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副作用症状のメカニズム
口内炎
日経DI2013年2月号

2013/02/10
坂口裕一

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

講師
名城大学薬学部 医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 17歳女性。口内炎ができたため、OTC薬を求めて来局した。患者は、以前から生理痛がひどく、OTC薬のイブA(イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素配合)を購入するために、たびたび来局していた。

口内炎ができるメカニズム

 口内炎とは、口腔粘膜に生じるびらん、潰瘍、水疱、腫瘤形成などを含めた疾患の総称である1)

 口腔粘膜細胞が傷害される原因は、全身の他の細胞が傷害される原因と共通しており、(1)感染、(2)循環障害、(3)物理的要因、(4)化学的要因、(5)過剰・異常な免疫反応、(6)栄養障害─などである2)。細胞が傷害されると、その傷害を取り除いたり、拡大を防いだり、修復するための反応が起こる。これを炎症と呼ぶ。炎症は生体の防衛反応といえる。

 傷害が取り除かれない場合、炎症が持続し、病的炎症となり組織破壊や組織変成を起こす。炎症は、血管と細胞と液性因子の3要因が複雑に絡み合って進行する。

 まず、傷害部位の毛細血管が拡張して血流量が増え、血管の透過性が亢進して血漿成分が滲出する。続いて、傷害された細胞基底膜が露出し、細菌のエンドトキシンなどと接触すると、滲出した血漿成分に含まれる炎症メディエーターが活性化し、フィブリン、カリクレイン、ブラジキニン、プラスミンなどが産出される。さらに多核白血球(好中球、好酸球、好塩基球)、リンパ球、形質細胞、マクロファージ、肥満細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞などの細胞成分が血管外へ遊走する。肥満細胞や好塩基球からは、ヒスタミンやセロトニンが放出され、血管収縮や血管透過性をさらに亢進させる。

 細胞膜が壊れると、構成成分であるリン脂質からロイコトリエンやプロスタグランジン、血小板活性化因子が合成され、リンパ球やマクロファージからは各種サイトカインが分泌される。TNF-αやIL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインにより、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が発現する。

 MMPは、本来、発生や形態変化、組織修復を担う蛋白分解酵素群であるが、炎症性サイトカインの刺激で発現した場合、組織傷害をさらに進行させ、炎症が成立していく。

口内炎の原因を探る
 では、口腔内粘膜が傷害される原因をそれぞれ見てみよう。

(1)感染
 唾液には、抗菌・殺菌作用があり口腔内を清潔にしたり、粘膜を保護して損傷を防ぐ役割もある3)。唾液の分泌が減少したり、口腔清掃不良によって食物残渣が停滞すると、常在菌のバランスが崩れ、常在菌が歯周組織のポケット上皮から結合組織に侵入し、口内炎や歯周炎を起こす。全身感染症を引き起こすこともある2)

 65歳以上の高齢者では、半数以上が口腔乾燥感を自覚しているという報告があり4)、粘膜傷害が起こりやすい状態にある。この場合の口内炎は、「カタル性口内炎」と呼ばれる粘膜の発赤や軽度の白色変化を伴うものが多く、「口が荒れている」という状態であることが多い。

 糖尿病やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、癌などの疾患によって免疫力が低下すると、常在菌であるカンジダ(真菌)が繁殖して、カンジダ性口内炎を起こすことがある。白い苔状の病変ができるが、これはこすると容易に剥がれる。粘膜は発赤、びらんし、出血しやすい1)

 白血病や悪性リンパ腫などでは、正常な白血球が減少しているため、常在菌による口内炎の発症が多い。

 ウイルス感染による口内炎も多い。子どもでは手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹、麻疹など、大人では水痘・帯状疱疹ウイルス感染症、単純ヘルペスウイルス感染症などによるものが多い。いずれも小水疱が多発し、発熱や食欲不振、倦怠感などが随伴する。免疫力が低下しているときに起こりやすい。他に、梅毒や淋病、クラミジアなど、性行為感染症による口内炎もある。

(2)循環障害
 細胞が傷害される理由として最も多いのは、循環障害である。口腔粘膜の細胞は、他の細胞と同様に血管を介して赤血球から酸素と栄養を受け取っている。そのため、何らかの理由で血流が途絶えると即座に傷害を受ける。(3)の物理的要因ともからみ、虚血による場合が多い。

 例えば、喫煙による口内炎は、ニコチンが口腔粘膜の血管を収縮させるためと考えられている5)。また、睡眠不足やストレスがたまると、交感神経が過度に興奮し、血管が収縮して血流不足となり、口内炎発生を助長する。

(3)物理的要因
 口内炎は、物理的な圧力や熱、さらに放射線や紫外線などによる傷害によっても起こる。例えば、口腔内をかんだり、熱いものを飲食したときなどが挙げられる。また、義歯が合わなかったり、歯の治療に使う詰め物による刺激によって起こる口内炎もある。

(4)化学的要因
 酸性やアルカリ性の強いものが口に入った場合や、毒物や他の生物が作る毒素、フリーラジカルを発生する物質が口腔内に入ることによっても口内炎は起こる。

(5)過剰・異常な免疫反応
 免疫機構の異常により、自己免疫反応やアレルギー反応が惹起されると、自己の細胞や組織が破壊され炎症が起こる。歯科治療の材料としてよく使われるニッケルやコバルト、クロムなどが原因になることがある。また、自己免疫疾患の天疱瘡や類天疱瘡、ベーチェット病、クローン病などの部分症状でも起こり得る。これらの場合、口内炎が初発症状であることも多い。そのほか、全身性エリテマトーデスや円盤状エリテマトーデスでは、口蓋に発疹ができることがある。

(6)栄養障害
 栄養の偏りによる粘膜の新陳代謝不良によって口内炎ができることもある。特に、ビタミンB2が欠乏すると口内炎や口角炎が起こることが知られている。B2は、食物からの摂取のほか、腸内細菌によって合成されている。

 また、鉄や亜鉛の欠乏症によっても口内炎や口囲炎、口角炎が起こる。鉄欠乏性貧血は、栄養障害に加えて常在菌のバランスが崩れることで口内炎ができやすい状態となる。

副作用による口内炎のメカニズム
 副作用による口内炎も、前述と同様の機序によって起こる。ただし、(2)の循環障害と(3)の物理的要因は、薬の副作用による口内炎の機序にはなりにくい。

図 副作用で口内炎が起こるメカニズム

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(1)感染によるもの
 主として、唾液の分泌を減少させる薬や免疫を抑制する薬の投与、抗菌薬による口腔内の菌交代症によって感染が起こりやすくなる。唾液減少を引き起こしやすい薬としては、抗コリン作用を持つ薬や利尿薬などが挙げられる。また、癌の放射線療法によって唾液腺障害が起こることがある。抗癌剤によっても唾液分泌低下が起こることがある。

 免疫を抑制する薬剤としては、ステロイドや免疫抑制剤がある。抗癌剤の骨髄抑制によっても口内炎が発症する。好中球減少症と口内炎を併発した場合の敗血症の相対リスクは、口内炎がない場合の4倍という報告もある6)

 口腔内の清潔保持や保湿によって、 抗癌剤による感染性の口内炎の予防はある程度可能であり、重要である。

 抗菌薬による菌交代症を原因とした大腸炎はよく知られているが、その前駆症状として口内炎が多発することがある。また、菌交代症の結果、メラニンなどの色素産生菌が増殖し、黒毛舌とよばれる舌が黒くなる口内炎が見られることもある7)

(4)化学的要因によるもの
 薬の副作用によって口内炎が起こる機序として最も多いのは、化学的要因である。特に抗癌剤の投与では高頻度に起こる。抗癌剤により、口腔粘膜の基底上皮細胞などのDNA障害が起こり、フリーラジカルが産生されることによる8)。前述した炎症の発生と同様の過程をたどり、血管、細胞、組織に直接傷害を与える。

 具体的には、まず転写因子の活性化が起こり、マクロファージなどから炎症性サイトカインが産生される。炎症性サイトカインの刺激により、MMPが惹起され、組織傷害が進行し、潰瘍が形成される。

 口内炎は、口腔粘膜上皮細胞の細胞周期と関連しており、抗癌剤投与開始後5~10 日程度で発現する。口腔粘膜は通常7~14日サイクルで再生するため、粘膜傷害が出現してから回復するまでには2~3週間を要する。ただし、発現時期や頻度、回復期間は化学療法のレジメンによって異なる。口内炎の発症頻度が高い抗癌剤としては、フッ化ピリミジン系、メトトレキサート(商品名メソトレキセート)、アントラサイクリン系が挙げられる9)

 抗癌剤による口内炎の好発部位は、唇の裏、頬の裏、舌の横側という可動粘膜である10)。分子標的薬では、特にmTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質)阻害薬で口内炎が高頻度に認められている11)

 他に、狭心症の治療薬であるニコランジル(シグマート他)でも、化学的要因によって口内炎が起こることが知られている12)

(5)過剰・異常な免疫反応によるもの
 薬のアレルギーで、特に重症の皮膚障害(中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群など)の症状として口内炎が発現した場合は、注意が必要である13)。口内や舌が真っ赤にただれたようになっている場合は、発熱や目の充血、咽頭痛、皮疹の併発がないかを確認する必要がある。

 これらの重症薬疹は、T細胞の免疫反応による細胞毒性型アレルギー機序がその主役である。抗菌薬や解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬、痛風治療薬、サルファ剤など、あらゆる薬物で起こる。

 感染をきっかけとして、本来細菌やウイルスに反応するT細胞が、薬剤に対する反応性を獲得し、交叉反応が起こる可能性も考えられており、長期間服用している薬剤であっても、何らかの感染をきっかけに重症薬疹が発症する可能性がある14)

 また、細胞毒性型アレルギー機序で慢性的に起こる固定薬疹は、口内炎を併発する。固定薬疹は、同じ場所に繰り返し、硬貨から卵大の楕円形の境界のはっきりした紅斑ができる。この薬疹は、疼痛や灼熱感を伴い、数日で軽快するが、色素沈着が残る。再発を繰り返すうちに別の場所にできるようになる。解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗てんかん薬などで起こりやすい。

(6)栄養障害によるもの
 抗菌薬の投与により、腸内細菌から作られるビタミンB群の産生が低下し、口内炎を起こすことがある。

     * * *
 冒頭の症例について考えてみよう。薬剤師が話を聞いたところ、中央に浅いくぼみがある白っぽい潰瘍のアフタ性口内炎がよくできるとのこと。他に人差し指と肘に紅斑ができており、肘の部分は、色素沈着が見られた。紅斑はいつも口内炎と同時期にできて、自然に治癒していたという。

 イブAを以前から服用していたことから、薬剤師は含有されるイブプロフェンかアリルイソプロピルアセチル尿素による固定薬疹を疑い、受診を勧めた。

参考文献
1)柴田敏之、医学と薬学2012; 67:837-41.
2)深山正久 『はじめの一歩のイラスト病理学、適応と傷害』 羊土社
3)山崎知子、医学のあゆみ 2007;222:1086-90.
4)柿本保明ら、厚生科学研究費補助金長寿化学総合研究事業 『高齢者の口腔乾燥症と唾液物性に関する研究 平成13年度報告書』
5)Deborah M.W, Journal of dental education 2001;65:306-12.
6)Sonis ST, Oral Oncology 1998;34:39-43.
7)山田隆文、明倫歯誌 2001;4:69-75.
8)Sonis ST,et.al., Cancer 2004;100:1995-2025.
9)厚生労働省『重篤副作用対応マニュアル、抗がん剤による口内炎』http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html
10)太田洋二郎ら、月刊ナーシング 31;77-80:2011.
11)中原剛士、医学のあゆみ 241;577-80: 2012.
12)二山真美ら、西日皮膚 66;266-8:2004.
13)厚生労働省『篤副作用対応マニュアル、薬物性口内炎』http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html
14)塩原哲夫ら、医学のあゆみ 2003;205:960-4.

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