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早川教授の薬歴添削教室
外来化学療法を再開した肺癌患者へのケア
日経DI2013年2月号

2013/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年2月号 No.184

 今回は、中部薬品春日井西薬局に来局した67歳女性、浅井初江さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。

 浅井さんは非小細胞肺癌と診断されて他院で治療を受けていましたが、今回、転院し、新たに化学療法を開始することになりました。薬局では、転院の経緯やこれまで受けてきた治療の内容などについて積極的に話してくれるほか、病院での血液検査結果も見せてくれています。数クールにわたって化学療法が行われる中で、処方薬の管理や服薬指導だけでなく、薬剤師としてどのような支援が可能であるかを考えながら、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師C~Eです。(収録は2012年9月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
中部薬品 春日井西薬局(愛知県春日井市)

 中部薬品春日井西薬局は、中部・北陸地方の7県で薬局やドラッグストアを展開する中部薬品株式会社が、2001年1月に開局した。

 応需している処方箋は月700枚程度。近隣の総合病院をはじめ、約100施設の医療機関からの処方箋を受けている。

 同薬局には、20代と30代それぞれ1人、計2人の薬剤師が勤務している。

 電子薬歴を導入しており、SOAP形式で記載している。患者から血液検査結果などのデータをできるだけ見せてもらって、薬歴に記録するほか、do処方であっても患者との会話を通じて病状経過を確認・把握することを心掛けている。また、処方箋を持たずに来局した患者の相談内容や電話での問い合わせについても、薬歴に記録している。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 薬歴の表書きを見ていきましょう(薬歴【1】)。現病歴に「肺癌」と書かれていますが、経緯を説明してください。

A 初来局は2008年4月です。総合病院であるZ病院の呼吸器科で、既に肺癌と診断されており、イレッサ(一般名ゲフィチニブ)が処方されていました。10年4月にタルセバ(エルロチニブ塩酸塩)へと変更になり、一時的に腫瘍マーカーの値が改善しましたが、11年9月に白血球数が低下し、中止となっています。今回、癌専門病院であるX病院で、改めて化学療法を受けることになりました。

早川 薬歴の表書きからは、タルセバの副作用対策と思われる皮膚科用薬や点眼薬が処方されてきた経緯が分かります。疲れやすく不眠があること、副作用歴、合併症としてB型肝炎があることも押さえています。

 これから外来化学療法の患者に関わっていく上で、まず、大まかな治療経過を把握しておく必要があります。11年11月11日、転院後初めての来局時の薬歴にも、様々な情報が記載されています。この患者の癌の状態や、これまで行われた治療内容、転移の有無は確認していますか。例えば、手術は行っていますか。

A 行っていません。

早川 放射線治療は?

A 確認していません。転移の有無も不明です。

早川 病状や病期、これまでの治療内容が分かれば、今後の治療方針をある程度推測でき、私たちのアプローチの仕方を考えることができます。確認した情報は、表書きか経過記録に記載しておくようにしましょう。把握できていない事項も、薬歴に「未確認」と記録しておくことが重要です。

どの検査結果に着目すべきか

早川 初回の薬歴に、腫瘍マーカーや血液検査結果が記載されています。ここから、どのようなことが読み取れますか(薬歴【2】)。

C 癌胎児性抗原(CEA)が非常に高い。

A シフラ21-1は基準値内です。

早川 これらの腫瘍マーカーはどのようなときに上がりますか。

一同 ……。

早川 一般に、CEAが高い場合は腺癌が多く、シフラでは扁平上皮癌が多いといわれています。

A 患者は、CEAが高値であることに加えて、B型肝炎のコントロールも必要と医師に言われて、同時に治療を進めていくことに対して不安に思っているようでした(薬歴【3】)。

早川 HBs抗原の検査結果も記載されていますね。B型肝炎の治療も行うことになった理由は何だと思いますか。

C 化学療法による免疫機能の低下に伴って、B型肝炎が増悪する可能性があるため。

早川 そうですね。バラクルード(エンテカビル水和物)について、「自己判断で治療を中止しないように」と伝えている点は良いと思います。その他にどんなモニタリングポイントがありますか。

A 腎機能。バラクルードは腎排泄の薬であり、抗癌剤が加わると腎毒性が強まる恐れがあります。

B もともと不眠があるので、治療が始まるとさらにストレスが増えて増悪するのではないでしょうか。

早川 非常に良い視点です。

D なぜバラクルードを始めるかについて、きちんと説明することで、不安感を取り除けるかもしれません。

早川 では、不安感と、実際の症状との関連を考えてみましょう。S情報として「下痢症状が悪化した」と書かれています。コロネル(ポリカルボフィルカルシウム)とロペミン(ロペラミド塩酸塩)は以前から処方されていますか。

A 今回初めて処方されましたが、以前、Z病院でタルセバによる治療を受けていた時も、やはり下痢症状があって別の薬が処方されていたようです。

早川 大事な情報です。そうすると、下痢症状の原因は何だと思いますか。

C 不安から来る過敏性腸症候群。

早川 下痢は以前の化学療法の影響というよりも、恐らくストレスによるものと考えられそうです。

ビタミン製剤の重要な処方意図

早川 続いて、11月21日の薬歴を見ていきましょう。体調変化は「なし」となっていますが、下痢症状については聞きましたか。

B 前回、20回分処方されたロペミンがまだ残っているということだったので、それほど頻繁には服用していないようでした。

早川 残薬の有無を切り口にして継続的に確認しているのは良いと思います。調剤用パンビタン末(総合ビタミン製剤)は、何のために処方されたと考えられますか(薬歴【4】)。

C ビタミンの補充。これから化学療法を開始するのだと思います。

早川 パンビタンに含まれる成分のうち、ここで重要なのはどれですか。

C 葉酸です。

早川 非小細胞肺癌の化学療法の前投与のプロトコルを考えると、恐らくビタミンB12の筋注も行っていると考えられます。ここでは、どんなことを患者に確認しますか。

B 今後、抗癌剤の治療を始めることを医師から聞いているかどうか。

早川 そうですね。通常、葉酸は化学療法を開始する1週間前から投与することになっています。この時に薬の意味は説明しましたか。

B いいえ。口内炎もあると聞いたので、それに対して処方されたと思いました。

早川 副作用を軽減するという目的や服薬の重要性を理解してもらう上で、化学療法の前投薬としてパンビタンが処方されているという説明は行っておきたいですね。

病院での治療内容も推測する

 では、12月21日の薬歴を見ていきます。入院してアリムタ(ペメトレキセドナトリウム水和物)による治療を受けたようです(薬歴【5】)。通常、アリムタはどのようなクールで投与されますか。

C 1日点滴して20日間休薬する。

早川 前回のパンビタンの処方日数も考え合わせると、12月1日に1クール目が開始したと考えられます。この時点で何を確認しますか。

A 1クール目を終えて、副作用が出ていないかどうか。

早川 その前に、どのような治療が行われたかが明らかになっていません。非小細胞肺癌の治療といえば?

A シスプラチンです。

早川 そうです。アリムタ単独のほか、プラチナ製剤とアリムタとの2剤併用も考えられます。もし、患者がプラチナ製剤とかシスプラチンといった言葉を知らなくても、聞く方法はありますね。

C 「点滴や注射は1回だけでしたか」と聞く。

早川 点滴に要する時間にも違いが出てきますね。併用療法の場合、今後見ていくべき副作用は何ですか。

C 腎毒性と消化器症状。

早川 そうすると、この患者が受けた治療はどちらだと思いますか。

C プラチナ製剤を併用する場合、イメンド(アプレピタント)などの制吐薬も処方されるはずなので、プラチナ製剤は使用していないと思います。

早川 デカドロン(デキサメタゾン)は何に対して処方されたと考えますか。

C 遅発性の嘔吐の防止。

早川 今挙がった情報からすると、アリムタ単独の可能性が高いと考えられます。確定はできないので、ここではアリムタ単独という推定の下で議論を進めていきましょう。冒頭で確認した手術歴と合わせると、本患者の病期はどれくらいと考えられますか。

B 切除が不可能な段階。

早川 そうです。癌治療では基本的に、最初に手術療法が考慮され、手術ができなければ放射線あるいは化学療法へとシフトしていきます。そうすると、この患者はIII期またはIV期と推測できます。どのように確認しますか。

C 痛みがあるかどうか尋ねます。

早川 そうですね。様々な部位で浸潤が進んでいるIV期くらいまで行くと、かなり痛みを感じる人は多い。一般にはIII期くらいから、自覚できる痛みが現れるといわれています。その他には?

E 疲れやすいかどうか。

C 体重が減少したかどうか。

早川 放射線療法の実施状況を確認するために、「薬以外の治療を行っていますか」と聞く方法もあります。ちなみに、アリムタはどのような癌種に効果があるといわれていますか。

A 切除不能の進行・再発した非小細胞肺癌。

早川 添付文書上はそうですが、蓄積された臨床データ上では、アリムタは扁平上皮癌以外の癌種に効くと考えられています。

C 腺癌ということでしょうか。

早川 そうです。このように論理的に考えていくと、冒頭で検討したCEAとシフラ21-1のうち、私たちはCEAをモニターしていくことが妥当だと評価できます。先ほど、病期はIII期またはIV期であると推測しましたが、予後に対する患者自身の認識を把握するにはどうしますか。

A 「医師からどのような説明を受けていますか」と聞いてみます。

早川 それによって患者の認識を探ることができますね。A情報として「腎機能低下」とありますが、これはどのような経緯で分かったのですか?(薬歴【6】)

A バラクルードが14日分になっていることに着目して患者に尋ねたところ、腎機能が低下しているため隔日投与になったと話してくれました。

早川 とても良い視点です。

効果と副作用の両面を評価する

早川 続いて、12年1月19日。検査結果が多く記載されていますが、前回挙げたモニタリングポイントについて、どのように評価できますか。

D 肝機能低下は抑えられている。

A 1月4日の検査結果では、CEAは以前よりは下がっている。

早川 良い方向ですよね。他には?

C 血小板は1月4日に低下しているが、1月19日には戻ってきている(薬歴【7】)。

早川 12月26日に治療が始まったとすると、1月4日は2週目に入った頃です。治療経過は順調と評価できます。前回から口内炎に対してケナログ(トリアムシノロンアセトニド)が処方されているので、口内炎の状態も確認しておきましょう。患者からコロネルに関して質問が出ていますね(薬歴【7】)。

D サプリメントや健康食品に関心が高い方なので、試せる物は試したいと考えている印象を受けます。

早川 それだけ予後に対して切羽詰まった思いを抱いているのかもしれません。続いて2月13日には、アレグラ(フェキソフェナジン塩酸塩)が新たに処方されています(薬歴【8】)。これは何に対して処方されたのですか。

A 皮膚の痒みだと思います。

早川 部位は?

A 確認していません。

早川 口内炎との関係は?

A 不明です。皮膚炎であれば、症状が出始めた時期を聞くことで、原因を特定できると思います。

早川 一方で、腫瘍マーカーは上がってしまったのですね。

A 新たな治療に期待して転院して、一時的に数値が改善したのに、また上がってしまい、患者は「抗癌剤の効き目がないのでは」と落ち込んでいました。

早川 それで次回、CT検査を行って状態を判定することになったのですね。実際、3月12日の薬歴を見ると、点滴は中止になって、タルセバを服用することになったと分かります(薬歴【9】)。タルセバはいつから服用することになったか分かりますか。

B 分かりません。「残薬が53錠ほどある」とあるので、恐らく受診日からだと思います。

早川 では、タルセバの治療におけるモニタリングポイントを挙げてみましょう。

A 皮膚疾患の副作用。

C 消化器症状と間質性肺炎。

早川 この患者のプロブレムとしては、下痢も重要ですね。B型肝炎を合併していることから、肝機能障害も押さえておきたい。食欲の低下もあるかもしれません。これらもOP情報として記録しておきましょう。服用方法について、「下痢などの症状が出れば、1~3日置きに服用する」と指示がありますが、患者はどう対応するつもりでしょうか。

B 恐らく患者本人は毎日飲みたいのでしょうが、先生が「下痢がひどいようなら」と提案されたのでは。

A 患者はタルセバに対してマイナスのイメージが強く、毎日服用すると副作用が出るのではと心配しているのだと思います。

早川 異なる印象が挙がりました。実際に、最近の下痢症状の状況は確認していますか。

B いいえ。

早川 ここでは、アレグラがアレジオン(エピナスチン塩酸塩)に変更されています。続く3月26日には、リンデロン-Vローション(ベタメタゾン吉草酸エステル)が処方されました。タルセバも服用し始めたようです。薬には治療効果がある一方で副作用のリスクがあります。この患者への対応として、どちらを重視したいと考えますか(薬歴【10】)。

D 新たな治療を求めて転院した経過を考えると、我慢できる範囲の副作用は乗り越えて服用を続けていく。

早川 そうですね。今回問題になっている頭皮湿疹は、適切に対処すればコントロールできるものですから、治療を中止したりむやみに和らげることはしないのが基本方針となります。その中で、患者がどのように思っているかを押さえておくことが重要です。4~6月にかけて、CEAは順調に下がっています。今後どう対応していきますか。

A 腫瘍マーカーが下がれば患者の気持ちは前向きになっていくと思うので、今後は皮膚症状とのバランスを見ながらどう対応していくかが問題になってくると思います。

D ロペミンの投与回数が増えているので、下痢症状の方も心配です。

C レンドルミン(ブロチゾラム)は用量がずっと変わっていないので、不眠症状にはそれほど変化がないのかもしれません。

早川 病態や予後に対する患者の考え方などをしっかり把握することによって、私たち薬剤師の支援の幅が広がるということが今日の議論のポイントだと思います。

中部薬品 春日井西薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

河村 智美氏

 この患者さんを継続して担当してきて、治療経過をある程度把握できていると思っていましたが、今日のディスカッションを通じて、着目すべき点を見逃していたことが分かりました。また、その時々で確認することによって、その後の経過を見ていく際の視点も変わっていくと思いました。

平岩 真理子氏

 病態の知識をきちんと身に付けなければならないと思いました。また、新たに薬が追加された際に、正しく服用するよう服薬指導するだけでなく、服用する必要性について説明できるようにしていきたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 今回は肺癌患者の症例を取り上げました。オーディットでは、病院で投与される注射薬も含めて、化学療法の全体像をしっかりと把握することを重視しました。薬局で応需する処方箋には注射薬は含まれず、どうしても内服薬についての服薬指導が中心となってしまいます。しかし、治療のプロトコルに注射薬が含まれている場合も多く、プロトコルの理解なくして適切な患者対応はできません。今回のように、注意深く処方と基本情報を読み取ったり、患者に簡単な質問を意図的に投げ掛けたりすることによって、プロトコルを推定できることも少なくありません。現在のプロトコルに注射薬が含まれていなかったとしても、以前は含まれていて、影響が残っていることも考えられます。過去にどのような治療方法が選択されたかを把握すると同時に、病態と病期も確認することが欠かせません。これらを行って初めて、患者に寄り添った治療への支援が可能になります。

 また、肺癌に限らず、化学療法を行う癌患者に対応する上では、常に予後を意識してほしいと思います。癌種や治療方法によって得られる延命効果は様々であり、化学療法を行っても50%生存率が数カ月の場合と、数年単位で延命が図れる場合で、同じ対応をするわけにはいきません。予後を推測するための情報は十分にあります。加えて、患者の心理や治療・予後に対する認識にも着目して対応していくようにしましょう。そうすることで、患者・家族から感謝され、地域で信頼される薬局・薬剤師になれると思います。

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