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Interview
患者の秘密を扱っている意識を薬局は持つべき
日経DI2013年4月号

2013/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年4月号 No.186

 薬局は、患者が外に対して秘密にしておきたいと思っている情報を扱っている。特に薬歴には患者の社会的評価に関わる記載がある場合があり、取り扱いには慎重を期すべきだ。「その割に、薬局の個人情報やプライバシーに対する意識は低い」というのが小林弁護士の見解だ。“説明”よりも“調剤”に重きを置いてきたことが、その背景にあると考察する。 (聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

1942年長野県生まれ。67年日本大学理工学部薬学科卒業。製薬会社勤務を経て、76年司法試験合格。79年弁護士登録、東京弁護士会入会。安原法律特許事務所を経て、2008年に小林法律事務所を設立。弁護士、薬剤師。

─薬局で取り扱いに気を付けなければならない患者情報には、どのようなものがありますか。

小林 その前にまず、プライバシーと個人情報について説明しておきましょう。個人情報というのは患者自身が開示した情報であるのに対して、プライバシーは当人が外に対して秘密にしておきたいと思っている情報です。個人情報もプライバシー情報の一つで、患者にとって秘密にしたいものがあるかもしれませんが、氏名や住所など、生活していく中で自ら開示していくものです。ですから個人情報を受け取る側にとっては、違法な手段で入手してはいけないとか、目的外の使い方をしてはいけないといった管理の問題になります。

 一方、プライバシーはその患者が何を知られたくないと考えているかによるので、少し漠然としていますが、他人に知られたくないと推測されるものはプライバシーと考えればいいと思います。

 薬局で特に気を付けなければならないのが薬歴です。そこには病気の進行度合いや余命に関することなども書かれている場合があります。これらはその患者の社会的な評価に関わることがあり、知られたくない秘密に相当するものです。だから薬歴は、薬剤師が調剤するのに必要な限度で見られるようにすべきで、誰もが見られるような状態に置いておくべきではありません。

 薬歴は、患者本人から求められれば開示しなければなりません。たとえ家族に求められても、家族には秘密にしておきたいことがあるかもしれないので、患者本人の承諾を得てから見せるべきです。

 なお、学会や研究会などで患者データを解析して発表する際は、名前や年齢を伏せるなどして個人が特定できなければ、個人情報には相当しません。

─薬局での患者情報漏洩のトラブルにはどのような事例がありますか。

小林 携帯電話に患者の名前や電話番号を登録していたり、在宅業務のためにパソコンに患者情報を入れて持ち歩いていたりするでしょう。これらのパソコンや携帯電話を紛失することで、患者情報が第三者に漏れることがあります。またファクスの送信ミスなども多い事例です。

 置いたままにした薬歴や処方箋を誰かが見てしまったという事例もよくあります。健康保険証を見られたくないという人もいるので、それらの情報の受け取り方にも注意しなければなりません。

 パソコンや携帯電話を紛失した場合には、分かる範囲で対象となった人にその旨を伝えるべきです。紛失したことを警察に届け出て、「こういう手続きをした」ということまでを伝えた方がいいでしょう。

 情報漏洩を患者から指摘された場合、賠償が必要になることもあります。私の知る限り、薬局が裁判に訴えられた事例はないですが、裁判にまではならなくとも、恐らくその場でお金を払うなどして片付けているケースは多いと思われます。

 薬局の事例ではありませんが、入院患者の病状や余命などを看護師が自宅で夫に話したことが、職務上知り得た秘密の漏洩に相当するとして、病院の経営者が使用者責任を問われた判例があります。この裁判では110万円の支払いを命じられています(福岡高等裁判所/平成24年(ネ)第170号)。また、医師が診療情報を漏洩したとして100万円の支払いを命じられた判例もあります(さいたま地方裁判所川越支部判決/平成19年(ワ)第256号)。

 単に情報漏洩しただけなら、2万~3万円を渡して示談にすることも多いようですが、漏洩した情報が悪用された場合には、より高額な賠償金を求められるかもしれません。病気の状態や余命に関する情報を漏らした場合も高くなる可能性があります。

─薬局のカウンターで服薬指導などをしている声が後ろで待っている人に聞こえることもあると思います。その場合も情報漏洩に当たりますか。

小林 当たります。聞いた人がその情報をどうこうしなくても、聞かれた人にとって秘密にしたいことを他人に聞かれたとなると、情報漏洩を問われかねません。それを防ぐために、カウンターにパーティションを設けてブースを作ったり、個室を用意することも必要でしょう。

 最近、大きな病院の窓口では番号を表示して、名前を呼ぶことは少なくなっていますが、薬局ではまだ名前を呼んでいる場合が多いと思います。これも考え直す必要があるでしょう。

 薬局や医療機関は、患者が秘密にしたい情報を取り扱っているという意識を持たなければなりません。それも薬剤師個人というよりも、開設者や管理薬剤師がそういう意識を持つべきです。

─設備などの不備の責任を、開設者だけでなく、管理薬剤師が問われることもありますか。

小林 あります。管理薬剤師の仕事は3つあって、1つはそこで働く従業員を管理すること。2つ目は設備を管理すること。もう1つは、薬局に不備があるなら薬局開設者に言うことです。だから、「患者情報の漏洩を防ぐために、ブースを設けるべき」といったことを開設者に言うべきだし、他の薬剤師に対して別の場所で説明するよう指導しなければなりません。実際にそこまではやってないかもしれませんが、法律上はそこまで求められています。

 ブースを作る作らないは開設者の問題ですが、管理薬剤師がそういうことをきちんと進言していれば、その責任は免れるかもしれません。

─在宅業務の事例を考えると、医師やケアマネジャーなど、他の職種と情報共有を必要とする場合もあるかと思います。そのようなケースで情報漏洩に配慮することはありますか。

小林 医師やケアマネジャーなどと情報共有する旨の同意を、事前に患者から取っていれば問題ありません。でも患者から、「この人には言わないでほしい」といった申し出があれば、それに従わなければなりません。情報共有が患者のためだというなら、その旨を説明して納得してもらうべきです。

─薬局は患者が秘密にしたい情報を扱っている意識を持つべきと指摘されましたが、個人情報やプライバシーの保護に対する現状の取り組みをどのように思いますか。

小林 薬局の意識はまだ低いと思います。医薬分業が進められる中で、医師の処方箋に基づいて正しく調剤することが薬剤師の仕事として重視されているせいだと想像します。間違えずに薬を出すことに一生懸命で、説明をどうしようとか、説明をする際の設備がどうあるべきかということにまで十分に意識が及んでいないのでしょう。

 しかし私は、薬を出すことよりも、その先の説明義務の方が大きな仕事であると思っています。薬局は説明をするための設備を整備し、薬剤師は患者とのコミュニケーションに力を割くべきです。あるいは、事前に患者情報を得て、生活習慣に応じたサービスができるといいのかもしれません。いずれにしても、患者の情報を得て、それに適した情報提供、服薬指導などを行っていくことが、これからの薬剤師が担っていく役割だと考えています。

インタビューを終えて

 薬局における患者情報の扱い方についての実務的な話を聞くつもりでインタビューしましたが、それ以上に「なぜ薬局の意識が低いのか」に関する小林弁護士の考察を聞けたのがよかったと思います。医療提供体制全体の中で薬局はどういう役割を担い、薬剤師はどういう付加価値を生み出していくべきか-。社会保障制度改革に関する政府の議論の中でもこの点はあまり触れられないだけに、むしろ薬剤師自身が考え、積極的に発言していくべきことだと考えます。(橋本)

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