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検査値のミカタ
血糖値とHbA1c
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

連載開始に当たって

 当院では2011年3月末から、特定の薬剤が処方された患者を対象に、処方箋に臨床検査値を印字する取り組みを始めました。薬局の薬剤師が病院での検査結果を知ることができれば、処方の適切性を評価したり、副作用の発見に役立つと考えたためです。

 検査値は、チーム医療の共通言語。本コラムでは、検査項目ごとに測定原理や判断基準(検査値の見方)、臨床現場での活用例などを解説します(隔月掲載)。合言葉は、「検査値を味方につけて服薬指導をレベルアップ!」。よろしくお願いいたします。(中村)

イラスト:やまもと妹子

検査値の意味と測定法

 血糖値は、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度(mg/dL)のこと。測定には、グルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼなどの酵素による反応時に消費される酸素や生成する過酸化水素を、電極や試験紙で定量し、グルコース濃度に換算する(補足説明a)。

 HbA1cは、ヘモグロビンにグルコースが非酵素的に結合した糖化産物のことで、総ヘモグロビンに占める割合(%)で示される。HbA1cの測定法は、従来はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法が主流だったが、現在では免疫法や酵素法が安価で迅速な測定法として普及している(補足説明b)。

 血糖値は、食事やストレスなどの影響による日内変動が大きいのに対し、HbA1cは過去1~2カ月の血糖の平均を反映する安定した指標である。これは、赤血球の寿命が約120日であり、安定型HbA1cが長期間血中にとどまるためである(補足説明c)。

 なお、13年4月から、HbA1cの表記はNGSP値を用いることになっている。NGSP値はJDS値よりも0.4大きくなる点に注意が必要である。

用途と基準値 

 血糖値とHbA1cはいずれも、糖尿病の診断や血糖コントロール状況の評価に用いられる。

 血糖の基準値は、空腹時70~109mg/dL、食後140mg/dL未満とされている。ただし、これは静脈血の血漿を用いた場合の基準値であり、毛細管血や動脈血では若干高値となる。また、全血の方が血漿に比べ低値となる。通常、血糖自己測定には手指の毛細管血を用いるため、医療機関における検査結果よりも高値を示す。

 糖尿病の診断基準において、空腹時血糖126mg/dL以上は「糖尿病型」、110mg/dL以上126mg/dL未満は「境界型」と呼ばれる。食後血糖や随時血糖が200mg/dL以上の場合や、HbA1c(NGSP値)が6.5%以上の場合も、糖尿病型と判定される(表1)。糖尿病特有の自覚症状を伴う場合を除いては、血糖とHbA1cがいずれも糖尿病型と判定された場合に、初めて糖尿病と診断される。

表1 糖尿病の臨床診断の流れ

(日本糖尿病学会編『糖尿病治療ガイド2012』を基に編集部で作成)

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 なお、13年6月から、糖尿病治療における血糖コントロール目標の基準が変わる(表2)。これまで優、良、可(不十分・不良)、不可の5段階だったが、新基準ではHbA1c値によって3段階に分け、それぞれを「血糖正常化を目指す際の目標」「合併症予防のための目標」「治療強化が困難な際の目標」としている。

表2 糖尿病治療における新しい血糖コントロール目標

(日本糖尿病学会が5月16日に発表した資料を基に作成)

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同時に測定される検査値

血中インスリン濃度(IRI)……血糖値と共に様々な評価に用いる(μU/mL)。

インスリン分泌指数(II)……食後のインスリン追加分泌の初期分泌能を示す。「II=(負荷後30分IRIー空腹時IRI)/(負荷後30分血糖値ー空腹時血糖値)」で算出される(補足説明d)。健康成人では0.4以上。境界型の場合も、IIが0.4未満であれば糖尿病へ移行する可能性が高いとされている。

尿中・血中Cペプチド(CPR)……Cペプチドは、プロインスリンからインスリンが生成される際、等モル量生成される物質。内因性インスリン分泌能や膵β細胞機能の指標となる。空腹時の血中CPRが0.5ng/mL以下または尿中CPRが20 μg/日以下の場合は、内因性インスリン分泌能の低下(インスリン依存状態)と判断される。

インスリン抵抗性(HOMA-R)……「HOMA-R=空腹時血糖値×空腹時IRI/405」で算出される。正常値は1.0前後。2.5~3.0以上の場合はインスリン抵抗性があると考えられる。

検査値に影響する薬剤

 血糖を上昇させる代表的な薬剤として、ステロイド製剤、インターフェロン製剤がある。患者背景に糖尿病の家族歴や肥満などのリスク因子がある場合には、特に注意が必要である。高血糖の自覚症状には、口渇、多飲、多尿、体重減少などがある。

 一方、糖尿病治療薬以外で重篤な低血糖を引き起こす可能性がある薬剤としては、抗不整脈薬、ニューキノロン系抗菌薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、非定型抗精神病薬、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠、リトドリン塩酸塩、セレギリン塩酸塩など多数ある。

 中でも、ニューキノロン系薬のガチフロキサシン水和物の経口薬は、高血糖と低血糖のいずれも報告され、緊急安全性情報が出されるに至った(08年に販売中止)。低血糖の症状には、交感神経症状(動悸、頻脈、震え、発汗、空腹感、悪心・嘔吐、痺れなど)と、中枢神経症状(不穏、めまい、頭痛、疲労感、かすみ目、複視、低体温、意識障害、痙攣、昏睡)がある(補足説明e)。

薬局における活用法

 薬局で血糖値やHbA1cを活用すべき場面と対応のポイントを示す。

(1)受診勧奨

健康診断で、「糖尿病の疑いがある」と言われたのですが、病院に行かないとだめでしょうか。

 患者は、「なぜ健診で引っ掛かったのか」「どんな治療を行うことになるのか」「薬を一生飲み続けなければならないのか」といった疑問や不安を抱いており、受診を迷っていると推測される。薬局では、糖尿病の診断基準や標準的な治療内容、経過について分かりやすく説明するなど患者をサポートしつつ、受診を促すようにしたい。

(2)療養指導

薬をきちんと飲んでいるのに、HbA1cが上がってしまいました。

 治療中の糖尿病患者に対しては、生活習慣の改善を指導するきっかけとして検査値を活用したい。例えば、このケースのように服薬コンプライアンスは良好であるのに血糖値やHbA1cが高値を示した時には、血糖コントロールが悪化した要因を患者と一緒に振り返ることが重要である。「日課としていた朝の散歩を最近、さぼり気味だ」「仕事が忙しくて、深夜に食事を取ることが増えた」など、血糖コントロールに悪影響を与えた原因を一緒に考え、患者自身に自覚させることで、生活習慣改善へのモチベーションアップにつながる。

 もちろん、血糖降下薬を服用中の患者には、低血糖への注意喚起を行うことが不可欠である(補足説明e)。

(3)副作用の早期発見

 血糖を上昇・低下させ得る薬剤が投与されている場合は、血糖の変動に注意が必要である。筆者は、セロクエル(一般名クエチアピンフマル酸塩)とエビリファイ(アリピプラゾール)を服用中の56歳の統合失調症患者において、空腹時血糖値が116mg/dL(治療開始時)、121mg/dL(1カ月後)、154mg/dL(2カ月後)と上昇したケースを経験したことがある。血糖値をきちんとフォローしていれば、食事指導などの適切な指導につなげることができる。

 ただし、実際は、医療機関で検査自体が行われていないことも多い。そのため薬局では、患者に検査の実施状況を確認し、場合によっては医師に検査実施を提案する役割も求められる。

 なお、経口ステロイドを服用中の患者で、朝の空腹時血糖値は正常であるにもかかわらず、HbA1cが糖尿病型を示すことがある。このようなステロイド性糖尿病の患者では、夕方の食前血糖が高値を示していることが少なくない。通常、朝食後に服用した経口ステロイドによってインスリン需要が増大し、血糖上昇が表れるまでに、4~6時間かかるためである。早期発見のためには、HbA1cに加え、昼または夕方の血糖値のモニタリングが重要である。

補足説明
a)血糖値の単位は、日本ではmg/dLを用いるのに対し、海外ではmmol/Lが基本である。グルコースの分子量は180なので、18mg/dL=1mmol/Lとなる。
b)一部の薬局では、患者が店頭で指先穿刺による微量血液を用いてHbA1cを自己測定し、糖尿病の早期発見につなげる試みも始まっている。
c)類似の検査項目にグリコアルブミン(GA)がある。GAは過去2~4週間の血糖の平均を反映する。基準値は11~16%。
d)インスリンの分泌には、基礎分泌と追加分泌がある。追加分泌は2相性で、食後の血糖上昇に反応した急峻なインスリン分泌能を示すのがIIである。
e)血糖値が60~70mg/dL未満の場合に低血糖と診断される。意識が保たれており低血糖の交感神経症状を自覚する場合は、ブドウ糖(5~20g)やジュースなどの糖質を経口摂取することで、速やかに症状は改善する。ただし、低血糖を自覚しないケースも少なくない。そのような無自覚性低血糖を繰り返していると、重症低血糖を招くリスクが高くなることから、日ごろの血糖値の測定と記録が重要である。

中村先生のひとくちコラム

 これから登場する新しい糖尿病治療薬に、「SGLT2阻害薬」があります。第1号のイプラグリフロジン L-プロリンは現在、承認申請中です。

 健康な人では、腎糸球体で濾過されたグルコースは全て近位尿細管で再吸収されます。再吸収の大部分を担っているのがSGLT2というトランスポーター。この働きを阻害すれば、尿中への糖の排泄が促進され、血糖値が下がるというわけです。

 その昔、“糖尿病”は、尿に糖が出て痩せ衰えていく病気と恐れられていました。今ではインスリンの存在も、血糖値が160~180mg/dL以上になると尿糖が現れることも分かっていますが、昔の医師が「尿糖を出す薬」と聞いたら驚くでしょうね。

 治療の選択肢が増えることは喜ばしいですが、治療の基本は生活習慣の改善です。薬剤師も積極的に療養指導に関わっていきましょう!

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