ロキソニン錠 (3)Ca拮抗薬 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛み止めの薬であるとともに、血圧の上昇や抑制に関わるホルモンの分泌に関与する薬剤である。関節リウマチや腰痛など、整形外科系の疾患を持つ患者に処方される機会が多く、高齢者では特に血圧上昇との関連性に注意しておきたい。 NSAIDsには一般的に、併用する降圧薬の作用を減弱させる働きがあると考えられている。『高血圧治療ガイドライン2009』(日本高血圧学会)では、薬剤誘発性高血圧の原因薬物としてNSAIDsが挙げられており、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、利尿薬の降圧効果を減弱させる作用が指摘されている。ただし、Ca拮抗薬はNSAIDsと併用しても影響は少ないと記載されている。 NSAIDsが血圧を上昇させる機序は以下のように考えられている。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)への代謝を妨げる。この結果、プロスタサイクリン(PGI2)やプロスタグランジンE2(PGE2)のような血管拡張作用およびNa利尿作用を有する物質が減少する。これに伴って体液量が増加し、血圧が上昇する可能性がある。 健常人では、NSAIDsの投与によって血圧が上昇することはまれであるが、高齢者や腎機能が低下した患者では、体液の貯留傾向が高まることにより、血圧上昇が起きやすい。 また、今回内科医が処方していたエナラプリルのようなACE阻害薬は、ブラジキニンの分解も抑制する。ブラジキニンはアラキドン酸の遊離を促しPGの産生を促進させる作用を有している。従って、NSAIDsのCOX阻害作用によりアラキドン酸からPGへの代謝が阻害されれば、ACE阻害薬が持つこの部分の降圧効果も減弱してしまう。 一方、アムロジピンベシル酸塩(商品名ノルバスク、アムロジン他)をはじめとするCa拮抗薬には、PGとの相互作用が認められておらず、NSAIDsと併用しても、その降圧作用は基本的に影響を受けないとされている。 実際、アムロジピン(5~10mg/日)またはエナラプリル(20~40mg/日)を服用中で血圧が160/90mmHg未満にコントロールされている本態性高血圧症患者に、インドメタシンおよびプラセボを追加投与した研究では、アムロジピン群においてインドメタシン併用時とプラセボ併用時の間で有意な差は見られなかった。一方、エナラプリル群では、インドメタシンの併用時に、プラセボ併用時に比べて24時間、日中、夜間の平均収縮期血圧と平均拡張期血圧が有意に上昇し、脈拍数が有意に減少した(参考文献1)。 この結果から、高血圧患者に対してNSAIDsを投与する場合には、併用する降圧薬をACE阻害薬ではなくCa拮抗薬にした方が、血圧上昇リスクを小さくできると考えられる。 イラスト:加賀 たえこ 血圧が上がった原因として、整形外科の先生が出されたロキソニンという痛み止めのお薬が考えられます。このお薬は高齢の方や腎機能が低下している患者さんが飲むと、血圧が上がることもあります。それに、今お飲みになっているエナラプリルMという血圧の薬の効き目を弱めてしまう作用もありますので、そのせいで血圧が上がったとも考えられます。 整形外科の先生には、ロキソニンを飲むべきかどうか相談されるといいでしょう。もし腰の痛みがそれほどでなく湿布薬で我慢できるのであれば、飲まない方が血圧のためには好ましいと考えられます。もし分かりにくければ、Kさんが先生に相談される前に、私の方から事情をご説明しておきます。 整形外科の先生がロキソニンを服用すべきとおっしゃるようでしたら、もう一度ご相談ください。ロキソニンの影響を受けにくい血圧の薬もありますので、内科の先生に私から電話してみます。 参考文献
出題と解答 :東風平 秀博
(田辺薬局株式会社[東京都中央区])
こんな服薬指導を
1)Am J Hypertens.2000;13:1161-7.
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