DI Onlineのロゴ画像

Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
長時間作動型β刺激薬は、吸入ステロイドと併用すれば安全か?
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 喘息治療の中核をなすのは吸入ステロイドである。また、長時間作動型β刺激薬(LABA)の単独吸入療法は避けるべきである。これらに対して反対する人はいないはずだ。

 それでは、その両方を併用した場合にどうなるのか。実際の臨床現場では併用療法が主流かもしれない。しかし、吸入ステロイドを使っていればLABAの併用に問題がないと言ってよいかどうか、そこにはまだ結論は出ていないのが現状である。

 β刺激薬の危険性については、短時間作動型(SABA)が喘息死の危険を高めるという有名な症例対照研究がある1)。これは観察研究の結果であって、重症喘息の患者でβ刺激薬の使用量が多い可能性もあるが、その確証があるわけではない。すると、LABAも有害である可能性、吸入ステロイドを併用しても危険である可能性もいまだ否定されていない。

 そこへ登場したのが今回の論文である。これはランダム化比較試験(RCT)のメタ解析という質の高い研究である。結果、LABA使用群は喘息関連死亡や気管内挿管がプラセボ群より1.83倍多く、吸入ステロイドと併用しても吸入ステロイド単独群より3.65倍多かった(表1)。個々の論文を見ても、統計学的に有意ではないものの、全ての論文でLABA併用群の方がイベントが多い傾向にあった(図1)。

表1 治療群と対照群におけるイベントの発生率とオッズ比

画像のタップで拡大表示

図1 吸入ステロイド薬併用のフォレストプロット

画像のタップで拡大表示

 吸入ステロイド併用下であればβ刺激薬の危険性はないとするメタ解析もある。しかし、SABAの時代から続くβ刺激薬の危険性を示す研究結果を踏まえれば、できる限りβ刺激薬の併用時期を短くし、症状が落ち着けば吸入ステロイド単剤にすべきだというのが、本論文を踏まえた私の意見である。

参考文献
1)Spitzer,et al.N Engl J Med.1992;326:501-6.

臨床研究論文を読むためのキーワード

 今回は連載第1回として、本コラムを読むための主なキーワードを解説する。

(1)PECO
 PECOとは、試験結果を整理するために確認する基本的事項のフォーマット。PはPatient(どんな患者に)、EはExposure(どんな治療、検査をして)、CはComparison(何と比較して)、OはOutcome(どんなアウトカムの変化があるか)の頭文字。

(2)ランダム化比較試験
 ランダム化比較試験(RCT)とは、治療効果を検討するために最も妥当性が高いとされている研究方法のこと。対象者をランダムに割り付けることで、年齢や生活環境、重症度などの背景因子が、偏りなく分けられる。これにより、治療効果を公平に検討することが可能になる。

(3)メタ解析(メタアナリシス)
 メタ解析とは、同じ治療や予防法、検査法、危険因子などを検討した幾つかの研究がある場合、それぞれの結果を一つの指標で統合し、まとめた研究のこと。多数の試験結果を合算して分析したものであるため、RCTのメタ解析の結果は、治療効果を検討する上で特に重要となる。

 同じような総説論文のカテゴリーに、システマティックレビューと呼ばれるものがある。これはメタ解析と異なり、論文の作成過程が定型的なプロセスを踏んでいるもののことで、結果が一つの指標にまとめられていないこともある。

(4)相対危険
 相対危険とは、治療効果を検討するための指標の一つで、治療群でのイベント(副作用など)発生の割合を、対照群のイベント発生の割合で割ることで計算できる。相対危険が1より小さければ有益、1より大きければ有害である。相対危険が0.75の場合、治療群では対照群に比べてイベント発生が25%少ないという意味になる。

 なお、オッズ比も治療効果検討のための指標で、治療群でのイベント有無のオッズ(イベント有り/イベント無し)を対照群のオッズで割ることで計算される。厳密には後ろ向きの研究に用いられる概念だが、前向き研究に用いられるリスク比の推定値となるものであり、論文を読む際は相対危険の一つと考えて差し支えない。

(5)95%信頼区間
 95%信頼区間とは統計学上の言葉で、ある研究結果を基に、実際にその治療を実施した場合の値が95%の確率でそこに収まると類推される範囲のことを示す。例えば、相対危険度0.68 [95%信頼区間0.55~0.80] と表現された結果では、平均が0.68で、治療効果を少なく見積もった場合0.80、大きく見積もった場合0.55、というように評価できる。

(本コラムは新連載です。隔月で掲載します。)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ