DI Onlineのロゴ画像

DI BOX/過誤防止ノート
超短時間型睡眠薬による睡眠随伴症状
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 超短時間型の睡眠薬のゾルピデム酒石酸塩(商品名マイスリー他)や、ゾピクロン(アモバン他)、トリアゾラム(ハルシオン他)、エスゾピクロン(ルネスタ)の添付文書の警告には、「服用後に、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)があらわれることがある。入眠までの、あるいは中途覚醒時の出来事を記憶していないことがあるので注意すること」との記載がある。

 これは、米国において「睡眠薬を投与し就寝後に中途覚醒し、通常とは異なる行動(異常行動)を取った後、再び就寝したが、中途覚醒時の行動の記憶がない」といった副作用が問題となり、これらの副作用について、米食品医薬品局(FDA)が2007年3月に米国で販売されている催眠鎮静薬13剤を対象に注意喚起を行ったことによる。

 日本でも同様の副作用が報告されたことから、07年6月に厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知が出され、冒頭のように添付文書が改訂された。

 中でもマイスリーは、12年6月に後発医薬品である「ゾルピデム酒石酸塩錠」が薬価収載され、30社以上の企業が販売に乗り出している。ゾルピデムの処方は今後さらに増えると考えられることから、適正使用の推進と副作用の早期発見は極めて重要である。

 今回は、筆者らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員や全国薬剤師から寄せられた事例の中から、ゾルピデムによる睡眠随伴症状に関する報告を紹介する。

 なお、筆者らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例などは無料で閲覧が可能である。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから

 睡眠随伴症状は、睡眠に随伴する望ましくない身体現象と定義され、中枢神経系の活性化によって起こるものが多い。

 超短時間型の睡眠薬による睡眠随伴症状は、睡眠中に起き出して歩き回る、飲食するとの報告があるほか、家の外へ出て行く、自動車を運転する、枕元でマッチに火を付けるなどの報告もあるため、重大な事故につながる可能性がある。覚醒後に本人が記憶していないことが多いため危険である。

超短時間型で起こりやすい

 睡眠には、脳が休息していて比較的深い眠りのノンレム睡眠と、脳が活動している状態のレム睡眠がある。就寝後は、まずノンレム睡眠になり、その後レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返す。夢を見るのはレム睡眠中である。

 睡眠随伴症状は通常、入眠後早期の、最も深い眠りに至るノンレム睡眠の時間に生じる(引用文献1)。発症メカニズムは明らかではないが、セロトニン神経系の機能異常との関連が示唆されている(引用文献2)。

 ゾルピデムやベンゾジアゼピン系などのGABAA受容体に作用する睡眠薬による睡眠随伴症状の発現機序としては、次の仮説が提唱されている(引用文献3)。

 セロトニン神経系はGABAA神経系の制御を受けており、GABAA受容体に作用するゾルピデムやベンゾジアゼピン系の薬物を服用すると、セロトニン神経系の興奮が一過性に高まる。

 通常、セロトニン神経系の活性が高まると、自己調節のメカニズムを介してセロトニンの放出は減少するが、このメカニズムが働くまでにタイムラグがあるため、一時的に、セロトニン神経系が活性化した時間帯ができる。その結果、運動ニューロンの興奮が増加して、通常は睡眠中に起こらない運動が引き起こされることがあると考えられている。

 GABAA受容体に作用する睡眠薬のうち、特に、ゾルピデムやトリアゾラムなど消失半減期の短い超短時間型の薬剤は、セロトニン神経系の興奮が一過性に増加したときに、血中濃度が下がっていることが多いため、睡眠随伴症状を起こしやすいと考えられる。

 一方、短時間型の睡眠薬については、ブロチゾラム(レンドルミン他)で、一過性前向性健忘、もうろう状態の報告があり、十分に覚醒しないまま、車の運転、食事などを行い、その出来事を記憶していないとの報告がある。また、ロルメタゼパム(ロラメット、エバミール)では、夢中遊行症や夢遊症の報告はないが、健忘などの報告がある。

用量やSSRIとの併用に注意

 もうろう状態や睡眠随伴症状は用量依存的に表れるので、少量から投与を開始する。特に高齢者では、注意が必要である。少量から投与を開始するとともに、増量する際も1日最大投与量を超えないように注意すべきである。ケース1と2では減量したところ、症状は見られなくなった。

 また、就寝直前に服用することも重要である。服用して就寝後、起床して活動を開始するまでに十分な睡眠時間が取れなかった場合や、睡眠途中に一時的に起床して仕事などを行った場合などで健忘が表れる可能性がある。薬効が消失する前に活動を開始する可能性があるときは服用しないように指導しておく。

 患者本人に記憶がないため、訴えとして直接は表れにくいが、ゾルピデム服用中の患者や家族から、それと思われる訴えがあった場合は医師に報告し、投与量や薬剤の変更を検討する必要がある。

 また、睡眠随伴症状の発症には、セロトニン神経系の活性化が関与しているとみられることから、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)との併用には注意が必要である。ゾルピデムによる夜間摂食を伴う睡眠随伴症状や睡眠関連摂食障害の症例報告において、SSRIを併用していたとの報告がある。

一方、ゾルピデムなどのGABAA受容体活性を促進する睡眠薬が、低用量の SSRI 服用患者におけるセロトニン症候群の発症に関係しているとの報告もある。従って、SSRIを服用している患者にゾルピデムを使用する場合は、より慎重なモニタリングが必要である。

 そのほか、アルコールの摂取によってリスクが高まることも指摘されている。

 超短時間型の睡眠薬は、翌朝への持ち越しが少ないため高齢者にも処方されることが多いが、このような副作用が生じる可能性があることを薬剤師は認識する必要がある。

 特に、初めて超短時間型の睡眠薬を服用する患者に対しては、作用を増強させるアルコールとの併用は避けることや、知らないうちに思いがけない行動を取る可能性があると伝えておくことも重要である。高齢者の場合には家族にも伝えておくべきであろう。

 また、ケース1では、薬剤師が、マイスリーに睡眠随伴症状の注意喚起が出されていることを知っていたため、副作用の可能性に気づくことができた。薬剤師は添付文書に記載された副作用情報をよく認識して、服薬指導の際に、患者やその家族にそのような症状が出ていないかを確認する。特に、高齢者やSSRIを服用しているなど、ハイリスクの患者には積極的に聞き取りを行うようにしたい。

(東京大学大学院教授 薬学系研究科医薬品情報学講座・澤田康文)

引用文献
1) 睡眠医療 2008;2:199-209.
2) Med Hypotheses. 2005;64:28-32.
3) Med Hypotheses. 2011;77:230-3.

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ