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特集:
「よく出る薬」は一覧表に 患者背景から腎機能を予測
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

 腎機能&処方チェックを日常業務に取り入れるにはどうすればよいのか。南日本薬剤センター薬局とメディオ薬局丸子店の取り組みを中心に、4つのステップで実践のコツを紹介する。

Step1

頻出薬剤は必ず確認、非内科処方は念入りに

 腎機能が低下した患者への投与に注意すべき薬剤は多いが、腎排泄型であっても安全域が広ければ用量調節は不要だ。処方箋を受け付けるたびに一つひとつの薬剤の添付文書を確認し、腎機能に応じた投与制限や用量調節の有無をチェックするのは現実的でない。

 そこで、まずやっておきたいのが、自分の薬局でよく出る薬剤のうち、投与時に患者の腎機能に注意すべき“要チェック薬剤”をあらかじめ抽出し、リストアップしておくことだ。

 日本腎臓病薬物療法学会は、腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤の投与量の一覧表を作成、学会のウェブサイト上で無料公開している。「少なくとも一覧表に掲載されている薬剤については、投与時に患者の腎機能を確認するよう心掛けてほしい」と同学会理事長の平田氏は話す。

 なお、同学会の会員に配布される学会誌には、さらに多くの薬剤について、腎機能低下時の投与量や尿中未変化体排泄率、生物学的利用率、代謝酵素などの情報を集約した一覧表が掲載されている。

 また、日本腎臓学会編『CKD診療ガイド2012』(同学会のウェブサイトで閲覧可能)にも、主な薬剤の腎機能低下時の投与量がまとめられた一覧表が付いており、参考になる。

 南日本薬剤センター薬局(鹿児島市)学術担当の近藤悠希氏は、腎機能に注意が必要な薬剤のうち、医師が見過ごしやすい薬剤として、マキサカルシトール外用薬(オキサロール軟膏他)やバラシクロビル(バルトレックス)、ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン水和物など)、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン水和物など)などを挙げる。これらは、皮膚科や整形外科、歯科など、日常診療で腎機能検査があまり行われない診療科でも処方される機会が多い。

「今後、薬局で入手した患者の腎機能に関する情報を、お薬手帳のシールに印字する仕組みを考案したい」と意気込む近藤氏。

 静岡県を中心に保険薬局を展開するメディオ薬局(本社:静岡県沼津市)では、同県中部エリアの6店舗で、店舗ごとによく出る薬剤を精査し、腎機能に応じた投与制限のある薬剤をリスト化。投薬台に敷いた透明のデスクマットの下など、薬剤師の目に留まりやすい場所に貼り、鑑査・投薬時にすぐにチェックできるようにしている(写真1)。

 リスト作成に当たって、腎機能に応じた適正用量は、各薬剤の添付文書や『改訂3版 腎機能別薬剤使用マニュアル』(じほう、2010年)を参考にしたという。発案者であるメディオ薬局丸子店(静岡市駿河区)管理薬剤師の鈴木寛氏は、「表を使っているうちに薬剤名が頭に入る上、減量の目安となるCCrの値も感覚的につかめてくる」と話す。

「腎機能チェックを心掛けるようになって、経時的に臨床経過を見ていく重要性を実感した」と話す鈴木氏。

OTC薬も要チェック

 さらに、取り扱っている一般用医薬品(OTC薬)にも目を向けておきたい。福井県薬剤師会薬事情報センターの矢野七恵氏は、腎機能に注意すべきOTC薬として、H2受容体拮抗薬や金属カチオンを含む胃腸薬、NSAIDsを含む解熱鎮痛薬や感冒薬などを挙げる。腎不全の患者では、食欲不振や胃もたれ、消化不良などの消化器症状を訴え、マグネシウムやアルミニウムなどを含む市販の制酸剤を連用するケースが少なくなく、連用によりこれらの金属が蓄積する恐れがあるという。

 ちなみに同センターでは、11年から福井大学医学部附属病院が処方箋に検査値を印字する取り組みを始めたことを受け、腎機能に関わる検査値の読み方などの基礎知識をまとめた資料を作成し、会員向けにウェブサイトで公開している。

 資料には、注意すべき医療用医薬品と腎機能別の投与量のほか、過量投与によって起こり得る主な副作用も併記した。これも、医師への疑義照会に、説得力を持たせるコツといえそうだ。

写真1 処方頻度の高い薬剤の適正用量を素早く確認するためのメディオ薬局の工夫

処方頻度の高い薬剤のうち、腎機能による用量調節を必要とする薬剤のリストを店舗ごとに作成。投薬台のデスクマットの下に貼り、すばやく確認できるようにしている。

メディオ薬局丸子店が作成した腎機能別投与量の一覧表。同店は内科診療所の近隣に位置するため、内科系の薬剤が多い。添付文書などに記載がない薬剤については、個別にメーカーに問い合わせた。CCrを横軸に取り、投与量の目安をグラフで表すことで、投薬時に一目で確認できる。

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Step2

4つのポイントで、腎障害リスクを予測

 一般に薬局では、医師や患者から検査データが提供されることは少なく、来局時に患者の腎機能を正確に把握することは難しい。だが、患者背景や併用薬をチェックすることで、患者の腎機能が低下している可能性を、ある程度推測することができる。近藤氏が挙げるチェックポイントは、(1)年齢、(2)性別・体格、(3)糖尿病や高血圧の病歴、(4)腎不全治療薬の有無─の4つだ(表3)。

表3  患者背景から腎機能を予測する4つの着眼点(近藤氏による)

 腎機能は、加齢に伴って多かれ少なかれ低下する。30歳を過ぎると、GFRは年に0.3~0.5mL/分ずつ低下するともいわれている。当たり前のことだが、処方箋を受け取ったら、まずは年齢を確認し、70歳以上の高齢者では腎機能低下を念頭に置いて処方鑑査を行う(症例1)。

症例1

年齢から腎機能低下を疑い、減量につながった例

(提供:南日本薬剤センター薬局・近藤悠希氏)

帯状疱疹のため、バルトレックス(一般名バラシクロビル塩酸塩 )を投与されたAさん。検査データを所持していなかったが、86歳と高齢のため、薬剤師が病院に検査値を確認した。すると、2カ月前に測定した血清Cr値が0.82mg/dLだったことが分かった。体表面積補正を外したeGFRは39.9mL/分、CG式によるCCrは38.9mL/分と算出されたため、バルトレックスの1日投与量を4錠(1日2回)に変更するよう医師に提案したところ、提案通りに変更された。

 「特に注意が必要なのは、小柄な高齢女性」と近藤氏は指摘する。処方医は、血清Cr値だけを見て、“腎機能正常”と判断することが少なくないからだ。筋肉量が少ない痩せ形の患者では、腎機能が低下していても、血清Cr値が上がらないことがある。また、年齢と血清Cr値が同じであっても、大柄な男性に比べて小柄な女性は体表面積が小さいため、薬物投与量の目安となるeGFR(mL/分)すなわちCCr(mL/分)は小さくなる。

 また、腎機能低下の大きなリスク因子となるのが、糖尿病と高血圧。「罹病期間が長く、多剤を併用している糖尿病患者では、腎機能が低下している可能性が高いと考えられる」と近藤氏。ACE阻害薬やARBは、降圧作用に加えて腎保護効果を期待して処方される場合もあるので、これらの薬が処方されているかどうかも参考になる。

 さらに、進行した腎障害の患者には、高リン血症や尿毒症の適応を持つ薬剤が用いられることが多い(表4)。これらの薬剤が処方されていたら、明らかに腎機能が低下していると分かるので、他科で処方された薬剤の投与量にも注意する必要がある。

表4 腎機能が低下した患者に用いられることの多い薬剤(近藤氏による)

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 ただし、院内処方だったり、患者がお薬手帳を所持していないケースもあるため、薬剤師が患者から併用薬の有無を聞き出すことが重要だ。これらの薬剤は形状や用法が特徴的であることから、近藤氏は、平易な言葉を使って患者に質問するようにしている。

Step3

血清Cr値を聞き出し、腎機能を素早く評価

 腎機能に応じた用量調節が必要な薬剤が、腎機能の低下が疑われる患者に処方されていると分かったら、次はいよいよ患者の腎機能を評価し、投与量が適切かどうかを確かめるステップだ。医療機関で血液検査結果を印字した紙が患者に渡されていることが多いので、まずは患者から聞き出すようにする。

 ただし、いきなり検査結果を尋ねるのではなく、意図をきちんと説明することが重要だ。「患者が医師に不信感を抱かないよう、『検査値を確認すると、○○さんに合った、より適正な投与量が調べられるのですよ』と説明している。それにより、患者も安心感が得られるようだ」と鈴木氏は話す。中には、一度薬局で検査値を見せたことで、次回以降は患者の方から積極的に検査結果を提示したり、検査値の推移について薬剤師に相談したりするケースもあったという。

 鈴木氏は、計算の手間を少しでも減らせるよう、CG式を変形し、年齢と性別による係数の一覧表を作成した(写真2)。これを使えば、電卓を使って乗除するだけでCCrを計算できる。腎機能低下が判明した場合は、薬歴の表書きにも必ず記載しておこう。

写真2 メディオ薬局丸子店で使用している係数早見表

患者のCCr(mL/分)を算出するためのCockcroft-Gaultの式を変形し、年齢と性別を固定係数として一覧表にまとめた。

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Step4

適正用量を明確にして、疑義照会をスマートに

 患者の腎機能に応じて投与量を減らす必要があると判断したら、疑義照会を行う。この時、ほとんどのケースで処方医は腎臓専門医ではないため、薬剤師が具体的な用法・用量まで提案する必要がある。腎機能に応じた適正用量を調べる際は、前述の日本腎臓病薬物療法学会のウェブサイトや、『CKD診療ガイド2012』などの一覧表を活用しよう。

 「患者から検査値が聞き出せなかった場合は、疑義照会で血清Cr値を確認すると同時にCCrを計算して、必要に応じてその場で減量を提案することもある」と近藤氏は話す。

 メディオ薬局丸子店では、薬局ごとに作成した薬剤リストを、近隣の診療所に事前に配布。医師に対し、過量投与によって起こり得る副作用や用量調節の必要性を説明した上で、疑義照会を行っている。ただ、「腎機能に応じた減量によって安全性は担保されるが、逆に有効性が確保できなくなる懸念はある」と鈴木氏。CG式で算出したCCrでは、腎機能を実際よりも低く見積もってしまう可能性があるためだ。

 医師が検査結果だけでなく患者の経過全体を見て処方を決定していることを肝に銘じ、一方的な疑義照会にならないための配慮も必要だ。

症例2

薬剤師の再三の疑義照会により、減量につながった例

(提供:福井県薬剤師会薬事情報センター・矢野七恵氏)

福井大学病院に通院中のBさんは、ザイロリック(アロプリノール)を継続して服用してきた。ある日、処方箋に印字された血清Cr値が6.25mg/dLと極めて高値であることに薬剤師が気づき、疑義照会を行って減量を提案したが、そのまま継続するよう言われた。6週間後の再来時も同様の処方で、血清Cr値は2.22mg/dLと依然高値だったため、薬剤師は再び減量を提案したが、そのまま継続するよう言われた。しかし、さらに4週間後の再来時には、ザイロリックは100mg/日に減量されていた。

応用編

電子薬歴と連動させて、注意喚起を徹底

 南日本薬剤センター薬局では、電子薬歴と連動した「腎排泄型薬剤の処方鑑査・疑義照会支援システム」を独自に開発し、腎機能チェックに対する薬剤師の意識付けに活用している(写真3)。

 同システムでは、受け付けた処方箋に対象薬剤が投与されていると、電子薬歴を開いたときに注意喚起のポップアップ画面が表示される(写真3【a】)。薬剤師の見落としを防ぐため、ポップアップ画面は、「Shift」キーと「F12」キーを同時に押さないと消せないようにした。腎機能は、エクセルの演算機能を利用して素早くチェックできるようにし、腎機能低下の程度をシステムに入力すると、適正用量が自動的に表示される(写真3【b】)。

 システムに登録されている薬剤は、抗菌薬のメシル酸ガレノキサシン水和物(ジェニナック)、シタフロキサシン水和物(グレースビット)、レボフロキサシン水和物(クラビット他)、抗ウイルス薬のアシクロビル(ゾビラックス他)、オセルタミビルリン酸塩(タミフル)、バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス)、抗凝固薬のダビガトラン(プラザキサ)─の7成分。「多すぎると、かえって重要な薬剤を見落とす恐れがあるため、特に注意すべき薬剤や、救急外来で処方される薬剤に絞った」と近藤氏は説明する。

 同薬局では従来、腎機能に関連する疑義照会は年間で10件ほどだったが、システム導入後は1日5件ほどに増加。そのうち約8割で適正用量に減量する処方変更が行われているという。「採血を行わない医療機関でも役立ててもらえるよう、今後は患者や病院から聞き取った腎機能に関する検査値を、お薬手帳のシールに印字する仕組みを考案していきたい」と近藤氏は話している。

写真3 南日本薬剤センター薬局の電子薬歴を利用した腎機能チェック支援システム

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