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特集:薬局の災害対策
実践編4 日ごろの服薬指導
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

 災害時には、生活環境が変わる可能性がある。患者には災害時の対応を、普段から指導しておきたい。患者数の多い糖尿病と循環器疾患を例に紹介する。

 東日本大震災では、津波で薬が流されてしまい、服薬継続が困難となるケースが多く見られた。お薬手帳があり服用薬が確認できれば、薬局での薬の交付が可能となったが、普段の服用薬が分からずに苦慮するケースも少なくなかった。また、避難先で疾患の管理が十分にできなかったり、合併症を引き起こしたケースも散見された。

糖尿病薬は必ず分かるように

 新潟県厚生連魚沼病院(新潟県小千谷市)薬剤部に所属し、日本糖尿病療養指導士の濱崎真沙子氏は、新潟県中越地震と中越沖地震を経験し、「特に、糖尿病患者には、日ごろから災害時の注意を伝えておくことが大事と感じた」と話す。インスリンが投与できずに高血糖昏睡が起こったり、食事ができずに低血糖を起こすなど、危険な状態になりやすいからだ。

「日ごろから機会を見つけて災害時の注意点を患者に伝えてほしい」と話す新潟県厚生連魚沼病院の濱崎真沙子氏。

 まずは、使用しているインスリン製剤や糖尿病治療薬の名前と投与量を患者に覚えておいてもらう(図5)。「インスリンの名前が覚えられない場合は、製剤ごとに統一されたユニバーサル・カラーコードや、速効型や中間型などの製剤の区別を覚えてもらう」(濱崎氏)。手掛かりがあれば、災害時に医療者が対応しやすい。

図5 糖尿病患者のための災害対策(濱崎氏による)

 お薬手帳などを日ごろから活用し、災害時に持ち出すように指導しておくことは必須だが、実際に持ち出せるとは限らない。そこで、濱崎氏は患者に「携帯電話などのカメラ機能で薬を撮影しておくように勧めている」。避難時、お薬手帳は持たなくとも、携帯電話は持って逃げる可能性が高いからだ。

ブドウ糖などを早めに確保する

 インスリン使用患者には、インスリン、デバイス、自己血糖測定器、糖尿病連携手帳やお薬手帳などを一式まとめて、すぐに持ち出せるように保管するよう指導しておくことも大切だ。

 避難生活を余儀なくされた場合には、食事量が十分でなかったり、栄養バランスが悪くなることが多い。患者には、食事量が十分でない場合の服薬量や対応策について医師に確認しておくよう伝えておきたい。食事の摂取が不安定なときは、「低血糖対策用にブドウ糖や砂糖などを確保すること、インスリンは食後に打つことも伝えてほしい」(濱崎氏)。

 避難所では水分を控える人が多いが、糖尿病の患者には水分補給を心掛けるよう伝えておくこともポイントだ。「糖尿病患者は、薬はもちろん水や食料も大切。最低でも3日間は過ごせるように、それらを備えておくように伝えておきたい」と濱崎氏は言う。

継続必須の循環器用薬を明確に

 循環器疾患の患者については、「降圧薬、抗血小板薬や抗凝固薬は、急に中止するとリバウンド(反跳現象)が見られるので、これらを服用中の患者には、常に『災害が起こった時も、これはやめてはいけない薬です』と伝えておいてほしい」と、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門主任教授の苅尾七臣氏は強く訴える。服用継続が必須の薬は、薬袋に印を付けておくなど、患者が分かるようにしておくことが大切だ。「継続が絶対必要な薬は、2週間分ぐらいは患者が備蓄しておくのが望ましい」と苅尾氏は話す。

自治医科大学の苅尾七臣氏は、阪神・淡路大震災のときに震源地である淡路島の国保北淡診療所に勤務していた経験から、震災関連疾患の予防の重要性を訴える。

 また、災害時にはストレスや環境変化によって交感神経が亢進した状態になるため、きちんと服薬していても血圧の上昇や血液凝固の亢進が見られることがある。特に抗血小板薬や抗凝固薬を服用している患者には、「薬があったとしても、1週間以内には循環器内科医の診察を受けた方がよいと伝えておく」(苅尾氏)。

 苅尾氏は、東日本大震災を受けて、「災害時の循環器リスク・予防スコア」を考案した(図6)。「リスクスコアが4点以上の被災者には、予防スコアが6点以上になるように工夫してほしい」と苅尾氏は話す。

図6 被災後の循環器疾患の発症を予防するためのチェック項目(苅尾氏による)

リスクスコアの7項目をそれぞれ1点とし、4点以上であればハイリスク群とする。ハイリスク群の患者には、予防スコアが6点以上になるように指導する。予防スコアのリストは、被災者に手渡してチェックしてもらい、意識してもらうとよい。

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災害時は「睡眠」と「減塩」

 予防対策の中で、循環器疾患の患者にとって特に重要なのが睡眠と減塩だ。交感神経を鎮めるには6時間以上の良質な睡眠が必要とされるため、「まずは睡眠環境を整え、昼寝をやめて運動を維持するように指導する。どうしても不安や不眠の訴えが強ければ、一時的に抗不安薬や睡眠導入薬を使って睡眠を確保する」(苅尾氏)。

 また、被災後はストレスにより食塩感受性が亢進するため、被災前と同量の摂取でも体内に食塩が蓄積し、血圧を上昇させる。そのため、高血圧の有無にかかわらず、減塩を心掛けるように指導する。(1)麺類や汁物の汁、漬物を控える、(2)無塩の野菜ジュースやトマトジュース、バナナなどカリウムの多い食品を取る─などをアドバイスする。青汁もカリウムを多く含むが、同時にビタミンKも多く含むため、ワルファリンカリウムを服用している患者は避けるように伝えておこう。

 被災直後は4週間程度、収縮期血圧で平均5~15mmHg上昇すると言われている。ただし、ストレスの強さは個人によって大きく差があるため、「自分の災害ストレスの影響は血圧で知ることができる、ということも常に伝えておいてほしい」と苅尾氏は話す。

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