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特集:
信頼関係を築くための服薬指導7つのポイント
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 「副作用をどう話せばいいか」「薬剤師の一言が治療に悪影響を与えないか」など、頭を悩ますことが多いうつ病患者の服薬指導。ここでは、患者の話を上手に聞き、信頼を得るためのポイントを紹介する。

 「精神科領域の薬では、服薬への不安や抵抗感を持つ患者が多い」とハーブ調剤薬局稲沢店(愛知県稲沢市)管理薬剤師の大岩眞二氏。特に初めて抗うつ薬が処方された患者には、不安を与えないような説明の工夫が求められる。

「薬剤師の支援によって服薬継続率を高めることができる」とハーブ調剤薬局稲沢店の大岩眞二氏。

 同薬局は、精神科専門薬局を展開するハーブ(愛知県豊田市)のフランチャイズ1号店。精神科薬物療法認定薬剤師でもある大岩氏は、「抗うつ薬とストレートに伝えることを避けて、効果を前面に出して説明する」と言う。医師からうつ病だとはっきり伝えられていない患者や、聞いていても受け入れたくない気持ちが強く「自分はうつ病じゃないのでは」と思っている患者は少なからずいる。そうしたケースでは、「うつ病の薬」と言ってしまうと、「私は違うから服薬しない」となる可能性が高いからだ。大岩氏は、「不安や緊張を取る薬」と、効果を中心に説明し、「不安や緊張があったり、ふさぎ込んだりすることがありますか」と聞き、本人の症状と薬が合っていることを確認する。

 一方、精神科病院の近隣にある、あけぼの薬局内守谷店(茨城県常総市)管理薬剤師の清水朋子氏は、「今のあなたのつらい症状を改善するための薬です」と説明するという。

「薬を勝手にやめさせないことがとても大切」とあけぼの薬局内守谷店の清水朋子氏。

 また、その日の症状によって薬を増減する患者が多いことから、「つらい症状を取るには、医師の指示通りにきちんと飲むことが、とても大切なことです」と、用法通りに飲むように念を押す。

 さらに清水氏は、「分からないことや不安なことがあったら、いつでも電話をください」と、夜間でも通じる連絡先を教える。いつでも薬剤師に相談できることが、患者にとって安心感につながる。

医師の説明とすり合わせを

 患者を不安にさせ、治療を妨げることにもなるのが「医師の処方を疑うような薬剤師の一言」と東京厚生年金病院(東京都新宿区)精神科・心療内科主任部長の大坪天平氏は指摘する。同氏は、「ベンゾジアゼピン系の薬は依存性があるので、あまり飲まない方がいい」「同じ系統の薬が2種類も出ているのは意味が分からない」など、処方に対する意見や疑問を患者に伝えてしまう薬剤師がいることを問題視する。

 医師は、薬の良い点と悪い点を十分承知した上で、必要な治療と考えて処方していることが多い。また、薬の切り替え時には、同系統の2剤が併用されることもある。「正しい指摘であっても、悪い点のみを伝えられると、患者の治療に悪影響を及ぼす可能性がある」と大坪氏。慎重に服薬指導を行う必要がある。処方に疑問を感じたら、まず「医師からはどのように聞いておられますか」と医師の説明とのすり合わせを行うことが大切だ。

 副作用の説明は、患者を不安にさせる要因の一つだ。しかし、伝えなければいいかというと、そうともいえない。SSRIなど最近主流の抗うつ薬は、効果よりも副作用が先に表れることが多い。このことを知らされていないと、副作用が発現したとき、患者が驚いて服薬を勝手に中断してしまったり、治療を受けなくなってしまうこともあるからだ。

 前出の信愛クリニック院長の井出氏は、「副作用を伝えるときは、ネガティブな情報だけを伝えるのではなく、ポジティブな言葉で締めくくるようにしてほしい」と話す。例えば、吐き気の副作用について「服薬初期に、胃がむかむかすることがあるかもしれません」とだけ伝えると、副作用に対する不安が頭に残る。プラセボ効果で、副作用を誘発することにもなりかねない。

 一方、「飲み始めにはむかむかすることがあるかもしれませんが、それは心配な反応ではなく、しばらく飲み続けると治まるので、服用を続けてくださいね」と、服薬の継続を促す言葉で話を締めくくると、患者が受け取る印象は随分違ってくる。

 大坪氏も「薬局で患者に渡す薬の説明書には、発現頻度に関わりなく多くの副作用が列記されていることが多い。口頭では、主な副作用の頻度と程度を伝え、不安をあおるような言葉はできるだけ避けてほしい」と訴える。

 また、副作用が発現しても、自己判断で薬をやめてしまわないような説明も大切だ。清水氏は、「どうしても耐えられないようであれば、他の薬もあるので、そのときは言ってほしい」と患者に伝えておくという。別の手段があることを伝えて、気持ちを楽にしてもらいつつ、副作用が出たときには、「受診して薬を変えてもらおう」と思ってもらうのがポイントだ。

 2回目以降の服薬指導では、副作用や服薬コンプライアンスの確認とともに、生活面についても聞くようにしたい。「食事はおいしく食べられているか」「眠れているか」といった生活面の質問をすることで患者の状態が把握でき、薬の効果を確認できるからだ。

 飲酒の有無についても必ず確認したい。抗うつ薬や睡眠薬の多くは、アルコールとの併用には注意が必要だ。さらに、前述の国立精神・神経医療研究センターの松本氏は「われわれの調査では、1カ月に10日以上お酒を飲むうつ病患者は、自殺で亡くなるリスクが高いことが分かっている」と説明する。様々な研究によって、飲酒の習慣があるとうつ病が難治化しやすく、薬物療法の効果も得にくいことが明らかにされている。うつ病患者は、治療中は禁酒するのが原則だ。

 主治医が患者の飲酒に気づいていない場合も少なくない。そうしたケースでは、患者に飲酒について主治医と相談するよう勧めたり、患者の飲酒状況を主治医に報告して、患者の飲酒に対する注意を喚起するなどの工夫も必要だろう。

 副作用が発現しやすい服薬開始直後に加えて、薬の効果が出始めた頃にも自己判断による薬の中断が起こりやすい。

 清水氏は、「かぜ薬や鎮痛薬のように、症状が改善したら服薬しなくてもいいと思っている患者が、案外多い」と指摘する。

 急な抗うつ薬の中止は、退薬症候を引き起こす。また、治療途中での抗うつ薬の減量や中止は、うつ病を難治化させる一因となる。寛解後であっても早期に抗うつ薬を減量、中止することは再燃の危険性を高めるとされている。症状が出なくなっても服薬を続ける必要があることをあらかじめ伝えておき、自己判断で服薬を中止しないように念を押す。

 患者の「いつまで薬を飲めばいいのか」という問いにも注意が必要だ。「そろそろやめてもいいのでは」と思っていることが多いからだ。

 大坪氏は「薬をやめる時期について聞かれたら、答えを示すのではなく、医師に相談するように促し、医師が薬をやめてもいいと判断するまで、決められた量をきっちり服用することが徹底できるように働き掛けてほしい」と言う。

「服薬の継続と、医師に相談することを積極的に後押ししてあげてほしい」と話す東京厚生年金病院の大坪天平氏。

 ヘルスカウンセリング学会公認ヘルスカウンセラーの認定を持つアップル薬局小岩店(東京都江戸川区)管理薬剤師の小見川香代子氏は、「いつまで薬を飲めばいいのか」と質問されたときには、答える代わりに、なりたい自分や治ったら何がしたいかなどを尋ねることがあるという。患者が自分のなりたい姿をイメージして、そうなるには服薬が必要なことに気づいてもらうためだ。

 その上で、「したいことができるようになるまでには少し時間が掛かるけど、焦らないで」と伝える。本人が「焦らず服薬を続けよう」と思うことが大切だ。

 「今後、私はどうなるのか」「将来どうしたらいいのか」といった不安を薬局で訴える患者も少なくない。

 大坪氏は医師の立場から「治療上、患者への指示系統は一本化されていることが大切。色々な人が色々なことを言うと、患者は混乱するので、指示は医師に任せてほしい」と訴える。

 薬剤師に求められるのは、不安な気持ちがあれば、主治医に伝えるように患者に提案し、後押しすること。「医師には言いづらい、聞きづらい」という患者には、「勇気を出して言ってみませんか」と背中を押してあげることも大切だ。「私から、そのことを主治医の先生にご連絡してみましょうか」とサポートするのもよいだろう。

「死にたい」と訴える患者もいる。そんなとき「絶対にしてはいけないのは、自らの倫理観や生命観、道徳観を持ち出して『死んではいけない』と説得しようとすること」と松本氏は強調する。

 せっかく心を開いて「死にたい」と伝えたにもかかわらず、「死ぬことはいけない(=不道徳)」と言われてしまうと、患者は心を閉ざしてしまう。松本氏は、「誰にも『死にたい』と言えずに、援助の手が入らず自殺して亡くなる人が多い。『死にたい』と言えることが大切。まずは『つらい大事な気持ちを、よく話してくれましたね』とねぎらいの言葉を掛けてほしい」と話す。

 そして、「死ぬかどうかに焦点を当てるのではなく、患者が抱えるつらさの原因を明確にし、つらさを和らげるためにお手伝いするというスタンスで接することが大切」と松本氏は続ける。

 それには傾聴が大切だ。患者の話を聞きながら、「つまり、あなたはこういうことで苦しんでらっしゃるのですね」などと要約すると、「あなたの話をきちんと聞いていますよ」というメッセージを患者に届けることができるし、患者が抱える問題を明確化することにもなる。

 患者のつらさを引き出すには、質問も大切。「『あなたをそこまで追い詰めている原因は何でしょうか』といった質問をするのもよい」と松本氏は話す。

 患者の問題がはっきりしたら、しかるべき専門家を紹介し、患者を専門家につなげる。具体的には、まだ精神科を受診していなければ、精神科の医療機関や精神保健福祉センターなどを紹介する。既に精神科にかかっている場合は、「そのつらいお気持ちを先生にお伝えしましたか」と聞き、主治医に相談するように促す。

 他にも、借金の問題があれば債務処理をしてくれる弁護士や司法書士の存在を伝えると患者の助けになる。

 いのちの電話や自殺相談ダイヤル、メンタルヘルスダイヤルなどの存在を知らせることも大切だ。日ごろから情報を集めておき、薬局にパンフレットなどを常備しておくといいだろう。

 しかるべき専門家につなぐには「何かあったときに相談してもらえるような存在になっておくことが大切」と小見川氏は言う。

 そのためには信頼関係が大事だが、関係を築くために小見川氏が心掛けるのは、「あなたのことを気に掛けていますよ」というメッセージを患者に伝えることだ。患者の顔を覚えておき、薬局に入ってきたときに、「調子はどうですか」と声を掛ける。

 また、服薬指導時には薬歴を活用して、「前回は、こう言っていましたが、その後はどうですか」など、継続した指導を行う。また、「気になることはないですか」「我慢していることはありませんか」といった言葉を掛け、患者が話しやすいようにする。

 訴えをきちんと拾い上げるには、話を最後まで丁寧に聞くことも大切だ。「大切なことは最後に話す人が多い」(小見川氏)からだ。次の患者さんに気持ちが移っていると、訴えを聞き逃す恐れがあるので、気を付けたい。

「重要なことを最後に話す患者さんが多い」と話すアップル薬局小岩店の小見川香代子氏。

 「薬局薬剤師は、患者が受診して家に帰るまでの最後に接する、いわばアンカー」(井出氏)といえる。薬剤師の関わり方がうつ病患者に与える影響の大きさをを十分認識して、日々、服薬指導したい。

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