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いまさら聞けない栄養の話
健康維持の三要素は、「栄養」「運動」「休養」です
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

太田 篤胤 Atsutane Ohta
城西国際大学薬学部教授
東京農工大学卒業。テルモ、明治製菓を経て、2004年から現職。「オリゴ糖のミネラル吸収促進作用」の研究で、トクホを商品化した経歴を持つ。趣味はフルマラソン。

 一般の方を対象に食と健康について講演をすると、ほぼ決まって、「先生がお薦めの体にいい食べ物は何ですか」と質問される。誰しも「食べるだけで健康になれる方法はないか」と考えるものだ。実際、テレビの健康バラエティー番組でも、「○○に良い食べ物」のコーナーが必ずと言っていいほど組み込まれている。

万能キーワード「抗酸化作用」

 生命を維持し、身体活動を行うためには、栄養素の摂取が必須だ。どのような健康上の問題についても、何らかの栄養素が無理やり結び付けられてしまう。だからこそ、番組の一要素として、容易に組み込めるわけだ。

 こうした番組作りに特に重宝するのが、ビタミンや植物成分(フィトケミカル)だろう。ビタミンCやビタミンE、植物に含まれるカロテンやポリフェノール類などの生体内での代表的な働きは、抗酸化作用である。活性酸素による生体成分の酸化は、癌や老化といった多くの健康上の問題の一因とされている。

 そのため、健康問題を解決する食品として、お茶(カテキン)、トマト(リコピン)、緑黄色野菜(βカロチン)、大豆(イソフラボン)といった抗酸化成分を多く含む食品を紹介すれば、ほとんどの場合、的外れにはならない。しかも、植物ごとに含まれる抗酸化成分の種類が異なるので、話題にも事欠かない。これらの成分は、数多くの健康食品に利用されているので、聞き覚えがあるものばかりではないだろうか。

サプリの取り過ぎに要注意

 では、抗酸化作用を持つ食品をたくさん取ればよいかというと、それほど簡単な話にはならない。食品として補うことで、かえって生体が本来持つ健康増進作用を邪魔することもある。

 その一例として、ドイツで行われた臨床研究を紹介しよう。健康な若年男性39人を、抗酸化サプリメント(ビタミンC[1000mg/日]とビタミンE[400IU/日])摂取群とサプリメント非摂取群とに分けた上で、4週間にわたって運動してもらった。運動による負荷をかけると、エネルギー代謝が活発化するので、安静時よりも活性酸素が体内に多く発生する。しかし、生体には活性酸素を消去する酵素が存在しており、これらの酵素系が活性化して、活性酸素の悪影響を回避している。

 運動の前後でインスリン抵抗性を調べたところ、非摂取群では改善していたが、抗酸化サプリメント群では変化がなかった。抗酸化サプリメント群では、運動による健康増進効果がマスクされてしまったわけだ(参考文献1)。

 健康問題は、何かを食べるだけで解決できるほど単純ではない。「栄養」だけでなく、「運動」や「休養」などの視点も含めて考えていくことが大切だ。薬剤師の皆さんが患者から食事や栄養について質問を受けた際にも、特定の成分について専門的で深い指導をするよりも、生活全般にわたったアドバイスをしていただきたいと思う。

 本連載では、運動や休養などの要素を含む生活全般を視野に入れながら、栄養の基本を解説していきたい。

参考文献
1) Proc Natl Acad Sci USA. 2009;106:8665-70.

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