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特集:薬局の災害対策
実践編1 連絡網・マニュアル
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

 災害時は通信が途絶えて、安否確認や業務の指示が行えなくなる可能性がある。迅速な安否確認や業務遂行のためには連絡網やマニュアルを整備しておくことが重要だ。

 東日本大震災で困ったこととして、「通信が途絶えて、連絡が取れなかったこと」を1番に挙げる薬剤師は多い。電話やメールが通じず、安否確認ができなかったり、未経験の出来事が次々と起こる中で、本部の指示を仰げない状況となったからだ。

 仙台市などに16薬局を構えるプリスクリプション・エルム&パーム(宮城県名取市)企画統括部部長の佐藤ユリ氏は、「地震発生後、慌てて薬局や個人の携帯電話、メールに連絡をしたが、携帯メールが時々通じる程度で、なすすべもなかった。会社としての災害対策が不十分で、組織的な動きがほとんどできなかった」と振り返る。

 仙台市を中心に11薬局を有するメディカルコスモ(仙台市青葉区)も同じような状況だった。同社は、津波の被害が大きかった塩竈市や多賀城市にも薬局がある。同社企画管理課総務の佐々木裕氏は、「沿岸部の薬局のスタッフを心配したが、全員の無事が確認できたのは、結局、地震から3日後の月曜日だった」と話す。

こうした経験から2人は、「安否確認ができるように、連絡網と方法を整備することは非常に重要」と強調する。

災害用伝言ダイヤルを活用

 地震発生後は、通信の種類によって通信状況に差があることが多い。そのため「連絡網は、携帯電話、携帯やパソコンのメールなど多様な手段を記しておけば、どれかが使える可能性がある」と、ゆきぐにメディックス(うおぬま調剤グループ、新潟県南魚沼市)代表取締役の金井秀樹氏は言う。

 2004年の新潟県中越地震などの経験から金井氏は「被災エリア同士は通じなくても、離れた場所とは電話が通じやすいこともある。災害時のために、例えば遠方の薬局に連絡拠点になってもらうようにしておくのも手」と話す。同社は、九州地方の薬局と災害時の対応の協定を結ぶべく準備中だ。

 メディカルコスモやエルム&パームでは東日本大震災後、災害時にNTTが設置する災害用伝言ダイヤル(171)を使った連絡網を整備した。伝言ダイヤルは、災害時に提供されるサービスで、電話番号ごとにメッセージを残すことができ、他の人がその電話番号に掛けて、メッセージを聞くことができる。

 メディカルコスモでは、業務時間内であれば、薬局長がその薬局のスタッフの安否や薬局の状況、業務継続の可否などを薬局の電話番号に入れ、エリアをまとめる責任者がそれらを聞き、まとめて本社の電話番号にエリア内の状況をメッセージとして残すことにしている。業務時間外は、個々人が所属薬局の電話番号に安否と出社の可否などを入れ、エリア長がそれを聞き、まとめて本社の電話番号に報告。本社に情報が集約されるようにした(図1)。

図1 地震発生時の安否確認の流れ(メディカルコスモの資料を編集部で一部改変)

メディカルコスモでは、災害が起こったときには災害用伝言ダイヤル(171)を利用した連絡網を整備。本社に情報が集約されるようにしている。

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 「メッセージは30秒しか入れられないので、あらかじめ報告内容を決めておいた方がよい」と佐々木氏。残せる伝言数にも制限があるので、誰がどの番号に伝言を入れるかを決めておくなど、ルールを作っておくことも大切だ。

会計方法についても記載

 エルム&パームは連絡網に加え、「災害対応マニュアル」を作成した(図2)。東日本大震災の際は、薬局ごとに近隣の医療機関と打ち合わせて、医療機関が診療を行う場合のみ営業する形を取った。だが、佐藤氏は「医療機関の診療の有無にかかわらず、薬局は状況が許せば営業すべきだと強く感じた。被災者の健康相談に乗ったり、一般用医薬品(OTC薬)を提供したり、お薬手帳があれば医療用医薬品を渡すこともできた。災害時に薬局ができることはたくさんある」と話す。そのため、マニュアルには患者誘導や各所への連絡、避難時の注意点など災害発生時の対応に加えて、「業務を行う場合」の項目を充実させた(図3)。

図2 エルム&パームの災害対応マニュアルの概要

「マニュアルは、それぞれの状況を鑑みて会社ごとに作る必要がある。当社の項目を参考に、ぜひ作ってほしい」とエルム&パームの佐藤氏は話す。

図3 「業務を行う場合」について書かれた災害対応マニュアル(エルム&パームによる)

災害時に業務を行う場合に注意すべき点をまとめた章。投薬のメモを残すこと、日ごろから在庫表を印刷しておくことなど、東日本大震災の教訓が盛り込まれている。
※PSSはピッキングサポートシステムの略。

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 マニュアル作成に当たった同社安全管理委員会委員長の菅谷貴之氏は、「当時困ったことを、スタッフに挙げてもらい盛り込んだ」と説明する。例えば会計については、「(お金を)もらうかは、状況によって決める」とした上で、(1)後で会計する、(2)一律金額を決めて徴収し、後ほど返金などの処理をする、(3)手計算して通常通り会計する─など、幾つかの方法を記載した。同社企画統括部調剤業務課課長の猪股秀文氏は「当時、患者さんからお金をもらうべきか、薬歴が書けない状況で薬剤服用歴管理指導料はどうするのかなど、薬局ごとに悩みながら業務を続けた。場合によってはお金をもらわないという選択肢があることが分かっているだけでも、判断が早くなり行動しやすくなる」と説明する。

作るだけでなく使えるように

 「連絡網やマニュアルを作っただけでは、いざというときには使えない」と金井氏。うおぬま調剤グループでは、毎年災害訓練を行う。訓練ではまず、「生命を第一に考えて決して無理をしない」などの災害時の心構えや連絡網、備品の保管場所や使い方、レセコンのバックアップデータなど持ち出し品目、緊急避難路などを再確認する。

 さらに、11年は土嚢作り、12年は川で生活用水をくんでトイレに使用するといったように、毎年テーマを決めて実践的な訓練を行う。「薬局ごとに競争するなど、興味を持って取り組めるようにすることも大切」と金井氏は話している。

『薬剤師のための災害対策マニュアル』を参考に、編集部で作成。

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