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Interview
自殺を防ぐゲートキーパーとして活躍してほしい
日経DI2013年2月号

2013/02/10
坂口裕一

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 効果的な自殺対策の一つに挙げられるゲートキーパー養成。 内閣府が昨年3月に作成した「ゲートキーパー養成研修用DVD」では、新たに薬剤師編が加わった。 同DVDの監修者を務める岩手医科大学医学部災害・地域精神医学講座特命教授の大塚耕太郎氏に、 薬剤師に求められるゲートキーパーとしての役割について聞いた。(聞き手は本誌副編集長、佐原 加奈子)

1997年岩手医科大学医学部卒業。2001年岩手医科大学神経精神科助手、05年同講師、12年から現職。岩手県こころのケアセンター副センター長も兼務。

─自殺対策におけるゲートキーパーとは、どのような人のことでしょうか。

大塚 悩んでいる人に気づき、声を掛け、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のことです。つまり、必ずしも専門家を意味するわけではなく、家族や友人など一般の人を含めた、全ての支援者を指します。

 以前、ある地域の住民を対象に、自殺対策に関する意識を調査したのですが、「身近に自殺の危険性がある人がいたときに、あなたは助けになりたいと思いますか」と聞くと、8割ぐらいの方が「助けになりたいと思う」と答えました。「この世の中、まだまだ捨てたものじゃないな」と思いました。

 しかし、支援できない理由で最も多かったのが「どうやって助けたらいいのか分からない」というものでした。ですから、困っている人を助けたいという思いがある方々に、ゲートキーパーとしての知識とスキルを習得してもらうことが、自殺対策として有効な戦略なのです。

─先生が監修された内閣府の「ゲートキーパー養成研修用DVD」は、どのような経緯で作られたのですか。

大塚 2006年に自殺対策基本法が成立、翌07年には自殺総合対策大綱が閣議決定され、自殺対策の推進が強化されることになりました。これに伴って、地域自殺対策緊急強化基金などの予算措置が講じられて、各地域で対策が推進されることになりました。私は、内閣府の基金関連の会議で、現場の自殺対策の取り組みについてお話をさせていただく機会がありました。

 私は以前から、自殺死亡率が特に高い岩手県北部の久慈地域で自殺対策に取り組んできました。その経験などから、地域で対策を進める上で重要なのは、仕組みをつくることと、人を育てることの2つだと考えています。仕組みとは、地域のネットワークを意味します。そして、ネットワークを機能させるためには、人を育てることが重要です。育てた人は地域に残る宝であり、支援の大きな力になります。

 世界保健機関(WHO)においても、ゲートキーパー養成のプログラムを提供することが重要な戦略の一つとして推奨されています。また、自殺総合対策要綱の中でも、ゲートキーパーの養成は当面取り組むべき重点施策の一つとされています。そのために、ゲートキーパーの養成研修プログラムを提供することが役立つと考え、内閣府の方々と一緒にプログラムの教材として、テキストと動画・DVDの開発に取り組ませていただきました。

─具体的に、どのような内容なのでしょうか。

大塚 オーストラリアのキッチナー・B先生が開発した教育プログラム「メンタルヘルス・ファーストエイド」を骨子にしたものです。ファーストエイドとは、救急対応や危機介入という意味です。

 「メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパン」という私たちのチームは、メルボルン大学の開発者のところで研修を受けながら、日本に導入することをディスカッションしました。始めは、09年に臨床研修医を対象に、2時間ぐらいの研修プログラムとして導入しました。効果検証の研究で、この研修を受講した臨床研修医の自殺対応スキルが向上したことが示され、地域の従事者に対象を広げ、一般の方々にも適用できるようにプログラムを開発しました。

 このプログラムは、「りはあさる」という5つの基本ステップで構成されています。「り」はリスク(自傷・他害)を評価する、「は」は判断・批評せずに話を聞く、「あ」は安心と情報を与える、「さ」はサポートを得る(医療・福祉、法律その他の相談機関など専門家のところに行く)ように勧める、「る」はセルフ・ヘルプ(自分で対応できる対処法)を勧める─です。この5つのステップは、専門家であっても一般の人であっても同じですが、具体的な支援の内容は異なります。それぞれの立場で、できる範囲の行動でよいのです。

 このプログラムのポイントは、講義だけでなく、ロールプレイやディスカッションに基づく体験型学習の内容が充実していることです。ある場面を設定し、そこでの役割を演じることで、実務上のポイントを体得するロールプレイです。

 通常は、何のシナリオもなくロールプレイを行うことは難しいと感じる方もおられるので、ロールモデルとして、家庭や職場などでありがちな場面を一般編に、役所などの相談窓口、医療機関、法律相談などの場面を専門家編として、それぞれシナリオを用意しました。この専門家編の一つが、薬局を想定した薬剤師編です。そして、各シナリオに「悪い対応」と「良い対応」を提示しました。悪い対応と良い対応を照らし合わせる手法は、教育効果を高めることが実証されています。

 大事なことは、こういった教材を、誰でもどこでも入手できるようにすることです。全てのテキストや動画は内閣府のホームページで見られるようにしました。ダウンロードして活用することも可能です。

─薬剤師編を作るに当たって、重視した点はありますか

大塚  日本薬剤師会に協力をいただき、地域の薬局で、どの薬剤師さんも経験しそうな日常的なやりとりになるように心掛けました。私は医師ですが、知り合いの薬剤師さんで、患者さんに優しく接し、色々と気に掛けている方々がいらっしゃいますので、そのイメージが基になっています。

 地方の薬剤師会などから研修会を頼まれて、「薬剤師は自殺対策として何をやったらいいのか」と聞かれることがありますが、私は薬剤師としての日常の業務の中で、少し意識していただくことが重要だと考えています。「薬剤師はゲートキーパーとしての責務を負っている」という堅いことではなく、日常業務の中で「ちょっぴり背伸びをして頑張ったら、こういうこともできるかもしれない」というスキルアップと考えていただくとよいと思います。具体的には、薬局に入ってきた患者さんの元気がない様子に気づいたら声を掛ける、話を聞く、地域の情報を提供する、患者さんの了解を得て医師にフィードバックするといったことです。これらは薬剤師さんが、いつもやっていることですよね。

 自殺を防止するためには、根本的な問題を解決に導くという視点も欠かせません。そもそも、死にたいという気持ちは、「もう、死ぬことでしか問題は解決できないんじゃないか」という考えから生まれるからです。そして、抱えている問題は、多くの場合は1つに限らず、病気、経済的な問題、人間関係など、複数の問題が複雑に絡み合っています。1つだけ問題を解決しようとしても、うまくいかないこともあります。

 様々な接点の中で、何が悩みを打ち明けるきっかけになるか分かりません。薬剤師さんとの何気ない会話がきっかけになることもあるでしょう。そんなとき、病気の問題であれば医療機関、行政サービスが必要なら市区町村の相談窓口、法律が絡む問題は弁護士というように、地域の適切な専門家につなげることができたら、患者さんは安心されます。患者さんにとって薬局は、すごく身近な存在であり、信頼を寄せる場所です。薬剤師の皆さんにはゲートキーパーとして活躍してほしいと思います。

インタビューを終えて

 「昔の薬局は、よろず相談所の機能も果たしていた」と聞きます。地元密着の経験豊富な薬剤師が、薬のことはもちろん、地域の医療機関や行政サービスの情報に精通し、患者を取り巻く人間関係も踏まえて、的確なアドバイスをする─まさにゲートキーパーの役割を果たしていたのですね。大塚先生は、ゲートキーパーが必要とされるようになった背景には、地域を支える力やつながりの低下があると指摘されています。地域を支える、よろず相談所的な薬局が今、求められています。(佐原)

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