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適応外処方のエビデンス
ラロキシフェンで閉経後女性の乳癌の発症を予防
日経DI2013年6月号

2013/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年6月号 No.188

疾患概念・病態

 欧米では、乳癌のハイリスク者に対して予防的手術(乳房や卵巣の切除)や化学予防(ケモプリベンション)が実施されている。化学予防には、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)のタモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス他)やラロキシフェン塩酸塩(エビスタ)が用いられる。

 BRCA1(breast cancer susceptibility gene I)遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異があり、乳癌のリスクが高いと見なされるが、乳癌と診断されていない欧米9カ国の女性、計1383例を対象に、どのような予防医療を受けているかを調査した。その結果、予防的乳房切除術を受けていた女性は248例(18.0%)、卵巣手術を受けていた女性は681例(49.2%)に上った。一方、予防的乳房切除術を受けずにタモキシフェンを服用していた女性は76例(5.5%)、同様にラロキシフェンを服用していた女性は40人(2.9%)と比較的少なかった(参考文献1)。これは、ラロキシフェンに子宮体癌、血栓症などの副作用があるためと推測されている(参考文献2)。

 日本女性の乳癌罹患率は、米国の3分の1以下と低い。だが今後、化学予防に対するニーズが高まる可能性もある(参考文献2)。

予防の現状

 乳癌のリスクが高いと見なされる女性1万3388例を対象に、タモキシフェン(20mg/日、6681例)またはプラセボ(6707例)を投与するNSABP P-1試験が行われた。69カ月間の累積乳癌罹患率は、プラセボ群43.4/1000人に対してタモキシフェン群は22.0/1000人とほぼ半減した(参考文献3)。この結果を受けて米国では1998年に、タモキシフェンが乳癌予防薬として認可された。ただし、タモキシフェン群では子宮内膜癌が29%増加した(参考文献4)。

 ラロキシフェンは、骨粗鬆症の治療効果の評価を主目的としたMORE試験で、乳癌予防効果が認められ、かつ、子宮内膜癌のリスクを上昇させなかった(参考文献5)。この試験の参加者にさらに4年間服用継続を行い、長期投与の効果を評価したCORE試験でも、やはり乳癌予防効果が認められた(参考文献6)。

 そこで、タモキシフェンとラロキシフェンの乳癌予防効果について、二重盲検ランダム化比較試験(RCT)であるSTAR P-2試験 が行われた。その結果、ラロキシフェンの乳癌予防効果はタモキシフェンと同程度であり、子宮内膜癌、血栓塞栓症の発症はラロキシフェンで低いことが確認された(参考文献7)。米国ではこの成績を踏まえ、2007年に、ラロキシフェンに乳癌リスクの高い女性および骨粗鬆症を有する閉経後女性への適応が認められた。ラロキシフェンは、子宮摘出の既往がなく骨粗鬆症や骨折のリスクが高い閉経後の女性、タモキシフェンは乳癌リスクが非常に高い閉経前女性で選択される(参考文献2)。

 日本では、ラロキシフェンおよびタモキシフェンいずれも、乳癌の発症予防の適応は認められていない。ラロキシフェンの適応症は、閉経後骨粗鬆症である。

表1 閉経後骨粗鬆症患者への乳癌予防目的も兼ねたラロキシフェンの処方箋例

ラロキシフェンの有効性

 椎体骨折の既往を持つ25カ国の閉経後女性、計6828例を対象に、ラロキシフェンの骨粗鬆症に対する効果を検討したMORE試験で、副次的評価項目として、ラロキシフェンの乳癌発症に対する効果が評価された。2259例にラロキシフェン60mg/日、2277例にラロキシフェン120mg/日、2292例にプラセボを、1日1回経口投与したところ、治療開始から40カ月までで、ラロキシフェン群はプラセボ群に比べて乳癌の発症が70%低下した(参考文献5)。

 MORE試験でラロキシフェン60mg/日あるいは120mg/日を投与された3510例にはラロキシフェン60mg/日(R群)を、プラセボを投与された1703例にはさらにプラセボ(P群)を、1日1回経口投与した(CORE試験)。4年間での浸潤性乳癌の発症は、P群28例(1.6%)に対してR群24例(0.7%)で、R群で59%少なかった。うち、エストロゲン受容体陽性浸潤性乳癌の発症は、P群21例(1.2%)に対してR群15例(0.4%)で、R群で66%少なかった。一方、エストロゲン受容体陰性浸潤性乳癌の発症率は、P群3例(0.18%)に対してR群7例(0.20%)で、両群間に有意差は認められなかった。

 MORE試験およびCORE試験の8年間で、R群はP群に対して、浸潤性乳癌を66%、エストロゲン受容体陽性浸潤性乳癌を76%低下させた。副作用として、8年間の血栓塞栓疾患の発症は、P群13例(1.01%)に対してR群は47例(1.72%)で、R群で多かったが有意ではなかった(参考文献6)。

 閉経後女性9875例にラロキシフェン60mg/日(R群)、9872例にタモキシフェン20mg/日(T群)を5年間経口投与したSTAR P2試験では、R群9745例、T群9726例の解析(観察期間中央値47カ月)が行われた。

 浸潤性乳癌の発症は、R群168例、T群163例、発症率はR群4.4/1000人、T群4.3/1000人、リスク比(R群:T群)は1.02で、有意差は認められなかった 。しかし、非浸潤性乳癌の発症は、R群80例、T群57例、発症率はR群2.11/1000人、T群1.51/1000人で、R群のリスクが40%高かった。また、子宮内膜癌の発症は、R群23例、T群36例、発症率はR群1.25/1000人、T群2.00/1000人で、R群が38%低かった。

 副作用として、血栓塞栓症の発症は、R群100例、T群141例、発症率はR群2.61/1000人、T群3.71/1000人で、R群が30%低かった(参考文献7)。

 この試験ではさらに追跡が続けられ、R群9754例、T群9736例の解析(観察期間中央値81カ月)が行われた。その結果、浸潤性乳癌の発症は、R群310例、T群247例、発症率はR群5.02/1000人、T群4.04/1000人、リスク比(R群/T群)は1.24で、T群が優れていた。非浸潤性乳癌の発症は、R群137例、T群111例、発症率はR群2.23/1000人、T群1.83/1000人で、リスク比は1.22と、前述(観察期間中央値47カ月)よりR群のリスクが低くなった。子宮内膜癌の発症は、R群37例、T群65例、発症率はR群1.23/1000人、T群2.25/1000人で、R群のリスク低下は45%とさらに低くなった。

 副作用としての血栓塞栓症の発症は、R群154例、T群202例、発症率はR群2.47/1000人、T群3.30/1000人で、R群が25%低かった(参考文献8)。

作用機序

 閉経後は、女性ホルモンであるエストロゲンが減少することにより骨量が減少し、骨折の危険性が高くなる。ラロキシフェンは、エストロゲン受容体に結合し、骨に対してアゴニストとして作用して、骨吸収を抑制し、骨量の減少を改善して骨折の危険性を減少させる。一方、乳房に対してはアンタゴニストとして作用して、エストロゲンの働きを抑制する。この作用を応用して、閉経後の乳癌の発症予防に使用されている。

適応外使用を見抜くポイント

 ラロキシフェンは、ほとんどが閉経後骨粗鬆症に対して処方されるため、乳癌の予防目的での処方であることを見抜くのは困難である。しかし、閉経後骨粗鬆症の女性に対して、本来の治療目的に加えて、乳癌の発症予防を期待して適応外で処方されることもあるので、医師からどのような説明を受けているかを、患者からよく聞き取るようにしたい。薬剤師がラロキシフェンの乳癌予防効果についての説明を加えることで、患者との信頼関係を深めるきっかけにもなるだろう。

参考文献
1) Int J Cancer.2008:22:2017-22.
2)医学のあゆみ 2012;41:416-21.
3) J Natl Cancer Inst.1998;90:1371-88.
4) J Natl Cancer Inst.2005;97:1652-62.
5) JAMA.1999;282:637-45.
6) J Natl Cancer Inst.2004;96:1751-61.
7) JAMA.2006;295:2727-41.
8) Cancer Prev Res.2010;3:696-706.

講師 藤原 豊博
AIメディカル・ラボ、薬剤師
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始。同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。

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