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薬理のコトバ
抗ヒスタミン
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 寒さ真っ盛りのこの時期、そろそろ聞こえてくるあの声。そう、春の兆しを受けて飛び交う花粉とともに、ところどころで交わされるくしゃみ、鼻水の喧噪だ。

 今や季節の風物詩になった感のある花粉症は、スギやヒノキなどの花粉に対するI型アレルギー反応。肥満細胞から放出されたヒスタミンが、ヒスタミンH1受容体にアレルギー情報を送り込むことで症状が発現する。今回は、花粉症シーズンを乗り切るのに欠かせない、優れた対症療法薬の抗ヒスタミン薬についてまとめてみよう。

「眠気」を左右する脳内移行性

 抗ヒスタミン薬の歴史は比較的古く、1930~40年代に、イタリアの薬理学者ダニエル・ボベット氏により開発された。ボベット氏はこの功績により、57年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 現在、臨床で使用されている抗ヒスタミン薬に「世代」があることは、皆さんご存じのことと思う。一般に、83年以降に発売された抗ヒスタミン薬を第2世代と定義することが多く、フェキソフェナジン塩酸塩(商品名アレグラ他)やメキタジン(ゼスラン、ニポラジン他)、ロラタジン(クラリチン他)、エピナスチン塩酸塩(アレジオン他)などは全て第2世代となる。一方、ジフェンヒドラミン塩酸塩(ベナ、レスタミン)やd-クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン他)などは、第1世代に属する。

 この世代の違いは、単なる開発年代の違いにとどまらない。第2世代では、脳内移行性と受容体選択性が大幅に改善されていて、副作用が格段に軽くなっているのだ。

 例えば、抗ヒスタミン薬で最も問題になりやすい「眠気」。これは抗ヒスタミン薬が脳内に移行し、中枢鎮静作用を示すことにより生じる。ヒスタミンは炎症やアレルギー反応の主役として知られる一方で、生体内の主要な神経伝達物質でもあり、覚醒や記憶・学習の増強、自発運動量の増加などを担っている。抗ヒスタミン薬が脳内で作用すると、ヒスタミンの覚醒作用が阻害されて眠気が生じるという図式だ。

 ただし、眠気は主観的な感覚なので、薬物の副作用を客観的に示す指標にはなりにくい。副作用が生じていても、薬の服用者が眠いと感じなければ表出しないものだからだ。逆に、たとえ服用者が眠気を感じていなくても、覚醒レベルの低下によって学習能力や判断力などの作業能率が低下し得る。乗り物の運転などでは、本人はきちんと運転しているつもりでも事故を起こすリスクが高まるため、「飲んだら乗るな」の遵守が必須となるのだ。

 最近では、作業能率が低下した状態を「インペアードパフォーマンス」と呼んで、精神運動や認知機能の障害の程度を客観的に表す指標として用いるようになってきた。評価手法には、心理学的な認知課題や、自動車運転、記憶・学習などの実践的な課題を用いるものがある。

 第2世代の抗ヒスタミン薬は、親水性の官能基(-COOHや-NH2)を導入して血液脳関門の透過性を低くした分子構造をしており、脳内移行性は第1世代より明らかに低い。1回量服用時の脳内ヒスタミンH1受容体の占拠率により抗ヒスタミン薬を分類すると、確実にインペアードパフォーマンスを生じるとされる50%以上の占拠率が報告されているのは軒並み第1世代。一方、占拠率が20%以下でインペアードパフォーマンスを生じないとされる抗ヒスタミン薬には、フェキソフェナジン、ロラタジン、エピナスチン、セチリジン塩酸塩(ジルテック他)、オロパタジン塩酸塩(アレロック他)といった第2世代のものが並ぶ。このうちフェキソフェナジンとロラタジンは、自動車運転能力テストで運転・機械操作能力に影響がなかったことから、添付文書に「飲んだら乗るな」との注意喚起の項目がない。インペアードパフォーマンスという指標の導入で、患者の日常生活を考慮した処方が可能になったわけだ。

 ちなみに、第1世代のd-クロルフェニラミンは、最小1回量である2mg服用時のH1受容体占有率が50%で、ウイスキーを3杯(約90mL)飲んだ場合と同様のインペアードパフォーマンスを示す。つまり、1錠の服用で飲酒と同様の作業能率低下を示すということだ。服用後の運転は、法律では規制されないものの、かなり危険な橋を渡っていることになる。

選択性を高め抗コリン作用を軽減

 世代間のもう1つの大きな違いは、受容体選択性だ。

 第1世代の抗ヒスタミン薬は選択性が低く、ヒスタミンH1受容体以外の受容体にも結合することで、やっかいな副作用を生じていた。臨床への影響が大きかったのが、アセチルコリン受容体への結合による抗コリン作用だ。口渇や便秘などのほか、気道分泌の抑制による痰の粘稠度上昇で喀痰に不具合が生じるので、気管支喘息の重症例や重積発作時には使えなかった。

 第2世代ではこの点が改良され、口渇など生活の質(QOL)を下げる副作用が生じにくくなった。気管支喘息の合併例にも使えるなど、薬剤の恩恵を受ける患者が増えている。

 第2世代には他にも、血漿や組織中の半減期を延長して1日服用回数を減らした薬や、肥満細胞からのヒスタミン遊離を抑える遊離抑制薬としての作用を併せ持つ薬が登場している。重症の花粉症では抗ヒスタミン薬と遊離抑制薬の併用がセオリーだが、これが1剤で済むとは朗報ではないか。

 こうしたベネフィットを考えると、第2世代に乗り換える人が増えているのも道理。あの、ふわーっと眠くなる感覚、個人的には嫌いではないのだが。

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