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漢方のエッセンス
四君子湯
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

講師:幸井 俊高
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表

 漢方を理解する上で重要な概念に「気」がある。元気、やる気の「気」である。漢方の場合、「気」は人体のあらゆる生理機能を推し進める、生命エネルギーのようなものである。

 「気」は目に見えず、その存在を証明する科学的根拠はない。科学が発達した現代においては、若干受け入れにくい概念かもしれない。しかし、「気」を補う漢方薬を服用すれば、実際に元気になり病気が改善していく事実はある。現代の科学で証明されないものを否定・排除する必要はなく、有効なものは取り入れればよい。四君子湯は、こうした目に見えない「気」を補う重要な処方である。

どんな人に効きますか

 四君子湯は、「脾胃気虚」証を改善する代表的な処方である。

 脾胃とは、五臓の一つである「脾」と、六腑の一つである「胃」を指す。胃は飲食物を受け入れ(受納)て消化(腐熟)し、食べた物を人体に有用な形に変化させる(用語解説1)。脾はそれを吸収して気血を生成し全身に輸送(運化)していく(用語解説2)。このように、脾と胃の間には密接な関係がある(用語解説3)。脾胃が互いに連携することにより、飲食物から気と血(用語解説4)を生み出す。従って脾胃が正常に機能していれば、十分な量の気血が体内を巡り、心身は健康な状態になる。逆に、脾胃の受納・腐熟・運化の力が乏しければ体内で気血が不足し、様々な病気や症候が引き起こされる。これが「脾胃気虚」証である。

 気には、先天の気と後天(こうてん)の気がある。先天の気は、生まれながら備わっている根本的な生命エネルギーであり(用語解説5)、後天の気は、生まれた後に飲食物などから得る気である。脾胃は気血を生み出す源なので「後天の本(ほん)」と呼ばれる。この後天の本を丈夫にするのが四君子湯である。気虚になると、代謝の低減、免疫力の低下、神経興奮性の減衰、造血機能の低下など、多くの生理機能に不調を来す。

 脾胃気虚証の人は気血が不足しているので、元気がなく疲れやすい。手足がだるく、気力に欠ける。声に力がなく、口数が少なく、顔色が白い。唇や爪の色も白っぽい。舌の色も白っぽく、舌苔も薄く白い。舌は大きく、腫れぼったい場合が多い。息切れをしやすく、体重がなかなか増加しないことも多い。

 脾の運化機能と胃の受納機能が衰えているため、飲食物から生じる湿濁(用語解説6)が消化器官内にたまり、食欲不振、すぐにおなかが張る、消化不良、味覚の鈍化、むくみ、軟便などの症候が生じる。腸の蠕動運動が弱まって便秘になることもある。この場合、便は初め硬めだが後になって軟らかくなることが多い。ウサギの糞のようになることもある。

 臨床応用範囲は、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、消化不良、慢性腸炎、貧血、低蛋白血症、下痢などで、脾胃気虚の症候を呈するものである。

 出典は宗代(12世紀)に編さんされた中国の処方集『和剤局方』である。

どんな処方ですか

 配合生薬は、人参、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草の四味である。

 人参は君薬として補気し、脾胃の機能を高める。臣薬の白朮は健脾と同時に燥湿(用語解説7)し、脾の運化作用を助け、人参の補気作用を強める。佐薬の茯苓も健脾燥湿し、白朮との組み合わせにより健脾きょ湿の効能をさらに顕著なものとしている。止瀉にも働く。君臣薬により補われた気を流す働きもある。甘草は使薬として益気和中(用語解説8)しつつ、諸薬の薬性を調和する。

 以上、四君子湯の効能を「補気健脾」という。脾の運化機能と胃の受納機能を回復させて気を養い、脾胃気虚症を治療する。寒熱に偏らず、平補の方剤といわれる(用語解説9)。補気剤の基本処方であり、多くの補気剤が本処方をベースにして作られている。エキス剤や薬局製剤では、生姜と大棗(たいそう)を配合したり、白朮の代わりに蒼朮(そうじゅつ)を使ったりする場合もある。中心に位置して影響力を隅々まで及ぼす君子のように、人体の中心にある脾胃を立て直して気を体中に巡らせる四味の処方なので、この名がある。

 腹部や手足の冷えがある場合や、温めると楽になる腹痛を伴う場合は、人参湯を使う。人参湯は理中湯、理中丸ともいい、四君子湯の茯苓の代わりに乾姜(かんきょう)が配合された処方である。吐き気や嘔吐があれば、本方に半夏(はんげ)と陳皮を加味した六君子湯(りっくんしとう)がよい。血虚が顕著な場合は四物湯(しもつとう)を合わせる(用語解説10)。便秘があれば麻子仁丸(ましにんがん)を少量併用する。

 同じ補気剤に補中益気湯があるが、補中益気湯は主薬が黄耆(おうぎ)であり、垂れ下がった元気を持ち上げて、しゃきっとさせる処方である。内臓下垂の人などに使う。小建中湯は膠飴(こうい)や芍薬(しゃくやく)が中心となって体を温めつつ、筋肉の痙攣を緩和する。人参湯は上述の通り、体を温めて腹部の状態を改善する乾姜が主薬の処方である。患者の症候をよく見極めて判断する。

 脾気虚の程度が進んで寒証を伴う「脾陽虚」証になった場合は人参湯、陰液(用語解説11)が減って虚熱証を伴う「脾陰虚」証になった場合は啓脾湯(けいひとう)などを使う。

こんな患者さんに…【1】

「食欲不振です。疲れやすく、元気が出ません」

 声が小さく、痩せ形の体形。顔色も唇も舌も白っぽい。典型的な脾胃気虚とみて四君子湯を使用。1年後には食欲が旺盛になり、すっかり元気になった。不順だった生理もきちんと来るようになったと喜ばれた。

こんな患者さんに…【2】

「気管支喘息です。疲れると悪化します。透明の痰がたくさん出ます」

 呼吸器以外の症状として、消化不良で、腹部がチャポチャポ、グルグルと鳴る。下痢しやすい。脾胃気虚による湿濁が根本にあると考え、四君子湯を服用。次第に呼吸が苦しくなる頻度が減っていった(用語解説12)。

用語解説

1)胃が飲食物を受け入れる機能を「受納」といい、消化する機能を「腐熟」と呼ぶ。胃はさらに飲食物の有用な部分(「清」という)を脾に渡した後、残りのかす(「濁」という)を下の小腸・大腸に降ろす「降濁」機能も持つ。
2)この脾の機能を「運化」という。脾の最も重要な機能である。胃の「降濁」に対し、「清」を肺に持ち上げるので、脾の「昇清」機能という。
3)臓腑間には密接な関係がある。これを「表裏を成す」関係という。
4)血(けつ)とは人体に必要な栄養のことである。単に血液を指すのではない。血液には気も血も津液(しんえき)も含まれているが、このうち人体を滋養する作用を血と呼ぶ。なお津液とは体内の正常な水液のこと。
5)先天の気は五臓の腎に宿る。従って腎は「先天の本」と呼ばれる。
6)飲食物の残りかすである「濁」は湿っぽい。これが健康を害する要因となっている場合、湿濁と呼ぶ。
7)燥湿とは、湿邪を除去すること。
8)和中とは、中焦つまり体の中心部分である脾胃の機能の調和を取ること。
9)平補とは、穏やかに補うこと。
10)この処方を八珍湯という。長期化した機能低下や栄養不足に使用する。
11)陰液とは、人体の構成成分のうち血・津液・精を指す。陰液が減ると火熱を冷ます力が弱まるので相対的に熱が生じる。これを虚熱という。
12)脾と肺とは五臓の母子関係にある。母に当たる脾を補って肺の病気を治した症例。

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