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医師が語る 処方箋の裏側
ワーファリンが突然「5日分」になった理由
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 心房細動と高血圧、脳梗塞の既往があり、ワルファリンカリウム(商品名ワーファリン他)を10年以上服用している奥村正義さん(仮名、79歳)。高齢ながら活動的で、先日も奥様と北欧に旅行に行くと言って、診察室を後にした。

 ところが数週間後、奥村さんは英文の紹介状を持って外来を訪れた。旅行中に下血があり、乏血性ショックを来して現地の病院に入院したという。既に病状は落ち着いていたが、紹介状によると入院時のプロトロンビン時間国際標準比(INR) は9.9以上と著明に延長。クレアチニン3.53mg/dLと、急性腎不全も来していた。

 出血の原因は何か。ヒントとなるのは、抗凝固療法における大出血のリスクを評価する指標の「HAS-BLEDスコア」だ。同スコアでは、高血圧、腎・肝機能障害、脳卒中や出血の既往、不安定なINR、65歳以上、薬剤(抗血小板薬や非ステロイド性抗炎症薬)やアルコール依存をリスク因子に挙げている。このうち腎障害が今回の事態を招いたと考えられた。

 奥村さんの出発前のINRは安定しており、腎機能も特段問題なし。だが、帰国後の内視鏡検査で虚血性腸炎が判明した。恐らく、虚血性腸炎による出血で腎臓への血流量が減り、急性腎不全を来した結果、ワルファリンの排泄が遅延して大出血につながったと推測された。検査結果が出るまでワルファリンを中断したが、「脳梗塞で寝たきりになりたくない」との奥村さんの強い希望も踏まえ、5日分から再開した。右は再開時の処方箋だ。

 奥村さんのようなケースはまれだが、防ぎ得る腎障害として、脱水に伴う急性腎不全がある。ワルファリンを服用中の患者には、感染性胃腸炎などにより食事が取れない、排尿回数が減った、尿の色が濃いといった状態が2~3日続く場合は、医師に相談するよう伝えてほしい。(談)

上野 勝則氏
Ueno Katsunori
東京厚生年金病院(東京都新宿区)救急総合診療部主任部長。1978年に和歌山県立医科大学医学部卒業後、30年以上にわたり東京厚生年金病院に勤務。内科部長、中央検査部長を経て2008年から現職。日ごろから内科・循環器科領域を中心に最新の英語論文に目を通し、同病院医薬情報室の薬剤師にも情報提供しているという。

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