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副作用症状のメカニズム
おしっこが出ない
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
75歳男性。高血圧でアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を服用中。2日前から鼻水とくしゃみがあり、微熱、腹痛、下痢が起こった。そのまま様子を見ていたが、喉の渇きがあり、尿量が減ってきたので心配になって、相談のため来局した。

乏尿・無尿のメカニズム

 尿は、水溶性の不要な物質を体外に排出するために作られる。尿量は、健康な人であれば1~1.5L/日である。これが200~500mL/日以下に減少した状態を「乏尿」、100mL/日以下の状態を「無尿」と呼ぶ。

 腎臓には、心拍出量の約25%の血流が供給される。従って、尿量が減少するということは、腎臓への血液供給が低下する、つまり全身の循環動態が破綻しつつある可能性がある(参考文献1)ことを示していると肝に銘じておきたい。

 なお、膀胱内に尿がたまっているのに出せない状態は、「尿閉」と呼んで区別する。尿閉については、本連載第16回(2012年1月号)の「排尿障害」で解説した。

 尿は、腎臓のネフロン(糸球体+尿細管)で作られる。ネフロンは、片方の腎臓に約100万個ある。血液が腎動脈から輸入細動脈へ入ると、糸球体を通過する間に、血圧を利用して、糸球体と尿細管の小さな隙間によって、水、電解質、ブドウ糖、尿素、クレアチニンなどの老廃物が濾過される。この濾過液を原尿という。その後、生体に必要な物質や水などは再吸収されて血液に戻り、不要なものが尿として排出される。なお、糸球体で濾過しきれなかった老廃物は、分泌という形で血液から尿細管に排出される。

 ネフロンが何らかの原因で傷害されると、腎機能が低下し、心、脳、肝、骨髄、消化器、内分泌などの諸臓器に多大な影響を与える。その結果、生体のホメオスターシスが維持できなくなった状態を腎不全という(参考文献2、3)。

 図1に、乏尿や無尿が起こるメカニズムを示した。

図1 乏尿・無尿のメカニズム

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(1)腎前性腎不全【図1(1)】
 腎臓に入ってくる血流量が減って、濾過される尿量が減り、乏尿が起こった場合である。血流量が減る主な原因には以下のようなものがある(参考文献2、3)。
(a)循環血漿量の減少:出血、下痢、嘔吐、熱傷、脱水などによって起こる。また、肝硬変やネフローゼなどにより、血管内の水分保持を担うアルブミンが不足し、水分が間質に移動して浮腫を来した場合などでも起こる。
(b)心臓拍出量の低下:急性心筋梗塞、うっ血性心不全などによる。
(c)末梢血管の拡張:敗血症などで起こるエンドトキシンショックなどによる。
(d)腎動脈の閉塞:血栓や塞栓などによる。

(2)腎性腎不全(糸球体)【図1(2)】
 免疫反応を介して糸球体が傷害を受け、糸球体腎炎やネフローゼ症候群が起こった場合である。例えば、溶連菌感染後や全身性エリテマトーデスなどでネフローゼ症候群が起こると、免疫反応でできた免疫複合体が糸球体や腎血管に沈着し、濾過できる面積が減少して乏尿となる。さらに、膜透過性が亢進するため、蛋白の漏出が助長され、腎血管が傷害される。すると腎血流量が減少するので、(1)を併発して乏尿となる。

(3)腎性腎不全(尿細管、間質)【図1(3)】
 虚血や毒性物質によって尿細管が傷害を受けた場合に起こる。虚血は(1)に引き続いて起こり、腎血流の減少によりネフロンに供給される酸素が欠乏する。すると尿細管細胞内のアデノシン三リン酸(ATP)が減少し、ミトコンドリア機能が低下する。この状態で血液が再灌流されて酸素が供給されるようになると、活性酸素が発生する。この活性酸素が、細胞膜やDNAを傷付け、血小板活性化因子の産生が促され、血小板凝集が亢進する。すると、血管を収縮させるトロンボキサンが増加し、さらに腎血流が減少する。好中球が動員され、好中球から出た蛋白質分解酵素や活性酸素がさらに尿細管細胞を傷付け、アポトーシスや壊死を起こす。壊死した尿細管細胞が剥がれ落ちると尿細管腔を閉塞し、乏尿が起こる。尿細管が傷害されると水分や老廃物の行き場がなくなり、尿細管の間質に拡散してしまうため、さらに乏尿が進む。

(4)腎後性腎不全【図1(4)】
 結石や凝血塊、腫瘍などにより、尿管が閉塞する場合に起こる。突然の無尿は、腎後性のことが多い。

副作用によって起こる乏尿・無尿

 副作用で乏尿・無尿が起こるのは、薬によって前述の(1)~(4)が起こる場合である。(1)と(3)が、急性腎不全の75%を占めるとされる(参考文献4)が副作用でもこれらが多い(図2)。

図2 副作用で乏尿・無尿が起こるメカニズム

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(1)腎前性腎不全
 血流量が減る原因のうち、前述の(a)の循環血漿量の減少を起こす例として、利尿薬や緩下剤の乱用や過剰投与による脱水がある。

 輸入細動脈は加齢とともに細くなるが、プロスタグランジン(PG)が血管を拡張している。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、PGの合成阻害により輸入細動脈を収縮させ、濾過される血液量の減少を来す。COX2選択的阻害薬でも起こり得るので注意が必要だ(参考文献4)。シクロスポリン(商品名サンディミュン、ネオーラル他)やタクロリムス(プログラフ他)も、輸入細動脈を収縮させることが知られている(参考文献5)。

 糸球体から出ている輸出細動脈を広げる作用を持つアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やARBが投与されると、糸球体にかかる圧力が低下し、結果的に濾過される血液量が減り、尿量が減少する(参考文献6)。

 (b)の心臓拍出量の低下を来す薬として、β遮断薬が挙げられる。腎前性腎不全は、糸球体での濾過量が減るだけなので、尿細管の機能は保たれ、水や電解質などの再吸収は行われるため、濃縮された尿が少量排泄される。高齢者、大量出血、激しい下痢や嘔吐、脱水では、危険性が高くなる。(a)(b)(c)(d)に関する疾患、ヘビースモーカーなどでも起こりやすい(参考文献7)。

(2)腎性腎不全(糸球体)
 NSAIDsや抗リウマチ薬、インターフェロン製剤、抗TNFα抗体製剤、ビスホスホネート、抗甲状腺薬、リファンピシン(リファジン他)などで起こることが知られている(参考文献8)。抗リウマチ薬は免疫複合体を作ることが知られており、インターフェロン製剤や抗TNFα抗体製剤は免疫系を介した機序と予測できるが、詳細は分かっていない。ビスホスホネートは、糸球体上皮細胞への直接毒性があると考えられている(参考文献8)。随伴症状としては浮腫がある。

(3)腎性腎不全(尿細管、間質)
 水溶性の薬剤はそのまま濾過され、脂溶性の薬剤は肝臓で代謝を受けてからその代謝物が濾過され、尿細管腔に入る。薬剤は、基本的に体にとって異物であり、積極的には再吸収されない。しかし、脂溶性の薬の場合、尿細管腔内から尿細管の上皮細胞内にじわじわ拡散したり、N-Kポンプに連動して入り込んだりすることがある(参考文献2)。

 再吸収されるかどうか、つまり尿細管の上皮細胞を通り抜けるかどうかは、その薬の解離度と尿細管中の尿のpHによって決まる。脂溶性の高い分子型が多いと、尿細管の上皮細胞膜から脱出して再吸収されやすい。一方、イオン型が多いと、上皮細胞から脱出することなく尿細管内にとどまる。

 蛋白結合率が高く、糸球体で濾過されなかった薬は、トランスポーターを介して尿細管に分泌され排出される。このような薬は、分泌によって尿細管の上皮細胞に取り込まれるが、この上皮細胞から尿細管腔への移行の度合いが低いと上皮細胞中に蓄積されてしまう。再吸収や分泌の繰り返しによって尿細管の上皮細胞や間質の中に薬が濃縮され、その濃度が毒性レベルに達すると直接細胞を傷害したり、DNAやRNAの合成や機能の障害を起こす。上皮細胞や間質の細胞と抗原抗体反応を起こすこともある。

 尿細管の上皮細胞には、薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)が肝臓に次いで多いことが知られている。尿細管でも薬物代謝が行われ、活性酸素が発生し、細胞を傷害することがある。随伴症状は倦怠感程度だが、水分の再吸収障害が起こると、濃縮されない尿が多量に出る。NSAIDs、アミノグリコシド系やグリコペプチド系、セファロスポリン系などの抗菌薬、抗ウイルス薬、ヨード造影剤、シスプラチン(ランダ、ブリプラチン他)、重金属、殺虫剤などで起こりやすい(参考文献3)。

 また、何らかの原因で横紋筋融解症が起こった場合、筋肉の崩壊により大量のミオグロビンが糸球体に集まり、糸球体障害を起こし、続いて尿細管・間質障害が起こる。抗精神病薬による悪性症候群などでも同様である。

(4)腎後性腎不全
 薬の性質や尿のpHにより、尿細管腔で薬の結晶が析出したり、尿酸を産生する薬剤によって尿酸が析出したりすることで、尿細管の閉塞が起こることがある。アシクロビル(ゾビラックス他)、ガンシクロビル(デノシン他)、造影剤、メトトレキサートなどで知られている(参考文献9)。脱水、高尿酸血症、痛風がある人などで起こりやすい。尿のpHを下げるビタミンCやアスピリンなどの併用によって可能性は高まる。

* * *

 最初の症例を見てみよう。この患者は、高血圧でARBを服用中である。薬歴によると、整形外科から腰痛と関節痛に対して頓服でNSAIDsが処方されていた。発熱や下痢が起こったときもARBとNSAIDsを服用していたという。口渇、唇の乾燥、皮膚の緊張感低下などの脱水症状も見られた。

 薬剤師は、発熱と下痢による脱水をきっかけに、ARBとNSAIDsによる腎前性腎不全を発症し乏尿が起こったと考え、患者に至急受診するよう促した。

参考文献
1)大津史子『患者の訴え・症状からわかる薬の副作用』(じほう、2007)
2)須田憲男 准看護婦資格試験 2003;2:64-6.
3)Hricik DE,et al.J Am Soc Nephrol. 1990;1:845-58.
4)Bakris G,et al.Arch Intern Med. 2000;160:685-93.
5)『重篤副作用対応マニュアル ネフローゼ症候群、間質性腎炎、急性腎不全』 (厚生労働省)
6)土井研人 Modern Physician. 2011;31:578-82.
7)武田朝美ら ICUとCCU 2006;30:1029-36.
8)Chan FK,et al.N Engl J Med. 2002;347:2104-10.
9)田部井薫 Medical Technology. 2010;38:945-9.

イラスト:長岡 真理子

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