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特集:
これだけは知っておきたい うつ病の薬の使い方
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 SSRI、SNRI、NaSSAがそろい、使える薬のバリエーションが増えた抗うつ薬。医師がこれらの薬をどのように選び、うつ病患者を治療しているのかを紹介しよう。

 うつ病の薬を理解するために、まずは疾患やタイプを表す多様な名称を整理しておこう(図1)。一般に「うつ病」と呼ばれる疾患は、米国精神医学会の診断基準(DSM-lV)の「気分障害」の中の、「大うつ病性障害」に当たる。大うつ病の「大」は、症状の重さを表すわけではなく、major depressive disorderの訳。強い抑うつ症状があり、「何をしても楽しくない」「食欲がない」「眠れない」などの症状が、2週間以上にわたって続く(表1)。

図1 気分障害の主な疾患

表1 うつ病の診断基準の主な要点
(高橋三郎ら訳『DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引』[医学書院、2003]を一部改変)

 大うつ病には、様々なタイプがある。「メランコリー型うつ」は、抑うつ症状をベースに不眠や強い自責感を示す典型的なタイプで、元来真面目な性格の人に起こりやすい。この典型例とは異なり、過眠や過食、良いことがあると気分が良くなるタイプが「非定型うつ」だ。他にも、精神症状より身体症状が早く現れる「仮面うつ」、冬の間だけ強い抑うつ症状が現れる「季節性うつ」などがある。

 気分障害には、「双極性障害」も含まれる。これは、抑うつ症状だけでなく、気分が著しく高揚して異常に活動性が高まる躁状態も呈する疾患。抑うつ症状が年単位で続く人も少なくなく、患者は躁状態のときは受診しないことが多いので、専門医でも診断は難しい。国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部部長の功刀浩氏は、「大うつ病は抗うつ薬が治療の中心になるが、双極性障害では気分安定薬が中心」と語る。双極性障害に抗うつ薬を使用すると、躁状態に移行する「躁転」を起こす恐れがある。大うつ病と双極性障害では薬物療法が全く異なることは知っておきたい。

国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部の功刀浩氏は、「抗うつ薬は1種類にとどめるのが原則」と話す。

身体症状のみを訴える「うつ」も

 抗うつ薬が処方されるのは、精神科を受診した患者とは限らない。近年、身体症状のみを強く訴え、精神症状は訴えないうつ状態の患者が意外に多いことが分かり、注目されている。

 「内科受診患者のうち、少なくとも3割、状況によっては半分以上は、うつや不安が身体症状の原因だといわれる」と、信愛クリニック(神奈川県鎌倉市)院長の井出広幸氏は話す。井出氏は、消化器内科を専門としつつ、米国から非専門医向けの精神疾患診療法を導入し、精神科医療に造詣が深い。

信愛クリニックの井出広幸氏は、「多くの身体症状の背後にうつや不安があることに、医師が気づき始めている」と話す。

 患者が訴える身体症状は、頭痛、耳鳴り、痺れ、舌痛症、動悸、胸痛、下痢など多種多様だ。多くは原因を見つけてもらえず、症状に悩んでいる。井出氏は、そんな患者を的確に診断し、抗うつ薬などを処方。「抗うつ薬が劇的に効き、身体症状が全くなくなる患者が多い」と井出氏は話す。

 患者自身は、身体症状がうつ状態によって起こっているとは考えていない。井出氏は、「抗うつ薬で治療します」と直接的に伝えるのではなく、「心のエネルギーレベルや回復力が少し下がっているようです。セロトニンという神経伝達物質をお薬で調整してあげると、本来のご自分に復元する力が高まるといわれています。うつと不安に効くお薬なのですが、使って、良い体調を取り戻しませんか」といった言葉を掛け、抗うつ薬の使用を提案しているという。

新規抗うつ薬の効果は差がない

 現在うつ病の薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)といった新規抗うつ薬が主流になっている(別掲記事参照)。

 では、これら新規抗うつ薬の効果はどの程度違うのだろうか。功刀氏は、「抗うつ効果には、はっきりとした差があるわけではない」と説明する。日本うつ病学会の治療ガイドライン『大うつ病性障害2012 ver.1』でも、新規抗うつ薬の間では「有効性、忍容性の両面で、臨床的に明確な優劣の差はない」と明記されている。

 ただし、「副作用や相互作用、用法などが抗うつ薬によって異なる。患者によって合う薬も違う。それらを勘案して薬を選択する」と功刀氏は続ける。

 なお、難治例では、新規抗うつ薬よりも三環系抗うつ薬の方が、抗うつ効果が強いと多くの専門家は口をそろえる。抗コリン作用など副作用が懸念される三環系抗うつ薬が、いまだに難治性うつに用いられるのは、そのためだ。

 抗うつ薬の使い方は、「単剤投与が原則。単剤を最大量まで増量して6~8週間使い、効かなければ次の薬に置き換える」と功刀氏。ただし、「日本の抗うつ薬の承認用量は、米国での承認用量よりも少ないことが多い。このため、2種類の抗うつ薬を併用することはあるだろう。しかし、4~5剤ともなると多過ぎる」と続ける。

 ちなみに、抗うつ薬の併用では、「カリフォルニアロケット燃料」と呼ばれるSNRIとNaSSAの組み合わせが有名。この組み合わせは、セロトニン系とノルアドレナリン系に加え、ドパミン系も活性化させるといわれる。

 それでは、実際の薬の使い方を、症例を基に井出氏、功刀氏から紹介してもらおう。

 患者は「胃が痛い」と訴えて当院を訪れたが、上部消化管内視鏡検査では異常がなかった。問診を進めると、患者は職場で新しい上司とうまくいかず強いストレスを感じ、最近は熟眠感がなく、会社に行くのがひどくつらいと訴えた。時々電車の中で動悸がして具合が悪くなり、人前に出ると緊張するという。いずれも軽度の、うつ状態、パニック障害、社交不安障害と診断した。

 上記処方のセルトラリン塩酸塩(商品名ジェイゾロフト)は、不安よりもうつの症状が比較的強い場合に向き、体重増加を来しにくいので若い女性患者にも使いやすい。

 スルピリド(ドグマチール他)は、消化器症状の不定愁訴に有効なことが多い。セルトラリンの服用初期に生じる吐き気の回避も期待して処方した。なお、スルピリドによる食欲・体重増加や月経不順といった副作用は、用量が少ない方が出にくい。

 ゾルピデム酒石酸塩(マイスリー他)は不眠時、アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン他)は、電車の乗車中に具合が悪くなったときの頓用とした。

 その後、セルトラリンを100mgまで増量したところ、3カ月後に患者は「胃痛はなくなって調子が良くなった」と話した。

 このような患者は非常に多い。十分量の抗うつ薬を3~4カ月使うと身体症状がすっかり改善。そして処方を半年ほど維持して減量・中止する。トータルで1年くらいの治療期間だ。

 患者は首から肩、手にかけての痺れや痛みがあり、複数の整形外科医を訪れ、MRI検査をはじめ様々な検査を受けたが、原因は見つからなかった。ロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニン他)やプレガバリン(リリカ)、トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン(トラムセット)などを服用しても、痺れや痛みの症状は少しも良くならず、弱りきって当院を受診した。

 問診をすると、患者には頻回の中途覚醒があり、朝に熟眠感がなく、最近は何も楽しいことがなくて体の不調ばかりが気になる状態で、うつエピソードがあると分かった。

 SNRIのデュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)は、ジンジンする神経性の痛みに効果を発揮することが多い。NaSSAのミルタザピン(リフレックス、レメロン)は眠気の副作用が強いが、それがかえって、眠りが浅い高齢者の睡眠リズムの乱れを回復させるのに有効だ。その後、ミルタザピンは30mg、デュロキセチンは40mgまで増量した。 3カ月たつと、患者は「あんなにしつこかった痺れが全然気にならなくなりました」とにこやかに話した。

 この症例には、「カリフォルニアロケット燃料」と呼ばれるSNRIとNaSSAの併用が劇的に効いた。このようなケースも多い。

 患者は、元来活発な性格だったが、1年前から特に原因がないのに気分が落ち込むようになり、意欲や食欲の低下、腹痛なども現れた。精神科クリニックにて抗うつ薬などを処方してもらったが、食欲低下が改善するのみ。気分の落ち込みは治らず、物忘れが多くなってきたので、認知症を疑われて当院を紹介受診した。

 当院で精査したら、認知症を疑わせる所見はなく、老年期発症のうつ病と診断した。抗うつ薬は、有効でなければ別系統の抗うつ薬に変更する。前医で、SNRIのミルナシプランと、スルピリドでは効果不十分だったので、SSRIのパロキセチン塩酸塩水和物(パキシル他)を選んだ。

 初回は、前医の処方内容からドスレピン塩酸塩(プロチアデン)を抜いた上で、パロキセチン20mgと、頭痛などの症状に対するロフラゼプ酸エチル(メイラックス他)2mgを追加。2週間後に患者は「気分は大分楽になった」と述べ、この患者にはパロキセチンが有効とみられた。6週間かけてミルナシプランやニトラゼパムを減量・中止し、スルピリドも100mgに減量、パロキセチンを30mgとした。その後、軽度のパーキンソン症状がみられたため、スルピリドも中止した。

 治療開始から3カ月経った頃にロフラゼパムも減量・中止し、パロキセチン30mgの単剤投与で維持したら、治療開始から5ヵ月後には「気分がとても良くなった」と話し、家事も通常通りできるようになった。パロキセチン20mgで維持し、2年程で治療を終了できた。

 前医はミルナシプランやスルピリド、ドスレピンを使い多剤併用していたが、このケースのように患者に合う薬を見つけ、単剤使用するのが原則だ。

 患者は5年前、資格試験に失敗してから抑うつ、自信喪失、意欲低下、不眠などを起こした。精神科クリニックにてスルピリド、アモキサピン(アモキサン)、パロキセチン、ミルナシプランなどを処方されていたが、改善せず不調が続いている。1年前に転職しても疲れやすく、気力が出ない状態が続くので、当院を受診した。

 初診時の精査で、メランコリー型うつ病と診断した。これまでに種々のSSRIやSNRIを試すも無効であったので、私が実施しているドパミン作動薬の臨床試験への参加を促したところ、同意が得られた。うつ病では、セロトニンやノルアドレナリンだけでなく、ドパミンも重要な働きをしており、ドパミンに作用するパーキンソン病治療薬がうつ病に有効なケースがある。

 初診時は、前医の処方に、ドパミン作動薬のプラミペキソール塩酸塩水和物(ビ・シフロール)を0.25mg追加した。その後プラミペキソールを徐々に増量すると、6週間後から症状が改善し始め、10週間後(プラミペキソール3mg)には、患者が「割と好調」「極端な落ち込みがなくなった」と言うようになった。

 12週間後は「活発になってきた」と言うようになり、その後、職場復帰を果たした。プラミペキソール以外の薬物の多くを半年ほどかけて漸減中止したが、好調を維持している。

 この患者のように難治性のうつには、プラミペキソールが有効だという報告がある。ドパミン作動薬のブロモクリプチンメシル酸塩(パーロデル他)も、難知性うつに有効だと知られている。つまり、難知性のうつには、ドパミン受容体の刺激によって改善するケースが含まれると考えられる。

抗うつ薬の効果発現機序は「BDNF仮説」が主流に

 従来、抗うつ薬の効果発現機序としては、モノアミンが増えて臨床症状が良くなるという「モノアミン仮説」が定説だった。しかし、抗うつ薬を使うと1時間ほどでシナプス間隙のモノアミン量が増えるのに対し、臨床効果の発現は4週間程度経たないと見られない。なぜタイムラグが起こるのかをモノアミン仮説では説明できなかった。

 功刀氏は、「最近の報告では、『BDNF仮説』が主流になってきている」と話す。BDNFは脳由来神経栄養因子の意味で、神経細胞のシナプスを増やしたり、神経新生を促進する働きがある。

 慢性的なストレス環境下では、ストレス反応と関係が深い海馬でのBDNF量が減る。というのも、慢性的なストレスがあると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が長期間亢進する。コルチゾールが、海馬でのBDNF発現を減少させるからだ。結果的に、海馬の神経が傷害されてしまう。

 一方、「抗うつ薬で神経細胞が活性化すると、BDNFが増えると報告されている」(功刀氏)。BDNFの増加した状態が4週間ほど続くと、傷害された海馬などの神経が修復され、臨床症状も改善するとの考えが「BDNF仮説」だ。実際、「BDNF仮説」を支持するエビデンスが集積してきている。

図2 うつ病の発症・治癒過程とBDNF
功刀浩『精神疾患の脳科学講義』(金剛出版、2012)の図を編集部で一部改変

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図2 うつ病の発症・治癒過程とBDNF
功刀浩『精神疾患の脳科学講義』(金剛出版、2012)の図を編集部で一部改変

ユニークな作用を持つNaSSA

帝京平成大学薬学部の枝川義邦氏は、「NaSSAには、SSRIやSNRIとは異なるユニークな作用がある」と語る。

 NaSSAは、SSRIやSNRIとは異なる、ユニークな作用を持つ。

 本誌「薬理のコトバ」の著者で帝京平成大学(千葉県市原市)薬学部教授の枝川義邦氏は、「SSRI、SNRI、NaSSAは、いずれもシナプス間隙のセロトニンやノルアドレナリンを増やす。しかし、SSRIやSNRIが神経細胞の再取り込みポンプを阻害するのに対し、NaSSAは受容体を阻害して薬理作用を発揮するところがユニーク」と解説する。NaSSAは、セロトニン神経やノルアドレナリン神経のα2アドレナリン受容体を阻害することで、セロトニンやノルアドレナリンの遊離を増大させる。

 さらにNaSSAに唯一分類されるミルタザピン(リフレックス、レメロン)には、SSRIやSNRIで問題となる悪心・嘔吐や性機能障害を抑える作用もある。というのも、セロトニンの受け手となる5-HT受容体のうち、5-HT2、5-HT3受容体を刺激すると悪心・嘔吐や性機能障害が起こるが、ミルタザピンは5-HT2、5-HT3受容体の阻害作用も持つので、こうした副作用が少ないのだ。一方、ミルタザピンはヒスタミンH1受容体を阻害するので、傾眠の副作用が強い。

表2 主な抗うつ薬の特徴

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表2 主な抗うつ薬の特徴

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