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特集:第1章
薬局業界を待ち受ける危機 再編の波が薬局を襲う
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

 政府は2025年を一つの区切りとして、社会保障制度を様々な形で再編していく。その中で、これから薬局と薬剤師はどのような時代を迎えることになるのか。2025年を見据えて、薬局と薬剤師の未来像を描いてみよう。

 本誌創刊は今から15年前の1998年。この15年、薬局業界はまさに右肩上がりの成長を遂げてきた。2011年度の調剤医療費は、15年前の3.3倍、6兆5601億円に上った。しかし今、薬局業界は、これまで経験したことのない強い逆風にさらされている。

 薬局業界がここまで急成長した最も大きな要因は、言うまでもなく医薬分業の進展だ。医薬分業率は今や70%に達するところまで来ている(図1)。

図1 医療分業率と処方箋枚数の推移

医薬分業率および処方箋枚数は日本薬剤師会の調査。薬剤師1人当たり処方箋枚数は医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省)の薬局に従事する薬剤師のデータを基に算出し編集部で作成。

薬局バッシングの本質

 この伸びは、薬局や薬剤師がその努力によって得たものではなく、薬価差益の解消を目的とした政策誘導によるものにすぎないというのが、関係者の大方の見方だろう。

 厚生労働省の医療経済実態調査によれば、月1000枚の処方箋を応需する標準的な個人経営の薬局1店舗当たりの年間売上高は約1億円で、そのうち2割以上を給与費および利益として計上していることが示されている。開設者1人当たりの店舗数の制限はないため、店舗を増やして効率化すればするほど、大きな利益が得られる仕組みだ。こうして調剤チェーンが誕生し、株式会社が台頭した。

 高齢化とともに社会保障のニーズは一層高まることは確実だが、これを支える国の財政基盤は破綻寸前だ。政府は団塊世代が後期高齢者になる25年を見据え、「社会保障と税の一体改革」を打ち出した。そして、いかに医療費の伸びを抑えるかという議論の中で、巻き起こったのが薬局バッシングだ。薬局業界は社会保険の庇護の下で、もうけ過ぎではないか、というわけだ。

 もっとも、市場の急成長や薬局の収益力の高さのみが批判されているわけではない。「批判の本質は、政策誘導によって急成長した薬局業界が、国民の健康に対して、どれだけ貢献しているのかを、はっきり示してこなかったことにある」と名城大学薬学部臨床経済学研究室教授の坂巻弘之氏は指摘する。薬局に向けられた国民の視線は厳しい。では今後、薬局をめぐる環境はどう変化していくのだろうか。

厳しさを増す薬局経営

 薬局のあり方を変える要因の一つは、分業推進の政策誘導の終焉だ。実際に、今回取材した薬局業界のキーパーソンたちは、「今後、調剤報酬は引き下げられることはあっても、上がることはないだろう」と口をそろえる。

 ただ、調剤報酬が多少、削減されたとしても、高齢者の増加に伴って処方箋枚数が増加すれば、少なくとも現状は維持できる、との見方もある。しかし、楽観視するのは早計だ。

 政府は前期高齢者の窓口負担割合を1割にする特例措置を引き延ばしてきたが、いつまでも続く保証はない。さらに、医療費削減のために、軽度な医療にかかる医療費を保険適用外にすることや、受診に当たって患者に一定額を負担させる「保険免責制」の導入も議論されている。

 消費税の増税も薬局経営にはマイナス要因だ。増税で問題になるのは、薬価差益の減少はもちろんだが、「消費者の価格意識が高まり、受診抑制につながって、薬局経営には厳しい時代が来る」と京都紫明税理士法人(京都市北区)社員税理士の船本智睦氏は予想する。様々な要因で受診抑制の圧力がかかれば、処方箋枚数に影響するのは必至だ。

 また今後、調剤報酬の中身も見直しを余儀なくされるだろう。調剤報酬の中長期的な見通しについては後述するが、「門前薬局を結果的に増やすことになった今までの報酬体系が見直され、今後は、本来薬局が地域で担うべきとされるかかりつけ薬局の役割が評価される仕組みに変わるだろう」と坂巻氏は予想する。

大手と異業種が奪い合い

 日本の調剤ビジネスは、地域の基幹病院の門前に薬局を開設して処方箋を応需するビジネスモデルで拡大してきた。しかし近年、門前の好立地への出店は飽和状態で、大手調剤チェーンのシェア争いは激しさを増している。それに伴って、新設される医療機関の門前の土地の入札価格が高騰。「うちも入札に参加したが、桁が違っていた。まさにバブル」と、ある薬局チェーン経営者は打ち明ける。今年3月、北播磨総合医療センター(兵庫県小野市)の薬局用用地を、阪神調剤薬局が10億円、日本調剤が4.2億円で落札したニュースは、関係者に衝撃を与えた。

 また現在、好立地にあるからといって安心してもいられない。これから病院の機能分化が進み、急性期病院の外来は縮小に向かう見通しだからだ。外来が縮小すれば、処方箋も減る。

 そこで大手調剤チェーン各社は、新たなビジネスモデルを模索している。日本調剤は、商店街や駅近くでの面対応の薬局の出店を加速する戦略を打ち出した。またクオールはローソンと業務提携し、コンビニと薬局を融合させた店舗を共同開発したほか、JR西日本の子会社と業務提携し、駅ナカに出店し始めている。ただし、これらの店舗は、調剤市場への参入を加速させるドラッグストアや大手流通と競合することになる。大手調剤チェーンと異業種参入組が、限られた処方箋を奪い合う構図になってきた。いずれにしても、消耗戦になれば、体力のない中小規模の薬局は、淘汰を避けられない。

再編のスイッチは押された

 「調剤業界の“再編のスイッチ”は既に押されている。業界再編は、一度始まると止めることはできず、行き着くところまで行く」。日本M&Aセンター統括事業本部金融法人部課長で薬局業界を担当する渡部恒郎氏はこう言い切る。例えば90年代には350社以上あった医薬品卸は現在、ほぼ4社に集約されている。

 日本M&Aセンターが扱う薬局業界のM&A(企業の合併や買収)案件は、ここ数年で急増しており、1~2店舗の薬局の売買は既にピークを過ぎ、これから3~30店舗規模のチェーン薬局の売買がピークを迎えると見られるという。その先には、大手同士のM&Aが待ち受ける。

 渡部氏によると、再編が進む業界での生き残り戦略は、(1)大手企業の傘下に入り、勝ち組の仲間入りをする、(2)ドミナント戦略(地域を特定して店舗展開を行うことで経営効率を高め、地域内でのシェアを拡大して優位に立つ戦略)により地域ナンバーワンを目指す─の2つしかないという。

 実際に(1)の戦略で、屋号も従業員も変わらないが、実は大手薬局チェーンの傘下に入った、という薬局は少なくない。

 では、大手の傘下に入らない選択をした中小の薬局はどうするべきなのか。「中小同士で連携して経営の効率を高め、地域で存在価値を高めていかなければならない」と保険薬局経営者連合会会長の山村真一氏は指摘する。

近未来の薬局の姿とは

 今後、従来型の薬局の経営が厳しくなる一方で、新しい形態の薬局が登場してくるだろう。近い将来の薬局と、そこで働く薬剤師の姿を描いてみた。

【その1】24時間365日営業薬局

 既存のコンビニ提携薬局や駅ナカ薬局の進化版。複数の薬剤師が24時間常駐して処方箋を応需すると同時に、OTC薬や衛生用品の販売にも積極的に取り組む大型薬局だ。

 薬局が深夜営業するようになることで、「夜、医療機関の救命救急センターに行くと時間もお金もかかるから、まずは薬局に行って相談してみよう」という考え方が社会の常識になり、医療費の削減に貢献する。また、薬剤師が近隣の在宅患者の夜間対応も担うことで、医師や看護師などの信頼を得て、在宅のチーム医療での存在感が増す。

 夜間対応が高く評価され、調剤報酬が手厚く配分される。経営の安定が見込めるので、門前の競争に敗れた大型薬局がこのタイプに参入する。

【その2】“門内”薬局

 院外処方箋を、病院の建物内や敷地内(つまり、門の内側)で応需する薬局。院内のコンビニやコーヒー店など飲食店の店舗に並んで作られる。

 高齢者の「門前薬局まで行くのが大変。病院内で薬をもらいたい」というニーズに応える形で、サービスの差別化を狙った病院が積極的に“門内”薬局を誘致する。病院にとっては薬局が支払うテナント料も大きな魅力だ。

 そのころには社会保障・税番号制度(マイナンバー制)が普及し、医療機関の受診記録、薬歴などの情報も全て一元化される。他の医療機関や他科受診による薬剤の重複投与などを、どの薬局でも確認することができる。

 門内薬局は、入院患者の退院から在宅へのシームレスな服薬管理も担うため、退院時カンファレンスへの出席が求められる。患者の自宅近所のかかりつけ薬局との連携も重要な業務。

 こういった連携機能が評価され、調剤報酬が手厚く配分されるので、経営の安定が見込める。門前薬局の多くが門内薬局への変身を望むが、病院の信頼を得た薬局だけが選ばれる。

 門内薬局の誕生で、門前薬局がずらりと軒を連ねる風景が激変する。

【その3】院内調剤業務受託薬局

 医療材料や医療機器などの物品物流管理(SPD)業務の薬版。複数の医療機関から院内調剤業務を受託し、スケールメリットを生かして在庫・購買管理、調剤業務の効率化に磨きをかける。病院の経営にプラスになるため、急速に普及する。医薬品卸の傘下にある薬局が強みを発揮する。

 この薬局は調剤室内の業務に特化する。処方箋の応需や疑義照会、薬の交付や服薬指導は病院薬剤師が担う。病院薬剤師は病棟と外来の両方に関わり、院内での存在感が高まる。 

【その4】かかりつけネット薬局

 Skypeなどのインターネット電話サービスを使って、かかりつけ薬局の機能を果たすネット薬局。

 特に認知症など、自分で服薬管理が難しい患者を対象に、服用時間に薬剤師から電話をかけ、患者はモニター画面の前で薬を服用、それを薬剤師が見守る。OTC薬やサプリメント、おむつなど衛生材料の相談にも乗り、注文も受け付ける。商品は宅配便でその日のうちに患者宅に届く。

 独居の高齢者の見守り機能も果たすことになり、高齢者社会における薬剤師の貢献が高く評価される。

* * *

 新たな薬局を誕生させるには、社会のニーズを読み取り、国の政策動向に目を向けることが大切だ。続いて、調剤報酬改定の行方と、薬剤師の活路について、詳しく見てみよう。

消費税引き上げは薬局をじわじわ苦しめる
京都紫明税理士法人(京都市北区)社員税理士
TKC全国会医療・会計システム研究会消費税問題研究プロジェクトリーダー 船本 智睦氏

 消費税は2014年4月に8%、15年10月には10%に上がる見通し。その影響は、徐々に薬局経営に及ぶだろう。

 医薬品を仕入れる際、仕入れ価格には消費税が上乗せされるが、販売価格(薬剤料)には消費税を上乗せできない。つまりその差額(控除対象外消費税負担)は薬局が負っている。こうした薬局の消費税負担率は、消費税5%の現在でも、全売上高の平均3~3.5%を占めるといわれている。

 消費税率が8%になれば負担率は全売上高の4.8%、税率10%では6%に増えると試算されている。平均的な薬局の利益率は3~5%なので、消費税が経営を圧迫するのは目に見えている。

 そこで卸に仕入れ値を下げるよう交渉する薬局も出てくるだろう。その場合、医薬品を大量購入する大手チェーンには有利だが、個店にとっては厳しいはずだ。

 これまでの消費税引き上げの際、厚生労働省は、課税できない保険収入の消費税相当額を「診療報酬や薬価に上乗せした」と説明している。8%になるタイミングの14年改定では上乗せする方向で決まっているが、2年に1度の薬価改定で、薬価は下げられ、結局負担額の補填部分はうやむやになりかねない。

 消費税が10%になる際、薬価に上乗せするかは、今年12月に出される税制改正の大綱で、明らかになる見通しだ。

 消費税引き上げは水光熱費や資材、派遣スタッフの紹介料などにもかかるため、薬局の運営コストが上がる。ただし、それは医療機関も同じだ。薬剤部を維持するコストが上昇する上、薬価差益が圧縮されるとなれば、院内処方を院外処方に切り変える病院は徐々に増えるだろう。一部の薬局は処方箋枚数が増え、経営のプラスに働くかもしれない。

 いずれにしても消費税引き上げで、消費者の価格意識はより高まり、受診抑制にもつながって、薬局経営には厳しい時代が来るとみられる。(談)

写真:太田 未来子

3年以内に全診療科で院内処方を可能にする
星総合病院(福島県郡山市)理事長 星 北斗氏

 かつて私は医薬分業推進派だった。しかし、分業のメリットが“絵に描いた餅”であることに気付き、薬局に対する考え方を改めた。その結果が院内処方の復活だ。

 今年1月に病院を移転した際、外来患者が院内処方と院外処方のいずれかを選択できるようにした。まず小児科から始めたが、ほぼ全ての患者が院内処方を選んでいる。今後3年以内に全ての診療科を対象にするつもりだ。消費税増税など今後の経営環境を考慮しても勝算がある。

 診療所や小規模の病院は薬剤管理の負担が大きいので院外処方のままだと思うが、ある程度の規模であれば、院内処方に戻す病院が出てくるのではないか。

 院内薬局業務のうち、在庫・購買管理やピッキングなどの調剤室内の業務は外部委託も視野に入れている。既に、医療材料の物流管理は外部委託しており、できないことはないと思う。そうして薬剤師には、病棟業務はもちろん、外来で最後に接する専門職として、患者に声を掛け、それを院内にフィードバックする役割を果たしてほしい。患者の満足度をアップさせる重要な役割だ。

 薬局は、調剤だけでなく、衛生材料の供給、患者の見守りなど独自のサービスの開発に注力すべきだ。袋詰めして薬を渡すだけの薬局はなくていい。(談)

地域に求められる機能の強化を
東京都薬剤師会会長 山本 信夫氏

 今、薬局と薬剤師の置かれた立場は厳しい。「薬局はもうけている」という批判、OTC薬のネット販売、医師・医療機関との関係、大手調剤チェーンの台頭──。

 一薬剤師として本音を言うと、「薬局には未来はないかもしれない。一度、全部なかったことにして、もう1回作り直した方がいいのでは」と考えることがある。一方、東京都薬剤師会長として「それは困る。何とかしなければ」と思う自分もいる。

 日本の薬局の歴史は約130年。欧州では800年続いているという。どうやって生き延びてきたのだろう。私の薬局は、1960年から処方箋を応需してきた。考え過ぎかもしれないが、分業率が上がるにつれて、薬局が初心を忘れて、枚数を“さばく”ことに追われ、処方箋の持つ重みに鈍感になってきたように思う。

 今後は、これまでのような調剤報酬上の政策的な誘導は期待できないだろう。今こそ、薬剤師の業務や必要性を世間に知ってもらわないと、「その仕事は薬剤師でなくてもいいのでは」と言われてしまうようになる。しっかり患者のために努力している薬剤師もたくさんいるはず。しかし、残念ながらきちんと対応できていない一部の薬剤師の陰に隠れてしまい、その結果、職能を理解されにくくなっている。

 薬局・薬剤師が生き残るためには、地域医療計画で明らかなように、在宅医療に参画すること、安価で品質が保証された後発品を調剤し、無駄な医療費を減らすこと、OTC薬の積極的な活用を図ることだ。

 患者の安全や利便性を考えれば、処方箋を受ける薬局と、OTC薬を売る薬局が分かれているよりも、両方の機能を備えた薬局が求められているはずだ。(談)

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