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適応外処方のエビデンス
癌治療に伴う放射性腸炎をスラルファートが軽減
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

疾患概念・病態

 骨盤内悪性腫瘍のうち、子宮癌、前立腺癌、膀胱癌、肛門部癌、直腸吻合部再発癌などでは放射線治療が行われる。中でも子宮癌や前立腺癌では、根治的放射線治療の適応となる例も増えている。

 しかし、放射線照射は、骨盤内組織や腸管に影響を与えてしまう。腸管運動の障害をはじめ、直腸およびS状結腸の出血性病変や潰瘍、狭窄、瘻孔形成、さらに小腸潰瘍などに至ることがある。こうした放射線による腸障害(放射線性腸炎)は、発症時期により早期障害と晩期障害に分けられ、病態が異なることから、予後や対処方法も異なる(参考文献1)。

 早期障害は、放射線照射中に発症し、腸管上皮細胞への直接作用で生じる、浮腫による局所の血流障害である。浮腫と血流障害は、細胞再生能力が追いつく限り可逆性である。臨床症状は、頻便や下痢のような便通異常を主体とし、肛門痛やしぶり腹などの症状を発現することもある。しかし、血便はあっても貧血を来すような多量の出血はなく、生活の質(QOL)を低下させることはほとんどない。

 照射中から症状が発現し、照射終了後2~3週間で改善することが多く、対症療法で経過観察される。いつまでを早期障害とするかについては、照射後2~3カ月との意見が多い(参考文献1)。

 晩期障害では、動脈内膜炎による血管壁の肥厚により微小循環障害が生じる。線維化や動脈硬化性変化を起こしてくると重症化し、不可逆性となり、時に時間経過とともに進行性になる。臨床症状は、肛門出血(血便)が最も多く、次いで排便障害、肛門痛などの軽い症状から、狭窄による腸閉塞や腸管穿孔、瘻孔など多岐にわたる。軽症例でも慢性的に持続してQOLの低下を呈することが多く、対症療法が必要なことが多い。

 出現時期は、最終照射より数カ月以降とされているが、9カ月から24カ月の間での報告が多い。最長例としては7年後や17年後といった報告もあり、長期経過例の存在にも注意が必要である(参考文献1)。

治療の現状

 早期障害には、排便コントロールを主とする内服治療を中心に、対症療法を行う。晩期障害には、薬物の注腸療法やホルマリン固定術、内視鏡的止血術、高圧酸素療法などが行われる。

 放射線性腸炎に対する薬物療法としては、早期、晩期を問わず、潰瘍性大腸炎治療薬であるサラゾスルファピリジン(商品名サラゾピリン他)の内服や、ステロイドの坐薬や注腸薬が使用されることがあるが、治療効果は確立されていない。適応外で、スクラルファート水和物(アルサルミン他)の内服や注腸療法が行われている(表1)。

表1 放射線性腸炎患者へのスクラルファート水和物の処方箋例

スクラルファートの有効性

 遠隔転移がない前立腺癌または膀胱癌で、治癒目的で骨盤照射を受ける70例(10Gy/週、治療期間5.5~6.5週、総線量平均64Gy)を対象に、照射開始2週後(18~22Gyを照射)からプラセボまたはスクラルファート1g/回の1日6回経口投与を開始し、6週間にわたって継続した。患者が下痢の治療を希望したらロペラミドを投与した。

 その結果、投与5週目で、脱落例を除き、プラセボ群34例中7例、スクラルファート群32例中18例で下痢が見られなかった。1日の排便頻度は、プラセボ群、スクラルファート群の順に、0~2回が7例、13例、3~4回が共に16例、5回以上が11例、3例となり、スクラルファート群で有意(P=0.04)に少なかった。下痢スコアについても、スクラルファート群で有意(P=0.003)に低かった。下痢によりロペラミドを服用した患者は、プラセボ群14例に対してスクラルファート群では3例で、有意(P=0.003)に少なかった。

 放射線療法12~14カ月後の追跡調査では、プラセボ群28例中3例、スクラルファート群28例中10例で、腸管機能に異常が認められなかった。一方、プラセボ群の8例、スクラルファート群の4例には腸管機能に障害が見られた。1日の排便頻度は、プラセボ群、スクラルファート群の順に、0~2回が14例、24例、3~4回が10例、3例、5回以上が4例、1例で、スクラルファート群で有意(P=0.01)に少なかった。下痢スコアについても、スクラルファート群で低かったが、有意差は認められなかった(P=0.18)(参考文献2)。

 放射線治療によるS状結腸炎患者を対象に、18例(子宮頸癌、外部照射45Gy、内部照射35Gy)にはサラゾスルファピリジン1g/回の1日3回経口投与およびプレドニゾロン20mg/回の1日2回注腸投与を4週間行い(G1群)、19例(子宮頸癌18例、前立腺癌1例、外部照射45Gy[前立腺癌は外部照射のみ]、内部照射35Gy)にはサラゾスルファピリジンのプラセボの1日3回経口投与およびスクラルファート2g/回の1日2回注腸投与を4週間行った(G2群)。

 脱落例を除外した後、臨床的改善は、G1群では15例中8例(53.3%)、G2群では17例中16例(94.1%)で、G2群で有意(p<0.05)に高かった。内視鏡的改善は、G1群では15例中7例(46.7%)、G2群では17例中12例(70.5%)で、G2群で高かったものの有意差は認められなかった。副作用は、G1群で筋痛症および嘔気と頭痛が各1例に認められ脱落したが、G2群では認められなかった(参考文献3)。

 子宮癌および子宮頸癌に対する放射線治療歴を持つ放射線性腸炎の女性10例を対象に、スクラルファート内用液7mLを3例、同20mLを3例、同60mLを4例に、1日2回(12週間)にわたり注腸投与した。

 その結果、著明改善、中等度改善、軽度改善、不変、悪化の順に、7mL群(1例は投薬状況不良にて除外)は1、0、1、0、0例、20mL群は1、2、0、0、0例、60mL群は1、3、0、0、0例であった。全体では、3、5、1、0、0例で、20mLおよび60mL群では全例が中等度改善以上であった。改善症例の内視鏡像では、粘膜の易出血性やびらんの消失、血管透見像の回復などが確認された。副作用は認められなかった(参考文献4)。

 表2に、放射線性腸炎にスクラルファートの注腸が有効であった症例報告を紹介する。

表2 放射線性腸炎に対するスクラルファート水和物の適応外使用の主な報告

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作用機序

 放射線性腸炎に対するスクラルファートの作用機序として、炎症部位に結合して損傷した粘膜を保護する、炎症部位に増加するプロスタグランジン(PG)E2量を低下させる、線維芽細胞増殖因子(FGF)の結合および安定化により治癒を促進するといった可能性が考えられている(参考文献4)。

適応外使用を見抜くポイント

 放射線性腸炎の治療目的でスクラルファートの内用液が処方される場合は、注腸指示であることが多いので、適応外使用であることが見抜きやすい。ただし、内服での指示もあるので注意が必要である。

 なお、潰瘍性大腸炎の治療目的で、スクラルファートの内用液が注腸で処方されることもあるので、鑑別が必要である。患者から注腸方法について説明を求められる場合もあるので、理解しておく必要がある。

参考文献
1)Gastroenterological Endoscopy. 2010;52:1381-92.
2)J Clin Oncol. 1992;10:969-75.
3)Digestive Diseases and Sciences. 1991;36:103-7.
4)Prog Med. 1997;17:1426-38.

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