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副作用症状のメカニズム
痺れ
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 50歳男性。大腸癌でmFOLFOX6のレジメンによる外来抗癌化学療法を受けている。治療後、帰宅すると熱が出て喉が痛くなってきたため、冷却枕を使って寝ていたが、口の周りが痺れ、頭が痛くなってきたため、奥さんが鎮痛薬を求めて来局された。

痺れのメカニズム

 痺れは、じんじん、ぴりぴり、むずむずとした不快な感覚のほか、触った感じが分からない、ずっと冷たい・温かい、力が入らないなどの症状がある。痺れの機序は、正座による足の痺れで考えると分かりやすい。折り曲げた下肢の動脈が圧迫されると、太い神経線維に供給される血液が途絶え、触覚がなくなる。ただし、虚血に強い細い神経線維は痛みなどの感覚を遅れて脳に伝える。

 これらの、痛い(痛覚)、熱い・冷たい(温度覚)、押されている(圧覚)、振動している(振動覚)、体のどこに(位置覚)、触れている(触覚)などの情報を脳に伝えるのは感覚神経である。感覚神経は、痛覚、温度覚、圧覚、振動覚、位置覚、触覚の順に太く、伝達速度は速いが、圧迫や虚血に対して弱い。痛覚などの細い神経線維は、伝達速度は遅いが、圧迫や虚血に比較的強い。

 この、神経の太さによる伝達速度や虚血に対する強さ、伝達する感覚の違いによるアンバランスな感覚が、「痺れ」として認識される(参考文献1)。

 痺れを生じさせるのは、神経が傷つくことで脱髄部や傷害部位から、異所性の自発放電と刺激に対する過敏反応が生じるためである(参考文献2)。感覚器から末梢神経、脊髄、そして大脳に伝わる中枢神経経路の途中で、この自発放電や過敏症が表れ、しびれが起こる。

 このような末梢神経障害を「ニューロパシー」と呼ぶ。末梢神経の感覚神経、運動神経、自律神経それぞれが単独で障害されたものを「単ニューロパシー」という。実際には運動性や自律性を併発する場合が多く、これを「多発性ニューロパシー」と呼ぶ。

 感覚性ニューロパシーは、主に脊髄から出る感覚神経がつかさどる皮膚感覚の障害によって起こる。同時に聴覚が障害される場合もある。患者が感じる症状は、手袋靴下型と呼ばれ、手と足の感覚低下もしくは感覚過敏(鈍痛、ちくちく刺される感じなど)、異常感覚(びりびり感、むずむずと虫がはっている感じ、やけどのようなひりひり感、ずっと温かい、ずっと冷たいなど)などがある。

 運動性ニューロパシーでは筋力の低下や緊張性の低下、腱反射の減退などを併発する。自律神経性ニューロパシーでは、起立性低血圧や発汗異常、排尿異常、頻脈や徐脈、インポテンスや下痢、便秘などの自律神経症状が起こる。末梢神経障害は、次のような原因が考えられる。

(1)圧迫
 疾患としては、手根管症候群が代表的である。手指の先端の知覚障害やしびれが主な症状である。甲状腺機能低下症に手根管症候群が併発することがあるが、これは手根管部にムコ多糖類の蓄積が起こり、神経を圧迫するためと考えられている(参考文献3)。悪性腫瘍やアミロイド、ポルフィリンの沈着などに伴う神経圧迫によっても起こる。

(2)循環不全
 代表的な例は、糖尿病による末梢神経障害である。糖尿病の進展によって微小血管障害が起こり、末梢神経への血液供給が障害される(参考文献4)。同時に、運動神経や自律神経が障害され、多発性ニューロパシーが起こる。初発症状はしびれや振動覚の低下で、進行すると自律神経障害の症状(焼け付くような疼痛など)を伴う。

 循環不全は、疲労物質の停滞や低酸素状態も引き起こすため、慢性閉塞性動脈硬化症などでは、歩行中に痺れが生じて歩けなくなる「間欠跛行」が起こることがある。

 緊急の対応を要する痺れとしては、脳血管障害によるものがある(参考文献5)。

 過換気症候群でも四肢の痺れを訴えることが多い。これは、過換気による酸素不足が原因である。

(3)栄養障害
 神経細胞も栄養がなければ死んでしまう。エネルギー源のブドウ糖を使うにはトランスアミナーゼと補酵素(ビタミンB群)が不可欠となる。ビタミンB1が不足すると脚気が起こる。B12は髄鞘を形成するための必需品で、不足すると軸索の変性を起こす。γアミノ酪酸(GABA)はグルタミン酸脱炭酸酵素によって合成されるが、この酵素活性にはビタミンB6が必要である。アルコールはビタミンB6を分解することから、過度の飲酒は末梢神経障害を起こしやすい。

 偏食によるビタミンB1、B6、B12やニコチン酸などの欠乏は神経の変成を起こす。胃全摘手術後に、これらの栄養素の吸収不良が5~6年以上続くと、末梢神経障害が起こる。

(4)神経への直接障害
 結核菌、ライ菌、ヘルペスウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などの感染で、しびれを訴えることがある。これらの細菌やウイルスは、神経細胞やその周囲の血管を傷害する。

 また、甲状腺機能低下症では多発性ニューロパシーを併発することがある。これは、甲状腺ホルモンが不足して軸索変性が起こるためと考えられている(参考文献5)。ギラン・バレー症候群では、運動神経と末梢神経が障害されるが、カンピロバクター感染症との関連が注目されている(参考文献4)。

(5)免疫反応
 膠原病では免疫反応により血管炎を併発することが多い。これが循環不全を引き起こし、痺れが起こる。

(6)電解質異常
 副甲状腺機能低下による低カルシウム血症では、口周囲や指先の痺れやぴりぴり感が出現する。症状が進むと、手指の痙攣が出現することもある。これは、本連載第30回の「痙攣」(2013年3月号)で解説した、低カルシウム血症によるNaチャネルの過敏状態が末梢神経で起こるために生じる。高カリウム血症でも、同様の機序で口周囲や四肢の痺れを起こす。

(7)その他
 うつ病などでも痺れを訴える。

副作用による痺れのメカニズム

 副作用で痺れが起こるのは、前述の(3)栄養障害、(4)神経への直接障害、(5)免疫反応、(6)電解質異常─が多い。(1)圧迫、(2)循環不全、(7)うつ病などによるしびれは、医薬品の投与で、これらが二次的に発生した場合には起こり得る。

(3)栄養障害
 イソニアジド(商品名イスコチン他)は、ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害し、ピリドキサールリン酸とキレートを形成するため、体内のB6の不足が起こり、痺れが起こる(参考文献6)。B6の補給で予防が可能である。足のしびれ、ちくちく感、筋力低下や下腿の痛みを生じる。薬の使用量に依存する(参考文献7)。 

(4)神経への直接障害
 副作用で障害される神経の部位は、図1の脊髄の後根の神経節付近(a)、感覚神経や運動神経の神経細胞体(b)、軸索(c)、髄鞘(d)である。脊髄後根の神経節付近は血液神経関門が存在せず、神経細胞が薬に曝露され神経細胞体の変性が起こりやすい。末梢側のみならず中枢神経側にも影響を及ぼす。特に、脊髄後根から出ている感覚神経がこの障害を受けやすい。副作用では、軸索変性が最も多い。変性が細胞体にまで到達しなければ、末梢神経の細胞の再生は可能である。自律神経節も血液神経関門がなく、薬剤に曝露されやすく、様々な障害が起こる。

図1 神経細胞

 神経軸索の障害が認められている薬に、硫酸ビンクリスチン(オンコビン)などのビン化アルカロイド、パクリタキセル(タキソール他)、ドセタキセル(タキソテール他)、コルヒチン(コルヒチン他)、フェニトイン(アレビアチン他)、イソニアジド、エタンブトール(エサンブトール)、メトロニダゾール(アスゾール)などがある。

 ビンクリスチンは、使用開始2カ月以内に90%が末梢神経障害を発症するとされており、運動神経や自律神経も障害されることが多い。

 HMG-CoA還元酵素阻害薬でも、コエンザイムQ10の低下による抗酸化作用の減弱などにより軸索障害が起こることが知られている(参考文献6)。

 神経細胞体の障害が知られているものに、シスプラチン(ランダ他)、カルボプラチン(パラプラチン他)、オキサリプラチン(エルプラット)などの白金製剤がある。ミトコンドリアに障害を与え、後根の神経節にある細胞体のアポトーシスを引き起こす。オキサリプラチンは特に発現頻度が高く、85%と報告されている(参考文献8)。脊髄後根に蓄積されることも分かっており、投与サイクルが増すと重症化する(参考文献8)。ボルテゾミブ(ベルケイド)も同様に後根神経節細胞に障害を与えると考えられており、末梢神経障害の発症率は、30~47%と報告されている(参考文献9)。

 HIV感染症治療薬もミトコンドリア機能障害を起こすと考えられている。髄鞘の障害が知られている薬には、アミオダロン塩酸塩(アンカロン他)がある。サリドマイド(サレド)でも50%程度に発現するとされている(参考文献8)。

(5)免疫反応
 免疫反応が関わっていると考えられているものには、タクロリムス(プログラフ他)、レフルノミド(アラバ)、インターフェロン製剤などがある。

(6)電解質異常
 オキサリプラチンは、その代謝物であるオキサレートが細胞内でCa2+イオンとキレートを形成する。すると、細胞内のCa2+濃度が低下し、Naチャネルを開口できなくなる。この結果、Naの流入が阻害されて脱分極が起こらず、神経伝達が阻害される(参考文献10)。

 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、カリウム保持性利尿薬などで高カリウム血症が起こると、神経細胞膜の電位が下がり、細胞の興奮性が低下することで、口唇や四肢の痺れや異常感覚を起こす。

図2 薬で痺れが起こるメカニズム

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* * *

 最初の症例を見てみよう。患者は、化学療法後、発熱があったため、解熱目的で冷却枕を使って安静にしていた。患者が受けているmFOLFOX6のレジメンは、フルオロウラシル(5-FU)とL-ロイコボリン(レボホリナート)、オキサリプラチンを同時併用する。オキサリプラチンの副作用に、四肢や口周囲の痺れ、咽頭の締め付け感などがあり、冷感刺激による末梢神経障害の悪化が知られている。患者は、冷たいものを食べたり触ったりしないように気を付けていたが、通常、対症療法として用いられる冷却枕が、末梢神経障害の悪化につながることを考慮していなかった。

参考文献
1)瀬川文徳 Nursing College;2011(3):18-21.
2)長谷川修 治療 2011;93:122-7.
3)大場健司 綜合臨床 2006;9:2294-5.
4)森田洋ら 治療2001;83:1965-71.
5)吉田和樹ら レジデントノート、2009;10:1655-60.
6)『重篤副作用疾患別対策マニュアル 末梢神経障害』(厚生労働省)
7)沖祐美子ら 日本内科学会雑誌 2006;96:1591-7.
8)Tisdale JE, et al. 『Drug-Induced Deseases,Peripheral Neuropathy』(ASHSP、2010)
9)Cata JP,et al.J Pain 2007;8:296-306.
10)森ひろみ 消化器外科NURSING 2011;16:1221-6.

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