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薬歴添削教室
血小板増加症患者の血圧コントロール
日経DI2013年3月号

2013/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年3月号 No.185

 今回は、大賀薬局地下鉄福大前店に来局した91歳男性、亀田幸吉さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。亀田さんは、以前から血小板増加症で治療を受けていましたが、高血圧の治療を開始するタイミングで初めて来局しました。

 経過の中で、便秘や服薬ミスといったイベントが起こります。原疾患や薬物の影響を考慮しながら患者のアセスメントを行うことで、薬剤師としてどのように患者のケアに貢献できるのか。その点に着目して、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴を担当したのが薬剤師A~C、症例検討会での発言者が薬剤師D~Fです。(収録は2012年9月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
大賀薬局地下鉄福大前店(福岡市城南区)

 株式会社大賀薬局は、福岡県を中心に、佐賀県、大分県、熊本県に調剤薬局やドラッグストアを展開する。大賀薬局地下鉄福大前店は、2011年1月に開局した。応需している処方箋は月1800枚程度。すぐ近くにある福岡大学病院からの処方箋が多いが、近隣の病院や診療所からの処方箋もある。

 同薬局には、30代の薬剤師が3人勤務している。

 薬歴は電子薬歴を採用しており、記載はSOAP形式。主要な項目をもれなく書くことと、次の担当者が見て分かりやすい薬歴を書くことを心掛けている。担当した薬剤師がアセスメントをできる限り薬歴に書き込むのが課題だ。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 初来局は2011年1月18日です。91歳の男性です。S情報の欄に、患者の基本情報が書かれています。病名、副作用歴、他科受診、併用薬、嗜好品などが確認できます(薬歴【1】)。アンケートからは、血小板増加症との情報が得られています。既往歴としては、高血圧や白内障があります。さらに、お酒は飲まない、たばこは吸わない、車の運転もしないということです。

 処方された薬剤も見ていきましょう。ハイドレア(一般名ヒドロキシカルバミド)とバイアスピリンが継続処方、ブロプレス(カンデサルタン シレキセチル)とフルニトラゼパムは、今回初めて処方されました。

 ここまでが薬歴から分かる情報ですが、皆さんはこの段階で、他にどんなことを確認しておきたいですか。

A 高齢なので、食事がちゃんとできているかを確認したい。血圧が高いので、塩辛いものを多く食べているかどうかも気になります。あと、フルニトラゼパムが出ているので、この時点でどのくらい眠れているのかを知りたいです。

早川 フルニトラゼパムの効果を評価するために、まず今の状態を確認しておきたいということですね。

D 以前はマイスリー(ゾルピデム酒石酸塩)を飲んでいて、今回からフルニトラゼパムに変更したので、マイスリーではあまり眠れなかったと推測できます。

E 降圧薬が開始されるので、これまでの血圧値を聞いておきたいです。

早川 高血圧は、塩分の取り過ぎなど生活習慣が原因でしょうか。それとも、何か他の原因があるのでしょうか。この患者さんは、本態性血小板血症と診断されているのですよね。

C はい。それに対してハイドレアとバイアスピリンが処方されています。

早川 もしかしたら、血小板増加症は別の病気、白血病や骨髄異形成症候群による二次性のものという捉え方もできるかもしれません。そう考えると、おおよそでもいいですから、血小板増加症の治療がいつから始まって、どんな経過であったか、さらに、これまで血圧値がどうだったのかを知りたいですね。

 この日の服薬指導では、患者さんに自宅での血圧測定を勧めています(薬歴【1】)。高血圧の患者さんに対して、この指導は大事です。指導の中で、「上腕の方が誤差が少ないと思います」と説明していますが、血圧を測定する上で、他にどのようなことが測定値に影響を及ぼすと考えられますか。

B 測定する姿勢。座った状態で測定します。血圧計を心臓と同じくらいの高さにすることが大事です。

D 運動してすぐ測るのではなく、落ち着いた状態で測る。

C 毎日決まった時間帯に測る。

A 測定機器はいつも同じものを使う。

早川 食べ物や嗜好品の影響はありますか。

E 測定前に、お酒やたばこ、カフェインを摂取しないこと。

早川 この患者さんの場合は、摂取していないことがきちんと確認できています。他にありますか。

D 測定中には会話しないこと。

A 前の晩の睡眠の影響もあるかもしれません。

早川 色々出てきました。このようなことを患者さんに確認した上で、測定時間と血圧値を薬歴に書いていくことで、より適切な評価が可能になります。患者さんに血圧値を聞くことによって、患者さん自身の血圧に対する認識も深まります。

ブロプレス増量を評価する

早川 2週間後、2月1日の薬歴に進みましょう。ブロプレスが増量されています(薬歴【2】)。

B この日は私が担当しました。ブロプレスが増量されていたので尋ねると、「血圧が高いので薬を増やすと言われた」と話してくれました。患者さんが血圧手帳を持っていたので見せていただいたところ、昼間とか早朝とか、毎日色々な時間に測定して、びっしり記録を付けていました。

早川 その値が薬歴に転記されているのですね。患者さんはいつごろから血圧値を記録していたんでしょうか。2週間前からですか。

B おそらくもっと前からだったと思います。相当使い込んでいる感じの血圧手帳でしたから。

早川 ということは、血圧自体は、高血圧と言われる前から付けていたかもしれませんね。

B そうかもしれません。でも、いつごろから記録し始めたのかまでは分かりません。

早川 皆さんに伺います。患者さんのこの血圧値をどう評価しますか。

C 早朝高血圧だと思います(薬歴【2】)。ブロプレスは朝食後に服用となっていますが、むしろ夜に飲んだ方がよいのでは。

E 前回、ブロプレス4mg/日を服用してこの値ということは、薬の効果が出ているかどうかを知りたいです。

早川 そうですね。先ほども発言がありましたが、降圧薬を開始する時点での血圧値は、やはり知っておきたい。「お医者さんに最初にかかった時の血圧はどのくらいでしたか」などとアプローチすると、治療効果の評価が、より確実になってきます。

 ブロプレスが4mg/日から8mg/日に増量されたということは、それなりに効果があったというのが普通の見方だと思います。早朝の血圧値が、上が190~200mmHg、下が90~100mmHg、日中は上が130~140mmHgくらいだったときに、薬を増量するのは適切でしょうか。

A 上が190~200mmHgということは、血圧の分類としてはIII度です。

早川 III度の場合、どういう治療を行いますか。

C もっと血圧を下げる治療をします。

早川 そうですよね。4mg/日でこの値ということは、ブロプレスの増量は適切と評価できますね。さて、早朝高血圧の患者さんは、一般的な高血圧とどう違うのでしょうか。

A 心血管イベントのリスクが高い。

早川 その通りです。心血管イベントのリスクが高いということは、いったん発症すれば要介護となるリスクも高いわけです。ですので当然ながら、血圧コントロールは厳格にしなければならないでしょう。その意味では、先ほども発言がありましたが、ブロプレスは本当に朝食後でよいのかというモニタリングプランが立てられます。

 早朝高血圧を来す要因としては、どんなことがありますか。

C 睡眠不足。夜中にトイレに立つために睡眠不足になっているのではないでしょうか。

D 2月なので、寒いことも関係があるかもしれません。

早川 それはいい視点ですね。

この患者の降圧目標は?

早川 続いて、3月1日に行きましょう。

C 前回の薬歴に血圧値が書かれていたので、この日はまず血圧値を確認しました。S情報にある124/79mmHgは、病院で測った値です。測定機器が違うからかもしれないと思い、同じ機器で測るよう指導しました。

早川 病院で測った方が低かったんですね。

E 病院では昼間に測っているから高いのだと考えてよいですか。

F 仮面高血圧かもしれません(薬歴【3】)。

早川 仮面高血圧は、早朝高血圧とつながりますね。仮面高血圧の危険因子として、どのようなことが挙げられますか。

E 降圧治療中の高血圧患者、喫煙者、アルコール多飲者、精神的ストレスが多い者、身体活動度が高い者、心拍数が多い者、起立性血圧変動異常者、肥満、糖尿病、臓器障害、心血管疾患を合併している者……。

早川 ストレス、身体活動度、心拍数、肥満などは、われわれも確認できますね。ちなみにこの人は肥満ですか。

A 小柄で、肥満ではありません。高齢なので、身体活動度もそれほど高くありませんが、薬局には歩いて来られますし、お年の割には元気な方です。

B 91歳には見えないです。

早川 もしできれば、この場面で身長と体重を教えてもらうとよかったですね。この日は降圧薬がブロプレスからアムロジピンに変更になりました(薬歴【3】)。この変更は適切ですか。

A 拡張期血圧値が100mmHgというのは、やっぱりちょっと高いと思います。

早川 この方の降圧目標はどのくらいですか。

E 高齢なので140/90mmHgくらい。家庭血圧だと135/85mmHgくらい。

F 医師は、ブロプレスでは効果不十分と判断してアムロジピンに変更したと考えられます。

早川 服薬するタイミングはどうでしょうか。

B 早朝高血圧ということから、Cさんも発言していましたが、朝食後よりは夕食後または寝る前がよいと思います。

早川 降圧薬の種類は。

B アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬かアンジオテンシン2受容体拮抗薬(ARB)。あと、α遮断薬も。

早川 この3種類が、早朝高血圧に効果があるというデータが出ています。服薬のタイミングや薬剤の選択に関して、私たちから提案するプランが立てられますね。

 次は4月5日です。ハイドレアが増量されました(薬歴【4】)。

C 患者さんにお聞きしたら「検査値が上昇したから」と言われました。

早川 治療の経過を、もう少し詳しく把握しておきたいところですね。まず、血小板増加症が二次性のものであることを除外しておきたい。血小板が増加する疾患としては、どんなものがありますか。

B 鉄欠乏性貧血、関節リウマチ、悪性腫瘍など。

早川 そうです。まずはそれらを除外する。次に、血小板増加症の場合、どのような症状がありますか。

C 頭痛、めまい、耳鳴り、指先の知覚障害。

早川 この患者さんに、こうした血管運動症状はありますか。

C ないと思います。患者さんにも確認したはずです。

早川 それは大事な情報です。薬歴にも書いておきましょう。

C 具体的な数値までは分かりませんが、確か、血小板だけが高かったと思います。赤血球は上がっていませんでした。

早川 これも大事な情報です。血小板が増加すると出血のリスクが高まります。150万/μL以上という目安がありますので、この患者さんのレベルを把握しておきたいところです。

A 高血圧があるので、血栓症のリスクも高いです(薬歴【4】)。

早川 だからこそ、血圧の管理が大事になります。この日はマグミット(酸化マグネシウム)も出ているのですね。

C 前回、アムロジピンが出たので、便秘になったのかなと思いました(薬歴【5】)。

F 食事の量が減ると、便秘気味になるかもしれません。

早川 ハイドレアの影響はどうですか。

A ハイドレアは、どちらかというと下痢傾向なので、あまり考えなくてよいと思います。

C 夜にトイレに立つという話があったので、水分を控えているために便秘になったのではないでしょうか。

早川 便秘を来す要因について、アセスメントができましたね。では4月19日に進みましょう。「体調よいです」とのS情報が得られています(薬歴【6】)。

C マグミットについては、うまく調節できているので足りていますとのことでした。

早川 血圧についてはいかがですか。

C 147/79mmHg。先ほど、家庭血圧値の目標としては135/85mmHgという発言がありましたが、91歳と高齢であることを考えると、この程度でもよいのかなと思いました(薬歴【6】)。

早川 しゃくし定規にガイドラインの目標値を達成しないとダメということではありません。血圧がこの程度まで下がればよいと医師が考えていると、患者さんの言葉から確認できたことは、非常によいと思います。

服用方法を分かりやすく

早川 約1カ月後の5月17日です。今度はハイドレアが減量されました(薬歴【7】)。

A 火、木、土曜日が1000mg/日、その他の曜日が500mg/日になりました(薬歴【7】)。血小板の値が減って、患者さんが喜んでいたので、そのため薬も減ったのかなと思いました。血小板の値を聞き取るところまではいきませんでした。

早川 服用量に変化があったタイミングで、患者さんが治療経過をどのように捉えているのか、何らかの切り口で聞き出せればいいですね。

A 患者さんは、便秘や血圧のことより、血小板増加症に対する意識が強いと思います。

早川 本態性血小板血症は、きちんとコントロールされていれば、通常並みの平均余命が得られる疾患です。一方で、血圧コントロールがうまくいかないと、イベント発生のリスクが高まります。予後を考えていく上では、患者さんの認識も含めて、もう一歩踏み込んだアプローチができるとよいと思います。

 6月17日は、患者さんから、薬が足りなくなったと電話があったのですね。

A どうやら1日置きに飲むと勘違いされていたようです。次の受診が火曜日だったので、土、日、月は1カプセルずつ飲んでもらうことにしました。6月21日の受診時に、月、水、金を2カプセル飲むように、多く飲む日を変えてもらいました(薬歴【8】)。

F 確かに、火、木、土が多いより、月、水、金が多い方が分かりやすいです。

早川 患者さんが服用スケジュールを間違えないようにするために、私たちはどのように支援すればよいでしょうか。

A ハイドレアは2つの薬袋に分けるより、1つにまとめた方が間違えにくいと思ってそうしたのですが、2つに分けた方が分かりやすかったかもしれません。

早川 患者さんが「1日置きに飲む」と勘違いしないようにするには、どのように説明すればよかったでしょうか。

C 「週3回は2カプセル、週4回は1カプセル」と説明すれば誤解が少ないと思います。

B 患者さん自身に、何曜日に何カプセル飲むかを言ってもらう。

A 一包化するという方法もあります。

早川 色々なアイデアが出ました。間違いなく飲んでもらうことが大切だと判断したら、そこだけに絞って説明するということも考えられますね。

大賀薬局地下鉄福大前店でのオーディットの様子。

参加者の感想

大庭 健司氏

 自分が投薬しているときに考えていることと、早川先生に指導していただいたことや、他の人が考えていることが違うことがあると、ディスカッションを通じて改めて気づき、とても参考になりました。

池田 香子氏

 常々、薬歴を次回に役立てるアセスメントをしようと心掛けていましたが、案外、聞くべきポイントが聞けていなかったり、薬歴に書けていなかったりすることが分かりました。学んだことを、今後に生かしていきたいです。

畑田 留美氏

 投薬時に感じた患者さんの印象などは薬歴に記載しようと思っていましたが、さらにその背景にあるものまでは考えていませんでした。次回来局時にこんなことを聞いてほしいということも、薬歴に入れられるとよいと思いました。

福島 正範氏

 簡潔でかつ内容の濃い薬歴を書くためには、薬や疾患について正しく理解し、判断することが大切だということが分かりました。小さな変化が大きな変化につながるのかなと感じました。薬剤師には患者さんを観察する力や、集中力が必要だと思いました。

全体を通して

早川 達氏

 全体として、指導はしっかりとされていますが、その評価や結果のアセスメント、今後のプランが少ない印象を受けました。そこで今回のオーディットは、継続的なケア、すなわち次に何をしていくか、そのためにどのような情報を確認しアセスメントしていくかを中心に進めました。患者に対する薬剤師の視点を広げ、かつ深く掘り下げて、患者の全体像を把握する方向での検討ができたと思います。今回のオーディットでは様々な判断をしました。日々の業務をこなすことに傾注し過ぎて、判断を避けることが当たり前になってしまうと、患者のためになる仕事にはつながりません。今日のアセスメントとケアプランを、今後の業務に生かしていってほしいと思います。

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