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副作用症状のメカニズム
痙攣
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 75歳の男性。昨晩、痙攣発作を起こして救急搬送された。糖尿病、高血圧で長年、糖尿病治療薬と利尿薬を服用。1年ほど前に逆流性食道炎と診断され、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が間欠的に投与されている。最近はウイルス性腸炎にかかり、食事が十分にできていなかった。

痙攣が起こるメカニズム

 痙攣とは、筋肉が不随意に収縮を起こす状態をいう。てんかんや筋肉痙攣、ふるえがあるが、ふるえについては、2011年2月号で既に解説した。

(1)てんかんによる痙攣
 てんかんによる痙攣は、大脳の脳神経細胞が異常放電(脱分極)し、それが興奮性の刺激となり、脳全体に伝わり多数の神経細胞が興奮し、運動機能、感覚機能、自律機能、認知・情動などの複合機能の、部分的または全身性の活動亢進が起こる状態である(参考文献1、2)。

 てんかんの痙攣は、神経細胞の細胞膜でのCa2+チャネルの活性化が引き金となり、流入したCa2+がNa+チャネルを開口させて、Na+を流入させ、脱分極が起こることによって生じる(参考文献2)。脳の奇形や外傷、脳腫瘍や出血、炎症などによって神経細胞が損傷を受けるとCa2+チャネルが多く発現する。損傷した細胞からはK+が細胞外に流出し、本来ならK+チャネルがK+を細胞外に出すことで終了する脱分極が持続して、さらにCa2+チャネルを活性化する。

 K+チャネルは、神経細胞の興奮抑制に重要な働きをしている。先天的な異常疾患であるQT延長症候群では、心筋のK+チャネル異常で不整脈が起こるが、脳内のK+チャネル異常により痙攣発作が誘発されることもある(参考文献3)。

 Ca2+チャネルは、Mg2+によっても抑制されているため、低Mg血症も痙攣の危険因子となる。さらに、神経細胞の膜電位は、Na+/K+-ATPアーゼによって細胞内外に適切なK+濃度勾配を形成することで生み出される。従って、低酸素血症や低血糖などによってエネルギーが十分に供給されない状態になると、Na+/K+-ATPアーゼが傷害され、脱分極しやすくなる。

 抑制系ニューロンにおいては、γアミノ酪酸(GABA)を介してK+チャネルやCl-チャネルが活性化して脱分極を抑えている。GABAは、グルタミン酸脱炭酸酵素によって合成されるが、この酵素活性にはビタミンB6が必要である。従って、ビタミンB6欠乏では、脱分極が起こりやすくなる。アルコールはビタミンB6を分解するため、過度の飲酒は痙攣を誘発しやすい。

 ヒスタミンは、中枢神経系で神経伝達物質として働いており、ヒスタミンH1受容体を介して痙攣の抑制に関与している(参考文献4)。またアデノシンも、中枢神経では抑制的に働き、痙攣を抑制していると考えられている(参考文献5)。

(2)筋肉痙攣
 筋肉の痙攣には、痛みを伴わない「スパスム」と痛みを伴う「クランプ」がある(参考文献2)。スパスムでは、筋肉の緊張が増して、縮んで弛緩できない状態となる。血清Ca2+が3mg/dL以下になると、テタニーと呼ばれる不随意の筋収縮と異常感覚が生じる(参考文献6)。これは、低Ca血症によってNa+チャネルを開口させるCa2+が不足し、少しの刺激でも興奮するNa+チャネルの過敏状態が末梢神経線維で起こることによる。

 低Ca血症の影響は、血液脳関門が存在するため中枢神経では受けにくい。しかし、新生児や幼児は血液脳関門が未発達なため低Ca血症の影響が中枢に及びやすく、痙攣が起こりやすくなる。低Ca血症は、ビタミンD欠乏によるCa吸収障害や、吸収不良症候群、副甲状腺機能低下症、慢性腎不全、骨疾患などで起こる。

 Mg2+はCa2+チャネルを抑制するため、低Mg血症によっても痙攣が起こりやすくなる。低Mg血症は、激しい下痢や吸収不良症候群、アルコール依存症や肝硬変でも起こる。

 過換気症候群での呼吸性アルカローシスや、アルドステロン症やバーター症候群によって代謝性アルカローシスが起こると、急激にCa2+濃度が低下し、アルカローシス性テタニーが起こる。他に顔面痙攣、眼瞼痙攣、痙性斜頸などもスパスムの一つである。

 クランプは、足がつる「こむらかえり」である。筋肉の血液循環不全による低酸素血症や、Ca2+濃度の低下、L-カルニチンの低下が原因といわれている(参考文献7)。授乳婦はCaやMgの必要量が多いため、こむらがえりを起こしやすい。

副作用による痙攣のメカニズム

 薬物で痙攣を起こすものは、前述のてんかん、筋肉痙攣の機序に何らかの影響を及ぼしていることが多い。

(1)K+チャネルを抑制するもの
 QT延長作用のある薬では、不整脈とともに痙攣を起こすことがある。

(2)低Mg血症を起こすもの
 PPIを1年以上使用している場合、胃酸が減少してMgの吸収障害が起こることが知られている(参考文献8)。

 また、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬では、Mgの排泄促進によって痙攣が起こりやすくなる。腎毒性のあるアムホテリシンB(商品名ファンギゾン他)やシスプラチン(ランダ他)、シクロスポリン(ネオーラル他)、アミノグリコシド系抗菌薬などによって近位尿細管が傷害されると、CaやMgの再吸収ができず、低Ca血症や低Mg血症が起き、その結果、痙攣が誘発される。

(3)低血糖を起こすもの
 アスピリンによる痙攣は、サリチル酸によって脳のグルコースが枯渇するためと考えられている(参考文献9)。もちろん、血糖降下薬やインスリンによる低血糖でも、痙攣が起こることがある。

 ピボキシル基を有する、セフカペンピボキシル塩酸塩(フロモックス他)などの抗菌薬は、消化管吸収を促進する目的で、活性成分本体にピバリン酸がエステル結合されている。ピバリン酸は、カルニチン抱合を受け、尿中へ排泄されるため、カルニチンが消費され、血清カルニチンが低下する。カルニチンは、ミトコンドリア内での脂肪酸β酸化に必須の因子である。乳幼児に投与された場合、食事からのカルニチン補給が少なくカルニチン欠乏状態になると、脂肪酸β酸化ができず、糖新生が行えないため、低血糖を来し、痙攣を起こしやすくなる(参考文献10)。

(4)GABAへ影響を及ぼすもの
 カルバペネム系抗菌薬はGABAの拮抗作用を、キノロン系抗菌薬はGABA受容体結合阻害作用を有するため、抑制系ニューロンの働きが阻害され、痙攣が起こりやすくなる(参考文献11)。これらの抗菌薬は水溶性で腎排泄の薬が多く、特に腎機能低下時は痙攣に注意を要する。

 中でも、ノルフロキサシン(バクシダール他)、塩酸シプロフロキサシン(シプロキサン他)といった遊離のピペラジニル基を有する化合物はGABA 受容体結合阻害作用が強い。NSAIDsが併用されると、この阻害作用は劇的に増強される。ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬でも同様の機序で痙攣が誘発されることがある。

 アミトリプチリン塩酸塩(トリプタノール他)やミアンセリン塩酸塩(テトラミド)などの抗うつ薬では、血中濃度上昇時に痙攣が起こることが知られている。詳細は不明な点も多いが、抑制系ニューロンにおけるGABAを介したCl-チャネルからのCl-の流入を阻害しているとの報告がある(参考文献5)。

 抗精神病薬の痙攣誘発は、脳内モノアミン量への影響と、神経組織で生合成・代謝されるステロイドホルモンであるニューロステロイドへの影響が考えられている。ニューロステロイドは、GABAA 受容体に影響し、抗不安、抗痙攣、鎮静などの作用を示す(参考文献12)。抗精神病薬の投与によってニューロステロイドの量が変化し、痙攣が起きやすくなる可能性がある。

(5)ビタミンB6欠乏を起こすもの
 イソニアジド(イスコチン他)を投与すると、ビタミンB6の排泄が促進され、GABA産生に必要なピリドキサール-5-リン酸にイソニアジドが結合するため、GABA産生が抑制され痙攣が起こりやすくなると推測されている(参考文献13)。

(6)ヒスタミンなどに影響するもの
 抗ヒスタミン薬は、血液脳関門を通過して中枢神経のH1受容体と結合するため、ヒスタミンによる痙攣の抑制効果を減弱させる。特に、腎機能障害がある場合や小児、てんかんの既往のある場合は、痙攣を誘発することがある。

 アミノフィリン水和物(ネオフィリン他)やテオフィリン(テオドール他)はアデノシン受容体を競合的に阻害したり、内因性アデノシンの生成を減少させるために、痙攣を誘発したり、助長すると考えられている。

(7)低Ca血症を起こすもの
 ビスホスホネート製剤は、破骨細胞の働きを抑制し、骨吸収を抑制するため、低Ca血症を起こしやすい。また、破骨細胞の分化や機能を調節するRANKリガンドに対する抗体医薬で、多発性骨髄腫に使われるデノスマブ(ランマーク)は重篤な低Ca血症を起こすことがあり、死亡例も報告されている。糖質コルチコイドも大量に投与されると、腸管からのCaの吸収を減少させ、腎臓からの排泄を促進させることで低Ca血症を起こすことがある。

(8)脳内の神経細胞に毒性を持つもの
 シクロスポリンやインターフェロンで痙攣が誘発されることがある。血液脳関門に移行しにくいこれらの薬で痙攣が起こる機序は不明な点が多いが、血液脳関門が傷害された状況では、化合物自体の細胞毒性により痙攣を誘発することがあるとされている(参考文献14)。

 また、抗ウイルス薬のアシクロビル(ゾビラックス他)やバラシクロビル塩酸塩(バルトレックス)は、腎機能が低下した状態で神経毒性を発現する可能性が報告されている(参考文献15)。その他に、全身・局所麻酔薬、麻薬、抗マラリア薬、抗癌剤、ヨード造影剤、注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬、食物ではぎんなんの過剰摂取でも痙攣が起こることが知られている。

 抗痙攣薬の大量投与による逆説的痙攣の発症も、バルプロ酸ナトリウム(デパケン他)やフェニトイン(アレビアチン他)で報告されている。

図 薬で痙攣が起こるメカニズム

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* * *

 さて、冒頭の症例について考えてみよう。患者はウイルス性腸炎のため、食事ができていない状態だったが、服薬を継続していた。また、高齢で糖尿病歴も長く、腎機能が低下していたと考えられる。利尿薬とPPIを長期使用していたが、そのことによる低Mg血症が背景にあり、さらに下痢や嘔吐による電解質喪失が起こっていたと考えられる。また、食事の未摂取と血糖降下薬の服用によって低血糖が起こり、これらが合わさって、痙攣発作を起こしたと考えられる。

参考文献
1)瀬川文徳 Nursing College 2011:2;18-21.
2)松尾理監訳、『症状の基礎からわかる病態生理 第2版』(サイエンスインターナショナル、2011)
3)兼子直ら Molecular Medicine 2003;40: 296-306.
4)Yokoyama H,et al.CNS Drugs.1996;5:321-30.
5)Pisani F,et al. Drug Safety.2002;25: 91-110.
6)竹内靖博 綜合臨床 2008;57:520-4.
7)小林大介 透析ケア 2008;14:886-8.
8)国立医薬品食品衛生研究所安全情報部『医薬品安全性情報 2011(9)』
9)大津史子ら『患者の訴えからわかる薬の副作用』(じほう、2007)
10)『PMDAからの医薬品適正使用のお願い』
11)Tisdale JE,et al. 『Drug-Induced Diseases 2nd』(ASHP、2010年)
12)Tora R, et al.Epilepsia.2002; 43(S2):8-13.
13)Shah BR, et al.Pediatrics 1995;95:700-4.
14)『重篤副作用疾患別対応マニュアル 痙攣・てんかん』(厚生労働省)
15)Hellden A,et al.J Antimicrob Chemother. 2006;57:945-9.

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