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特集:
用量調節が必要な「薬」と「患者」の見極め方
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

 患者の腎機能に応じて減量すべき薬剤の多くは、腎排泄型薬剤だ。用量調節の基本的な考え方と、腎機能に関わる検査値の読み方を復習しよう。

 患者の腎機能に応じた用量調節を行う際は、「薬物の体内からの消失(総クリアランス)に占める腎臓の寄与度」と、「患者の腎機能の低下の度合い」の2つを評価することが重要だ。

 まず、腎臓の寄与度について整理しよう。薬物は、肝臓で代謝されて薬効を失い、胆汁中や尿中に排泄される「肝代謝型薬剤」と、代謝を受けず、薬効を持つ未変化体(活性体)のまま尿中に排泄される「腎排泄型薬剤」とに大別される。この2つを分けるのが、「腎臓の寄与度」だ。

 腎臓の寄与度は、添付文書やインタビューフォームに書かれている「尿中未変化体排泄率」を見れば分かる。一般に、腎臓の寄与度が50%以上の薬剤は、腎機能に応じた減量を考慮すべきとされている。

 図1は、ファモチジン(ガスター他)を例に、腎臓の寄与度、患者の腎機能、適正投与量の関係を大まかに示したもの。同薬の尿中未変化体排泄率(静注薬)、つまり腎臓の寄与度は約80%。残りの20%は、腎機能によらない部分だ(図1の網掛け部分)。

図1 腎機能および腎臓の寄与度と適正投与量の関係(静注薬の尿中未変化体排泄率80%のファモチジンの場合)

平田氏提供の図を基に編集部で作成。

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 健康な人の腎機能をクレアチニンクリアランス(CCr、後述)で100mL/分とすると、CCrが50mL/分の患者の場合、腎機能は50%に低下していることになる。その場合、総クリアランスは、「20%+80%×0.5=60%」。つまり、この患者は、ファモチジンを体内から消失させる力が健康な人の60%しかないというわけだ。同薬の常用量は40mg/日なので、この患者への適正用量は「40 ×0.6=24mg/日」となる。ガスターの添付文書には、CCrが30mL/分超、60mL/分未満の患者に対する投与量の目安として、「1回20mgを1日1回」または「1回10mgを1日2回」と記載されている。

経口薬は生物学的利用率も考慮

 ここで注意が必要なのは、経口薬の腎臓の寄与度と尿中未変化体排泄率の関係だ。経口薬は、消化管で吸収されてから全身を循環する。この時、薬剤によっては、吸収されずにそのまま糞便中に排泄されたり、肝臓や小腸で一部が代謝されること(初回通過効果)がある。そのため、経口薬の総クリアランスに占める腎臓の寄与度は、尿中未変化体排泄率だけでなく、生物学的利用率(バイオアベイラビリティー)も考慮しなければならない。ちなみに静注薬の場合は、投与された薬物がそのまま全身を循環するため、腎臓の寄与度は尿中未変化体排泄率と一致する。

 例えば、アシクロビル(ゾビラックス)の尿中未変化体排泄率は、静注薬では68.6~76.0%と高いのに対し、経口薬では12.0~25.0%と低い。これは、経口薬の生物学的利用率が10~20%と低いためだ。

 なお、アロプリノール(ザイロリック)は、尿中未変化体排泄率が約10%と低いが、活性代謝物のオキシプリノールの尿中排泄率は約74%と高いため、腎機能が低下した患者では、活性代謝物の血中濃度が上昇し、副作用を起こす恐れがある。平田氏は、活性代謝物の蓄積が問題となる薬剤として他に、ジソピラミド(リスモダン他)、グリベンクラミド(オイグルコン他)、モルヒネ(モルヒネ塩酸塩/硫酸塩など)、ミダゾラム(ドルミカム他)、リスペリドン(リスパダール他)などを挙げる。

血清Cr値と体重で腎機能を評価

 続いて、患者の腎機能に関する検査値の読み方を見ていこう。

 腎機能の指標は、1分間に糸球体で濾過される血漿量を示す糸球体濾過量(GFR)。GFRは直接測定できないので、CCrや推算糸球体濾過量(eGFR)といった検査値で代用する。

 CCrは、血清クレアチニン(Cr)値、年齢、体重から、「Cockcroft-Gault(コッククロフト・ゴールト)の式(CG式)」を使って算出する(表1)。一方、eGFRは、血清Cr値と年齢から、「日本人のeGFR推算式」を使って算出する。eGFR推算式は、様々な学会や製薬会社がインターネット上で計算できるシステムや早見表を公開している。

表1 腎機能の評価方法

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 ただし、CCrの単位は「mL/分」であるのに対し、eGFRの単位は「mL/分/1.73m2」である点に注意が必要だ。

 この推算式で算出されるのは、体表面積が1.73m2(身長170cm・体重63kg)の標準体格に合わせて補正したeGFR(mL/分/1.73m2)。医師が腎機能を評価し、腎疾患を診断する際に使う。通常、90(mL/分/1.73m2)以上の場合は、正常と見なされる。

単位が「mL/分」であることを確認

 一方、薬剤の適正投与量には、患者の腎血流量が関わってくる。腎血流量は体格に比例するので、用量調節を行う上では、CCr(mL/分)または体表面積補正を外したeGFR(mL/分)を用いる必要がある。CCrと体表面積補正を外したeGFR(mL/分)は理論上は同等であり、相互に置き換え可能だ。ただし、計算式の特性上、患者の背景によって多少の誤差が生じる。

 例えば、血清Cr値が1.1mg/dLで、身長145cm・体重40kg(体表面積1.27 m2)の70歳女性の場合、推算式を用いて算出したeGFRは38.2(mL/分/1.73m2)だが、体表面積補正を外したeGFRは、「38.2×1.27/1.73=28.0(mL/分)」となる。CG式から算出したCCrは30.1(mL/分)となる。

 薬局で外来患者の腎機能を評価する際は、より簡便に算出できるCCr(mL/分)がよく用いられる。医療機関によっては、血清Crの測定と同時にeGFR(mL/分/1.73m2)を算出することもあるが、この値を投与設計に用いる際は、体表面積補正を外したeGFR(mL/分)を求めるようにしたい。

 なお、血清Cr値の基準値はおよそ0.5~1.1mg/dLとされ、腎機能の低下に伴って上がる。ただし、Crは筋肉内で合成されるので、筋肉量が少ない高齢患者では、腎機能が低下しても血清Cr値が上がらないことがある。

豆知識(1)

外用薬による腎障害

 患者の腎機能に注意が必要なのは、静注薬や経口薬の投与時だけではない。活性型ビタミンD3(VD3)外用薬による腎毒性の症例が報告されている。

 活性型VD3は、小腸からのカルシウムの吸収を促進する作用を持つため、高カルシウム(Ca)血症を来すことがある。重篤な高Ca血症は、輸入細動脈の収縮による腎血流量低下や、腎実質内のCa塩沈着を引き起こし、腎障害を招く恐れがある。

 活性型VD3外用薬は、尋常性乾癬や掌蹠膿疱症などの患者に対し、長期間にわたって投与されることが多い。「活性型VD3外用薬を使用中の患者には、血清Ca値や血清クレアチニン(Cr)値を定期的に測定しているか確認するとともに、CaやVDのサプリメントを摂取しないよう指導すべき」と平田氏は話している。

豆知識(2)

RA系阻害薬でGFRが低下!?

 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、輸出細動脈を拡張することで、糸球体内圧を下げる。この薬理作用は、長期的には腎不全の進行抑制につながることから「腎保護作用」とも呼ばれ、高血圧や糖尿病性腎症の患者に用いるケースが増えている。

 これらのレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬の投与開始直後は、糸球体内圧が下がることで糸球体濾過量が減るため、見かけ上、一時的にGFRが低下することがある。

 ただし、高齢者に多い動脈硬化性の腎動脈狭窄症の患者では、アンジオテンシンIIは輸出細動脈を収縮させてGFRを維持する方向に働いていることから、RA系阻害薬でこの作用を抑えると、腎虚血を引き起こす恐れがある。そのため、『CKD診療ガイド2012』では、高齢者にRA系阻害薬を投与する場合は、少量から開始し、4週間~3カ月の間隔で徐々に増量するよう記されている。

豆知識(3)

肝代謝型薬剤の相互作用にも要注意

 痛風発作の抑制に用いられるコルヒチン(コルヒチン錠0.5mg「タカタ」)は肝代謝型薬剤だが、肝障害または腎障害のある患者には慎重投与となっている。腎障害患者で、血中濃度半減期の延長が報告されているからだ。

 また、同薬は「肝臓または腎臓に障害がある患者で、肝薬物代謝酵素チトクロームP(CYP)3A4を強く阻害する薬剤またはP糖蛋白を阻害する薬剤を服用中の患者」に対しては禁忌。コルヒチンは主にCYP3A4で代謝され、P糖蛋白の基質でもある。そのため、排泄能が低下した腎障害患者がコルヒチンとこれらの酵素の阻害薬を併用すると、代謝も阻害されてコルヒチンの血中濃度が高まり、中毒を起こしやすくなる恐れがあると考えられる。

CKD患者には“明るい服薬指導”を

 「CKD患者の透析導入や心血管死を防ぐことも、薬剤師の重要な役割」と、熊本大学薬学部の平田氏は強調する。

 日本腎臓学会は2012年、プライマリケア医向けに診療指針を示した『CKD診療ガイド2012』を発表。GFRに加えて、原疾患や蛋白尿の区分で重症度を分類したのが特徴だ(表2)。

 CKDの治療は、血糖と血圧のコントロールが中心となる。「糖尿病性腎症の患者では、腎機能の低下によりインスリンの半減期が延長するため、低血糖が起こりやすいことを念頭に置く」と、中山寺いまいクリニック(兵庫県宝塚市)院長の今井圓裕氏は話す。

 また、春から夏にかけては、気温の上昇による血管拡張や脱水を来しやすく、過剰降圧による急性腎障害が起こりやすくなるという。上田医院の上田氏は、「肥満で糖尿病性腎症の患者や、末期腎不全の患者を除けば、多くのCKD患者で水分摂取制限は不要。むしろ脱水を防ぐためにこまめに水分を取るよう指導してほしい」と話す。

 健診などで早期に発見されたCKDの場合は、自覚症状がないため、服薬コンプライアンスが低下しがち。そのような患者に対しては、「将来起こり得る透析や心血管死亡の恐ろしさを強調するのではなく、早期発見できたメリットを伝え、患者が前向きに治療に取り組めるような“明るい服薬指導”を心掛けてほしい」と、平田氏はアドバイスしている。

表2 CKDの重症度分類(日本腎臓学会編『CKD診療ガイド2012』を基に編集部で一部改変)

重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。緑のステージを基準に、黄、オレンジ、赤の順にステージが上がるほど、死亡、末期腎不全、心血管死亡のリスクも上昇する。

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