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もっと! 骨粗鬆症治療に関わろう
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

 骨粗鬆症は、骨密度の低下や骨組織の微細構造の異常によって骨の強度が低下し、わずかな外力でも骨折が起こりやすくなる疾患。骨粗鬆症による脆弱性骨折のうち、最も頻度が高いのは脊椎の圧迫骨折だが、大腿骨近位部(脚の付け根)や橈骨遠位端(手首)でも生じやすい。これらの骨折は、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、要介護状態や寝たきりを招くこともある。

 実際、厚生労働省の2010年国民生活基礎調査によると、高齢者が要支援・要介護の状態となった原因の約1割を、「骨折・転倒」が占める(図1)。さらに、大腿骨近位部骨折は生命予後を悪化させることも、国内外の複数の疫学研究で明らかになっている。

図1 介護が必要となった原因の内訳

介護保険法で要支援または要介護と認定された人の内訳を集計した。厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」の結果を基に編集部で作成。

 「高血圧の合併症が脳梗塞であるのと同様、骨粗鬆症の合併症は骨折といえる。従って、骨折を起こしてから骨粗鬆症の治療を始めていては遅く、骨折を起こさないように治療することが目的となる」と、名古屋膠原病リウマチ痛風クリニック(名古屋市中村区)顧問で医師の田中郁子氏は話す。

名古屋膠原病リウマチ痛風クリニックの田中郁子氏は、「医学的要因に加え、個々の患者の背景を考慮して薬剤を選択する」と話す。

 11年に改訂された『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』では、大腿骨近位部または椎体に脆弱性骨折を認めれば、すぐに薬物治療を開始することとなっている。また、脆弱性骨折がなくても、骨密度が基準値よりも低かったり、年齢や家族歴などの因子を基に骨折のリスクが高いと判断された患者は、治療を開始する。

 一方、日本の骨粗鬆症の推定患者数は、高齢女性を中心に約1280万人。そのうち実際に治療を受けているのは、およそ20%とされる。医師らは、未治療患者の多さに頭を悩ませている(表1)。

表1 薬剤師が知っておくべき骨粗鬆症治療の問題点

取材を基に編集部まとめ。

 検診や治療に対する患者のモチベーションが低い要因として、鳥取大学医学部保健学科教授で医師の萩野浩氏は、「骨粗鬆症が自覚症状に乏しいほか、将来的に起こる骨折に対して、患者の危機感が薄いためではないか」と推測する。

「服薬コンプライアンスの維持において、薬剤師の果たすべき役割は大きい」と話す鳥取大学医学部の萩野浩氏。

服薬継続率の低さも深刻

 さらに、骨粗鬆症の治療を受けている場合でも、自己判断で服薬を中止してしまう患者が少なくない。開始から1年間で、約半数が服薬を中止してしまうとの海外の報告もある。

 背景には、自覚症状がないのに服薬することを煩わしく感じたり、副作用に対して不安感を抱いたりすることがあるようだ。また、「骨密度はHbA1cや血圧値と異なり、短期間で目に見えて改善しないため、患者は治療効果を実感しにくい」と萩野氏は説明する。

 骨折を起こした後の骨粗鬆症の治療も、十分に行われていないのが現状だ。一度脆弱性骨折を起こすと、再度骨折を起こすリスクが2~4倍に上昇することも知られている。「薬剤師には、未治療の骨粗鬆症患者や、骨折の経験がある高齢者に対して、治療の必要性を説明し、『骨折の連鎖』を防ぐために力になってもらいたい」と萩野氏は訴える。

 薬剤師が骨粗鬆症患者の服薬継続率の向上に貢献する上で、医師の処方意図をある程度把握しておきたい。主に用いられるビスホスホネート製剤を中心に、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、副甲状腺ホルモン(PTH)製剤、活性型ビタミンD3製剤について、医師の処方時の着眼点を見ていこう(表2)。

表2 骨粗鬆症に使用される主な薬剤(編集部まとめ)

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 ガイドラインでは、エビデンスに基づく各薬剤の推奨グレードが示されている。「実際には、各薬剤の推奨グレードや特性、骨折リスクや合併症の有無などの医学的要因に加えて、治療や副作用に対する意識、服薬をサポートする同居家族の有無といった患者の背景を十分に考慮して、薬剤を選択する」と田中氏は話す(図2)。

図2 骨粗鬆症治療薬処方時に医師が勘案する主なポイント(取材を基に作成)

取材を基に編集部まとめ。

月1回製剤で確実に服薬

 ビスホスホネート製剤は、骨密度上昇や骨折抑制効果のエビデンスが豊富で、多くのケースで第一選択薬として用いられている。経口ビスホスホネート製剤には、投与後30分間は横にならず、水以外の飲食物の摂取を避けるという服用方法の制限があるほか、胃腸障害の副作用も課題となっていた。だが近年、週1回や4週1回の投与で済む薬剤が登場したことで、服薬アドヒアランスの向上が期待されている。

 萩野氏は、「新たにビスホスホネート製剤を投与する患者では、週1回もしくは4週1回投与製剤を用いることが多いが、以前から治療を続けている患者の中には、『毎日服用する方が忘れにくいから』と、連日投与製剤を希望する人も少なからずいる」と話す。

 一方、投与頻度や用量の異なる薬剤が混在するため、「週1回製剤を28日分」「1日1回製剤を4日分」といった、処方箋の記載ミスも懸念される。「薬局で用量と処方日数をチェックしてもらえると安心」と萩野氏は言う。

 大阪市立大学大学院医学研究科老年内科学教授の三木隆己氏は、「投与開始時に、副作用に対する不安感が強い場合は、まず、1回投与量の少ない連日投与製剤を1~2週間投与し、副作用が発現しないことを確認できたら、週1回製剤や4週1回製剤に変更する」との方針。また、同氏は、「4週1回製剤の場合、受診日の翌朝に確実に服用してもらえる半面、患者は日ごろビスホスホネート製剤を服用中であることを忘れてしまいがち。他の医療機関で重複投与されていないかどうか、薬局でお薬手帳などを使ってチェックしてほしい」と呼び掛ける。

「切れ目のない医療を提供するために、薬剤師にも骨粗鬆症治療に積極的に関わってもらいたい」と話す大阪市立大学大学院医学研究科の三木隆己氏。

 なお、12年5月に発売された点滴投与型のアレンドロン酸(ボナロン点滴静注バッグ900μg)については、座位を保てない、経口薬を多剤服用している、嚥下障害がある、認知症で薬剤管理が難しいといった患者に対して、使用される傾向にあるようだ。

 一方、ビスホスホネート製剤を長期間服用すると、ごくまれに顎骨壊死や非定型大腿骨骨折を起こす可能性が指摘されている。萩野氏は、「ビスホスホネート製剤の休薬の必要性についてエビデンスはないものの、3~5年ほど使用した時点で継続の要否を検討し、骨折リスクが高くない場合は、SERMや活性型ビタミンD3製剤に切り替えている」と話す。

患者の病識や経済状況も加味

 活性型ビタミンD3製剤やSERMは、75歳未満で骨折リスクが比較的低い患者や、胃腸障害の副作用などでビスホスホネート製剤に抵抗感を持つ患者に用いられているようだ。「SERMは副作用が少なく、食後にも服用できる点で、病識の乏しい患者にも受け入れられやすい」と三木氏は話す。

 骨形成促進作用を持つPTH製剤は、ビスホスホネート製剤やSERMによる治療でも骨折を生じた患者、高齢で複数の椎体骨折や大腿骨近位部骨折を生じた患者、骨密度が著しく低下した患者など、骨折リスクが高い患者に用いられる。1日1回自己注射するテリパラチド[遺伝子組換え](フォルテオ)と、週1回医療機関で皮下注射するテリパラチド酢酸塩(テリボン)の2種類があるが、どちらを使用するかは「自己注射の可否や家族のサポート状況、週1回の通院の可否を考慮して判断する」(萩野氏)という。

 ただし、いずれも1カ月分の薬価が5万円を超えるため、「使用に当たっては、骨折のリスク低減のメリットと経済的負担のデメリットについて患者と十分相談している」と田中氏。またフォルテオは24カ月間まで、テリボンは72週間までという投薬期間制限がある。萩野氏は、テリパラチドの投薬期間後は、ビスホスホネート製剤単独か、ビスホスホネート製剤と活性型ビタミンD3製剤の併用に変更することが多いという。

 なお、経口ビスホスホネート製剤として、世界初のゼリー剤のアレンドロン酸ナトリウム水和物(商品名ボナロン経口ゼリー35mg、週1回投与)が近く発売される見込み。また、抗体医薬品のデノスマブ[遺伝子組換え](プラリア皮下注60mgシリンジ、6カ月に1回投与)も、2月7日に厚労省薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会で承認が了承された。今後、治療薬の使い分けの幅は、ますます広がりそうだ。

 服薬指導を行う際は、自覚症状がなく、治療効果が見えにくいという疾患の特性を考慮することが欠かせない。

 「薬剤師の服薬指導は、薬そのものの説明に偏りがち。結果的に副作用が強調され、患者の不安感をあおってしまう」と、女性の健康支援を行うジェンダーメディカルリサーチ代表取締役で薬剤師の宮原富士子氏は指摘する。日本骨粗鬆症学会の評議員も務める同氏は、「患者に、『骨折を防ぐために薬を飲み続けよう』と思わせるか、『薬を飲むと胃がむかむかするらしいから、飲まないでおこう』と思わせるか。薬剤師の手腕が問われる」と力説する。

ジェンダーメディカルリサーチの宮原富士子氏は、「薬剤の知識だけでなく、疾患概念や患者の病識を踏まえた上で服薬指導に取り組むべき」と話す。

副作用リスクの強調はNG

 特に悩ましいのは、ビスホスホネート製剤との関連性が指摘されている、顎骨壊死や非定型大腿骨骨折のリスクについての説明。いずれも発生頻度は極めて少ないものの、不安に思った患者が自己判断で服薬を中止してしまうと、かえって骨折という事態を招きかねない。多くの医師は、「副作用のリスクを患者に詳しく説明するよりも、リスクを低減するための対策を患者に提案したり、副作用の早期発見に協力したりしてほしい」と訴える。

 具体的には、ビスホスホネート製剤を服用中の患者に対して、「口腔ケアをきちんと行っているか、歯科通院中の患者では抜歯の予定がないかなど、薬局で患者の状況を聞き出して、医師にフィードバックしてもらいたい」と田中氏。顎骨壊死のリスク因子の一つに、侵襲的歯科治療や口腔内衛生状態の不良があるからだ。

 非定型骨折については、「特にビスホスホネート製剤を3年以上服用している患者に対し、鼠径部から太腿にかけての体側部や前面に原因不明の痛みを感じたら、受診するよう伝えてほしい」と萩野氏はアドバイスする。

 なお、骨粗鬆症患者の中には、サプリメントや健康食品に関心がある人も少なくない。だが、「薬物治療と同様、食事療法も“処方”の一種。高血圧や糖尿病など、複数の疾患を抱えていることもあるため、あやふやな知識の下で食事指導を行ったり、サプリメントを勧めるのは危険」と田中氏は指摘する。まずは、これらの摂取状況を患者から聞き出し、必要に応じて医師にフィードバックする“橋渡し役”を目指したい。

「骨粗鬆症マネージャー」認定制度設立へ

 日本骨粗鬆症学会は2014年秋をめどに、薬剤師、看護師、管理栄養士、理学療法士などの医療従事者を対象とした「骨粗鬆症マネージャー」(仮称)の資格認定を開始する。

 骨粗鬆症マネージャーとは、様々な立場の医療従事者が連携して、骨粗鬆症患者に切れ目のない医療サービスを提供する「骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)」の担い手を指す。同学会は12年に委員会を立ち上げて検討を開始。個々の患者の治療経過を通じて、地域の医療従事者がチームとして関わっていくことで、受診を勧めるとともに服薬継続率を向上し、「骨折の連鎖」を防ぐ狙いだ。

 骨粗鬆症マネージャーの認定試験の受験には、同学会が開催する「骨粗鬆症マネージャーレクチャーコース」を決められた期間内に1回以上受講することが必要となる。

 同学会評議員でもある宮原富士子氏は、「服薬継続率の低さは、薬剤師も看過できない深刻な問題」とし、薬剤師の積極的な関与を呼び掛けている。

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