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薬理のコトバ
便秘と薬
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 春の訪れを感じる日が多くなった。大学では、新学期に向けて再び“師走”状態。花を愛でる余裕がなかなか持てない。東奔西走、トイレすら行く暇がないこともままある。しかし、タイミングを逸することが続くと、次第に便意を感じにくくなる。便秘の始まりだ。

 便秘は、上に書いたようなタイミング的な事情で生じる習慣性便秘のほか、様々な要因により起こる。単に不快なだけでなく、痔疾や胃食道逆流症、腸閉塞(糞便性イレウス)などのやっかいな病気につながりかねないことから、必要に応じて薬で解消することが大事だ。

 便秘には色々な作用機序の治療薬があるが、2012年11月には、これまでにないメカニズムの新薬が登場した。今回は、新薬ルビプロストン(商品名アミティーザ)がどのような仕組みで排便を促すのかを中心に、便秘とその治療薬についてまとめてみよう。

従来薬は腸管運動や浸透圧を調整

 便秘は、結腸内に便が滞留し、3~4日以上排便がなかったり、排便時に不快感や腹痛、排便後に残便感などを生じる病態。この状態が6カ月以上続く場合を「慢性便秘」と呼ぶ。厚生労働省の疫学調査によると、慢性便秘は女性に多く、加齢とともに増加するが、男性も60歳を超えたあたりから加齢とともに増えてくるという。

 排便行為には日々の生活習慣が影響しているので、便秘の解消には、食事や生活の規則性、運動習慣などといった日常的な生活を改善することが第一。それでも解消しない頑固な便秘には、薬物治療が必要となる。

 一般用医薬品(OTC薬)も含め、便秘治療薬として最も広く使われているのが、センノシド(プルゼニド他)やピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン他)のような大腸刺激性の便秘治療薬。腸管を刺激して蠕動運動を活発にし、同時に大腸での水分吸収を抑制することで、便の水分量を保ちつつ自然に近いお通じをもたらす。ただし腹痛や、まれではあるが腸管内圧の過度の上昇による虚血性大腸炎、腸管穿孔などの副作用に注意が必要となる。

 もう少しマイルドな効き目を持つのが、酸化マグネシウム(マグミット他)のようなミネラル系薬。腸内で難吸収性の重炭酸塩や炭酸塩となり、浸透圧維持のため腸管内に水分を引き寄せることで、便の水分量を高めて排泄しやすくする。しかし、量が多すぎると水様便になる上、外来性にミネラルを摂取することで、生体のミネラルバランスが崩れることがある。マグネシウム製剤で高マグネシウム血症が重大な副作用として注意喚起されているのはそのせいだ。

 こうした既存薬で十分な効果が得られなかったり、副作用のため使えない場合の新たな選択肢となるのがルビプロストン。臨床試験では服用した患者のうち60~75%で24時間以内の自然排便が認められ、しかもブリストル便状評価スケール(7段階で糞便の形状や硬度を評価するもの)で4に近い正常便だというから理想的だ。副作用も下痢や悪心、腹痛といった胃腸障害が中心で、重篤な副作用は報告されていない。とはいえ、全ての慢性便秘に使えるわけではなく、適応症は「慢性便秘症(器質性疾患による便秘を除く)」なので、薬剤性および症候性便秘には適応がないことには注意したい。

新薬は小腸の腸液分泌を促す

 ルビプロストンの作用メカニズムはユニークだ。便の軟らかさを決めるのは主に大腸での水分吸収の程度だが、ルビプロストンの作用には「小腸での水分」がからんでくる。

 小腸における水分分泌を担っているのは、クロライドイオン(Cl)だ。クロライドイオンは、クロライドチャネルを通り細胞の内外を行き来している。

 このチャネルは、30種類以上にも及ぶ遺伝子の多様性を持つことが知られており、機能や調節系の違いから5種類のグループに区分されてはいるのだが、あまり医療に関連した話題としては取り上げられてこなかった。その大きな理由は、チャネルの機能を調節するよい薬があまりなかったためだ。

 薬物治療におけるクロライドチャネルといえば、ベンゾジアゼピン系薬が作用するγアミノ酪酸(GABA)受容体が思い浮かびやすい。生体内のGABAがこの受容体に作用すると細胞の中へクロライドイオンが流入して、神経細胞の活動を抑制する。ベンゾジアゼピン系薬は、クロライドチャネルを開きやすくすることで神経細胞を不活化、抗不安作用などを示すという図式を持つ薬剤だ。

 一方、今回のルビプロストンのターゲットは、ClCと呼ばれるグループのクロライドチャネルに属するものだ。このグループには9種類のタイプがあり、神経細胞では、細胞膜の脱分極を調節することにより細胞の活動性にも関わっている。

 このうち「タイプ2クロライドイオンチャネル(ClC-2)」は、腸管では小腸上皮に局在する。粘膜上皮細胞内に取り込まれたクロライドイオンが、粘膜上皮頂端膜(腸管内腔側)に存在するClC-2を介して腸管内腔に移動する。それに伴い、ナトリウムイオンも受動的に移動し、腸管内腔に水が分泌される。ルビプロストンは、ClC-2を活性化することにより、小腸腸管内腔へのクロライドイオン輸送を促進し、浸透圧を生じさせて腸液の分泌を促す。便の排泄が滞ることで詰まってしまうのを防ぐために水の分泌を促して流す様子は、冬の寒冷地で、水道管が凍って滞らないように水をチョロチョロ流す、あの感じに似ている。

 慢性便秘は長くつきあうものでもあり、同じ薬を使い続けると効かなくなってくることもままあるので、新しい薬の効果に期待していきたい。年度末は棚卸しの時期でもあるので、この際、おなかも仕事もスッキリさせたいところだ。

教えて!エディ先生

「慢性便秘の種類とメカニズム」

 糞便は、もちろん飲食したものから作られる。口から摂取した食物が消化管を通過する間に消化・吸収され糞便になる。まず食物が胃に入り、脳へシグナルを送ることにより大腸での蠕動運動が開始され排便の準備がなされる。胃から小腸を経ることで食物の消化・吸収がなされ、1~2Lの粥状液体から200~250mLの便が作られるのだ。

 便が直腸に運ばれると、直腸内圧の上昇により、さらに脳を介した排便反射が生じる。これが便意として感じられるが、排便反射は約20秒間隔で起き、数分で完了してしまう。このタイミングを逃すと、直腸内圧が高まっても便意を感じなくなり、習慣性の便秘(直腸性便秘)の発症につながってしまう。

 便秘は器質性便秘と機能性便秘とに大別されていて、直腸性便秘は機能性便秘の一種だ。器質性便秘は、便の経路である腸管そのものの障害が原因で起こる便秘で、先天的に腸管に異常があったり、大腸癌などにより腸管が通りにくくなることで生じる。一方の機能性便秘は、排便に関わる機能や自律神経系に原因があり、弛緩性、直腸性(習慣性)、痙攣性の3つがある。

 弛緩性便秘は、主として腹筋力が低下して糞便を送り出す力が弱まることが原因で起こり、高齢者や妊娠経験者に多くみられるものだ。腹痛などは少ないが、長く続くと腹部膨満感や食欲不振などにつながる。

 痙攣性便秘は、弛緩性とは逆で、大腸の蠕動運動が強すぎるために起こる便秘だ。日常的なストレスなどで副交感神経が過剰に緊張すると、腸が過敏に反応し痙攣した状態になる。便意は強いが出てこない、もしくは、出てもコロコロとした硬い便になる。

 発症メカニズムが違えば、有効な薬剤が異なるのも当然。便秘の薬物治療では、メカニズムに合った薬が選択されているかをしっかりチェックしたい。

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