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CaseStudy
ワタナベ薬局上宮永店(大分県中津市)
日経DI2013年4月号

2013/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年4月号 No.186

 「今日はどうされましたか。抗菌薬が出ていますね。このお薬は、これまでに何度かお子さんに出ていますが、お子さんはお薬をうまく飲めていますか」

 3月ののどかな平日の午後、ワタナベ薬局上宮永店で調剤を待っていた親子連れの母親が、名前を呼ばれて投薬カウンターの前に立った。子どもはかぜをこじらせて中耳炎を起こしたようだ。同店の松本康弘氏の問い掛けに、母親は、薬を水に溶かしても、嫌がって飲んでくれないと打ち明けた。

 「そうでしたか。では、別の方法をご説明しますね」。松本氏はそう言うと、カウンターの下から小さな紙を取り出して、説明を始めた。松本氏が手にしたのは、粉薬の飲ませ方のコツを記した自作の患者指導箋。中耳炎の症状や治療について説明した指導箋と、正しい鼻のかみ方を紹介した指導箋も、カウンターに並べた。

 母親は松本氏の話を聞きながら、待合室で遊ぶ子どもも気になる様子。松本氏は、指導箋を指しながら薬の服用方法を簡潔に説明し、「お薬手帳に貼って、服薬時にまた見てくださいね」と話しながら、薬と一緒に手渡した。

 同店では2007年から、薬の飲ませ方や疾患を説明した患者指導箋を作成して、服薬指導で使っている。使用した指導箋は、後で見直してもらえるように、薬と一緒に渡している(写真1、2)。

写真1 患者指導箋を使った服薬指導の様子

患児の保護者に服薬指導をする、ワタナベ薬局上宮永店の松本康弘氏。疾患の説明や薬の飲ませ方をまとめた患者指導箋をカウンターの下に常備しており、それを使って服薬指導を行う。指導箋は後で見直してもらえるように、処方した薬とともに保護者に手渡す。
写真:山本 巌

写真2 上宮永店で作成している患者指導箋

ワタナベ薬局上宮永店では、お薬手帳に貼ることができる縦14cm×横9cmの患者指導箋を、50種類ほど作成している。

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1回で伝わらない内容を補完

 ワタナベ薬局上宮永店は、大分県で保険薬局17店舗を経営する株式会社ワタナベが、03年に開局した店舗。隣には、小児科診療所の井上小児科医院がある。同院が院内処方をやめたのを機に開局。処方箋の95%以上が同院のもので、小児の粉薬やシロップ剤が大半を占める。

 小児の服薬指導には、特有の難しさがある。例えば、乳児は薬を“吸う”ことはできても“飲む”ことはできない。また、1~2歳の子どもは、好き嫌いがはっきりしているのに薬を飲む意味が分からないため、苦味のある薬などを飲ませるのに苦労することが多い。

 こうした患児には、水で溶かした粉薬を哺乳瓶の乳首に入れて吸わせたり、薬を服用補助ゼリーやアイスクリームなどに混ぜて与えるといった方法を指導する必要があるが、「保護者は、動き回る子どもにも注意を向けなければならないし、小児科でも説明を受けていて、憶えることがたくさんあるので、1回の服薬指導では内容が十分に伝わらないことが多かった」(松本氏)。

 そこで松本氏は、「薬の飲ませ方や疾患を説明した患者指導箋を薬と一緒に渡して、後で読んでもらえば、情報が伝わりやすいのではないか」と考え、指導箋を作り始めた。

50種類以上の患者指導箋を作成

 上宮永店で提供している患者指導箋は50種類以上。テーマは、ジスロマック細粒小児用10%(一般名アジスロマイシン水和物)やクラリシッド・ドライシロップ10%小児用(クラリスロマイシン)などの苦い抗菌薬と混ぜても苦味を増やさない食品・飲料のリストや、軟膏の塗り方、坐薬の使い方といった薬に関連したものから、インフルエンザ、RSウイルス感染症、水痘、溶連菌感染症など疾患の説明、さらに、熱の測り方、誤飲時の対応に至るまで実に様々だ。松本氏が医学書やガイドライン、論文などを基に一人で作成しており、テーマによっては、井上小児科医院院長の井上登生(なりお)氏にチェックしてもらうこともある。

 これらをカラー印刷し、お薬手帳のサイズ(14×9cm)に切って両面テープを貼る。情報量が多い場合は、2枚、3枚続きにして必要な情報を盛り込んでいる。指導箋の端には両面テープが付けてあり、その場でお薬手帳に貼れるようになっている(写真3)。作業は、昼休みや調剤の合間などに、薬局のスタッフ全員で行っている。

写真3 患者指導箋の3つの工夫

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 どの指導箋も、丁寧に説明が書かれている上、写真や図解、イラストを添えて、保護者が手に取って読んでみたくなる作りになっている。指導箋は、服薬指導の際に手渡すだけでなく、ウオールポケットに入れて待合室の壁に取り付け、保護者が自由に持ち帰れるようにしている(写真3右下)。

写真で「飲ませ方のコツ」を紹介

 患者指導箋の中で特に好評なのが、乳幼児への粉薬の飲ませ方や、飲食物との混合の可否を記した指導箋だ。そのうち初診患者に渡すことが多い、粉薬の飲ませ方に関する指導箋(以下、粉薬指導箋)を紹介しよう(写真4)。

写真4 粉薬の飲ませ方を説明した患者指導箋

初めて粉薬が出た乳児の服薬指導に必ず使用する。6ページ綴りで、写真3左下のように3つに折り畳んで手帳に貼れるようになっている。下の写真は1ぺージ目と4ページ目。

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 粉薬指導箋は、表3ページ、裏3ページの計6ページで構成されていて、3つ折りするとお薬手帳にぴったり収まる。1ページ目には、母親を励ますメッセージと、服薬状況を確認できるチェックシートを配置(写真4左)。保護者にチェックを入れてもらい、次回の指導に生かせるように工夫した。

 2~6ページでは、粉薬の溶かし方や粉薬を少量の水で練って団子にする方法などを紹介した(写真4右)。6ページ立てにしたことで、1枚に粉薬の飲ませ方に関する情報が集約できた上、お薬手帳のページがすぐになくなるという問題も解消された。

 粉薬指導箋は、一つひとつの手順やコツを、写真を用いて紹介しているため、「手技を説明するときに本当に便利」と、同店の管理薬剤師の小林文香氏。「先日も、生後1カ月の乳児の母親に、粉薬指導箋を使って粉薬を団子状にして口腔内に塗る方法を説明した。写真があるので、薬を練るときに入れる水の量が具体的にイメージできると喜んでもらえた」と続ける。

母親目線の服薬ガイドも作成

 松本氏は、製薬会社の研究所に17年勤めた後、01年に株式会社ワタナベに転職し、薬剤師として働き始めたという異色の経歴を持つ。成人した娘が2人いるが、子どもが小さな時は仕事が忙しく、薬を飲ませたことがなかった。「薬剤師として働き始めて初めて、小さな子に苦い薬を飲ませることがいかに大変かを知った」(松本氏)。

 指導箋は、子どもに薬を飲ませるのに苦労する保護者をサポートしたいという思いから今も作り続けている。

 「手間はかかるが、来局する患児のお薬手帳に指導箋が貼ってあるのを見つけたときが何よりうれしい」と松本氏は話す。

 松本氏の取り組みに刺激され、小林氏も情報の発信を始めた。1児の母である小林氏は、11年2月から、自身の子どもが罹った病気やその時に服用した薬を紹介する、日記形式の服薬ガイドの提供を始めた(写真5)。

写真5 小林氏による日記形式の服薬ガイド「音桜(ねお)ちゃんの育児日記」

ワタナベ薬局上宮永店のスタッフと「音桜(ねお)ちゃんの育児日記」。同店の小林文香氏(左)は、自身の子どもが経験した病気やその時に服用した薬を紹介する、日記形式の服薬ガイドを作成している。新しい日記が出ると必ず持ち帰る保護者や、日記を通して距離が縮まり、薬のことだけでなく、子育ての近況なども報告してくれるようになった保護者もいる。

 これまで紹介した話題は、乳児の便秘、乳児湿疹・カンジダ症、市販薬の使い方、保育園での投薬についてなど。現在18話まで書き進めている。

 小林氏は、「特に1人目の子どもを育てる母親は、何もかもが初めてで、不安を感じていることが多い。そうした方に、『うちも同じでしたよ』と声を掛けると、少しほっとした顔をされる」と話す。

 子どもが2歳半になって以前ほど病気にならなくなったこともあり、ネタ切れ気味なのが最近の悩みだが、「手に取ってくださる方がいる限り続けたい」と小林氏は話している。(富田 文)

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