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疾患別、栄養の新常識
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

 炭水化物の摂取量を極端に減らして、蛋白質や脂質で栄養を摂取する「低炭水化物ダイエット」。10年以上前に米国で提唱されて日本でも流行し、今も広く行われている。糖尿病でも実践する患者は少なくないが、果たして有効なのだろうか。

 実は、この食事療法の是非については、長年議論があった。

 糖尿病の食事療法が専門の大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科教授の今井佐恵子氏は、「低炭水化物食は、短期的には血糖を改善し体重を減少させるとの報告があるが、長期的な効果や安全性は明らかでない。また、蛋白質を過剰に摂取することで腎臓に負担をかけるなどの問題がある」と話す。

熱量の5~6割を炭水化物で摂取

 こうした中、2013年3月に日本糖尿病学会が、糖尿病の食事療法について、国内外の論文を検証した結果を基に提言をまとめ、「糖尿病で推奨される炭水化物の摂取比率は、50~60%」との見解を示した。

 この提言で学会は、脂質や蛋白質の摂取量を大幅に増やすと、代謝を悪化させたり、合併症を進展させる恐れがあるとして、糖尿病患者でも、三大栄養素(炭水化物、脂質、蛋白質)をバランスよく取るべきとの考えを示した。

 今井氏は、「患者が我流の食事療法を行っていたら、栄養の偏りによって健康を害する恐れがあると伝えてほしい」と話す。

 一方、簡単かつ安全に行える食事療法として、今井氏が勧めるのが、「食べる順番を変える」方法だ。

 糖尿病の管理目標は、血糖コントロールによる合併症や心血管疾患の予防。その鍵となる動脈硬化に大きく影響するのが、食後の急激な血糖上昇だ。食べる順番を変えると、これが是正できるというのだ。

 方法は、食事の献立にサラダやおひたしなど野菜料理を加え、それから食べ始めるというもの。今井氏が行った研究では、この方法が予想以上に効果的であるとするデータが得られた(図1)。

図1 食事の摂取順序を変えたときの食後血糖値の違い(今井氏による)

食事療法のみで治療中の2型糖尿病患者15人を対象に、野菜を米飯の前に摂取した日と、米飯の後に摂取した日の食後血糖値の変動を、クロスオーバー試験で観察した。被験者は早朝に空腹の状態で来院し、試験食(米飯150gと野菜サラダ90g)を1口20回咀嚼し、15分かけて食べた。その結果、野菜を先に摂取すると、食後の血糖値の上昇が10~20%程度抑制された(糖尿病 2010;53:112-5.)。

 今井氏は、「食物繊維が糖質や脂質の吸収を遅らせたことと、野菜を食べた刺激で消化管からインクレチンホルモンが分泌されたことで、米飯を食べたときの血糖の上昇が抑えられたのではないか」と考える。

 機会があれば患者に紹介してみてもいいだろう。

 高齢の患者で、非常に痩せている人は少なくない。年を取ったら肉や魚は控えるべきと思い込んでいる人や、体重に関心がなく、痩せていることを認識していない人─。こうした患者は、低栄養に陥っている可能性がある。

 名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学分野教授の葛谷雅文氏は、「高齢者が、低栄養が原因で虚弱になり、骨折などをきっかけに寝たきりになるケースは非常に多い。かかりつけの薬局の薬剤師が、低栄養のリスクがある患者を早い段階で拾い上げて、介入することは非常に重要」と話す。

寝たきりへの移行早める低栄養

 図2は、葛谷氏が2009年に、在宅高齢者463人の栄養状態を、専用の問診票で評価した結果だ。要介護・要支援の高齢者では、栄養状態が悪い人が非常に多いことが明らかになった。

図2 在宅要介護・要支援の高齢者の栄養評価の結果(葛谷氏による)

2009年に名古屋地域の在宅要介護・要支援の高齢者463人に対し、簡単な質問で患者の栄養状態が評価できる問診票Mini-nutritional assessment short form(MNA-SF)を用いて栄養状態を調べた。その結果、要介護度が上がるほど栄養状態が悪い人の割合が高くなることが明らかになった。

 高齢者が要介護になる原因は、70代くらいまでは脳血管疾患が多いが、80歳以降では、加齢による衰弱(虚弱)が急激に増加する。

 虚弱とは、老化に伴う筋力や身体機能、活力の低下などを指す。この虚弱の進行を早める大きな原因として、近年、低栄養が注目されている。

実は多い薬剤性の食欲不振

 低栄養の原因は、独居や介護不足などの社会的要因や、悪性腫瘍や消化管障害などのほか、認知症やうつ病、摂食嚥下障害、食欲低下など様々だ。冒頭のように食事への誤った知識が原因で低栄養に陥ることもある。

 薬剤師として特に注意したいのは、多剤併用や薬の副作用による食欲不振だ。

 「名大病院でも食欲不振で入院する高齢者は相当数いるが、主治医がまず行っているのは、できるだけ薬を減らすこと。そうすることで、食欲が劇的に改善する患者は多い」(葛谷氏)。

 食欲低下を起こす可能性がある薬として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗うつ薬、ビスホスホネート系薬、抗菌薬、経口糖尿病薬、ビタミンD製剤、抗認知症薬など、高齢者によく処方される薬が報告されている。

 葛谷氏は、「処方が変更・追加された後に食欲が落ちた場合は、薬剤性の食欲不振を疑ってほしい」とアドバイスする。

 虚弱は、栄養状態を改善したり、運動することで回復が可能な点が特徴だ。早く気づいて対応することで、要介護状態への進展を遅らせることができるため、普段から食欲があるかを尋ねて、患者栄養状態に気を配るようにしたい。

 低栄養に気づくきっかけとして、葛谷氏は、「最も分かりやすいのは、急激な体重の減少」と話す。半年で3kg痩せたなどと患者が話したら、食欲や体調、薬などについて最近変化がなかったか、尋ねるようにしたい。

 さらに、自分の体重を知らない患者も要注意だという。患者に、少なくとも2週間に1度くらいは体重を量るよう勧め、BMIが20以下の人には、食事の取り方を変えるよう指導する。

 葛谷氏は、「食事は、炭水化物だけでなく、蛋白質や脂質もバランスよく摂取するよう勧める。低栄養の傾向にある高齢者こそ、肉や魚、卵の摂取は必要」と話す。

 最近では、高齢者で不足しがちなカロリーや栄養素を効率よく摂取できる一般向けの健康食品が、複数種類発売されているので、薬局でそうしたものの利用を勧めてもいいだろう。

 加えて、患者がひとり暮らしで見守る人が近くにいない場合や、認知症が疑われる場合は、地域包括支援センターなどに連絡し、医療や介護のケアを受けられるようにするのも、かかりつけ薬局の重要な役割だ。

 糖尿病や加齢などにより腎機能が低下した状態を慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)と呼ぶ。CKDでは、腎臓への負担を抑えるために、食塩と蛋白質の摂取制限が勧められるが、薬物療法に比べて手間がかかるなどの理由から、多くの医療機関では積極的に食事指導が行われてこなかった。

 しかし、近年、特にCKDステージ4、5といった腎機能障害がかなり進行した患者において、薬物療法に厳密な食事療法を組み合わせることで、高い効果が得られることが分かってきた。

 腎臓・代謝病治療機構(東京都渋谷区)の中尾俊之氏は、「腎機能が低下するほど、食事療法の重要性は高まる」と話す。中尾氏は、管理栄養士による厳密な食事療法と、適切な薬物療法により、透析導入を当初の見通しより大幅に遅らせることができた例を数多く経験しているという。

 日本腎臓学会の『CKD診療ガイド2012』では、食塩は6g/日未満、蛋白質は、ステージ3で0.6~0.8g/kg標準体重/日、ステージ4、5で0.3~0.6g/kg標準体重/日を推奨している。

 一方、ステージ1、2の軽症患者では、食事指導がほとんど行われていない現状があるが、一般の人よりも塩分や蛋白質、エネルギーを多く摂取している場合ではやはり問題があるだろう。

肉や魚で必須アミノ酸を摂取

 低蛋白食のポイントとして、中尾氏は、「医療機関では管理栄養士の指導に基づいて栄養バランスがとれた低蛋白食が行われるが、患者が自分で蛋白質制限を行う場合には、エネルギー不足に注意が必要。炭水化物や脂質から十分にエネルギーを摂取するのが重要だ」と話す(表1)。

表1 CKDに対する低蛋白食のポイント(中尾氏による)

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 加えて、少量の蛋白質で必須アミノ酸をバランスよく取るために、肉や魚を食べることも重要なポイントだという。

 「脂質異常症の治療の基本は、食事・運動療法。特に、高トリグリセリド(TG)血症、低HDLコレステロール(HDL-C)血症は、薬物療法だけでは効果が得られにくく、食事・運動療法が不可欠」。こう話すのは、女子栄養大学栄養クリニック(東京都豊島区)所長の田中明氏だ。

 脂質異常症は、高LDLコレステロール(LDL-C)血症、低HDL-C血症、高TG血症などの総称だ。患者によって血液検査で異常を指摘される項目は異なるが、食事療法には共通点が多い。脂質異常症の食事療法のポイントは表2の通りだ。

表2 脂質異常症の食事療法のポイント(田中氏による)

 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量を減らすためには、肉の脂身や乳製品、卵類の過剰摂取を避ける。マーガリンやショートニングに含まれるトランス不飽和脂肪酸は、動脈硬化を進展させる酸化LDLを上昇させ、HDL-Cを低下させるため摂取を減らす。

 青魚に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸は、血清TG値や血圧の低下作用が示されていることから摂取を増やす。食物繊維を多く含む野菜や果物、未精製穀類(玄米、大麦など)、海藻も摂取するよう患者に話したい。

果糖摂取で食後TG値が上昇

 一方、血清TG値と食事の関係について、最近、興味深い研究結果が発表された。

 田中氏は、「りんごやぶどうなどの果物に多く含まれるフルクトース(果糖)や、清涼飲料水などによく使われている人工甘味料の高果糖コーンシロップは、グルコースよりも食後のTG値を大きく上昇させることが明らかになった」と話す(J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:E1596-605.)。

 食後のTG値の急激な上昇は、レムナントという物質を介して動脈硬化を進展させることから、田中氏は、「果物や清涼飲料水など、フルクトースを多く含む食品を大量に摂取する食習慣が心血管疾患の発症リスクを高める可能性がある」と話す。

 痛風になったら高プリン体食品は避ける-。長年行われてきたこの食事療法の常識が、現在は大きく変わっていることをご存じだろうか。

 痛風の原因となる尿酸はプリン体から産生されるため、日本痛風・核酸代謝学会の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』では、痛風患者や血清尿酸値が7.0mg/dLを超える高尿酸血症の患者は、プリン体の摂取を1日400mg以下に抑えるよう指導している。

 しかし、実は体内にあるプリン体の7~8割は体内で合成される。食品から摂取するプリン体は、これに対して量が少ないため、痛風患者が高プリン体食品を制限する効果を疑問視する声は以前からあった。

プリン体より摂取エネルギー制限

 表3は、米国で4万7150人の男性を12年間前向きに追跡調査したHealth Professionals Follow-up Study(HPFS)により明らかになった痛風を発症させやすい生活習慣だ。

表3 痛風を発症させやすい生活習慣(藤森氏による)

 調査では、プリン体を多く取るよりも、肥満や体重増加、飲酒、清涼飲料(フルクトース)の摂取などの生活習慣の方が、痛風を発症させやすい傾向があることが分かった。

 こうした大規模な追跡調査は珍しいため、調査の結果は、生活習慣に関する問題ごとに、LancetやNEJMといった著名な医学雑誌に次々に掲載された。

 帝京大学内科教授の藤森新氏は、「最近の研究により、痛風や高尿酸血症は、肥満による代謝異常やインスリン抵抗性が、尿酸の過剰産生や排泄障害を引き起こして発症するとの説が有力だ」と話す。

 これを受けて、痛風・高尿酸血症は、過食、肥満、飲酒などの生活習慣の異常が重なって発症する生活習慣病と認識されるようになっている。

 藤森氏は、「痛風・高尿酸血症の患者は、高血圧や脂質異常症、耐糖能異常などを合併していることが多いため、最近は、プリン体の摂取制限よりも、生活習慣の是正、特に、摂取エネルギーを減らして減量させることを重視するようになっている」と話す。

 またこの調査では、アルコール摂取は、その種類にかかわらず尿酸値を上げることが分かった。

 藤森氏は、「アルコールの分解に伴い大量の尿酸が産生される上、増加した乳酸が尿酸排泄を低下させるため」と説明する。

 そのほか、清涼飲料水の過剰摂取による尿酸値の上昇には、フルクトースが関与すると考えられている。

 藤森氏は、「食事の際にプリン体を考慮しなくていいわけではないが、それだけを考えるのではなく、摂取エネルギーを抑えて体重を適正化することや、アルコールを飲み過ぎないこと、適度な運動を心掛けるといった生活習慣の改善が重要であることを患者さんに伝えてほしい」と話している。

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