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医師が処方を決めるまで
排尿障害
日経DI2013年5月号

2013/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年5月号 No.187

講師
辻井 俊彦
(東京都立大塚病院[東京都豊島区]泌尿器科部長)

講師から一言
 30年以上にわたり医療連携を積極的に行ってきた東京都立大塚病院。同院泌尿器科部長の辻井氏は、前立腺癌に関する患者手帳「私のカルテ」などを使い、地域の医療機関と協力した診療を進めている。「ここ数年間で、新薬の開発や既存薬の適応拡大などで排尿障害の薬物療法は非常に進歩しています。低侵襲の手術も広まっているので、排尿障害で悩んでいる患者には、泌尿器科専門医への受診を勧めてください」。

 排尿障害は、蓄尿(腎臓で産生された尿をためること)もしくは排尿(たまったら体外に排出すること)が障害されることをいう。

 その症状はまとめて下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)ともいい、(1)蓄尿症状、(2)排尿症状、(3)排尿後症状─の3つに分類される。

 蓄尿症状には、頻尿、尿意切迫感、尿失禁などがある。排尿症状には尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延などがあり、排尿後症状には、残尿感と排尿後尿滴下がある。

 排尿障害に対する薬物治療では、蓄尿および排尿の生理を理解しておくと分かりやすい。下部尿路には図1のように、膀胱体部(排尿筋)と膀胱三角部および膀胱頸部(内尿道口)、尿道があり尿道の周囲には前立腺(男性のみ)と外尿道括約筋がある。

図1 下部尿路と受容体の分布

 主に副交感神経が支配する膀胱排尿筋にはムスカリン受容体(主にM2、M3)が多数分布するが、交感神経アドレナリンβ受容体(主にβ3)も分布する。一方、交感神経が優位な膀胱頸部と前立腺にはアドレナリンα受容体(主にα1)が密に分布している。また随意筋である外尿道括約筋の神経-筋伝達は体性神経とニコチン受容体を介している。

 蓄尿期には交感神経が優位なため、排尿筋は弛緩し、膀胱出口部以下は緊張して閉じている。反対に排尿期では副交感神経が優位となって、排尿筋は収縮し、膀胱出口部以下はこれと協調して弛緩するため、排尿が可能となる。

 このような生理機能に基づき、蓄尿症状に対しては、排尿筋収縮を抑制する抗コリン薬やβ3刺激薬、平滑筋弛緩薬、三環系抗うつ薬、あるいは膀胱出口部の抵抗を強めるβ2受容体作動薬や三環系抗うつ薬などを用いる。

 一方、排尿症状に対しては、排尿筋収縮を増強するコリン作動薬やコリンエステラーゼ阻害薬、または膀胱出口部抵抗を減弱させるα1遮断薬、5α還元酵素阻害薬、抗男性ホルモン薬などを投与する。

 ただし、蓄尿と排尿は密接に関連しており、前立腺肥大症や過活動膀胱の一部は、蓄尿症状と排尿症状が併存するため、両者のバランスを考慮した薬剤選択が求められる。

 本稿では、排尿障害の原因として患者数の多い前立腺肥大症、過活動膀胱、夜間頻尿、尿失禁の処方例を解説する。

軽症の前立腺肥大症は、α遮断薬で1~2週間で効果みる

 最初に紹介するのは、比較的初期の前立腺肥大症の処方例である。

 この患者は50歳の男性で、「ここ数カ月、寝ている間にトイレに行きたくなり、夜中に1~2度目が覚めるようになった」と訴えて、外来を受診した。また、「排尿の勢いも前よりも悪いような気がする」という。残尿感はない。

 初診時の検査では、血清PSA(前立腺特異抗原)値は1.2ng/mLと低く、前立腺体積は19cm3、国際前立腺症状スコア(I-PSS、表1)は7点(軽症)、QOLスコアは4点、尿流量検査で最大尿流量率は15.0mL/secで、残尿は10mLだった。軽症の前立腺肥大症と診断し、α1受容体遮断薬のハルナール(一般名タムスロシン塩酸塩)を処方した。

表1 国際前立腺症状スコア(I-PSS)とQOLスコア

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 ハルナールの代わりに、フリバス(ナフトピジル)を投与することもある。前者はα1受容体サブタイプAに、後者はDに比較的選択性が高く、頻尿などの蓄尿症状の強い患者にはフリバスがより有効とされるが、両者ともA、Dいずれのサブタイプにも作用し、その差は小さい。

 α1受容体のサブタイプAにのみ高い選択性を持つユリーフ(シロドシン)を初診時から投与するという考え方もある。しかし、実際の臨床ではユリーフはハルナールやフリバスの無効例でも有効なことをしばしば経験しており、「次の選択肢を残しておく」という考えから、私はまず、ハルナールやフリバスを投与することが多い。また、ユリーフには副作用として射精障害が高頻度に見られるので、処方に際しては必ず患者にあらかじめ説明している。

 いずれのα1遮断薬も1~2週間以内に患者自身が効き目を実感できることが多い。この患者は1カ月後の再診時に「夜中目が覚めないでぐっすり眠れており、尿の勢いもよくなった」と話していたので、継続処方とした。

 なお、α1遮断薬でしばしば認められる立ちくらみや動悸、めまいといった副作用などが見られた場合は、減量したり、こうした副作用がほとんどないエビプロスタットに変更している。

中等症以上の肥大で、症状強ければ、α遮断薬とアボルブを併用

 2番目の症例は、中等症の前立腺肥大症である。患者は60歳男性で、夜間頻尿と尿勢の低下を数年前から自覚していたものの受診せず、内科診療所での健診をきっかけに当院を紹介され受診した。

 初診時のPSA値は2.5ng/mLと低く、前立腺体積は60cm3、I-PSSは18点(中等症)、QOLスコアは4点、最大尿流量率は8.0mL/secで、残尿は20mLと少なかった。こうした結果から、中等症の前立腺肥大症と診断した。

 前立腺が比較的大きく、症状も中等症であることから、α1遮断薬のユリーフに5α還元酵素阻害薬のアボルブ(デュタステリド)を併用した。

 アボルブは、テストステロンをアンドロゲン活性のより高いジヒドロテストステロンに変換する1型および2型の5α還元酵素を阻害する。これにより、前立腺細胞内でのジヒドロテストステロンの産生が抑制され、肥大した前立腺が縮小し、下部尿路症状・尿流が改善する。服用開始から作用の発現まで2、3カ月かかるとされるが、逆に1~2年の投与で前立腺が縮小し、症状が緩和されたら、アボルブをいったん中止することも可能である。

 このほか、以前から使われている黄体ホルモン剤のクロルマジノン酢酸エステル(商品名プロスタール他)やアリルエストレノール(パーセリン)も抗アンドロゲン作用を持ち、アボルブと同様に前立腺縮小効果が期待できる。

 この患者は、服用開始から1カ月後には尿意による中途覚醒はなくなり、「尿の勢いも戻ってきた」とのことだった。継続処方とし、1年半後には、前立腺体積は38cm3まで減少していたため、アボルブを中止し、ユリーフのみとした。

 なお、アボルブの投与で血清PSA値は約50%減少するとの報告があるため、投与前にPSA値を測定し、併せて直腸診や超音波検査などで前立腺癌が否定されていることが重要である。添付文書では、投与前、投与後も定期的に直腸診や他の前立腺癌の検査を実施する旨が記載されている。

 患者によっては、頻尿や尿意切迫感が強く過活動膀胱を合併しているケースもある。こうした場合、軽症ではフラボキサート塩酸塩(ブラダロン)を併用したり、中等症以上では残尿が少ないことを確認して抗コリン薬を追加している。

 抗コリン薬で過活動膀胱に保険適応があるものには、バップフォー(一般名プロピベリン塩酸塩)、ベシケア(コハク酸ソリフェナシン)、デトルシトール(酒石酸トルテロジン)、ウリトスおよびステーブラ(イミダフェナシン)、トビエース(フェソテロジンフマル酸塩)がある。抗コリン薬の効果が不十分であったり、副作用で減量が必要な場合はβ3刺激薬のベタニス(ミラベグロン)の併用を検討する。ただし、本薬は動物実験(ラット)で、精嚢、前立腺および子宮の重量低値あるいは萎縮などの生殖器系への影響などが認められているので、生殖可能な年齢の患者への投与は原則として避けるべきである。

 患者の頻尿の訴えには注意が必要だ。大量の残尿があったり、不完全尿閉を来している患者は「尿が頻繁に漏れる」とか「トイレに行きっぱなしである」と訴えることもあり、過活動膀胱の症状と間違えて尿閉を見逃す危険がある。このため、抗コリン薬投与後に頻尿が悪化したとか尿勢が低下したという話を聞いたら、ぜひ処方医に情報提供してほしい。また、緑内障の患者には禁忌であるため、積極的に疑義照会して、緑内障でないことを確認してほしい。

頻尿か多尿か、排尿日誌で判断

 次に女性の症例を紹介する。

 この患者は70歳で、「最近、夜トイレに3 ~4回起きることが多くなった」と訴えて受診した。既往歴として、2年前に高血圧と診断され、近所の内科診療所で処方された、カルシウム拮抗薬のアムロジン(アムロジピンベシル酸塩)を服用している。

 排尿障害の患者で多く見られる夜間頻尿では、多尿の有無を見極めることが重要であり、泌尿器科では排尿日誌(表2)を記録してもらっている。

表2 排尿日誌の記載例

※排尿日誌は日本排尿機能学会のウェブサイトからダウンロード可能

 排尿日誌は、起床および就寝時刻と、毎回の排尿時刻、排尿量を、3日間程度記録するものである。

 こうして記録された1日の尿の総量(24時間尿量)のうち夜間尿量(就寝後から起床前の尿量)の占める割合を「夜間多尿指数」という。この数値が、高齢者で0.33以上、若年者で0.2以上であると、夜間多尿と判断する。

 また、24時間尿量が、「40(mL)×患者の体重(kg)」以上かどうかも多尿の基準である。これらに該当する場合は、基本的に抗コリン薬などの頻尿治療薬による泌尿器科的治療よりも、背景にある内科疾患の治療や生活指導がまず求められる。

 本症例では、初診時から排尿日誌を3日間つけてもらったところ、24時間尿量は2000~2500mLで、夜間多尿指数は0.5前後だった。患者によると、内科医から「血液をさらさらにするために、水分を多めに取るとよい」と言われていて、お茶を頻繁に飲んでいるとのことだった。

 患者の体重は40kgであるので、24時間尿量は1500mL、夜間多尿指数は0.3を目標にすることとし、患者には水分摂取量をこれまでの半分程度に減らすよう指導した。

 また、夜間の尿量を日中に“シフト”させるため、再診時には、利尿薬のラシックス(フロセミド)を朝食後に服用させることにした。

 本症例ではカルシウム拮抗薬による夜間尿量の増加が懸念されるため、内科診療所に情報提供し、後日アムロジンがARBに変更となった。

 また、多尿による頻尿を過活動膀胱症状と捉えてしまって抗コリン薬を投与しないように気を付ける必要がある。抗コリン薬では効果が見られないばかりか、口渇の副作用のため、ますます水分の摂取量が増加し頻尿を増悪させる可能性もあるからだ。

くしゃみで失禁、尿意切迫感も

 最後に紹介するのは、尿漏れを主訴に来院した65歳の女性である。半年ほど前からくしゃみの際に尿が少し漏れるようになったほか、突然尿意を感じて我慢できなくなりトイレに駆け込んだり、トイレが見つからないまま漏らしてしまうといったことがたびたび起こるようになった。患者は30代までに出産を3回経験しており、出産後に軽い尿漏れがあった時期もあったが、そのときは回復したという。

 中高年女性では、咳やくしゃみなどによる腹圧上昇時に尿が漏れる腹圧性尿失禁に加えて、急な尿意が我慢できなくなる切迫性尿失禁を訴える「混合型尿失禁」の患者が多い。

 この場合、腹圧性尿失禁に対しては、肛門や膣を締める運動を繰り返して尿道や膀胱を支える骨盤底筋を鍛える骨盤底筋体操を行うほか、β2刺激薬のスピロペント(クレンブテロール塩酸塩)を投与する。同薬は膀胱の平滑筋を弛緩させる一方、尿道の括約筋を収縮させる作用を持つ。

 また、切迫性尿失禁にはトイレに行くのを意識的に我慢する膀胱訓練とともに過活動膀胱治療薬の抗コリン薬やβ3刺激薬のベタニスを投与する。

 本症例でも、初診時からβ刺激薬と抗コリン薬の併用療法を行った。

 なお、腹圧性尿失禁の程度がひどい場合、例えば歩行するだけでも尿が漏れ、パッドを1日に5~6枚替えるといった患者では、手術の適応となることが多い。手術としては腹圧によって尿道が下がらないようにプローリンテープで支えるTVT(tension-free vaginal tape)手術やTOT(trans-obturator tape)手術を行う。

QOLへの影響が大きい排尿障害、早期の受診が重要

 排尿障害をもたらす疾患の多くは良性疾患で生命には関わらないが、患者のQOLに対する影響は大きい。特に尿失禁や尿意切迫、夜間頻尿などの蓄尿症状によりQOLが著明に低下することが知られている。しかしながら、症状が比較的軽いうちに医療機関を受診する患者は多くなく、「年だからしょうがない」「恥ずかしいから」と我慢してしまい、症状が悪化してから受診する患者が後を絶たない。

 排尿障害の患者が早期に専門医を受診し、治療を受けることで、単剤の投与でも「本当に楽になった」とQOLの改善を実感できることが少なくない。

 薬物療法を行っている患者に対しては、服薬指導の際、服薬コンプライアンスが維持できているか、自覚症状がよくなっているか、副作用は表れていないかといったことを中心にチェックし、気になった点があれば、処方医に連絡していただきたい。薬剤の相互作用については、お薬手帳の内容などから確認してほしい。

 また、薬物療法で効果の得られない患者では、外科的治療が有効である場合もあり、手術を選択するタイミングも重要である。以前に比べ低侵襲の手術が広く普及してきているので、「どうせ治らない」と諦めずに、まずは泌尿器科専門医に相談することをぜひ推奨していただきたい。

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