2種類出ています。なぜ2種類なのか、医師に確認すべき事項だと思います。

早川 Cさんは、どのような処方意図だと考えますか。

C 腎保護作用を考えているのではないでしょうか。

E 同じような処方の患者さんが他にも何人かいます。アテレックは腎保護作用、アムロジピンは降圧作用を狙って使用されていると推察します。

早川 他にありますか。

C ファモチジンは腎排泄型の薬なので、患者さんの腎機能によっては、用量を減らした方がいいかもしれません。

E 腎排泄型の薬という意味では、ロキソプロフェンにも注意すべきです。

早川 服用時点に関して注意すべき薬はありますか。

D サーティカン(エベロリムス)。食前か食後かを決めて、常に一定のタイミングで服用するようにします【1】。

早川 薬物体内動態の観点から重要なポイントですね。他にありますか。

B マグラックス(酸化マグネシウム)は指示通りに飲んでいるのか、自分で調節しているのかを確認したい。

早川 一般的に、マグラックスは何に対して使うのでしょうか。

A 便秘、胃腸障害。

早川 この患者の場合、どちらの可能性が高いと考えられますか。

B ロキソプロフェンは消化性潰瘍がある人には禁忌なので、この患者さんは消化性潰瘍ではないということになります。そうするとマグラックスは軟便剤として使われていると推察できます。

早川 マグラックスの成分はマグネシウムですよね。ということは……。

F セルセプト(ミコフェノール酸 モフェチル)と同時服用すると、セルセプトの吸収が低下してしまうので、同じタイミングで服用しない方がいいです。【1】

早川 セルセプトは朝夕食後が一般的なので、マグラックスは朝夕食後ではない方がよいということですね。

患者の訴えを聞き逃さない

早川 この日の薬歴ではS情報として「移植で入院していた」とあります。これは腎移植のことでよろしいですね。腎移植に使われる免疫抑制剤としては、どんなものがありますか。

E 一般的には、ステロイド、カルシニューリン阻害薬、代謝拮抗薬の3剤というパターンが多いです

早川 カルシニューリン阻害薬とは具体的には何ですか。

E ネオーラル、プログラフ(タクロリムス水和物)。

早川 代謝拮抗薬は。

A セルセプト、サーティカン。

早川 メドロール(メチルプレドニゾロン)も出ていますから、一般的な処方と見ることができますね。
 では、このような患者への初回の服薬指導として、皆さんはどんなことを押さえておきたいですか。

E これからも継続していく薬なので、指示通りに飲めているかどうかを確認したい。

早川 S情報に「医師から『薬はだんだん減っていく』と言われているけど多いですね」とあります。【2】

A その言葉は私が聞き取りました。改めて薬をまとめてみると、多いのでびっくりしたという感じでした。年齢的に若いので、薬を飲めないということではないと思います。

早川 担当薬剤師が、「薬が多い」という患者の主訴を薬歴に書いているのは素晴らしいですね。今後、コンプライアンス不良に発展するかもしれないので、プロブレムに挙げておいてもよいと思います。さらに、患者に「薬を飲み続ける」という意識を持ってもらうため、今後はコンプライアンスについての患者の発言に注意する、というプランを書きたいところです。

B 腎移植の患者さんは、薬を飲み続けることについてはよく分かっている人が多いので、初回にこのように感じていたということは、こちらからもフォローする必要があるということですね。

早川 そうです。コンプライアンスの確認はどの患者でも行いますが、より手厚くすべき患者に対しては、プロブレムとして挙げておきましょう。

腎移植の一般的な経過は?

早川 7月4日は、S情報に「薬の飲み忘れはないです」とあります。【3】

C 飲み忘れについてはこちらから確認し、薬歴に書きました。

早川 この段階で、腎移植後の一般的な経過について考えてみましょう。この患者は、いつ腎移植を受けて、いつ退院したのですか。そして、退院後どのくらいたって来局したのでしょうか。

B 腎移植後の患者さんには、移植を受けた日、移植前の透析の有無、ドナーについてもなるべく聞くようにしているのですが、この患者さんは、そこまで確認できていません。【3】

早川 一般的に、移植後3~4カ月後は急性の拒絶反応と感染症に注意するよう言われています。その後、維持期(慢性期)に入ると少し落ち着いてきて、受診間隔も広がり、3週間~1カ月に1回くらいになってきます。

E この患者さんには21日分の薬が出ていますが、自宅が県外にあって遠いという事情もあるかもしれません。

早川 そうですか。その意味からも、移植を受けた日は確認しておきたいところですね。まだ急性期にあるのかもしれません。皆さんはこの段階で、患者さんにどんなことを指導したいですか。

E むくみがないか、咳や発熱など感染症の兆候がないかを患者さん自身にチェックしてもらう。手洗いやマスクの着用についても指導する。

早川 そうですね。次は7月25日です。痛み止めについて確認しています。

D なぜ痛み止めを使うのか分からなかったので確認しました。【4】

早川 ロキソプロフェンがカロナール(アセトアミノフェン)に戻ったのはなぜでしょうか。

E 強い薬はなるべく飲みたくないと患者さんが思ったのかな。

B 回数が多いのでカロナールにしたのかもしれません。

早川 このような推定は大事です。患者からさらに突っ込んで聞き取ることにより、自分たちの推定を確認することができます。服薬状況や体調の変化などについては、きちんと確認されています。皆さんは、さらに確認したいことはありますか。【4】

F 食事について。脂っこいものをよく食べますか、など。

B 仕事に復帰しているのか、仕事に復帰したことで生活習慣を乱したりしていないか。自分で運転するのかもよく聞きます。運転するとやはり疲れるし、入院が長いと筋力も落ちているので。

早川 色々出てきましたね。次は8月15日です。新たにリピトール(アトルバスタチンカルシウム水和物)が出たので、その点を確認していますね。【5】

E はい。腎機能が低下したからコレステロールの値が上がってきたのか、免疫抑制剤の影響なのか、脂っこいもの中心の食生活の影響なのかは分かりません。こちらからの指導内容としては、たとえ自覚症状はなくても、コレステロールが高いので薬はしっかり飲んでほしいということと、筋肉痛など副作用を疑わせる症状があればすぐに伝えてほしいということを指導しました。

早川 コレステロール上昇の原因として、他に考えられることはありますか。

B ステロイドの影響もあるかもしれません。長期に服用しているので。

早川 こういった評価ができることが大切です。先ほど出てきた食生活にもつながってきますね。腎移植後の管理を考えると、体重を維持することは大切です。

E この患者さんは薬をきちんと飲んでいるので、リピトールを飲まないことはないと思いますが、飲んだらすぐに変化を感じることはないので、薬を飲む意義を伝えておきたいと思ったのです。

早川 腎移植患者の最終的な死因として多いのは心血管病です。このタイミングで、予後についての認識を高めてもらうことは重要です。もし飲酒や喫煙をしていれば、指導するタイミングです。

B 家でどなたが食事を作っているのかを聞くこともあります。食事を含めて生活全般について、家族の協力がどの程度得られるのかは、今後の療養を考える上で重要と思います。

早川 そうですね。予後に対する認識を探るというプランが立てられます。

患者の体格と薬の用量の関係

早川 9月12日になりました。セルセプトが増量されています。担当薬剤師もその点に着目して、患者に確認していますね。【6】

B セルセプトが増量されていたのと、処方日数が14日に減っていたので、いったん増量して2週間で再確認するのかなと考えて聞いてみたところ、患者さんの体格が大きいので、ドクターも気にしていたとのことでした。

早川 フォーカスを絞ってよく聞き取れています。

B 処方に変更があった場合は、医師の処方意図を、患者さんを通して必ず確認するようにしています。

早川 体格が大きいということですが、患者の体重はどのくらいですか。

B 100kgくらいはあると思います。身長は180cmくらいで、かなり大柄です。たぶん膝も痛いんじゃないでしょうか。

E 体重を増やさないよう指導するときは、膝の話をするといいかもしれません。

早川 S情報に「CCr(クレアチニンクリアランス)が変動した」とありますが、具体的な数値は聞けましたか。

B 聞ける患者さんと聞けない患者さんがいます。この患者さんからは、具体的な検査値は聞いていません。

早川 分かりました。体重が100kgくらいあるという情報がありますので、私たちはそれを基に薬物体内動態を評価していきましょう。セルセプトの1日当たり最大投与量はどのくらいですか。

C 3000mg。

早川 今回増量された結果、1日量は1500mgですね。ただ、他の薬剤との併用ですからね。一般的には、どのくらいの用量が多いですか。

C 1日4カプセル、1000mgくらいの人が多いです。

早川 今までは4カプセルだったので、一般的な用量だったわけですね。でも、この患者の体格から考えると少ないのかもしれません。ドクターもそのあたりを検討しているのでしょう。
 さて、この段階でCCrが変動したというのは、どう考えればよいでしょうか。

A 患者さんは検査入院していたということなので、検査の内容についても、生検をしたのかどうかも含め、詳しく聞くべきでした。それによって、拒絶反応の可能性も類推できますから。

C 何か具体的な症状があったのか、定期的な受診だったのか、入院のきっかけを知りたい。

早川 大事なポイントですね。9月26日は、ディオバン(バルサルタン)も増量されました。【7】

E 1日160mgは最大用量です。

D 血圧コントロールが悪いのかなと思って患者さんに確認したら、蛋白尿が続いているということでした。

早川 前回の経過を押さえた上で、きちんと聞き取りができていますね。

E 腎機能が低下していると思うので、もしかしたら拒絶反応に近いことが起こっているのかもしれません。

早川 薬剤師として、どのように対応しますか。

B こういうときはお話しするのが難しいです。腎移植後、落ち着きかけていたのに、どうやら腎臓の状態があまりよくない。患者さんの言葉から、その気持ちを推し量りながら、言葉を選んでお話ししなければなりません。

E 患者さん自身もショックを感じているかもしれません。期待と現実との間にギャップがあるというか……。

D 一見しただけでは、ひょうひょうとしていて悩みがあるように見えないのですが……。でも、改めて薬歴を見ると、患者さんの気持ちが出ている言葉ですね。

早川 いいアセスメントが出ました。私たち薬剤師は、患者さん一人ひとりの性格や気持ちに配慮しながら、対応していきたいですね。

マスカット薬局本店でのオーディットの様子。

参加者の感想

大呂 真史氏

 率直に言って非常に面白かったです。一人ひとりの患者さんへの対応について、第三者の意見を聞く機会がなかなかないのですが、こうすればできるということが分かりました。薬について詳しく調べるよい機会にもなりました。

大澤 佳子氏

 患者さんから伺ったことを、薬歴にきちんと記録することが大事だということを再認識しました。いつもやってはいるのですが、それを第三者にも分かるような形で蓄積し、次につなげていくことが大切だということを学びました。

矢野 好美氏

 患者さんが何気なく話した言葉の中から「主訴」を聞き取り、薬剤師が継続的にモニタリングしていく「プロブレム」を見つけ、プロブレムに焦点を当てて指導することが大切だということが分かりました。とても勉強になりました。

岡 泰子氏

 今回、腎移植後の患者さんに使用される薬について改めて勉強してみて、「もっとこんな指導ができたはずなのに」とちょっと悔しい気持ちになりました。今は違う店舗にいるのですが、本店に戻ったら、もっといい指導ができると思います。

全体を通して

早川 達氏

 薬歴のS情報に、アセスメントに必要な患者の言葉がそのまま書かれており、素晴らしいと思います。この情報があることによって初めて、患者に対してより直接的かつ貢献できる対応とケアにつながります。良い視点を持っているからこそ記録に残せていると思うので、この姿勢を継続するとともに、今回オーディットしたように、アセスメントを深めて、具体的対応につながるような実践を期待します。

 今回は、腎移植後の患者を取り上げました。腎移植患者の管理と同時に、予後に対する療養指導を考えると、様々な患者情報を押さえておくことが必要であることと、それに伴って対応の幅が広がることが分かりました。腎移植患者の長期的管理の枠組みを理解した上で、個々の状況をアセスメントし、患者の心理にも配慮しながら、生命予後の改善に貢献していただきたいと思います。

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