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医師が処方を決めるまで
慢性便秘
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

講師
水城 啓
(けいゆう病院[横浜市西区]消化器内科)

講師から一言
地域の基幹病院の1つである、けいゆう病院(横浜市西区)消化器内科部長で、日本消化器病学会指導医でもある水城啓氏。大腸憩室関連疾患が専門で、慢性便秘の患者を診察する機会も多い。「患者さんの中には『毎日排便がなくても大丈夫』と伝えてあげるだけで、精神的に楽になる方が多くいらっしゃいます。規則正しい食事と十分な睡眠を取ることの大切さも、薬剤師の皆さんからぜひ説明してください」。

 便秘は、糞便の腸管内への異常な停留あるいは腸管内通過時間の異常な延長があり、便通の回数と排便量が減少した状態を指す。その定義について、日本内科学会では「便通の回数が週3日未満、または毎日排便があっても残便感がある」としており、日本消化器病学会は「便通が数日に1回程度かつ排便間隔が不規則で、便の水分含有量が低下している状態」としているが、明確なものはない。

 便通の回数の減少は、確かに便秘の症状ではあるが、便秘を訴える人では排便は毎日あるべきと思い込んでいることが多く、便秘の治療においては患者教育も大切になる。

 図1に大腸内での便の生成過程を示す。内容物が小腸から上行結腸に入る際には液体であるが、徐々に水分が吸収され、粥状、半固形状となり、直腸に到達するときには固形状になる。

 通常、食物は摂取してから24~72時間後に便として排泄されることから、必ずしも毎日排便がなくても問題はない。しかし、「1日1回便通がないと便秘」などと誤解している患者は少なくないため、不安に感じないよう誤解を解くことが重要である。

図1 大腸における便の生成過程

 口から摂取した食物は約5時間後に大腸に至るが、その際の性状は液状である。ヒトが1日に摂取する水分量は食物中の水分も含めて約3Lだが、胃や十二指腸で消化液が加わることで、小腸に到達する消化物には8~10Lの水分が含まれる。ここで6~8Lの水分が栄養素とともに吸収され、その残りが大腸をゆっくり移動しながら便へと変化していく。
 大腸では1日に1~2Lの水分が吸収され、液状だった内容物は摂食から18時間後には固形状となり、24~72時間後に便として排泄される。正常な便の組成は75%が水分である。

 便秘は、表1に挙げたように急性と慢性に分けられ、多くは慢性に経過する。慢性の便秘では、潰瘍や炎症といった器質的異常がなく腸自体の働きが原因で起こる機能性便秘と、過敏性腸症候群(IBS)の患者が多い。

表1 便秘の分類

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 便秘の治療では、患者の食生活や運動など生活習慣への指導を行い、その上で薬物治療を行う。私は、まず浸透圧性下剤や膨張性下剤といった緩徐なものを多めでもしっかり使い、効果不十分な場合に、別の機序の薬剤の併用を基本としている。

 以下、日常診療でよく遭遇する慢性便秘の薬剤選択を、症例を通して解説していこう。

弛緩性便秘にはまず塩類下剤

 最初の症例は、高齢者に多く見られる弛緩性便秘の70歳の男性である。内科的疾患はなく、常用薬もない。

 これまでに便秘になったことはなかったが、ここ3カ月ほど排便に時間がかかるようになり、以前は毎日だった排便回数が2~3日に1回程度になったため、当院を受診した。

 高齢者では、加齢に伴って腸が便を押し出すのに必要な筋力が低下するため、男女問わず弛緩性便秘を来すことが多い。本例では、その他の症状は見られず、診察の結果、弛緩性便秘と診断した。

 腎機能には問題がなかったので、浸透圧性下剤のマグラックス(一般名酸化マグネシウム)を投与した。

 便秘に用いられる薬剤には、便塊を軟化させる浸透圧性下剤や膨張性下剤、腸管の蠕動運動を亢進させる大腸刺激性下剤と副交感神経刺激薬のほか、抗コリン薬や消化管運動機能調整薬、漢方薬などがある(表2)。

表2 便秘に用いられる主な治療薬

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 抗コリン薬は、一般的に便秘の副作用が知られている。ただし、メペンゾラート臭化物(商品名トランコロン他)やチキジウム臭化物(チアトン他)は、腸の蠕動運動を緩やかにし、痛みを和らげる作用があり、IBSで便秘と下痢を繰り返す患者に用いる。

 最近では、新薬として、腸管内の水分分泌を促進して排便を促すルビプロストン(アミティーザ)が登場し(別掲記事)、これまでの薬物治療で十分な効果が得られなかった症例に期待が持たれる。

 本症例で、マグラックスの1日投与量が2.0gであることを、多いと感じる読者もいるかもしれない。しかし、弛緩性便秘では、十分な量(1~3g/日)を最初から投与することで、薬効を実感してもらうことが、スムーズに治療を進めるコツとなる。

毎日排便するようになれば薬を自己調節

 初診から2週間後には「毎日便が出るようになったが、少し軟らかいような気がする」とのことで、マグラックスの1日服用量を1.5gに減量した。

 患者には、「1日1回出ているときは毎食後の服用ではなく、昼食後を抜いて1日2回の服用でもよい」と指導した。この処方箋のように1日3回で記載されていても、医師から服用量を調節するよう指導されていることもあるので、服薬指導時に確認するとよいだろう。

 効果不十分な場合には、作用機序の異なる薬剤を併用するが、同一薬剤を長期に連用すると耐性を生じやすいので、様子を見て薬剤の種類を変更することもある。

 なお、弛緩性便秘で、酸化マグネシウム単剤では効果が弱い場合には、大腸刺激性下剤のピコスルファートナトリウム(ラキソベロン他)の液剤を0.6~1mL(10~15滴)、就寝前服用で追加する。同薬は服用量を調整しやすく、センノシド(プルゼニド他)よりも副作用の腹痛が少ない印象がある。

 特に高齢者の便秘では、本症例にはなかったが、併存疾患や常用薬、生活習慣を聞くことが大切である。

 また、最近急に便秘になった高齢者では大腸癌の可能性があるので、医療機関の受診や検査を勧めてほしい。

若年者に多い便秘型IBSには、抗不安薬の併用を考慮

 便秘を訴える比較的若年の患者に多く見られるのが、IBSの便秘型である。IBSでは、腹痛や腹部不快感を伴った下痢や便秘を慢性的に繰り返す。

 次の症例は36歳の男性患者で、ここ半年間、便が硬くコロコロとした性状で、スムーズに排便できず、残便感や腹部膨満感に悩まされている。以前は毎日だった便通は週3回未満になり、最近は、胸やけも気になっている。仕事上のストレスも多いという。

 本症例は、ストレスに起因する痙攣性便秘と考えられ、患者が36歳と若いことから、IBSの便秘型と診断した。

 治療として、便を軟化・増大させることと、排便のリズムを整えることを目的として、マグラックスを1日3回で投与した。IBSでは、酸化マグネシウムの1日量を750mgとするのが一般的である。

 さらに胸やけに対しては、ガスモチン(一般名モサプリドクエン酸塩)を投与した。便秘の患者では腸が胃を圧迫するためか、胸やけも訴えることが多い。

 2週間後の受診時には、「前よりも便を出しやすくなったが、まだ硬い気がする」とのことで、便中の水分量を調整するポリフル(ポリカルボフィルカルシウム)を追加した。

 また、抗不安薬のメイラックス(ロフラゼプ酸エチル)も投与した。同薬は心身症の不安・緊張・抑うつ・睡眠障害に適応があり、緊張状態を解きほぐす効果があるため、IBSでは併用することが多い。

 こうした薬物療法に加えて、規則正しい生活とバランスの良い食事を心掛けるよう指導したところ、初診から3カ月後には排便回数が2日に1回になった。「スムーズに便を出せるようになった。胸やけはほとんどない」とのことで、マグラックスとポリフルを1日2回服用に減量し、ガスモチンは中止した。

内分泌疾患に伴う便秘に注意

 次の症例は、何らかの疾患が原因で起こる症候性便秘である。

 この患者は31歳の女性で、半年ほど前から排便回数が週2回ほどまで減少し、排便に時間がかかるようになったという。さらに「最近身体がだるくて、疲れやすい。身体も冷える」と訴えた。診察の結果、甲状腺が腫脹し、皮膚の乾燥や鼻閉も認められた。

 その場で血液検査を実施し、甲状腺機能低下症と診断した。

 治療として、チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)による甲状腺ホルモンのコントロールに加えて、ラキソベロンを1日1回就寝前で投与した。ラキソベロンを投与したのは低下した腸の蠕動運動を刺激するためである。

 症候性便秘を引き起こす疾患には甲状腺機能低下症、糖尿病、パーキンソン病などがある。

 甲状腺機能低下症では、腸の蠕動運動が弱まるため、便秘を来す。同疾患は女性の10人に1人が罹患しているとまでいわれている。若年の女性で便秘と慢性的な冷えや疲れを訴えていたら、甲状腺疾患も念頭に置き、医療機関の受診や検査を勧めてほしい。

 糖尿病は、血糖コントロールが不良であると、神経障害から便秘を引き起こす。この場合、血糖のコントロールで改善することが多い。腎機能の低下を伴うことが多いため、電解質異常を起こすリスクの低い乳酸菌製剤を2~3カ月使い、効果が見られなければ、大腸刺激性下剤を投与する。

直腸性便秘はまず坐薬で、排便の習慣を付ける

 最後の症例は、職業が美容師で仕事中に排便を我慢することが多い25歳の女性である。ここ数カ月、便意を感じるのは1週間に1回程度だという。

 こうした便秘は直腸性便秘という。便が下行結腸からS状結腸にたまり、直腸に到達すると、便意を催す。しかし、排便を我慢することが続くと、次第にこの直腸・結腸反射が鈍くなり、便が直腸にたまっても便意を感じなくなる。直腸に滞留した便は水分が吸収されて、カチカチに硬くなり、排便しにくくなる。

 治療として、まず坐薬や浣腸で刺激を与えて、排便習慣を付けさせることが大切である。本症例では新レシカルボン(炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム)を投与した。同薬は直腸で二酸化炭素を発生し、穏やかに直腸を刺激する効果がある。

 患者には、坐薬は自然な便意が現れるまで、毎日就寝前に使用するよう指導した。就寝前としたのは、効果が現れるまでに10~30分程度かかるため、夜、自宅のトイレで排便できるようにするためである。

 また、坐薬を使い始めて最初のうちは、便意が生じなかったり、排便までに時間がかかることが多いが、毎日使い続けると、次第に自然な便意が現れるようになると説明した。同時に、必ずしも毎日排便がなくても問題はなく、生活の中に排便する時間を作るようにすることが大切であると伝えた。

 2週間後、坐薬で便意を感じるようになったが、便がまだ硬めだったため、坐薬は継続し、マグラックスを追加した。患者には、改善したと感じたら新レシカルボンの使用間隔を2日に1回に延長するように指導した。

 治療開始6カ月後には坐薬を使わなくても自然な便意が出現し、排便回数が2日に1回で安定したため、マグラックスを1日2回朝夕食後服用とした。

生活習慣への指導は積極的に

 便秘における薬物治療は補助的な位置付けであり、十分な睡眠と運動、規則正しい食事が大事である。特に朝食の習慣を付けるよう伝えてほしい。

 睡眠をしっかり取ることもポイントである。便は、副交感神経が優位でリラックスしている時に生成される。また、睡眠不足では腸の蠕動運動が鈍くなって弛緩性便秘になったり、逆に蠕動運動が活発になりすぎて痙攣性便秘を引き起こしてしまう。

 服薬指導時には、生活の見直しも含めたトータルな便秘治療の重要性を伝えていただければ幸いである。

慢性便秘の新薬、アミティーザはどんな患者に使う?

 2012年11月、新しい作用機序の便秘治療薬であるアミティーザ(一般名ルビプロストン)が発売された。適応症は慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)で、1回1カプセル(24μg)を1日2回、朝食後および夕食後に経口投与する。

 アミティーザは、小腸粘膜上皮のクロライドイオンチャネルに作用して腸管内への水分分泌を促進し、便を軟らかくすることで排便を促す。腸管内に水分を移行させて便を軟らかくするという作用は、酸化マグネシウム(商品名マグミット他)などの浸透圧性下剤と類似しているが、血清電解質に影響を与えないため、比較的安全に長期投与できると考えられている。

 国内臨床試験では、自発排便回数が1週間当たり平均3回未満の状態が6カ月以上続いている209例を対象に、1回1カプセルを1日2回、48週間投与。その結果、投与開始から1週間後に週当たりの排便回数が6.5±5.0回に増加し、服用期間中の週当たり排便回数も平均5.2~5.9回と有意に増加した。

 アミティーザをどのような患者に投与するかは、専門医の間で議論されているところである。これまでの便秘治療薬で十分な効果が得られなかった患者や、腎機能が低下して酸化マグネシウムが禁忌となる患者、既存薬で腹痛の副作用が強い患者に使うといった意見が多い。

 1カプセル当たり156.60円と他の便秘治療薬より高額であることも、第一選択薬とはなりにくい理由の1つである。

 筆者は、複数の便秘治療薬で症状が改善されなかった患者3例にアミティーザを投与しているが、今のところ目覚ましい効果は得られていない。今後、処方経験が蓄積されれば、有効性が高い患者や既存薬との適切な併用方法などが明確になってくるだろう。

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