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副作用症状のメカニズム
嗄声
日経DI2013年4月号

2013/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年4月号 No.186

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 50歳女性。以前からよく「かぜの予防に」とマスクとポビドンヨードの喉スプレーを購入するために来局していた。その日、普段より声の調子が低いように感じた薬剤師が患者に聞いたところ、数日前から声がハスキーになっているとのことで、「かぜを引いたのかもしれない」と話していた。

嗄声が起こるメカニズム

 声がハスキーになるのは、「かすれ声」や「声がれ」といわれる状態であるが、医学用語では「嗄声(させい)」と呼ばれる。

 咽頭には、筋組織と粘膜からできている左右一対の「声帯」と呼ばれるヒダがある(参考文献1)。吸気時には声帯のヒダが両側に開き、空気が入る(図1)。声を出すときは、ヒダが閉じる。その隙間を呼気が通り抜け、声帯が振動し、咽頭や喉頭、口から鼻に共鳴して声が出る。声は、口の形や舌の動きで言葉に変化する。人によって声が違うのは共鳴する口や鼻の形が違うためである。

 以下に示す(1)~(5)のような異常が起こると、声帯がうまく閉じなかったり、うまく振動させられずに嗄声が起こる。

図1 声帯の動き

(1)声帯の生理的変化
 一般に、女性は男性より声のトーンが高く、子どもはさらに高い。これは、声帯の振動の周波数が違うためである。会話時の声の基本周波数は、乳児期400Hz、18歳の女子が205Hzで男子が125Hzといわれている(参考文献2)。ソプラノ歌手の歌声は、800Hz以上になるともいわれている。

 振動(周波)数が少ないほど音は低くなる。ギターの弦と同じで、声帯の長さや太さ、張りによって振動数に違いが生じる。ギターでは、弦を押さえて短くすると高い音になり、長いと低い音になる。声帯も同じで、声帯の長さは7歳時は男女とも4~5mmだが、18歳時は女子が8.8mm、男子は12.2mmとなり、男子の方が声が低くなる(参考文献2)。

 第二次性徴期の男子が声変わりするのは、喉にある甲状軟骨が大きくなり、声帯が伸びて、厚みを増すためである。ただし、この変化は、嗄声とはいわない。嗄声は、音質の異常をいい、声の高さや強さの異常は含まない。

(2)声帯の炎症や浮腫
 かぜを引くと声がかすれることがある。上気道に感染が起こり、喉頭や声帯が急性炎症を起こすと、声帯の粘膜が赤く腫れてきちんと閉じられなくなり、うまく振動できずに声がかすれる。

 慢性の炎症でも声のかすれは起こり得る。例えば過度の喫煙では、ニコチンなどの有害物質が慢性的に声帯粘膜を刺激し、炎症を起こす。花粉、黄砂、最近話題のPM2.5、過度の飲酒も同様である。また、カラオケで歌い過ぎた場合や、歌手などよく声を使う職業の人、辛い物の食べ過ぎでも、慢性的な刺激が声帯に加わり、声帯に炎症やポリープができ、嗄声の原因となる。

 アナフィラキシーでも嗄声が起こる。アレルギー反応による浮腫が、声帯だけでなく喉頭にも及び、気道を圧迫して声がかすれる。アナフィラキシーは、マスト細胞(肥満細胞)あるいは好塩基球から放出された化学伝達物質によって皮膚、呼吸器、消化器、循環器など多臓器に生じる重篤で致死的な全身性の反応である。

 アナフィラキシーを起こすと、抗原抗体反応の刺激によって肥満細胞の細胞膜が破れて、中からヒスタミンやロイコトリエン、ブラジキニンなどが放出される。これらが神経を刺激し、血管が拡張し、血管の透過性を高め、皮膚が痒くなる。また、皮下の血管が太くなり血流量が多くなるので皮膚が赤くなる。さらに、透過性が高まった血管の隙間から血漿成分が血管外に出て浮腫が起こる。皮膚では蕁麻疹が現れ、声帯や咽頭、唇などでは浮腫が起こり、気道が狭くなって、呼吸困難を起こす。浮腫が全身に及ぶと、血管の中の水分が不足して、血圧が下がり、いわゆる「ショック」状態となる。

 声帯や喉頭に腫瘍やポリープが発生することでも嗄声が起こる。また、胃食道逆流症では、食道への逆流物が咽喉頭や声帯粘膜に炎症を起こすことで嗄声が起こると考えられている。

 甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン欠乏による新陳代謝の低下症状(寒がる、眠気、皮膚乾燥、記憶力減退など)が起こる。同時に、間質にムコ多糖類と蛋白質との複合物ができ、リンパ管から回収されずに沈着し、浮腫を起こす。この浮腫を粘液水腫というが、これは押さえたときに圧痕が残りにくい。これは、蛋白質などの水分ではない実質が間質に残るためである。粘液水腫によるむくみは、舌や声帯にも起こり、嗄声が起こる。

(3)声帯の乾燥
 口腔内乾燥が激しいと声帯粘膜も乾燥し、うまく閉じなくなるために声がかすれる。加齢とともに声がかれることが多いが(参考文献3)、加齢によって声帯が萎縮し、唾液分泌の低下とともに口腔内が乾燥するためである。

(4)反回神経の異常
 声帯と咽頭筋は、迷走神経(第X脳神経)から枝分かれした反回神経によって支配されている。従って反回神経に障害があると、声帯はきちんと開閉できず、声がかれることがある。また、誤嚥を生じることもある。

 反回神経は、脳から出て咽頭のそばを通り、心臓の近くでUターンして、再び喉頭に入り声帯に分布する。食道や胸腺、甲状腺、大動脈のそばを通るため、これらの臓器に何らかの病変があると反回神経が影響を受け、嗄声が発生する。食道癌、甲状腺癌、縦隔腫瘍、肺癌、大動脈瘤などの症状として嗄声が見られることもある(参考文献4)。

 もちろん、筋萎縮性軸索硬化症などの神経疾患や脳血管障害でも反回神経は傷害を受ける。また、加齢やパーキンソン病などで、痙攣性の発声障害が見られることもある。

(5)肺機能低下による呼気の不足
 肺機能が加齢などによって低下すると、発声時に安定した呼気流を作り出せなくなる。そのため声がかれたり、大きな声が出にくい、長く話せないなどの症状が出る(参考文献3)。長年の喫煙による肺機能の低下や肺疾患によっても、こうした症状は生じる。

副作用で嗄声が起こるメカニズム

 副作用による嗄声は、薬物の投与によって直接的もしくは間接的に前述の(1)~(5)が起こることが原因と考えられる。

(1)声帯の生理的変化
 男性ホルモンや蛋白同化ステロイドなどでは、声の低音化などが見られる。

(2)声帯の炎症や浮腫
 医薬品によるアナフィラキシーや血管浮腫などが起こると初期症状として嗄声が現れる。免疫グロブリン(Ig)Eを介さないアナフィラキシー様反応では、初回でもアナフィラキシー症状を起こす。コデインリン酸塩水和物やモルヒネ塩酸塩水和物、モルヒネ硫酸塩水和物、テトラコサクチド酢酸塩(商品名コートロシン)、ヨード造影剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、クロルヘキシジングルコン酸塩(ヒビテン他)などは、肥満細胞を直接刺激してヒスタミンを遊離させる。NSAIDsはロイコトリエンの産生を亢進するため、アナフィラキシー様反応を起こしやすい(参考文献5)。

 また、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などは、ブラジキニンの分解阻害作用も併せ持っているため、血管浮腫を起こし、まぶた、舌、唇、喉頭、声帯などの浮腫が起こることがある。NSAIDsでも同様である。

 副作用で胃逆流症が起こった場合も嗄声が生じるが、随伴症状として、げっぷや胸やけが先行する。

 吸入ステロイドによっても嗄声が生じる。フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド他)では10~32%程度の頻度で見られると報告されている(参考文献6)。その原因として、(1)ステロイドの吸入によりカンジダ症が発生し、声帯に炎症が起こる、(2)声帯に付着したステロイドによりステロイドミオパシーが起こり、声帯の筋力が低下する、(3)ステロイドが、声帯粘膜層のコラーゲンや基質を増やすことにより声帯が太くなるために声帯の閉鎖不全が起こる-などが考えられている(参考文献7)。

 ドライパウダーは、粒子径が大きい乳糖などをキャリアにして飛散させており声帯に付着しやすく、エアロゾルに比べて嗄声の発生頻度が高い。

 副作用によって甲状腺機能低下症を引き起こす薬剤は多い(参考文献8)。甲状腺ホルモンの合成・分泌を抑制することで、甲状腺機能低下症を引き起こすものには、抗甲状腺薬、ヨウ素製剤、アミオダロン塩酸塩(アンカロン他)や造影剤、含嗽剤などのヨード含有薬物、炭酸リチウム(リーマス他)、インターフェロン製剤、サリドマイド(サレド)、ゴナドトロピン放出ホルモン誘導体、スニチニブリンゴ酸塩(スーテント)やソラフェニブトシル酸塩(ネクサバール)などの分子標的薬などがある。ただし、これらは甲状腺中毒を起こすこともある。

 例えばヨウ素は、甲状腺ホルモンの原料だが、過剰になると甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、ヨウ素の有機化障害を起こし、甲状腺ホルモンの合成抑制を引き起こす。

 甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑制するものとしては、ドパミン製剤、ドブタミン製剤、副腎皮質ステロイド、オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチン)などがある。これらも、甲状腺機能低下症を起こし、嗄声を起こすことがある。

(3)声帯の乾燥
 抗コリン作用を持つ薬で口渇が起こることがある。特に近年、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療でチオトロピウム臭化物水和物(スピリーバ)などの吸入薬が多く使用されている。チオトロピウムが吸入により声帯に付着し、喉頭内腔の腺分泌が低下し、乾燥が生じて声帯の浸潤性が低下し、嗄声が起こると考えられる(参考文献9)。

(4)反回神経の異常、(5)肺機能の低下
 いずれも、副作用によって特に、食道や甲状腺、肺に障害を起こした場合、嗄声が起こることがある。

図2 副作用で嗄声が起こるメカニズム

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* * *

 最初の症例で、女性は感冒の予防にポビドンヨードの喉スプレーを長年使用していた。また、便秘気味で健康食品の根昆布を常用していた。最近は、以前より寒がりになったと感じており、感冒にかからないように、今まで以上に頻繁に喉スプレーを使用していたという。

 薬剤師は、便秘、寒がる、嗄声といった症状から、ポビドンヨードと根昆布によるヨウ素の摂取過剰によって、甲状腺機能低下症が発現していると考えた。すぐに受診を勧めたところ、患者は甲状腺機能低下症と診断され、治療が開始された。

参考文献
1)永倉俊和ら、Modern Physician 1997;17(5):601-4.
2)漆畑保、頭頸部自律神経 2004;18:78-82.
3)岩田義弘、治療 1998;80:1315-21.
4)大上研二、Prog Med 2010;30:1087-93.
5)McLean-Tooke AP BMJ 2003 Dec 6;327(7427):1332-5.
6)宮川武彦、アレルギー・免疫 2006;26:871-5.
7)水田匡信、日本耳鼻咽喉科学会会報 2011;114:460.
8)西川光重、日本甲状腺学会雑誌 2012;3:19-23.
9)中村毅ら、日本気管食道科学会会報 2007;58:553-6.

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