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「将来ビジョン」に薬剤師が共感できないわけ
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

 日薬会員である諸氏の薬局には毎月、「日本薬剤師会雑誌」が届くことと思う。新年度を迎えた4月も、いつものようにそれを手にしたところ、やけに分厚い。驚いた方も少なくないと思われるが、よくよく見てみると、180ページに及ぶ「薬剤師の将来ビジョン」が同封されていた。

 思い返せば昨年6月、日薬はウェブサイトで「薬剤師の将来ビジョン(暫定版)」を会員限定で公表した。そこから9カ月を経て最終版の一般公開に至ったわけであるが、その間に誰が、どのような検討を重ねたのであろうか。そうした一連のプロセスが全く見えてこない。

 日薬の言葉を借りれば、「将来ビジョン」の策定は「本会会務の重要施策の一つ」だそうである。確かに、職能団体として長期的展望を持つことは必須であり、重要度も高いだろう。であるならば、それを策定するに至った経緯や内容の検討について、会員に広く周知し、意見を募るべきではないだろうか。「ビジョン策定に当たってアンケート調査やヒアリングを行っているではないか!」との反論も聞こえそうだが、十分なものだったとは到底言えないだろう。ある日突然、「これが完成版です!」と「将来ビジョン」を送りつけられた会員にとっては、まさに寝耳に水だ。

 内容に目を向けると、例えば第三章「薬局薬剤師の現状と将来ビジョン」には、「セルフメディケーションの拠点としての薬局機能を確立する」「地域包括ケアシステムにおける薬局・薬剤師職能を確立する」「薬事衛生・公衆衛生における薬局薬剤師の地域における活動を強化する」などの文言が並ぶ。

 しかし、よくよく考えてみれば、こうした内容は何も今に始まったものではない。中には過去何十年にわたって言い古され、手あかにまみれたものさえある。そうしたものを「将来ビジョン」として提示したところで、果たしてどれだけの意味があるのだろうか。

 振り返ると類似のものに、「薬局のグランドデザイン」がある。これは当時の日薬が、将来ビジョンと21世紀初頭に向けての活動指針を示したもので、1997年に答申された。

 その内容についてここで言及することは避けるが、「グランドデザイン」に示された薬局を実現すべく、あるいは正当性を検証すべく、単年度の目標や個別の計画に落とし込むということはなされたのだろうか。また、今回の「将来ビジョン」策定に当たって、「グランドデザイン」で示されたことに対する評価や反省が生かされているのだろうか。少なくとも今回示された「将来ビジョン」の中には、グランドデザインの「グ」の字も記載されていない。

 これでは、「将来ビジョン」が「グランドデザイン」と同じ轍を踏むことになるのは、火を見るよりも明らかだ。口八丁であるのは結構なことだか、行動が伴わなければ、日薬の求心力が衰えるだけでなく、薬剤師に対する社会の信頼にまで傷が付くことになりかねない。

 繰り返しになるが、この「将来ビジョン」の暫定版から最終版公開に至る過程において、広く会員の意見を取り入れなかったことは大きな失策である。「将来ビジョン」を、各薬剤師が自分のものとして受け止めて取り組むか、遠く離れたところにあるものとして傍観するかの分かれ目は、そこにあったのではないか。医療においてインフォームドコンセントの重要性が認識されて久しいが、日薬が会員に対して十分な説明責任を果たしていないというのでは、皮肉にもならない。

 とはいえせっかく「将来ビジョン」を策定した以上、日薬は今からでも会員に対して丁寧な説明を行い、意見を広く集めてほしい。ビジョンの策定は終着点ではなく、そこからがスタートなのだから。 (十日十月)

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