DI Onlineのロゴ画像

Interview
国家試験の合格率の低下で、薬剤師不足は解消にほど遠く
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

 薬学教育の6年制課程が始まって2期生となる学生たちが、今春、社会に出てきた。昨年同様に病院志向が強く、病院では予定通りの薬剤師採用を達成したもようだ。一方で国家試験の合格率が低下したため、内定者らが不合格となり、薬局は不足の状況に。人材サービス大手のマイナビで薬剤師関連事業を統括する松田正吾氏に、就職の動向を聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

1978年生まれ。大学卒業後、大手不動産会社を経て2005年にマイナビに入社し、大阪支社にて人材紹介事業部の立ち上げに携わる。看護師・薬剤師、金融、メーカー、建設・不動産、小売・流通など幅広い領域を担当。10年から東京本社に赴任、薬剤師領域専任となり、12年より現職。

─昨年は、薬学教育6年制課程の第1期生が卒業したために相当な売り手市場でした。2期目である今年の卒業生の就職状況はどうでしょうか。

松田 昨年と大差はありません。今年も病院が積極的に募集を行い、ほぼ予定通りに採用できたようです。6年制を卒業して薬剤師国家試験に合格した約8800人中、約2割が病院に就職し、4年制時代の1割強から大きく伸びています。それ以外は、15%程度が製薬企業や医薬品開発受託機関(CRO)に、1割弱が研究や行政の仕事に就き、全体の5割強が調剤薬局やドラッグストアに就職したとみられます。

 病院の採用が伸びたのは、1つには2012年度の診療報酬改定を受けて病院が薬剤師の病棟配置を見直した影響があります。また、大病院では中途ではなく新卒を採用して育成しようという志向が強いですが、6年制への切り替えで2年間新卒がいなかったため、ここへきて採用を強化しています。

 一方で、親御さんの中には病院に就職してほしいという人が多いですし、大学の教授の中にも「まずは病院に行きなさい」と指導している人もいます。給与や当直のことを考えると、ある程度の年齢になると病院勤務は厳しいという情報も出回っています。それで、新卒の段階でいったん病院を見ておこうと考えたことが、病院の採用増の背景にあると思います。

 条件面について言うと、勤務地などで差はありますが、都内の病院勤務だと当直を月1、2回して恐らく年収300万円台の前半くらいではないでしょうか。同じ病院勤務でも、看護師の方が夜勤の分だけ多いと思います。調剤薬局やドラッグストアは、当直がなくて年収400万円弱からスタートしますので、やはり給与水準に違いはありますね。

─調剤薬局やドラッグストアへの就職は、4年制時代より増えましたか。

松田 4年制時代は6割ぐらいが調剤薬局やドラッグストアに就職していたので比率は減っていますが、絶対数では少し増えました。調剤薬局に実習を受けに行って、そのまま薬局に就職した人もいます。実習で嫌になったという人もいますが、薬局での実習は採用の面ではプラスになっているでしょう。

 中でも旺盛なのは、ドラッグストアの採用です。最近はドラッグストアも調剤部門を積極的に展開しているので、大半が一般用医薬品(OTC薬)部門ではなく調剤部門への配属となり、仕事内容は調剤薬局に就職するのと大きくは違いません。今いる薬剤師がOTC薬をベースにした人たちなので、ドラッグストアが調剤のできる薬剤師を求める傾向はここ数年続くとみています。

─2期生の卒業によって全体の需要は充足しつつありますか。

松田 全く足りていません。想像以上に国試の合格率が低かったためです。病院は予定通りに採用できたけれど、調剤薬局などでは内定者の中に卒業延期者や不合格者が出て、目標の7、8割しか採用できなかったようです。昨年の国試の合格率が95%だったので、少しは厳しくなると思ってはいましたが、83%と大きく下がりました。採用担当者からは、「選考の際に学力テストを行った方がいい」といった声も出ています。

 エリアによっては、例えば東京・山手線沿線や横浜市、川崎市、さいたま市など、かなり充足しているところもあります。こういうところは余剰人員をどう調整していくのかが課題になります。それ以外の地域は全般に不足していますが、新卒は来年度まで取れないので、それまでは中途採用で補わざるを得ません。

 ただ、多くの企業で聞くのは、来年卒業する3期生の就職活動の出足が鈍いということです。1期生は6年制の最初ということもあって意識も高く、出足が速かったのですが、それに比べて、2期生、3期生はのんびりしていると、採用担当者らから聞きます。

─来年の採用状況の見通しは。

松田 病院の募集枠はこの2年間に比べてちょっと少なくなるとみています。メーカーは毎年一定の新卒採用を行ってはいますが、人気の高い企業は狭き門で、少し難しさが出てくるかもしれません。ですがドラッグストアはまだまだ人を必要としています。今年は募集に対して卒業延期などで不足した分があるので、来年も採用状況には大きな変化はないと思います。

 1期生は今のところほとんど退職しておらず、非常に定着が良いようですが、この傾向が今後も続くならば、新卒者に対する選考のハードルが上がる可能性はあります。ただ、薬剤師は女性が多い職種なので、結婚や出産などを機に辞めていく人が一定数出てきます。企業側も育児休暇や時短勤務の制度を充実させて、長期雇用できるよう努力していますが、家族のために時間を取りたいとか、転居などといった物理的な事情で辞めていく人がどうしても出てきます。このため、転職者の採用も一定の数字で続いていくのではないかと考えています。

─数年後には薬剤師数が過剰になるという見方もあります。

松田 その意見はよく耳にしますが、そんなにすぐに飽和時代が来るのかというのが実感です。調剤薬局やドラッグストアは新しい事業展開をどんどんやっているし、製薬企業だけでなく、化粧品会社やCROへの就職も増えています。規制緩和によって治験薬の保管が受託できるようになった物流企業など、薬剤師が働く場所も広がりつつあります。また、地方では薬剤師が依然、全く足りません。そういうことを考えると、少なくともこの5年ぐらいは薬剤師の雇用が不足することはないと思います。

 ただ、40代、50代で転職先を探そうとした場合に、昔だったらとりあえず薬剤師免許を持っていれば就職できたのですが、今後は新卒者が毎年出てきますから、転職者の枠は少し減っていく可能性があります。製薬企業のMR(医薬情報担当者)や研究者が、40代になって調剤薬局で働こうとしても少し難しくなるかもしれません。そういう意味では、調剤技術とか薬剤師免許を生かして就業をしようと思うなら、今後数年間が残されたチャンスといえるかもしれません。

 また、5年ぐらいは雇用は大丈夫だろうと言いましたが、では10年後にどうかというと、行政が何をするのかに影響される業界なので予測するのは難しい。ただ現在、調剤薬局もドラッグストアも在宅医療に積極的に取り組むところが出てきています。在宅のスキルを持った人材が必要になるので、その雇用が増えていくと思います。

─就職や転職の際に、どんなスキルがあれば有利でしょうか。

松田 調剤業務は今後さらに自動化されていくでしょうし、知識的な面も調べればすぐに出てくるようになるかもしれません。一方、薬局はサービス業ですから、一番求められるのは患者に接する際のコミュニケーションなどのヒューマンスキルだと思います。

 もう1つはマネジメントのスキルだと思います。特にこれは転職者に一番求められることだし、新卒者にとってもこのスキルを身に付けることで自分の価値を高められると思います。

インタビューを終えて

 6年制の2期目となる今年の卒業生の就職状況は、昨年に比べて変化したのか─。現場に近い方に聞くのが一番ということで、マイナビの松田氏にインタビューしました。10年後の予測が難しいという指摘にはうなずかされる一方で、行政施策の影響を大きく受ける職業ゆえの不安定さを改めて痛感します。1期生に比べて2期生、3期生が「のんびりしている」という指摘が“当たっていなかった”と言われるよう、今年、来年の卒業生には奮起してもらいたいところです。(橋本)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ