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薬歴添削教室
自閉症傾向がある男児に対する服薬支援
日経DI2013年4月号

2013/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年4月号 No.186

 今回は、母親に連れられてすみれ薬局昭和店に来局した3歳男児、三浦拓馬ちゃん(仮名)の薬歴をオーディットしました。拓馬ちゃんは生後4カ月以来、何度か来局していますが、これまで特に注意すべきエピソードはありませんでした。今回、薬局の待合室で物音に驚いて泣き出したことをきっかけに、自閉症の傾向があると診断されたことを母親から聞き取っています。

 約1年間の経過の中で、同じ小児科診療所から様々な内服薬が処方されました。服薬を嫌がる患児に対し、どのような工夫を施していけばよいかを考えながら、オーディットの内容を読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師C~Fです。(収録は2012年10月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
すみれ薬局昭和店(山梨県中巨摩郡昭和町)

 すみれ薬局昭和店は、山梨県に8店舗の保険薬局を展開する有限会社すみれ薬局が1993年7月に開局した。有限会社すみれ薬局は、2012年4月に株式会社アイセイ薬局へ資本譲渡している。

 同薬局が応需している処方箋は月3000枚程度。近隣にある皮膚科、小児科、婦人科の各診療所からの処方箋が大半を占める。

 同薬局には、20代2人、30代3人の計5人の薬剤師が勤務している。

 薬歴は電子薬歴を導入し、SOAP形式で記載している。

 薬歴の記載に当たっては、調剤や鑑査、投薬時に必要な情報を患者サマリーに残したり、申し送り事項をC情報として記載して、患者のニーズに合った対応を心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 3歳7カ月の男児の症例です。2009年6月の初回の患者アンケートでは特に注意すべき背景はありません。今回は、11 年10月24日の薬歴から見ていきます。経緯を説明してください。

A まず、「自閉症の傾向があると診断された」という点が最も大事だと思ったので、いつでも確認できるように、表書きの患者サマリーの欄に転記しました(薬歴【1】)。

早川 非常に良いですね。

A 健診で自閉症傾向があると言われたそうですが、「大きな物音や声が怖い」という点については、実は、薬局の待合室での出来事がきっかけとなって分かりました(薬歴【2】)。薬を渡す前、待合室で他のお子さんがおもちゃを落として、大きな音がしました。その瞬間、拓馬ちゃんは大声で泣いておびえてしまったのです。しばらくして落ち着いた後にお母様をお呼びして、「大丈夫ですか。びっくりしたのですね」と切り出したところ、お母様の方から話してくれました。

早川 待合室での出来事を通じて自閉症傾向があると聞き取ったのですね。

A 拓馬ちゃんは音だけでなく、味、外見、形状など、色々なことに敏感で、非常に苦労しているとのことでした。前回はシロップ剤が出ていたのですが、シロップは量が多くて飲めず、また、粉薬を少量の水で練って口の中に貼り付ける方法も試したけれどうまくいかず、「無理やりやるともっとだめ」とのことでした。

 その後、日本自閉症協会のウェブサイトで調べたところ、小児に対する一般的な服薬支援とは異なる工夫として、「服薬手順をカードで示す」という方法がありました。自閉症のお子さんは、手順が変わると混乱しやすいからです。

音に敏感な患児にどう対応する

早川 その他に、自閉症児に接する上で注意すべきことはありますか(薬歴【3】)。

C 耳から入る情報よりも、目から入る情報の方が理解しやすいのでは。あと、「これを飲むとどうなるか分からない」という強い不安感を抱きがちです。

早川 このお子さんは、確かに音に敏感なようです。私たちの対応として気を付けるべきことはありますか。

A 一生懸命になるあまりお母さんの声が大きくなってしまうと、お子さんがパニックを起こす恐れがあります。

D 白衣を着ている人は怖がりませんでしたか。

A この時はおもちゃの音の方に気が向いていたのか、背中向きに抱っこされていたので、薬剤師の姿は目に入っていないかもしれません。

D 白衣から注射を連想したり怖いイメージを抱くようであれば、私服で対応した方がよいと思います。

早川 その辺りも相手を見ながら対応すべきことですね。

E 自閉症の一つの特徴として言語やコミュニケーションの障害があるので、コミュニケーション能力を確認したい。

B お子さんが一緒に来局した時は、待合室が騒がしい場合は早めに対応したり、投薬口を離したりするといった対応はできると思います。

早川 状況の見極めも重要ですね。

E 薬剤師が駐車場まで出向く方法もあることをお伝えしています。

E 多動傾向はあるのですか。

A よく分かりませんでした。

D 知的障害はありますか。私たちの会話を聞いているかどうかも大事です。

B 特に言葉の遅れはないようです。

早川 大事なアセスメントですね。

E 今はまだ幼いですが、いずれは言葉のコミュニケーションによって、患児自身に服薬に対する意欲を持たせることは不可能ではないのかもしれません。

A 診察室で先生に抗菌薬を幾つか見せてもらって、「どれなら飲める?」と聞いてもらう方法もあります。

早川 様々な見方が挙がりました。一般論を整理した上で、このお子さんの経過を見ていく中で、具体的な対応につなげていくとよいでしょう。

 続いて11月11日。「処方なし指導」とあります(薬歴【4】)。18時ごろ薬局に電話があったのですね。「マルツエキスを買ったけど飲まない。何か良い市販薬はないか」というのが主な相談事項です。便秘の状況も詳しく話してくれています。マルツエキスはどのような薬ですか。

一同 麦芽糖。水あめ状で、分包タイプと缶に入っているタイプがあります。

早川 味についてはどうですか。

E 砂糖ほどではないものの、香ばしい甘味があります。このお子さんの嗜好には合わなかったようですが……。

早川 ここでは、ゼラチンで固める方法を提案しています。ここで改めて、考えられる方法を挙げてみましょう。

A 粉薬が飲めるのであれば、新ビオフェルミンS細粒(ビフィズス菌製剤)でもよいと思います。

E ミルマグ液(一般名水酸化マグネシウム)も小児への投与が可能で、投与量を調節できます。

A イチジク浣腸(グリセリン)を使う。

早川 ここでは「浣腸は不適当」とアセスメントし、次の11月14日につながっています(薬歴【5】)。

B マルツエキスをゼラチンで固める方法でも飲まなかったため、病院に行って浣腸をしてもらったとのことでした。やはり偏食、食事量、水分摂取量が大きな原因ではないかと思いました。今回、新たにラクツロース(ラクツロース製剤)が処方されました。これは茶色いシロップ剤ですが、投薬時にお子さんが薬を見て、「もう飲まないよ」と言うのです。お母様としてはどうやって飲ませるかが一番の焦点のようでした。

A なぜお母様は「アイスクリームに掛けていいか」と聞いたのでしょうか。

D アイスクリームが好きだったのかもしれません。この頃よく食べていたとか。

E このご家庭では、アイスクリームにチョコレートやジャムを掛ける習慣があるのかな。

B 後で分かったのですが、実は甘い物が好きではないようです。ただ、食べ物の嗜好は変わる可能性もあります。

E アイスクリームは舌の感覚を麻痺させて、甘味を感じにくくしますが……。

D 同じような効き目のある粉薬、例えば、ピアーレDS95%(ラクツロース製剤)とかであれば飲めるのかな。

E ただ、粉薬だと量が多くなります。

早川 そこが悩みどころですね。

E 腸内細菌を増やす目的なので、分3にこだわらず、食事やおやつの時に分けて取らせることもできると思います。

D  ラクツロースシロップをうんと薄めて、水分摂取を兼ねて飲ませては。

早川 皆さんのお話をまとめると、この段階では偏食や水分摂取の話をしても、あまり現実的な対応にはつながらないようです。むしろ、どうすれば服薬してもらえるかを提案していく流れですね。

リカマイシンが処方された理由は?

早川 続いて12月2日と7日に来局し、7日にはセフゾン細粒小児用10%(セフジニル)が初めて処方されました。セフゾンはどんな特徴がありますか。

F イチゴ味で甘味があるピンク色の粉薬です。嗜好が合えば飲みやすい。

早川 続いて12月9日には、セフゾンがリカマイシンドライシロップ200(ロキタマイシン)に変更されています(薬歴【6】)。

B 熱に加えて咳が出てきたとのことでした。リカマイシンは初めての処方でしたが、帰宅後に服用したらすぐに吐いてしまったため、「お薬を変えてもらうことは可能か」と電話で問い合わせがありました。恐らく前回のセフゾンは飲めていたと思います。症状の変化による処方変更だったので、安易に疑義照会をするより、飲ませ方を変えて試してみた方がよいと思い、幾つかの方法を提案しました。ここで、日ごろチョコレートは食べず、アイスクリームもメロン味くらいしか食べないことも聞きました。

早川 リカマイシンはオレンジ味ですが、口腔内にとどまると苦味を感じるので、すぐに飲ませることが重要です。この他に飲ませ方の工夫はありますか。

E 一般的に苦味のあるお薬は、何らかのコーティングがしてあるので、練ってしまうと一層嫌な味が広がってしまい、逆効果になる可能性があります。

A マクロライド系薬の中では、苦味が少ないクラリスロマイシンDS小児用10%「タカタ」という選択肢もあります。

B この医師の普段の処方傾向を考えると、あえてリカマイシンにした理由が気になります。

早川 医師の処方意図を把握しておくことで、対応の余地が広がります。その他にどんな工夫が考えられますか。

E 我慢してもらう回数を減らすならジスロマック(アジスロマイシン水和物)。

F ジスロマックは私たち大人でもまずいと思うので、難しいのでは。

E 水で練ってすぐ飲ませられるなら、錠剤を粉砕すれば服用量が少なくて済みます。苦味は出ますが……。

早川 1つの成功例として、「水で練って口内に貼り付けて、麦茶で飲ませればできた」とありますね。

E 10月は同じことをやって失敗していましたが、変化しています。

早川 私たちは、色々な提案を常に用意している必要があります。さらに、実際に試してどうだったか、フィードバックがあると良いですね。翌12月10日にも来局しています。

B リカマイシンを服用できなかったので、セフゾンに戻されたようです。無理やり飲ませようとしたら、他の粉薬も飲めなくなってしまったとのことでした(薬歴【7】)。

早川 担当した方は、「味が嫌いというより、薬自体への拒否反応が強くなっている恐れ」とアセスメントしています。皆さんはどう思いますか。

B かぜなどで薬を飲むことが続いた上に、リカマイシンのようなおいしくない薬が出て、いよいよ薬への拒否反応が出てしまったのではないでしょうか。

A お子さんが薬を飲んでくれないので、お母様が精神的に追い込まれているように思います。

早川 そのお母様に対してサポートすることも考えられますね。

E 医師も、とにかく抗菌薬だけは飲んでほしいという意図の下で、咳止めをプルスマリン(アンブロキソール塩酸塩)に変えたのだと思います。セフゾンもプルスマリンも白い散剤です。

A セフゾンは分3から分2に変更されています。全く飲まないよりも、機嫌のいいタイミングに飲んでもらえればと、医師も考慮してくれたのだと思います。

D どうしてもだめな場合は、エポセリン坐剤(セフチゾキシムナトリウム)を用いるという方法もあります。

患者の嗜好の変化を把握

早川 続いて12年1月4日。来局間隔が1カ月弱空いていますが、結局薬を飲めずに肺炎を起こして入院してしまったことが判明しています(薬歴【8】)。

B この時は、おばあちゃんが来局され、薬局も非常に混雑していたのでゆっくり話せませんでしたが、「やっぱり飲めなかったのか。入院までさせてしまった」と落ち込みました。

早川 2月以降の経過をまとめて見ていきます(薬歴【9】)。2月6日にはカロナール細粒20%(アセトアミノフェン)、5月1日にはメイアクトMS小児用細粒10%(セフジトレンピボキシル)、メプチンドライシロップ0.005%(プロカテロール塩酸塩水和物)などが出ています。

B 5月1日には、初めメイアクトが処方されたのですが、オレンジ色で「苦い」と思い込んで飲まなかったので、この日のうちにセフゾンに変更されました。

早川 さらに5月26日にはシングレア細粒4mg(モンテルカストナトリウム)が処方され、「薬はだいぶ嫌がるが何とか飲ませている」とのS情報を得ています。6月1日には、ホクナリンテープ1mg(ツロブテロール)、6月8日と26日には、点眼薬と眼軟膏が処方されています。この数カ月間の経過を見て、気づいたことはありますか。

A 目薬が結構処方されていますが、普通のお子さんでも目薬を怖がり、差せない子は多い。このお子さんは差せているのかどうか気になります。眼軟膏もきちんと塗布できているのでしょうか。

E 粉薬については電話での問い合わせが多いのに、目薬について相談がないということは、差せているのでは。

B 8月14日に尋ねたところ、「割に差させてくれます」とのことでした。

A 目薬と同じ要領で、横になった状態で、口の中に液体の内用薬を落とせば、飲んでもらえるかもしれません。

D 私はこの頃、飲み薬にも結構慣れてきている印象を受けました。

A 他院で処方されたアレロック顆粒0.5%(オロパタジン塩酸塩)は粒が大きく甘いですが、飲めているようです。

早川 味、色、ザラザラ感。いずれも、服薬の可否にどう影響しているか、ひとくくりには評価できないようですね。

E ホクナリンテープは、気になって剥がしたりしませんでしたか。

B 問題はなかったようです。

D 分3のお薬は、通園中は飲ませにくい。もし保育園などに通園しているなら、その辺りの配慮も必要だと思います。

早川 12月の便秘の原因として、体験保育によるストレスが挙がっていました。5月時点で通園状況は不明ですが、考慮しておくことは大事です。8月14日には薬剤師が、「お薬見ても嫌がる雰囲気がない。具合が悪くても手を振ってくれる余裕あり。心の成長が感じられます」とアセスメントしています(薬歴【10】)。

B この日はアレルギーのため顔が腫れていました。以前は、具合が悪ければぐずったり機嫌が悪かったりしたのに、この日はぐずる様子もなく、笑って手を振ってくれました。薬に関しても嫌がっている感じはありませんでした。

早川 皆さんはどう思いますか。

A 犬と遊んで楽しかったから、機嫌が良かったのかもしれません。薬についても安心と捉えるのは危険では。

早川 10月の来局から約1年がたちました。最初は、薬を見た途端、「飲まないよ」と言うこともありましたね。

E 子どもは、嗜好が突然変化することがあります。食事内容や食事量も変化してきているかもしれません。

早川 私たちもその変化を捉えていくことが重要ですね。

B ちょうど昨日、お母様からお話を伺ったところ、夏ごろから発達障害児のための園に通い始めたそうです。

D 比較的会話ができるようなので、そろそろ本人に直接話してみてもいい。

A 薬歴を遡って、一度だめだった方法も試してみる余地はあると思います。

B 自閉症に対する偏見も少なくありません。お母様に対して、私たちが話を聞く姿勢を示すといいと思います。

C 自閉症のお子さんの中には、反対類推ができないケースもあるようです。肯定形の文章で伝えることを意識する必要があると思います。

早川 多くの考えが出されました。良いディスカッションができたと思います。

すみれ薬局昭和店でのオーディットの様子。

参加者の感想

秋山 ヒロミ氏

 1人の薬歴を様々な視点からじっくり討論でき、良かったです。自閉症傾向の有無にかかわらず、小さな子どもを持つ親は子育てのことで不安がいっぱいなので、薬について心配なことがあるならば、それをいかに取り除いてあげられるかが薬剤師に求められると思いました。

杉浦 賢史氏

 抱えている問題や環境は、患者さんやご家族によって異なるので難しいですが、何とかしてあげたいという気持ちで聞くだけでも、親の不安解消につながることが分かりました。その上で、薬剤師としてアドバイスをしていくためには、やはり日ごろから知識を深めていかなければならないと感じました。

全体を通して

早川 達氏

 今回、薬歴添削教室としては初めて、幼児の薬の飲ませ方に関する症例を取り上げました。薬歴からは、薬剤師がきちんとアセスメントしていることが伝わってきました。アセスメントがあったからこそ、それを基礎として、対応の視点を広げる議論ができたのだと思います。もし薬歴のほとんどを薬剤情報の説明内容が占めていたら、このような展開にはならなかったでしょう。

 経過の中で、患児が肺炎をこじらせて入院してしまったことが判明し、それに対して担当薬剤師が落ち込んだとの感想が記載されていました、これは、「自分の受け持ち患者」として見ていることの裏返しであり、入院した事実は残念ではありますが、薬剤師の意識は評価すべきものです。この気持ちや意識、姿勢を持ち続けて、今後も患者ケアに臨んでいってほしいと思います。

 また、本症例のフォロー開始から1年弱が経過した時点で、担当薬剤師は「心の成長が感じられます」とアセスメントしました。患者の全体像と時間的変化を捉えて、このようなアセスメントができたことは素晴らしいと思います。このような記載が、次のステップのアセスメントおよびケアにつながるので、これからもぜひ続けてください。

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